雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
青黒い森の中をゆく透明の猫、やがて周りの樹々景色に合わせるように色づく不思議なモンスターの後を追っていく。
そして獣道を共にゆき開けた場所にでた彼女はたどり着いた。
そこには無機質な半円球状の建物がひとつあった。遊牧民のゲルとは違う、もっと近代いや未来じみたシンプルな形と硬い鉄の色合いの建物だ。しかし見上げるほどは大きくない、それに少々外壁が錆びつきその佇まいは劣化している様子だ。ただ鬱蒼とした自然の中にぽつりとあらわれたその建物は雷夏の目に異質に映った。
見入って立ち止まっていた青髪の前をかまわずゆく、青黒い葉を全身に纏っていた猫は建物のドアをコンコンと尻尾で器用にノックした。礼儀正しいノックを何度もするがそのドアは開かない、しだい猫のような鳴き声をあげてそのモンスターは誰かを呼んでいるのか。
そしてやっと、ガチャリ────ドアが外側へと開いた。
ドア前に現れたのは白髪の女性、ほどよく長い髪は左に垂らしおさげにしている。
年齢は30代ぐらいか、その老けた髪色はまだ若そうな顔つきに似合わない。
チェック柄のコートを纏う彼女は胸のなかに飛び込んできた元気な葉猫を、その手で撫でていく。
「あぁ、おかえりークウちゃん。──アレ? いつもより随分たくさんだねぇ! いいよいいよーー!!」
撫でられながら葉猫はその纏っていた木の葉を風に流していく。
透明な体の中には島のモンスターを狩った証であるチップがたくさん、いつもより多めだ。
それは多ければ多いほどうれしい白髪の女は笑みを浮かべ、コートのポケットをまさぐりご褒美のキューブ状の餌をひとつ与えた。クウちゃんもそれが目当てだったのか、とくべつな餌をひとつもらう度に引き換えでひとつチップを彼女の手の中へと置いてゆく。ペットというよりそれで対等な関係ということなのだろうか。
やがてクウちゃんといつものような取引をしていた彼女はドア前からすこし離れていた存在に気付いたのか、視線を向けた。かと思えばまた中へと戻っていった。
「ねぇ、あなたもお腹すいてる? ──デザートもあるよ。あははこっちこっち」
缶詰を胸いっぱいにたくさん抱えて戻ってきた白髪の彼女は外で待つ青髪の彼女へと朗らかに笑っていた。
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腹が減ってはダンジョンでは生き残れない。ドーム状の建物の中へとお邪魔した雷夏は缶詰のパンや、森で採取したという果物をさっそくお言葉に甘えていただいていく。
そんな旺盛な食事行為と同時進行で雷夏はここは一体どこなのかという至極純粋な質問を、この建物の主へとたずねた。
「ふんふんその質門に対するアンサーは……うん、これしかないよね? 〝緩衝世界〟──だよ」
「かんしょう…せひゃい? はむはむっ────んん! んや! それはなんだ?ダンジョンじゃないのか?」
「うん。通常より計測値の高いクロノス粒子を介して異なる時間軸の生物が存在をとどめるための空間。つまり、正しい時の水の流れる洞窟内にいくつか存在するエアポケットのようなものかな。うんうん! 例えるならそれだよね、それしかないよね? ところでここに来れるとはあなたも運がいいね! それともアンラッキー? それともナニか──ぼーーーーん!!! 星が何個か生まれちゃいそうな爆発的なダイ失敗しちゃったかな? あははは」
はげしい身振り手振りで知見をたれる。
笑顔が明るく魅力的な家主の女をおもしろそうな顔で見つめたまま……雷夏はパンをひとつクールにかじりその味を幾度か頷きながら味わった────。
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ほつれたジャージのポッケから取り出された変わった鉄の板のアイテムに機器をどうにか接続し、おおきなモニターに初めましての研究者の魂のこもったレポートや資料映像を出力し映し出す。
その賢い鉄板にデータとして残されていた更なる未知の知見を今、白髪の研究者はひとり頷きながら熱心に学習していく────。
雷夏が招かれたこの建物は彼女のラボであり、中は片付けきれない一緒くたの生活感と、謎のメカや計測機器の数々、そしてお約束とばかりに研究資料がそこかしこに散らばっている。家主がただのずぼらではなく何らかの研究者であることは雷夏が食事をしながらこの部屋の様相を見渡したときにはなんとなくうかがい知れていた。
「それは現実世界と区分される我々が暮らす内側の外。世界と別世界をつなぐツギハギの広大な外部亜空間で凶悪なモンスターを蹴散らしながらエリアの探索をし、ときにシーズーなる謎の敵勢力との命懸けの陣取り合戦!! なるほどそれがっその未知をあやうい道をっ総括するシステムが〝ダンジョン〟────おもしろいっおもしろいね!」
「それでそれでこれは!!」
「あぁそれはスマートフォン、ぞくにいうスマホだ!」
「ぞくにいうス・マ・ホォ!!! へぇーこのすいすい直感的な操作…そういう発想はこっちにはなかったね。これもおもしろいねぇー!」
「うんうん!それで思ったんだけど、このマリアレポートをまとめてるひと滅茶苦茶頭のいい人なんだねぇー?? へぇー! ……なるほどマリアレポートその27、改修を重ねた亜空間万能レーダー調査機DORAYAKIによる有機物と無機物オーラと電磁波の類似性のトータルチップ検索で、────…へぇー!!」
「んや? まぁ聞いた話によるとアーメリガのどこかのお偉い学校を飛び級で出た実にスマートな博士だそうだからな、ははは。ちなみに夏ちゃんも学校の先生をやっているから、博士までとはいかないが頭はなかなかいいぞ。とくにダンジョンに関するどんな質問もどんとこいだ! はははは」
「へぇーなっちゃん先生なんだー! それはゼンゼン言われるまで知らなかったー!! あははは。ちなみに私も、こう見えて頭は〝なかなか〟。あははは、じゃあなっちゃん先生!これはこれは────────」
雷夏のスマホに記録された情報から、雷夏のよく言うダンジョンを知る。
レポートだけではまだまだ分からないダンジョンに関しての質問が手を元気に上げて、次々に飛び交う。
雷夏は元気がよろしい大人生徒へ懇切丁寧なダンジョンチュートリアルと、外連味たっぷりのダンジョン冒険譚を彼女に惜しげなく語っていく。
「『ところで肝心のそちらさんの名前がまだ聞かされていないが?』 ほぉ? そちらさんの名前つまりこの場合私の名前のことを指す……そういえば…ラボがぼーーーん!!! した私は一体全体どなたさんなんだったかぁ?? まいねーむいずぅぅ……くくくくくクロノ…クロノスキーかな? うんうん、それしかないね! てことで今日のところは私の名前はクロノスキーということでよろしくしてくれるといいね! なっちゃん!」
「クロノスキー? ほぉほぉなかなかはじめて聞く感じの響きだな。じゃあ間をとって──クロちゃんか」
「そうそうクロちゃえ?? わたしって? クロちゃん??」
『──クゥ?』
空いていた膝上にぴょんと飛び乗ったクウちゃんはじぶんの名前が熱心に呼ばれたと勘違いしたみたいだ。やがて可愛らし気に一人と一匹が同じ方向にこくりと首を傾げ、対面の青髪赤目をみつめた。
白髪おさげの女はすこし考えて、自分のことをクロノスキーとまた今日何度目かの良い笑顔で名乗ったのであった。