雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
ハッキングは成功した。ンボー・マラスカットの特異スキル【ハッスルオーラハッキングリズム】を応用し、壊れたきのこ型の携帯と繋がっていた謎のオーラの位置をついに逆探知し割り出し、明智マリア博士はDORAYAKIを操作し光照らしたそのグリッドマップに表示。
そしていつもの如く、チュチュンとマスターキャップちゃんは残りのオーラで有力なダイバーをそのダンジョンの座標へと転送したのであった。
「オーラも精も根も何もかももってかれて、お城でお忍び豪華ディナーショーがなんで崩れてさらにもっと空腹になってんだか……んぼぉ……もう今日は動けない…」
「お疲れぇい、ンボおねぇい、だだだだーん、──ぱっぱらパラっとコーヒーでも飲むぅ? 目ェ冴えるよぉ?(ダンおねからの滅多にないお礼だよ~~! ってそこそこアルゥ! あははははアイヤーーーー)」
「甘いクッキーもつけて……海外の変な香りの安いヤツでいいから…ふゅぅ……(カメラ外の〝しょーもな〟にツッコムパワーもないから…)」
「チュチュ……」
元気になったダンおねは鼠の執事が淹れた熱い熱いコーヒーをンボおねへとねぎらい運ぶ。
氷袋を素手に押し当てながら、チュチュンは崩れてしまったお城から、暗雲へと連なり伸びた光の柱を見届ける。
「……フム、WASAサブスペース開発部
機器から宙に投影したビジョンには高まるD級以上の過去最高のオーラレベルと、観測した一部重なり合うオーラの波形と強烈な磁場。
高熱のDORAYAKIを冷やし撫でながら未知のダンジョンを夢中に類似性を検索しさがしつづけていた明智マリアは、行き詰まる。
汚れた白衣にもかまわず彼女はまたモヤついた頭が欲した熱熱のコーヒーをゆるりと飲み、手につまんだ焼け焦げたネジを口に含んだ。
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熱閃の余波に白盾で傘をしながら……ダンジョン部部員楽天海都は隙を見て、横たわる雷夏の体を離れた場所へと運び出した。
月山雨楽楽も既にもしもの時にと預かっていたシデンレイラのDスキルチップを装填したダイヤの銃で、その頼まれていた動けないシデンレイラの身を自分の元へと引き寄せることになんとか成功した。
既に生徒たちが上手く奇襲に連動し憂いを片付けてくれた、その様子を背に見た古井戸神子はもう一度、今度は電話ごしではない生の敵をその目に見据える。
「アレ? もう溶けないの? そのまま溶けて失せてくれたら楽だったのに」
「フフフ、ゼリーですので。このように」
ゼリーフェイスの頬を撫でる。まだ少し溶けていた部分は覆い隠した手が離れると綺麗に修復された。口角をゆるりと上げた透ける青の姿があった。
「ふぅん、ま、どうでもいいけどさ。そのへんてこマンがうちの門下生たちに何やってくれてんの?」
「彼らのエネルギーを高める方法を共に戯れながら考えていたところでして、フフフもう少しのところだったのですがイレギュラーにいたずらをされてしまい困っていましてねェ」
「へぇー、そのエネルギーって。こういうこと?」
訳の分からない戯言に対して、古井戸神子はこれ見よがしに自身のオーラを高めて見せた。
言葉にしなくても節穴じゃなければわかる、メラメラと威圧を放つそのオーラを。
「フフフいささかァ────足りないかと?」
「はは、────!!」
同じようにエネルギーを可視化できるほど高めてみせ、かつ挑発するように余裕綽々で受け答えた透ける青の存在に、いきなりそのあそばせていた刀の刃は届いた。
「じゃぁ、足りるまで、こっちが斬り足りるまで、ネ!!」
「なるほどたしかに足らないようですねあなたは、どうやらフフフ」
オーラ比べで足りないのならば肉薄し斬り足りるまで。
ひどく身勝手でシンプルな答えを刃に込めて、古井戸神子はゼリーフェイスへと不思議といつもより湧き上がる気迫と感情をぶつけるように斬りかかった。
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うなだれながらも意識のあるムスイは海都から回復を受けることを拒否した。
現在シデンレイラは死のオーラの反動で痺れて動けないが、今動ける生徒たちに口頭で最低限の指示を出しつづけていた。
(私の表裏オーラとセンスにびりびりと送られてきたのはひょっとすると属性の似た牛頭梢からのシグナルでしたか……? ともかく古井戸神子があのゼリーの怪人とやり合ってくれているかぎり、こちらに増えた選択肢は悪くはありません。もっともアレがよく言う選択肢をこじらせていればですが)
(現在の帰還の切符チップの数は…………しかし良いタイミングで救援にきた古井戸神子がこのままアレを倒せる……それに期待するのが──やはり。消耗しオーラのこころもとない今の私たちのできることは戦闘の邪魔をしないことと、敵のオーラのからくりと動きを観察すること。それとこの状況から考え得る次のまだ使える切札と…後ろで温存させていた楽天海都の残りのオーラで回復する順番を間違えない事──────)
(しかし────私は緑蜜高校の教師岬麗でもあります……今、彼に敵であったソレを放っておけとは言えません……今気を失っている雷夏も同じくそれを望むことでしょう。その行為を責めることはできない、ただし下すべき最終的な責任と判断は────)
岬麗としては下すことはできない、だが彼女の表裏、シデンレイラとして彼にいかなるときも冷静により良い選択肢を伝えようとした……そのとき────
もがき苦しんでいた黒幕王子は口から黒い毒のようなものを不意に吐き出し、それで少し楽になったのか……。
傍に居た少年の目を睨み、汗吹くつらそうな表情が灼けた痛む喉から最後の声を絞り出した。
「その蜜を…無駄をするな……それはのぞんでいない…美しくない……」
「で、でも……!」
「すでに…冗長過ぎるくらいの幕切れだ……これを……おかげで…ひとにぎりきおくを…掴んできた……求めてとびつづけるだけのハミングバードに……渡してくれ……」
「え…────ゴッチャンの…?キーホルダー…? これは…アレックスさなだ…なんでここに……?」
「ふりはらえない迷いは毒だ……じぶんの舞台だ…じぶんでえらべ…えらばせろ……オレのヤクは…これで……」
この選択で良かったのだと楽天海都と目が合った岬麗は肯定するようにただ深く頷く。
必死の回復のおかげか意地か最後は呻く声はなく……役目を終えた地に横たわる白髪の王子はわらい、やがて光の胞子になり吹く風に消えていった。
降り注ぐ胞子はキヌガサの茸のように美しいオーラの模様をえがき、楽天海都、岬麗、月山雨楽楽、雷夏、ムスイ、ドクピィ……黒幕王子の最後を見守っていた彼らを包み込んだ。
ついさっきまでそこにあった存在が皆の手をすり抜け無常にもダンジョンに散っていく。
ただ、少年の手のひらの上に、秘められていた珍しい……古びたひとつのキーホルダーをのこして。