雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
「あの、やっぱり先生の兄妹だったり!! しないん…ですか……その…雷のオーラだって……」
楽天海都もなぜそのとき、そんな事を聞いてしまったのか分からない。
きっとここにいない雷夏先生のかわりに、その男が口を開き話してくれる今ならば、今しかなく、どうしてもと意を決してきいたのだろう。
かわされ避けていたように感じる……。
その名前を出すことも、ここまで多く話すことができても彼女に繋がるような話は青髪の男の口からは能動的には出てこなかった。
だが鈍感な海都にも不自然に分かりやすいぐらいひっかかる点がいくつかあったのだ。
同じ青髪赤目、同じ雷属性の青いオーラ、同じような妖しい刀を使う、同じであってどこかちがう雰囲気に……。
二品目のクレープはオレンジチキンクレープ。
クリスマスシーズンには一足早く、今回のダイブが無事終わればダンジョン部のみんなにサプライズで食べさせたかったその味を……青髪の男は一口運ぼうとして手を止めた。
「俺に妹がいたとして、そいつの過ごす未来には俺はいない方がいい」
間をおいて男がぼそりと語った一言は、仮定から入りすぐに否定へとたどり着いた。
「え? いやッ、きっとそんなことは!」
海都もまた彼の言った事をすぐに否定する。きっとそんなことはない。
海都にも分かった、海都が想像する彼女がそんな事を思いはしないことを。
「誰に何を吹き込まれようとも俺は認められない。諦められない。だからヤツをどんな手段をつかっても討つとこの刀に誓った」
腰にたずさえ握る刀の青い鞘。
そして胸の真ん中をイチド打つ、青髪の男は椅子から立ち上がった。
そしてその赤目は鋭く表情を変え、何も知らない高校生へと向かった。
「お前に夢はあるか、本当に大切におもうものはあるか。過去に迷いとらわれた人間は現実で夢を見ることを決して許されない。過去にあったその重大なジレンマを解消しない限り、未来現在をまともに生きることを許されない」
「そして夢でも現でも幻に興味はない。あるのは俺の望むものだけだ」
「いつも変えたいとのぞむのは、そのボロボロに失せかけたセーブポイントだけだ。ソイツではない。ソイツがどこでどんな風にのうのうと生きていようがいまいが関係ない」
「わかったら二度と俺にソイツの名前を出すナッッ!!!」
「!?……」
問いかけるように語りだした青髪の男は、しだいに海都に見せたことのない大きな怒りをその声にその顔にのせて表した。
若葉色のバンダナに紫色のエプロンは場違い、味わうこともなく捨てられたクレープは人と人の仲を取り持つことなどできない。叩きつけられた相当な怒りが、海都の前に悲惨に落ちた。
笑みなど一切ない──凄む青髪赤目に、呆然と突っ立つ楽天海都は何も言えない。それ程に重大なことだとは彼は思いもしなかった。何も考えずにずけずけと他人のエリアへと踏み入ってしまった結果は──散乱悲惨。
選択を誤り、怒りの雷が叩きつけられた。
迷家に雷のような怒声がこだまし、そこからまた不穏な静寂と沈黙に包まれていく。
所詮部外者などと理解しなかった、考えずに発した楽観的な考えがその男を怒らせてしまった。
焼かれある次のクレープをひっくり返すこともできない。一転して険悪なムードが2人の存在する場を支配していく。
ハイとも返事できない。目の当たりにする本物の怒りというものには。
ただただ黙る……時間が過ぎてゆく。荒げた息遣いの余韻と……古時計のやけにゆっくりと秒針を打つその音だけがクリアに聞こえゆく部屋は────────
ゆっくり
ゆっくり
ぱったり……
何かがおかしい。
激情にまかせて男子高校生を怒鳴りつけてしまった、その最悪に険悪な空気ではない。止まった針に異様なオーラを感じた青髪の男は刀の青鞘に手を置き警戒した。
ぱったり刻む時が止まったその古びた時計に、目を凝らすと。
トツゼン、狂ったように時が回り始めた。ぐるぐると時計盤の数字が識別不能になる程の速さで、時計の針は高速に回り続けた。
やがて────時刻は1時30分40秒を指し示したまま動かない。
青い鞘に手をかけた、その剣を抜くことはなかった。
いや、手にかけたそれ以上に抜けなかった。秘刀青蜜が拒否しているのではない、空間をそして何かに圧迫されるように自由が狭まり強張る己の身を支配するのは────────
「オーラ…攻撃!? いや…このザラつく感じは」
「な、なな!?? うごか……!??」
コツコツと鳴る──ヒールがゆっくり床を歩くような音が。
足音は突っ立ったまま止まる紫色のエプロンの横を悠然と歩き、大きめの黒いコートをちょうどいいコートラックの肩へとかける。
『あまねく時空を支配するクロノス神の名において──』
『時の
『これよりお前が自由に行使できる時間は1秒たりともないと思え』
古時計の前にその背は現れた。
白いカッターシャツと、黒いパンツスーツ、そして藤色の髪。
時計盤からふわり舞い落ちて来たピルボックス帽を……髪を魔法のように今結いまとめ被り、飾りのベールをその黒帽の上から垂らす。
「〝パーストⅠ
異界迷家に突如忽然と現れたのは、謎の階級を名乗る謎の女。
歪んだ邪心のオーラ透ける青髪のターゲットと、居合わせた汗垂らすコートラックを不思議なチカラで拘束し、場を支配した分政官ハイロ・ドーフィンは1秒足りとも無駄にできない程に忙しいクロノス神に今かわり、時の歪を正すための矯正行為へと移った。