雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
雷轟く一蹴で、正体は見破られたり。
しかしプライドの高いインキュバスの男は認められない。鏡の世界の中でこの仕事をしていてそんなエラーが起こることはありえないことなのだ。
「なぜだ完全にお前も我の魅せる夢見姿に心酔していたはずだーー!!」
「あぁー。まっ、そういや?どっぷりのたっぷり肉汁にしんすいしてたわけだけど? ご苦労さんのごちそうさん? いい夢を、プレゼントどうもサンタさん、──いい肉を、ははは、」
「ナッ!?? 我はインキュバスの────サタン・ファウストだあああ!!! 待ちやがれええええドミコおおおおおお小娘えええええ!!! ──あべっ!??」
「てことでメリーさよならージャンピングぅう!」
逃げようとする小娘を実力行使で捕えようとした尖った耳の青髪赤目は、急にキレよく反転し向かってきた黄色い靴底に視界全面を踏まれた。
そして囲う人の輪を飛び越えて黄色いドレスは空を舞い、高所にあるステンドグラスに張り付いた。
「ありゃ? 鏡よ鏡よどちらさん?」
「まいいか。こっちかなぁ? 罰当たりというより……バリーン、体当たりぃ、ははは、」
女神、神々の描かれた美麗ステンドグラスに失礼ながらも実力行使。
古井戸神子は偽物の怒声と悲嘆のヴァイオリンの音が響く、パーティー会場を抜け出した。
呼び声が────聞こえる。
黄泉の橋の途中で、激しいたたかいの夢を見た。
自分で言い始めた、自己満足の果てとはままならぬもの。
剣の道とは……銀の剣聖のように、死に場所を選べるのはとても幸せなことなのだろう。
くらべて同時にまだまだ未熟なのだと悟る。
しかし訳の分からない場所で訳の分からない強者に倒されるそれもまた自分らしいと……。
強者でも弱者でも何処でも……死にくたばるまでが剣の道だとすれば、それは────────
『ムスイ、────宮本遂廉。────ですか。────しっかりしてください!』
夢想回想の暗がりが明ける────
耳にうるさい呼び声に貫かれ、乾き張り付いた喉の不快感が帯びてゆく。
ひどく心地悪く目を覚まし、また始まる。
ゆっくりとひらくあおい瞳で見上げれば、纏まりを失った白く長い垂れ髪と心配そうな星色の瞳。
宮本遂廉の剣の道は未だつづいていたようだ。
ムスイは呼びかけるシデン・レイラの膝上で目覚めた。
そしてムスイが途中で立ち会った剣客阿逗魔の首を刎ねたあの黒い妖との闘いを互いに振り返る。
やがて、今の密接した2人に流れるのは語らねばならない……そういう風の吹き回しだったのだろう。
シデンレイラが暴走する黒い妖となった不可解な事件は、彼女の過去からさかのぼり膝枕のうえで包み隠さず語られてゆく……。
「若気の至り……。といいましょうか。ダンジョンという第二の世界に飛び込んだ私がシデン・レイラとしてダンジョン救助隊をしていたときのことです」
「降り積もる死のオーラを燃料にし変する…私の中にある4つの設定された役割の内のひとつ【スペードル】────ある意味困ったときの切札ともいえるこの力で、私は幾度もダンジョンにおけるピンチというピンチを切り抜けてきました」
「最初は上手くいきました。それこそ同じ救助隊の仲間たちに実力を認められ自分の鼻も高くなるほどに。しかしつまらないので詳細は省きますが、幾度もピンチを切り抜けていくにつれ同時に私はこの力を恐れだしました。異変や前兆は幾つかありました。そしてしだい……スペードルこの力はとても人を救うための力ではなかったことに気づいたのです」
「味方殺しか」
「ええ、その懸念がひとつ。思えば私はそういった不穏を境に今まで属していたダンジョン救助隊を離れ、なるべく独りでその活動の真似事の延長をつづけていました。しかし、それとは別に長らく封印していたこの力を正しく扱えていないとも悟ったのです。同じ死のオーラをもつ若い才能…牛頭梢と出会い、まるで自在に力を操る彼女を見習い、私も死のオーラに自己を侵されない危険なラインを見極める鍛錬というものを積みはじめましたが」
「今また────このような……ものですね……」
「フッそういう事情か。なら、私は未だアレの本当の全力に負けていないといったところか」
「! そうですね……お互い万全なら──ふふ」
褪せた白髪と濡れた赤髪は膝の上で語り合う。
やがて目を見合わせて、うっすらと笑い合う。
死闘を繰り広げていたことなど忘れたかのように、それからはお互いの身の上話を同じつり橋の上で何故か語り合っていた。
「そういえば、そのときの友人に日亜のWASAサブスペース開発部【WASANBON!】の試験を受けないかと誘われたこともありました。さすがに不安要素が多くその眩しいチケットは黙り引き出しのおくに眠らせてしまいましたが……」
「ほぉ。何故だ。より良い道場より良いより上の環境に身をおけば、自ずと強くなれる選択肢は増えるというのに。そこでももっといい鍛錬法は見つかったかもしれないぞ」
「強いて言うならば……出会ってしまったから」
「彼女と緑蜜にいると何かとこのように──飽きている暇はありませんから」
「フッ。それもそうだな」
憩いの膝枕はもういらない。赤髪を水色のヘアゴムに束ね、また剣の道のつづきの準備に取り掛かる。
そして剣士に一時の膝をかしていた彼女もまた真っ白な髪に似合うおめかしをする。ぺしゃんこに畳まれていた千鳥模様のシルクハットを被り、帽をおさえ斜めに構えるクールな戦闘態勢を。
ここはどことも知らぬ橋の上。やはりだべっていても船は来ない、進みやしない。
まだ立てるその足で、まだ握れるその手で、やがて愉快に聞こえてきたモンスターの鳴き声にいつものように構えてみる。
また水面から這い上がり現れた魑魅魍魎のおかわりに、ダンジョン部の部員ムスイとシデンレイラ、2人は無言で頷き合いそれぞれの得物を手に前へと駆けた。