雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
そして男は赤髪の剣の向くその先を理解したのかやっと向けてとめていたその剣を下げ、この場を覆っていた痺れるようなオーラの警鐘が和らいでいく。
しかしまだムスイの胸は、奥の方から疼く。
「いでたときから胸叩くこの感覚…アレは…秘刀か……?(しかし何故だ? さっきの黒刀と、おなじ……?)」
冷汗をゆっくりとながす…。
挑めないならばとその剣士の目を凝らすムスイの見つめる男が下げたその刀は妖しく、いつの間にやらその存在は曇っていく。男の元につどうように薄い浮雲がただよいつづける。
とぎれとぎれに霞み、消えゆく。
まさに青い亡霊のように。その存在が夢雲に覆い隠れてゆく。
(青い亡霊……雷夏のしらず目指していた絶対的の果てが霞みゆく……。緑野校長の百万遍唱えていた物語が正しいとするならば、何故彼はダンジョン部に彼女らに牙を剥くのでしょう? ダンジョンの見せる亡霊、ダンジョンに取り憑かれた悪霊なのでしょうか。ここまでの力の差をみせつ──ン!?)
消えゆく強きシルエットをただただ見つめていた、そのときだった。
シデンレイラは知覚した。ひどく頭の芯が痺れ、オーラが恐る本能か汗のように吹き出す。
それは紛れもない死の予感、死のオーラ、突如吹いてきたおぞましい風が吹く方向にその面を向けると────
舞い降りて来たのは小天使か……イヤ、それを聖なる天使と呼ぶには穢れを纏い醜い。
頭上の天使の輪っかは肉肉しく変容し、みたこともない肉槍となり、赤と青二匹の小悪魔がその歪な槍を屍へと突いた。
その屍は、消えずにいた首を刎ねられたケルベロス。
そのケルベロスが突かれた肉槍におもむろに立ち上がる。
三つ首の断面からうねうねと触手のようなものがおぞましくも絡み合い、失ったそのクビの先を肉付き成していく。
「おい!? 何故しかばねが!?」
「わかりませんですがこれは!? (門? 起点物質?? 何かが遠吠えに呼応し現れ)」
「な、なななにが??」
「ちょっとどうなってぇ!??」
ダンジョン部の動ける一同が突然の敵にうろたえつつもその武器を向けるよりも速く、
潜み沈んでいた赤目は点り、覆う雲を散らし駆けた。
失ったはずの犬の三つ首で重ね遠吠え、尾の後ろに大きな禍々しい門を顕現させ構えた。
そんな脈絡なく復活し不可解な行動をはじめたバケモノに対し、雷光が急ぎ迫り走る。
だがしかし、吠えていた肉の三つ首は紐解かれていき、うねうねとおぞましい助走をつけながら……邪魔するように一気に伸び拡散した。
三つ首の断面から伸びるまるで無数の肉蔓が、一歩遅れたダンジョン部とその迫り来た男を阻む。
雷剣はスピードをもっと上げながら迫る肉蔓を次々と斬り裂く。ジグザグに雷光の尾を引きながら、疾風怒濤の前進をかける。
しかし地を、空をしつこく迫るその凄まじい手数には対応しきれずついに……舞い上がった宙に無茶苦茶に絡め取られ、固く結ばれた。
しかしその刹那手前、ボロついた灰マントを翻し己の身を覆い隠した存在は……バチりと一瞬に弾ける音と黒い雷電を立てながら、その殺到する肉蔓の固結びの運命を逃れた。
そして再び黒く痺れる演出とともに巨大な影覆う間近に瞬間移動した、巻き付くマントを後ろに靡かせながら。
犬の影で涼んでいた赤と青の小悪魔が突如イカれるように、膨らみ成長する。
天使の羽根はおおきな悪魔の翼となり、邪眼のひらいた肉槍を片手に、隠していたか現れたその角をアタマにイキリ生やして、流れ迫る青髪へと襲い掛かった。
青い中型悪魔の携える邪眼のついた肉槍は見開いたその眼で凝視し、男の握っていた刀を不思議にも奪いとった。そしてその代わりに交換するように男が握っていたのはその肉槍、すぐ隣で睨み嗤うその眼が妖しく点る前に──目潰し。
雷電纏う指先が鋭く穿ち、ガンつけていた肉槍の邪眼を素早く焼き潰した。
何故か槍を貫いた痺れる指先のダメージは赤い中型悪魔のデコまで焼き貫き、二匹の怒れる悪魔たちが真っ直ぐに突っ込んできた。
しかし、使えない焦げた得物を投げ捨てた男は、一瞬の時を惜しみその素手を構え迎え撃つ。
「【
駆け抜けた一瞬の雷光は、いの一番に来た赤を蹴り跳ね、流れるように青を同時に襲う。
そして青い雷電のオーラを獣の爪のように纏い交差させたその両手は、宙をふらふらと酔いただよっていた赤と青二つの首をもぎ取り──落とした。
しかしお邪魔虫を片付けても安堵している暇はない。
赤い盗人の屍から自身の手元に刀を引き寄せた。チップとなった悪魔どもから邪なオーラまで奪い取り充電しながら──
「消し飛べ──【真田サンダーランス】!!!」
手にした刀をすかさず直ぐに投げ放った。
肉蔓を穿ちながら飛んでいった雷撃は、ターゲットのケルベロスへと直撃する。
巨大な犬影すら青く青く染め上げる。
痺れるオーラの塊が貫き、禁術で蘇ったバケモノを葬った。
そしてさらに赤い眼は一層ギラつきその先まで、鋭い雷は突き進む。
まだ消えずに図々しくも構えつづけるその門を────穿つまで。
勢いよく突き進んでいた雷槍は…………少しそよいだだけの小風に、扇がれて。
斥力を伴ったようにスローリーに進みつづけ、それでもぐらぐらと不安定に揺れながら挑み続け……。やがて弾かれ青いエネルギーは消え失せた。
虚しくも落ちてゆく刀に、男は唖然とどっと冷えた風をその身に浴びた。
小指ほど開かれただけであった門戸が……混沌とした色を放ち明けてゆく。
『これは……地獄の門だとでもいうのかい……』
『吞まれるぞッッ何かにつかまれ女子高生!!!』
『ちょ、ちょっと!?? え、楽天くん!?? うばっ────────!??』
「クソゼリー野郎…!!!」
開かれし、混沌渦巻く風穴に散り散りに呑まれてゆく。
息をするようにちっぽけな存在を呑み尽くし、荒野の草木茸すら吸い付くし、天を覆う暗雲すらも青く浄化する。
ずぶぬれの黒髪は、白く円い聖域にへたり…たたずむ…………。
人ひとりと茸ひとり、月山雨楽楽とドクピィは場違いな青さに熱く照らされて、見上げない。
ただ彼らが消え入った焼け焦げた跡と虚空を見つめた。
それは地獄の門か、ダンジョンの悪戯か、それとも……。
ダンジョン部と青髪赤目の男は、唐突に吹き荒れた異界の風、構えた大門の中へとのまれ、闘いを繰り広げていた舞台から消え失せていった──────────