雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
花火のように…敵を刻んだオーラが遅れて咲くことで成す最速の雷剣、【雷牙獣連撃】その技の味を知っているのは────
そこに咲く青い花火はなく。
刻もうとした雷光発する剣筋は全て、その一本の杖の隔てを通ることはできなかった。
まるでどこを斬るかその正解を知っていたかのように不可解な感覚に……天才剣士は阻まれて陥る。
「おやっ、あなたもですか? しかし先程よりィ…随分と手数が少なめのようですが? エネルギッシュな感覚も伝いませんねェ…いかがなされましたか? フフ」
秘技を秘刀を、受け止めた杖は傘のように──しまっていた翼をひらいた。
柄からひらいた黒の竜翼の風に、纏わりついていた剣士は吹き飛ばされてしまった。
砂煙は明ける────。
激しい技の応酬のさいごは一陣の風にリセットされる。
荒れ模様が流され、そこにできあがった崩壊した景色の色味を帯びていく。
「あなた方はその技がよほどお好きのようですね。ちなみにワタシもお好きですよ、コレは痺れはしませんでしたが」
そこに斬り刻まれたゼリーはいない。透ける青肌に一太刀の刀傷もなく優雅に傘を広げ、まばらに落ちる礫と砂の雨の中を佇んで笑っている。
そして風に流された剣士は、その握る手に返った痺れる手応え感覚に……今日はいつもより己の気が昂っていた答え合わせをやっと済ませた。
「……あぁー、じゃ、このへェんな手合わせ────カピバラパーティーの〝墓参り〟ってことでいーい?」
「フフフ? 何を言っているのか存じませんが。参りましたねェ、これ以上しつこく参られるのは、フフフ──」
痺れる切っ先の先には意味深不敵にはぐらかす敵がいる。
ダンジョンの半ば巡って来た、ようやくできそうな墓参りに、古井戸神子は掛け違えていた黒布のボタンをかけなおし……
まだ折れぬその剣を構え直した。
▼
▽
構えたその剣は────おそすぎた。
杖と剣、オーラとオーラ、技と技の打ち合いの最中、剣士はもうひとつの秘刀秘技【クリティカルショット】を隙を見て練り上げ放とうと構えはするが、放てず。
剣士が巡る体内のオーラを高め切先で見据えるその悠長なルーティンに入ると…。杖の傘翼をうしろに一気に開き、風にのり、詰め寄ったゼリーの怪人は、無防備な彼女の腹を蹴り上げた。
「高めたエネルギーを垂れ流す。それはただの無駄遣い。あなたはあなたという装置を扱うことが案外お下手なのですねェ」
「さぁ次の選択肢は…なるほど」
また仰々しく構えた同じ刃の先は透ける青を睨みつづける。
蹴られても転んでも、それでも笑みを浮かべつづける女を観察し尽くしたゼリーフェイスは────
「墓参り! 何が墓参りか! えええぇエネルギーの無駄遣いを! 貴様はもう死ぬかッッ死んで良い! そのまま納得せずに誰もいないその墓前に埋もれ死んでいけ! 意味のない郷愁などに浸りつづける屍の雌が! 囚われた過去に縛られ視野狭窄の闇に陥りあげくは誰にも会えずにいいい勝手にヒトリ浮立つ時の果てに腐れ落ちるがいい!!!」
怒る。
見せることのなかった怒りを、杖にのせて乱暴に振るいつづけた。
まさにしばきあげるように、それはただの暴力であった。
ハンマーのように打ち付け、槍のように突き、ただただ黒い布を着た雌をその杖のラッシュで突如露わにした怒りのままに押し切り吹き飛ばした。
「────────これは失敬。どうにもエネルギーの無駄は見逃せないもので、つい。──あーそれとそうでした。ちなみにイレギュラーのあなたが遅刻せずに来れたところで。選ばれた彼らの過去や未来の選択肢になんら変わりはないかと、──このように」
豹変したような怒りを見せたゼリーフェイスはその怒りの形相に浮き上がっていた面を手で覆い正した。
また冷静平静な様子の口調に戻り、自分が吹き飛ばした女の面を見つめた。
地に転び地を向いていた汚れたにんげんの面は────それでもまっすぐに構える。そんな澱みない眼光が透ける青へと突き刺さる。
「では、あなたのようなただ亡霊に依存し己という存在を浪費するだけのいらないカードは、即刻この時の流れからご退場願うとしますか」
その技を撃たせることはない。
同じやり方で傘翼を後ろに広げ、風に飛んだゼリーの怪人が向けられていたノロマな切先へと急接近する。
と、同時に────ボロついた黒パジャマの剣士も後ろへと飛んだ。
そのおかしな傘で猛進する怪人のスピードに慣れ、仕掛けるタイミングを見計らったのか大きく飛び退いて距離を取ろうとした。
さらにゼリーの男を挑発することに成功した剣士は読んだ。
男はその両手を両足を、不意に土中から現れた石の地蔵たちに斬りかかるように掴まれた。
読まれたならば読み返す。闘いをとおして…古井戸神子は男のスピードと仕掛けに見事にアジャストし、彼女が一瞬に思い描いた様々な制する選択肢を石たちに再生する。
そしてそのまま、切先はそのままに。
宙に浮いた体は、ひさびさに一手もたついた透ける青のターゲットを見据えたままに────
しかし、配置した撹乱の一手はそうそう何度も通じはしなかった。
宙に浮いていた神子の身は何故かその風に抱かれる浮遊感は突如失せ。
そのさっきまで浮いていたはずの両足が、重く……地にへばりついていた。
オーラのからくりを見破られた神子は、ゼリー男を拘束していた地蔵と本体のじぶんの居た位置を、なんと不思議にも巻き戻し入れ替えられてしまったのだ。
「望み通り巻き戻してあげましたよ、あなたの古い選択肢を」
「はは、」
振るった刀は──頭上へととんでいく。
逆転、逆行の一手、禁じ手に、間に合わせの太刀筋はかなわない。無情にも選んだ選択肢が空をくるりとただよう…。
だが握る得物を失った剣士は笑う。
腹がよじれるほど──腹の底から抜き出したのはもう一刀。
杖にはじかれ空を舞った手に馴染みの赤蜜ではない。
高めて何度も練り上げていたのは、既に自身の中に眠る四剣のひとつであった。
秘刀名刀【蜜月】調和の剣が赤蜜に代わり、熱帯びヒートアップする。
そしてお互いに繰り出した二太刀目、叩き振るう杖の下を黒髪は紙一重ですり抜け──荒ぶるオーラを纏った炎剣が、ゼリーの臍を真一文字にぶった斬った。
逆転の一手には忍ばせた牙を──
秘めた一刀、派手を装いこつこつと賭けたオーラの一閃が、鮮やかにその気迫と火を吹いた。