雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
屍を積み重ね終えて、男は睨んでいた目を離しゆっくりと次のエリアへと向かい出した。
今までのダンジョンのようにモンスターを倒していきながら……見知らぬダンジョンに迷い込んだ楽天海都はその青髪の背についていくしかなかった。
だがいつもとはまるっきり違う。その男は笑わない。一度も笑わない。目覚めて聞いた声以外、一度も話すことはない。
海都が今までに後ろから見てきた青髪が楽しそうに戦う姿とは違う。見入るその戦いぶりは得体の知れない殺気を帯びていた。海都の目に映る彼のダンジョンはとても楽しそうには見えない。
状況に戸惑いながらそれでもついていく。青髪の男が出くわすモンスターと戦うように、楽天海都もまた何を言われずともその銃を握りしめ白い盾を構えた。
「【熱熱CG弾】!」
ハンドガンの銃弾をかいくぐっていた二つ尾の
赤い膜を破り突破し、海都へとそのサーベルのように長い前歯で襲い掛かった。
海都は技を受けても怯まなかった栗鼠の急襲に驚くも、ハンドガンから今度は弾ではなく、ココア色のビームソードを伸ばし接近戦にこたえた。
しかしそれでも威力が足りない。オーラとオーラが干渉し黒く澱みだした刃の色に、このままでは受けて出したビームソードの強度はもたないと悟る。
海都は海中闘技場でキラーラを相手に戦ったときのことを思い出す。そして彼は左のシールドを取り回しやすいようコンパクトに縮小し、小盾から生やした鰭のような刃で黒栗鼠を勢いよく切り裂いた。
大きさと取り回し方のちがう二刀を器用に使い接近戦を仕掛けてきた敵を払いのける。
そしてすぐさま、銃口は宙を下手に泳いだ敵に狙いを付けた。
「【熱熱3way】!!!」
一重でダメなら三重の生地を。
【熱熱CG弾】を連射し、態勢の崩れた敵を狙い撃つ。見事に直撃した技は、熱熱の膜に包まれてもなお食い破ろうとする黒栗鼠を──やがて燃やし尽くした。
「はぁ…はぁ……一体でこの──!?」
勝利の余韻に浸るというよりはギリギリの戦いぶりを反省していく。
そんな嬉しみのない冷や汗ものの戦闘結果に、──何かゾクリと違和感。
冷汗ではない、海都は体の内側を己のオーラをごそごそくすぐられる奇妙な違和感から咄嗟にその刃に反応した。
「後ろから!?? え影!? イザベラさんの!?」
咄嗟の防御行動は不完全だったか、影から飛び出し後ろから襲い掛かった一つ尾の黒栗鼠に受けた銃剣は地へと弾かれてしまった。
奇襲に成功した影獣の勢いは止まらない。
白い盾の上に跨り、鋭いサーベルのような前歯を何度も突き立てるように襲い掛かる。
獰猛な勢いにおされる。
痛く打ちつける地を背にマウントを取られてしまった海都は白盾を大きく広げ、その凶刃を防ぎつづけるが……影は侵入していく。隔てた盾の裏側へと、黒い牙が徐々にじょじょに汗吹くイノチの喉元へと迫る。
そんな極度緊迫する刹那と刹那な狭間、海都は張り付いた汚れた背に練り上げたオーラを起動した。
【策咲CG弾】
自分の身ごと穿った聖なる槍が、背から汗のように染み渡り広がっていた円形のクレープオーラフィールドから隆起する。
悪しき敵だけを討つ槍は激しくじゃれついていた黒栗鼠の腹を貫いた。
「や、やった……」
もはや先程の死すれすれの攻防に寸分の余力もなかった。だが最後には敵を高々とその白槍に仕留めた。
息を荒げ天を見上げる。妖しい色合いの朱空に、やがて逆立てていた毛をたらし…ぐったりとする討ち取ったモンスターがいる。
険しい顔つきはやがて少し安堵の色を宿した……そのとき──
蛇のように、餅のように、妖怪のように、影のようにその生物は槍にその身を貫かれながらも体をどこまでも伸ばした。
獲物を油断させるための死んだふりだったのか、もはや栗鼠とはいえないダンジョンのモンスターが獰猛にその牙を剥いた。
油断、緊張と緩和その狭間につけ狙われた完全なる油断に────青い火花
黒いシルエットの上半身をもぎ取り首根っこを捕まえた青髪は、その牙の生えたへんてこ生物の顔を睨み覗きながら──別の手で手銃をつくり、青い弾丸を放った。
その弾丸は白槍に突き刺さっていた尻尾の生えた黒い下半身に当たり、その尾を焼き払った。
尾に生やしたグロテスクな一つ目を見開きながらモンスターは青い雷のオーラに焼け失せてゆく……。
頭上で起こった断末魔を聞きながら────海都は息を荒げたまま唖然とその青髪の方を見つめる。
モンスターをかっさらい正体を見破り焼き尽くし滅した後、青髪の男はまたその睨んでいた赤目を少年から逸らし、前へと歩き出した。
海都はまだ荒い息をととのえて、立ち上がる。気付けばその青髪の背はまた先を歩いている。
海都が苦戦するモンスターを最後にかっさらい倒す、そんなことをかれこれ何度目か繰り返していた。
そしてそんな無言で歩み出す青髪の後をとぼとぼとまたついていく。
(ダメだやっぱりここのモンスター一体一体が…つよい……俺じゃ全然うまく……)
「4つか」
「は、はい??」
海都がまたこの未知のダンジョンのモンスター一体一体の強さをその身に感じ、今更なネガティブな反省会をぐるぐると脳内に呟きはじめていたところ──
いきなり立ち止まった青髪が、ひとことその灰色マントの背のままにつぶやいた。
「回復、銃剣、飛び道具、トラップ」
「お前の得意技はなんだ」
首をすこし後ろに振り向き、横目にギラつく赤い眼光が突然のお言葉に驚いている海都のことを見ている。
「……えっと、やっぱ俺自身は回復オーラなんで……回復ぅ? なのかと……?」
「……」
「あのぉ…」
押し黙るその背に呼びかける手は遠慮がちに小さく。
海都はその沈黙に困った様子で、何か機嫌を損ねる間違ったことを言ってしまったのか……緊張がその胸に高まりつづける。
視線を浴びても振り返らない青髪は背を向けたまま、腕を組み沈黙し………………やがて少し上を見上げた。
「技に優劣があるのを知っているか」
「え? ユウ……レツ?」
「お前の得意技はトラップだ」
「え?? 俺がトラップ…回復じゃなくて??」
「ハァ……お前の身を堅く守ったその盾と最も相性がいい技だ。自分でも使っていてなんとなく気づいているだろう。────ただ闇雲に敷いているワケではないならな」
「えっとたしかに戦闘になると【策咲CG弾】はここ最近使う頻度は多くなったような……でも回復も」
「だからこうしろ。…あぁ……チッ。仕方ない手を貸せ──」
下を見ながら深く深く考えていたツラを海都が正面に戻した時、いつのまにか間近でお見合いしていたのは青髪赤目。不意に接近してしまったその男の威圧感に、海都はさっきの黒栗鼠の奇襲よりも驚いた様子で思わず後ろにすっころんでしまった。
青髪の男は間抜けに転んでいる時間も惜しかったのか、転んだ彼にそのまま手を伸ばした。
伸ばされた古びた包帯に巻かれた手を、転んだ身は思わず取ってしまう。
その刹那────海都の身へと脳へと思考へと一気に電流がかけめぐる。
「いいか、①②③〝みっつ〟だ。今すぐこのみっつの設計図を派生技に昇華させてみろ。それができずに、ここの得体の知れねェモンスター相手にまたさっきのような調子なら────お前は死ぬ」
「は、ハイ……!?」
死の宣告は突然に、
青髪赤目、威圧を放ち地を楽天海都を睨むその存在は宣告をする。
〝みっつ〟
その言葉の意味がなんなのか繋がれたそのまだ痺れる手に、海都は鮮明にわかってしまう。
それは男同士の握手とオーラを通した、まるでデータの送受信。
思考すれば己が頭にはっきりと見つけられるみっつの技の設計図の存在に、天に聳える鋭い赤の眼光に……楽天海都はいつものようにひきよせられて離れられないチカラを持つ青と赤へと冷汗をたらしながら頷いた────────。