雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
何が好きで何が嫌いか特にヒントはない聞きそびれた今から聞きだすのは難しいかもしれない……どの味をご提供すべきか……熟考した末の一品目はシュガーバタークレープ、焼き上がったシンプルなクレープは客の手に無事手渡された。
未だ海都の彼に対する緊張というものはとけないが、海都の焼いたクレープを確かに受け取った男は普通にそれを口に運び食べ出した。
そんな光景にひとまずの安堵を得る。そしてCGGのクレープは人と人の仲を取り持つのか、それとも若い彼の当たり障りのない性格はたまた実力が認められたのか……海都は青髪の男との話をつづけることができた。
「ダンジョンをはじめて1年足らず──お前はどこで鍛えた。その歳でそのレベルのオーラの扱いを習うことなど自力でなくても難しいはずだ」
「えっとそれは…俺はそんなレベルってほどじゃなくて色々とまだまだなんっすけど……ア! 最近だとウロボロシーではかなりオーラに関する色んなことを教えられてぇ…それに海中闘技場とかでもずいぶん鍛えられたって自分で言うのもなんすけど…ハイ思ってます!」
「ウロボロシー…さっきちらっと言っていたウツボ姫の支配エリアか。たしかにあのオーラ操作術と厄介な隠し牙からは
「え!?? まさか知り合いなんすか??」
「あぁ。たぶんソイツは覚えちゃいないだろうがな」
「?」
「そ、そうすか……びっくりしたぁ…。あ、でも色々学んで色々あったトラブルとかも乗り越えて…その後にまたウロボロシーとダンジョン部の交流試合があったんすけど、それが全然かなう気がしなくて、せんせ…あ!? じゃなくて……はい…」
「色々か──俺と同じだな」
「え? おなじ? 俺が……と…??」
「とにかくあらゆる勝ち方をシミュレートする。強くなるにはそれを永久に繰り返すしかない。そしてより早く強くなるためには、自分を殺せる色んな相手とな────」
「じぶんを……ころ…せる…?」
「負けを知らねぇヤツは弱い。必然の負け方を知らねぇヤツは当然の勝ち方も知らねぇ。弱いままの状態で楽に勝てる雑魚相手の鍛錬勝利などいくらやっても成長性の乏しい無意味だ、実戦で使える技の設計図もまず生まれない。もっとも強さは手段──目的までの時間があり余ってるなら別だ甘い水のそっちを選べ、光の多く誘いある方を飛んでいればあるいは…それでも死ぬまでには強くなっているだろうナ。好きにしろ」
「は……はい…」
それはなんの教えなのか、男は用意されていたように迷いなく言葉を選びつなげて語った。
海都がダンジョンで教わってきた今までの誰とも違うことを、されど散々海都自身も目の当たりにしたその男の圧倒的な強さとは裏腹なことを男は言っているように聞こえる。
自分を殺せる相手とは……今得たまったく新鮮で難解な教えに、楽天海都はぼんやりと思い浮かべる。
思えばダンジョンで強者たちと手合わせした回数や時間は両手では到底数えきれないほどに長い。自分では望まない理不尽な戦いに巻き込まれたこともあった。
だが何度も負ける、そんな負け方を勝ち方を知るためにつながると考えたことは海都にとって────
ウツボ姫に誘われて何度も打ちのめされた煙のオーラの攻略法を必死で考えたりした、カタチはどうであれあの今までより一歩踏み込んだ深さのオーラの扱い方を教わる経験がなければ海賊を撃つ砲を作ったり、今日習った派生技もきっとこんなにすんなりできやしない。
すばやい鼠の拳やシャチの鰭シャコのオーラパンチをその盾で危うく受け止めるのも、雷夏先生の容赦ない速さの剣を毎日受けて負けつづけていなければできやしない。
「あ……!」
しらずとも彼は既にやっていたようだ。
そんな分かりやすい考えた末に何かに気付いた若者のリアクションを一瞥し、青髪の男はまたひとつまだあたたかいクレープ菓子へと齧り付いた。