雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
(炸裂したのはたしかにこれ以上ない素晴らしい技でした……。絶対的の果てと言っても差し支えがない私が見てきた中でも雷夏史上最速最高の剣劇……神牙流の天才剣士、古井戸神子さえ凌駕するような最速の技……ダンジョンで磨き上げたまさに彼女の武とオーラの集大成……。しかし、四散した青いゼリーのようなアレは……)
飛び散った粘液は────────また
集い、元へと再生していく。
風に舞ったシルクハットを杖に引っかけて、おもむろに被り直す────雷剣に四散したソイツが元の姿の黒スーツをきめこみ、青い顔して存在している。
「たしかになるほど──刻まれたこれを絶対的な味というには、デジャヴ的な説得力を持つことでしょうね」
刻まれた手の甲にのこる焼け焦げた傷跡まで、受けたダメージを味わうように舌で舐めとり、舐めとった先から再生していく。
「これは驚きました。実験の結果──魂の深く結びついた
男は右手をたおやかに内に巻き、唖然と見つめる彼女に一礼をする。
「なんだと……」
その披露した秘刀秘技で、雷夏の得た手応えは至上のものだった。
これで倒せないヤツがいないほどの、最高傑作の技を受けてもなお────無傷で佇むゼリー顔がいる。
限りなく正解の道をたどった。
黒幕王子と対峙してからは電撃の走るような気付きとコツを得て、その技は打つ度にこれまで以上のスピードで急速な進化を遂げていることを実感した。
まるで自分より先を行き先で剣を躍らせるその青い背が見える、その愉快な幻想とシンクロする感覚だった。
彼女はそれがとても心地良いものだった──だが今は────
「『いくらなんでもそれはない』そういった表情をしていますねフフフ」
「先ほどまでのエネルギッシュなあなたはどこへやら? エネルギーを使い果たしてしまいましたか? どうやらあなた方はその昂る感情によりエネルギーの波が激しくも沈みもするようですねぇ。しかしこのように……未知を前にして立ちつくす。────その選択肢でよろしいですか」
「なにをガッ────!?」
べらべらと語りつづけたゼリー男は、ぼーっと突っ立っていた青髪をその杖で小突いた。
戯言から動き出したそれはとても速く、まるで彼女に受けた仕打ちをお返しするかのように……鋭く雷夏の体のいたるところを殴打する。
「こんな感じでしょうか。ありがとうございます、おかげで色褪せたいい思い出を今に思い出しィ、またこうして感慨深く新鮮な感情で味わうことができましたフフフフそう丁度あの時も、このように──」
存分に殴り終えた血濡れた杖を地に優雅につき、ゼリー顔は周りを見渡した。
そこには依然倒れた黒幕王子とその傍にいる少年の心配そうな顔。
ずぶぬれの赤髪は少女の肩をかり担がれている。
中距離から黄金の銃口をしかりと向けつづける白黒の道化師がひとり、メイクを崩し汗を垂らす……。
暗雲の広がる荒廃した異界の舞台には既に……満身創痍ともいえるダンジョン部の姿があった。
(どこかで雷夏という存在に依存しすぎていた……。退くというカードを所持していたにも関わらず、私はそれを選ぼうとしなかった。彼女の武勇と底無しのオーラと判断に甘えていたツケということでしょうか。しかし……死と隣り合わせのダンジョンにおけるそんな死神との邂逅は────)
「さて。そうですねェ……なかなかもったいないですが、この選択肢も面白そうです」
「例えば青い太陽を失った草花は…果たしてどのようなエネルギーを放つのか、────興味深いとは思いませんか?フフフ」
「それ以上何をする気だい…!」
表裏のオーラに鳴り響く死の予感が高まる。
これ以上は惜しんでいるオーラも暇も選択肢もない。
シデンレイラは銃口からダイヤのチェーンを発射し、地にうなだれ倒れる青い髪を指し示した……いけない杖と腕を縛った。
そしてその繋がった鎖越しに黒いオーラを伝わせた。
(練り上げた死のオーラチェーン、例えいかなる存在であれこれでしばらくは動けないはずです……! こちらも、アチラも! 固まり痺れるようなオーラの味は、この身と舞踏会での赤ドレスとのたたかいで証明済みです!!)
ボーンクイーンの骨の軍勢との戦いのときにもピンチに用いたスペードルの死のオーラ。
ダイヤル、ルクラブ、ルハートよりもじゃじゃ馬で強力な……岬麗がシデンレイラに設定した4つの役のひとつであるスペードルの死のオーラはその封を解き、己の身が狂わない限りの惜しみなくゼリーの腕へと伝い流された。
シデンレイラがもしものためと保険代わりの秘かに、特別なオーラを繊細に練り上げていたのであった。
(あとは今のうちに既に合図を出した生徒たちが切符チップで────ナ!??)
ダンジョン救助隊である岬麗とシデンレイラは己の身とそのゼリー男を死の鎖で繋ぎ、仲間たちを逃がしその幕を終える…そんな筋書きを描いていた、はずだった。
しかし、彼女の想像を、晴れ晴れしい妄想のダンジョン物語を凌駕する…そんな存在が……一歩ずつ…コツコツと死の靴音を立て歩み寄り……固まり動けない声も発せない彼女の目の前に……。
「随分と危ういことをするのですねフフフ、ワタシでもそのエネルギーを扱うときは取り憑かれ過ぎないように爆発しないように…慎重になるものなのでお分かりになりますよフフフフ。なるほど匣の外のそちらにも既に興味がおありのようでしたか。では今回はこちらの方向で伸ばしてみバッ────おっと……フフフ、ステキなことをするステッキで。少々ド肝を抜かれてしまいましたフフフフ」
飛び出し突き刺さったのは鉄パイプのような長物。
語りかけていたシデンレイラの目の前からゼリー男は立ち退きながら振り返り、背中から前まで突き刺さったその変わった穂のない白槍を引き抜いた。
ひとりでに震える白槍をしばらく微笑い眺めたのちに、地へと放ち、捨てる。
そして再び────地に伏した青い髪をした…成長した少女の元へと、残酷で危険な靴音を立てて、その選択肢を実行に移そうとした。
曇天に何を祈るように掲げた杖を、冷酷に味わうようにゼリーフェイスは振り下ろした。
刹那に迫る死が青髪を襲う……
そのとき、熱閃が地を貫いた────────。
「このエネルギー、太陽が落ちたのかとおもえばフフフフ……いたずら電話でしたかフフフ」
「うわっ? 溶けたアイスがしゃべってる、はは!!」
届いたのは電波でもなく、落ちたのは太陽でもなく。
いきなりのご挨拶は大地を焼き貫く【クリティカルショット】で。
高エネルギーを横から抉り取られるように味わい溶けた顔をしたゼリーの元に……神牙流道場当主代行、古井戸神子が秘刀を剥き出しダンジョン部のピンチに颯爽と大技を放ち現れた────────。