雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
いたずらなゲートをくぐりたどり着いたのは……
夏の匂いがする……
おだやかな波の音と、つめたく爽やかな風と、
ざらざらとなまぬるい顔を這う────────
うなされながらしつこく顔を這う奇妙な感覚に意識を起こされていく。
寝転ぶ砂浜、砂粒の感触とゆっくりとさざめく緑の海。聴こえていた通りの景色と──
透ける白猫。
やけにクリアなボディをした白猫がさっきまでねむっていた青髪の顔を何度も舐めていた。
「んや……部室ビーチ…ではない…………ここは…ん? なんだ…猫?」
おもむろに腰を上げ上体を起こすと、その猫のような生き物はすこし彼女からはなれた。
砂浜に尻尾をゆらゆらしたたずむその未知の生物を訝しみながらも、目覚めたばかりの雷夏はここがどこかわからない──見渡していく。
右手には鬱蒼とした青黒い森があり、今いるのは波打ち際からはなれた砂浜、緑の海が果てなく広がり、空はひどく青い。
そんな青髪の彼女の挙動を気にして見つめていた白猫は不意に耳をぴんとうさぎのように天へと立てた。その猫の振り向いた森の方を雷夏もともに見つめていると、ざわざわと揺れる茂みから──熊のように大きな生物があらわれた。
その熊を見て威嚇するように尻尾を立てた白猫は、その透ける尻尾を地へと突き刺した。
そして白透明を帯びていた体は細やかな砂粒で満たされていく。
さいごに目を輝く石にし、まるで砂で満たした生きる猫のアートが完成するように。
そんな変貌を遂げた砂猫は、うしろの青髪を遮るように威嚇しながら前に出ていく。
すぐにジャージのポケットから武器チップを手にしようとした雷夏であったが、森奥からあらわれた熊と対峙するその砂猫のさまに、言いたいことを感じ取った。
「あの熊のモンスターはまかせろといいたいのか?」
砂猫は振り返らない。ついに大ボリュームで吠えた熊に対してその足で砂浜を蹴り仕掛けた。
▼
▽
戦いはスピードを活かした小獣とタフな大獣の戯れから一気に動き出す。
黒熊は突然また大声で吠えた。
そのとてつもない振動が空気から砂猫の体へと伝い避けられない攻撃となる。
素早いフットワークを見せていた左の前脚が、脆くも崩れた。
黒熊はここぞとばかりに詰め寄り、その爪拳を一気に振り下ろし砂猫の体を粉々に砕いた。
「ははは、なるほどっ」
しかし砂の体をいくら散らしたとて、──砂粒はまた集いカタチを成していく。
拳を叩きつけ舞い上がる激しい砂埃に乗り、上からまた姿を現した砂猫は意表を突いた熊の顔にカウンターの猫パンチを喰らわせた。
ひらりひらりたとえ鋭い爪に捉えても暖簾に腕押しな能力を見せる砂猫に対し、黒熊は一層怒り暴れ始めた。より獰猛な獣のように本能を剥き出しで力任せにその奇怪な生物を蹴散らしていく。
されど相手は暖簾というより砂、戦いの舞台に無数に敷かれある砂粒のひとつひとつを砕くことは到底できない。
怒り狂った熊がついに飛び上がり踏みつける。またも無駄な労力に思われたその重い攻撃は、なんと砂底に眠る水を噴き上げさせる。
慌ててその場を離れた砂猫であったが、黒熊は狂いながらも閃いたのか四股を踏むようにその濡れた足場をまた巨脚で踏みつけた。するとさっきの熊の四股に連動するように、一時逃げに走っていた砂猫の下から水の柱不意に噴きあがる。
もろに腹底に直撃してしまった砂猫は、高々と打ち上げられた。
ずぶ濡れになり黒く染みゆくその標的に対して、黒熊のモンスターは大きくおおきく息とオーラを吸い込んだ────そして放つ【
ひび割れていく濡れた砂は溶けることなく、亀裂が走り、一気に爆発するように砕け散った。
空中で四散した獲物の姿を見届け、黒熊が天に吠えて勝利のベルを喉を振動させ鳴らす。
「あっはっは! ……変幻自在。まさにお前こそダ~ンジョン!!」
彼方の海から波が押し寄せる。勝負はまだ終わっていないのに。
ぬか喜びにも気付かない熊が振り返る──ビッグウェーブに乗りながら、エメラルドに滴り光り生命が飛び出した。激流のオーラジェットを後ろに吹かし、流星のように降下した。
熊の喉笛を穿ち、勢いのままにすり抜ける。
【
ちゃぷり、緑水は獲物の喉元を通り抜けて、水も滴る猫の姿で優雅にたたずむ。
大波に乗った勢いとは裏腹に、巨大な熊のモンスターは静かに砂浜に倒れゆき……光の粒へと還ってゆく。
砂猫、どろんこ、水猫。その姿を変えて敵を翻弄しつくし、最後はクールに熊の急所を水の体で一気に体当たりで通り抜け決めて見せた。
「はははははは。すごいすごいぞおおおよーしよしよし!お前はなんだすごいなぁ!!ははははそうかそうかそんなに夏ちゃんのダンジョン部に入りたいんだな!くすぐったいぞあははははは」
『きゅみっきゅみっ…!』
それはまさに環境に適応するダンジョンの戦い方。
変幻自在の能力でブラックベルベアーを倒したその謎の猫型モンスターが、雷夏の胸に飛び込んだ。水の頭を褒め撫でながら、尻尾の飛沫が飛び散って、実体ある冷たい不思議な感触がじゃれついてきてくすぐったい。
人懐っこい未知のモンスターと雷夏は迷い込んだ謎の島で出会ってしまったのであった。