雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
三つ首を落とされた番犬が吠え地獄の門は開かれた。いや開かれたというよりはソレは呼吸するように表にあった空気を吸い上げた。
既に亜空間と称されるダンジョンに開かれし門とは一体何なのか。
そこには何が待ち受けていて、何が蔓延り闊歩しているのか。
きっと匣の中身は誰にもわからない……それよりも狭き匣の中の住人には。
その流れに抗う術はない。
何も知らない人間たちが魔のダンジョンのさらに裏側、ダンジョンに封じられしその一片一片へと……散り散りに存在を押し流されてゆく────
鳩のように穏やかではない……カラスのような奇怪な鳴き声に目が覚める。きっといい目覚め方ではない。重いカラダと、痛むアタマを起動させてゆく。
ぼやける視界は、冷たいヘドロ色の地をしばし見つめ……突っ伏して倒れていた体は正面を見上げていく。
まだぼやけるが遠くには──青く映える。
見つけた──その青のシルエットその存在感には彼は見覚えしかない。
こう寝ぼけている場合ではない、寝ぼけ眼をつよくこすり立ち上がり、小高い山なりの地に立つ先生のことを呼ぼうとした。
「よくもまぁ眠れるナ」
遠目に映る青へと伸ばしたその手を引き返せず、挙動を唖然とフリーズしてしまう。その声はちがう、その雰囲気は似ている、その赤はもっと…恐ろしい色だ。
ぼやけた景色がじょじょに輪郭をとりもどし、鮮明に目覚めた楽天海都は目撃する。
「せん…せ? ……え────────」
斬り捨てた断末魔はやみ、抜き身の刀が血を払い……妖しく煌めく。
朱く穢れた色した空の下で、
バケモノたちを積み重ねた屍の上に立つ、青髪赤目、その男の姿を────────。
長い長い橋だ。水に浮かぶその橋を渡る銭とお守りを持っていないからか、その霞む道は先知れず未知困難。
「招待された先の地獄とは案外つまらないものだ ナッ!」
「ええ、こんな地獄ならばご褒美に蹴りを入れて歓迎します」
水から飛び出て生者へと次々と襲い掛かる魑魅魍魎の群れ。
何であれ出でた敵は片っ端から斬り捨てていく赤髪の剣士と、橙色の鎖で不浄の者を捕縛し橋の上から元の水の底へと蹴落とす白黒の道化師。
「フッ、少しは雰囲気がありそうなヤツが出て来たな」
「(このオーラプレッシャー……!)地獄では、アレにも蹴りを入れないと……いけないのかい」
霧霞むいっぽんの橋の上にふらり……歩きあらわれた。
木編みの浪人笠を被った乾いた灰色肌、片手には青火の揺らぐ鉢を持ち、片手には既に抜き身の錆びた剣を取る……。
ムスイとシデン・レイラ、出口をもとめ黄泉の橋の上をゆく2人に、
異様風貌の剣士が生者の体をもとめて、冷たい声で念仏を唱え、妖しいオーラを纏いはじめた。
目覚めたかどうかもわからない、彼女は気付いたらそこに独りでいた。
ボタンのほつれた黒いパジャマは彼女の黒髪に似合う黄色いドレスに着飾って、暗い部屋で鏡の前にぼーっと立つ。
身軽さのないどこかのお姫様のような華美な恰好をした鏡の自分を見てめていると、金縁の鏡の枠のなかに……青い影が背後からゆっくりと近付いてきた。
「なにぼーっと突っ立ってるんだド神子、パーティーにでおくれるぞ。あっちで夏も待ってる」
「あぁー…………はは、」
幻影が生きたように彼女に語りかけている、彼女はとつぜんのことに唖然としてしまったがそいつの姿を見ると自然と笑みがこぼれていく。
そして差し出すそいつの手のひらにおもむろに手を置く。
見上げると赤目がわらう、揺れ動く青髪を目で追う、それはいつもより完璧な夢のようで……つないだその体温を…手放す事ができない。
古井戸神子は懐かしいニオイのするそいつに手を引かれ……華やぎ光り出した鏡の景色のナカへと入っていった────────。