雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
強いやつに挑むのは当然のことだ。
ただ真剣に試し合う道場と違い、ダンジョンでは負けることは許されない。
負けたときに全てが失われてしまう。
しかしそんな事を考えない。
絶対的の果てと自己満足の果てを目指す2人には、闘いの舞台で易くその背をみせることよりも磨き抜いた己の剣を武をみせる……頑なに誇るそれこそが己の命に課した存在価値のようなものであった。
そして必然のバトルはそのダンジョンで巻き起こる、刃を鳴らし、オーラをのせて、未知の新手の敵を斬らんと────
雷夏とムスイ2人の剣客を相手に、ゼリー顔の男はその杖術で対応する。
寸分も乱れぬ息遣いに、どれだけ強く打っても地にへばりついたように動じないその体、冷静な杖捌き。
代わる代わる迫る赤髪と青髪を相手にし、ダイヤのチェーンや、クラブの風盾の茶々入れにもそのゼリー顔の男は杖一本でいなし、動きに焦りというものを見せることはなかった。
まるで冷静沈着を纏い着ているようなものであった。
「お赤いそちら方もずいぶんと骨のある動きですね」
「べらべらと、今からじぶんに言い聞かせる負け惜しみの準備か?」
「フフフいえ…褒めたのではなく、自在という言葉を知っていますか? 私は少しばかりそれが得意分野でして」
蛇鞭のように伸びた青い片手から繰り出された。
振るうレンジなど関係なく伸びた腕が、杖が、ムスイを叩き襲いつづける。
「──ッ、出鱈目を!!」
「おやおや。これはこれはあなたもコレがお好きでしたか? ならもっとフフフ」
「馬鹿めッ、一度見たような曲芸にいつまでも拍手はしないものだ!」
部室魔王城でセリー・ヴェーバーの変異武器チップであるヴァリアブルセターの猛攻に敗れて以来はシデンレイラに手伝ってもらいダイヤのムチをさばく鍛錬を積み重ねた。
そんなムスイには同じようなゼリー男の変幻自在の杖術も目と剣が追い付かないレベルではもうなかった。
その乱雑に伸びるラッシュ攻撃の軌道を【流水陣】を展開しながら見極め、逆に反撃の隙を見出す。
隙ありとばかりに、小手を狙った水剣にゼリー男は慌てて伸びたスーツごとの手腕を斬られる前に引っ込めた。
しかしいくら引っ込め上手く逃れようとも、もう既に──準備万端であった。
ムスイとゼリー男が戯れている間にも、半分顕現させた鞘刀は彼女の身体の内側のギアを入れるように下ろされ、抜刀された。
本日二度目の【雷夏獣連撃】
速い。ゼリー男を襲った目にも止まらぬ雷剣の18連撃は────
「たしかに、そのようですねフフフ」
その18すべてにビタリと杖を合わせ……まるで鏡合わせのように完璧に受け止められてしまった。
「んや…!?」
秘刀秘技を全て受け止められてしまうまさかの結果は、赤目を凝らしても変わらず。
自慢の技が通用しなくて唖然呆然とするその選択肢よりも、雷夏はまた転び屋と呼ばれるような反撃を貰わないために後ろへと素早くさがった。
「おや、今回はその選択肢で──よろしいのですね!」
またあのオーラが爆発する攻撃が来ると思い、後ろへとひいた雷夏の選択は誤りか。
ゼリー男が青に染まる杖をひとつ振ると、鋭く色づいた三日月が飛んできた。
バックした雷夏と同じ方向へと迫る、鋭いエネルギー波は────
「【堅・流水陣】!!」
流水の陣が寄せ付けない。
青髪の前へと割り込んだムスイは敷いた青い陣を噴き上げ、水のカーテンを作った。
防御行動に適したカタチの厚く噴きあがるカーテンは、迫りくる敵の三日月の刃の威力を減衰させることに成功した。
しかしムスイの額からはだらりと血が流れる。防ぎきれない威力の余波を受けてしまったのだ。
そんな身を挺したムスイの背と湧き上がる水のベールを見ながら……雷夏は空気を読まずにつぶやいた。
「ムゥちゃん、カイト生徒と三姉妹に言っていた一世一代ってヤツを私にもひとつたのめるか」
「!────チッ。ひとつだけだぞ」
振り返った赤髪は、そのギラつく赤目の意味を感じ取った。
青髪の頼みを、それだけみじかく言葉に返して赤髪の剣士は請け負った。
しばらくして、守る水のカーテンをくぐりゆっくりと現れたのは────赤髪の女剣士。
ゼリー男の視界にみえる彼女が握りしめていた刀は妖しいエネルギーを放っている。
黄金の鞘を投げ捨て、ゆっくりと引き抜いたその刃がギラつき光った。
「おや、その剣を選んだ途端にエネルギーが跳ね上がりましたね? おやしかしまだまだ……先程の雷エネルギーとはちがい雰囲気にどことなく不安定さを見受けられますがフフフ」
「あぁ、これは拾い物の剣だ。私の命にはカラダにはまだまだ見合わない────だが貴様を倒すには今のこのレベルで十分だ ナッ!!!」
本日二度目はこの女にも。
神牙流秘刀秘技【水牙爆溂】
構えた上段からの一気に振り下ろされた一振りで、爆発するようにいでた水のオーラが溂溂と空を駆ける。
鋭い一刺が、その水剣の間合いに既に浸っていた透ける青の存在を貫いた。
『溢れんばかりのいいエネルギーをお持ちで。しかしワタシ、こう見えて、水遊びは少しばかり平らげるほど得意分野なものでして』
「ナ!? チッ…出鱈目が──ッ!!!」
「平らげてみますか──【ダムドフィッシュ】」
平らげるほど、まさに平らげた。水を飲みきり大きく膨らんだ影が、水を出し切り肩で息をする赤髪の剣士を覆っていた。
そしてありえないほどに肥えたゼリー顔の口から吹き出された。
呪われたように濁った水は、濁流となり、狂った魚となり赤髪を平らげようと噛みついた。
ムスイは惜しみなく放った秘刀秘技を出鱈目な方法でゼリー男に飲み込まれ、お返しとばかりに返された濁流に流されていった。
「フフフ、おや? 少しまだむくんで──」
「神牙流秘刀秘技──」
すこし小さくなった黒のシルクハットは突風に舞い飛ばされた。
「おっと──フフフフまた色褪せた答え合わせのつづきでしょうか」
「あぁ、答えが見つかった」
風に舞ったシルクハットを掴み慌てて被り直す。
片手にした杖は、少しむくんだゼリー体を修正しながら噛みついてきた雷剣を片手間に受け止めた。
答え合わせのつづき……彼女の素速い剣をそう余裕綽々に評する。
だがしかし、雷光のエンジンをふかし斬りかかった彼女は敵にその雷剣を受け止められようと肯定する。
答えが見つかったと──赤い瞳を見つめる透ける青肌にエネルギッシュにギラつかせて。
「絶対的の果てはこんなもんじゃない!! つづきを見たいならくれてやるッ見せてやる!!!」
「フフフそれはゴッ──!?」
そいつを倒せと刀が言っているようであった。
もっと速く、もっと速く、こんなもんじゃないと、雷伝う蜘蛛糸に操られたようにステップを踏む、導かれたように幻想に踊る青い背の影を追い……ついに彼女自身それと同じように青く靡き──シンクロする。
透けるゼリーを確かに斬り刻みながらカラダが、足が、スピードにノる。
「これが今のッ全力の答えだ────【雷夏獣連撃】!!!」
夢中の刃は青を追い青を重ねてヒートアップする。
無我ではない絶対的の果てを目指して踊り続けたその幾多の剣線は、
ゼリー顔の男の出した杖と答えなど置き去りにする雷夏史上、最速至上の
ついに炸裂した【雷夏獣連撃】
焼け焦げた幾多の足跡と、一瞬に刻んだ最速の太刀筋が、邂逅した未知の敵ゼリーフェイスを散り散りに……彼女のその猛る雷のオーラと最高の剣で焦がし討った────────。