雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
宙に浮く刀と鞘は、燃料のチップを砕きながら以前より改良した検索エンジンで以前より強い反応を示す。
とおいとおい似通うモノを分析する……DORAYKIⅡの円盤頭上でイカれたコンパスのように回り始めた。
雷に踊り狂うように荒ぶる検索結果は────今、はじけ飛んだ。
わくわくとラボ内で見守っていたクロノスキーの、好奇から刹那…驚きへと変わる目の前へと飛翔した危ない切っ先が────すばやく反応した雷夏の胸を貫いた。
「検索結果は────どう。サイコーか? きぃちゃん?」
「あ、あははは……サイコー!!」
胸を打ち貫いた感覚は鋭く痺れる。身につきささり仕舞われた己の一部である刀をゆっくりと取り出し、雷夏は後ろの白髪の博士を振り返り問う。
そんな驚きに満ちた迫力と恐怖のある光景に度肝を抜かれて腰が抜けたのはどちらかというと……
クロノスキーは冷汗をぬぐい、スマホを参考につくったおちていたタブレットの小モニターですぐさま先程の結果を確認し……どうやら過去最高に良好であると、多量の汗と赤目をギラつかせ見つめる青髪の彼女に伝えた。
『過去最高の類似値、クロノス粒子の活性化度、どうやら向こうから合図し時間軸を合わせてくれている? てことは──今しかない? やっぱ今しかないよね?』
そう呟きながら盛り上がり検索結果を精査し、すぐさま必要なものをまとめた。
サイコーの条件が奇しくもそろっている……この機を逃す手はないと、相談を重ねた雷夏とクロノスキーは荒れたラボの片付けをそのままに外へと繰り出した。
そして見つけた、島内でもっともクロノス粒子の活発にただよう地点。鬱蒼とした樹々草を手分けしてかきわけ、そこでささいな異変の探索を行い────ついに一本の大樹の樹皮に空いていた…なぞのちいさな白い渦を発見したのであった。
「それでこれはなんだ? んや? 急にクゥちゃんが苦しいほど甘えてきたぞ? ハハハ」
「あぁそれはね。今回はその子がパラドクス対策の緩衝材のかわりをやってくれるんだって」
「緩衝材? ん、よくみれば? からだの中にしらないチップがあるな」
透明獣のクゥちゃんが雷夏の首元にまるでマフラーのように巻きついている。クロノスキーは説明をするが雷夏にはまだあまり分からず、だがクゥちゃんの透ける体の中には何やら焼け焦げたあとのあるチップがひとつあることに気付いた。
「緩衝世界から別の世界にわたる為の保険のチップだよ。ほら? たとえば、急に見知らぬ旅人にその世界では見たことのない硬貨を投げ込まれるとその土地の湖の神様はびっくりするでしょ、きっとどこにも売れなくて。だからそこでねさっきのサイコーの検索結果からとくべつなチップをひとつ作ったの、名付けてクロノスチップ! それをお守りがわりに身につければ時空と時空…時間軸の差異から生じるなっちゃんの肉体への負荷をさらに軽減できるというわけなの。元々なっちゃんは酔いにくい体質のようだけどね、ふふ。そう、そして今は時間がおしいところだったからクゥちゃんにもその変幻自在親和性のたかい能力で協力してもらってね。ていうことで!全てが万全とはいかないけどこれで間違ってはいないよ、うん、そうね、そうだよね!」
「なるほど……? つまりこれがあればより高い確率で事故なくカイト生徒たちの元へと…夏ちゃんはここから外に探しにいけるわけだな!!」
「うん、間違いないよ! あ! そーだそーだ、じゃあ早速こうしている間にも浪漫満載に実験を進めよう! さっきラボで説明した手順通りにね」
「あぁ、はははは! 科学はきぃちゃん、浪漫のパートは夏ちゃんの担当ということだったな!」
首に巻きつくクゥちゃんとクロノスチップのことをあらかた納得した雷夏は、談義もほどほどにクロノスキーの言うように同意し、ラボ内で説明された浪漫の実験パートをさっそく実行に移していくことにした。
さっそく顕現させた秘刀を片手に、抱き着きひんやりと頬ずりするクゥちゃんを首に、雷夏はゆっくり前へと歩き出し大樹にひそむ小さな白渦の前に今立ち止まる。
「よし…────んや? どうしたきぃちゃん、もっと近く来ないとはぐれてしまうぞ?」
雷夏はともにぬかりがないか最終確認の話をしながら歩んでいた彼女の気配が少し遠いのに気付いた。振り返る青髪赤目に、立ち止まったままそれ以上は進みださない白髪が……気まぐれか吹き寄せた森のそよ風に揺らいだ。
「うーうん、これで間違いないよ」
「なんだと…? 浪漫パートの予定では一緒にクゥちゃんであいあいマフラーするのではなかったのか?」
「まぁまぁそんな神妙な顔はしないで大丈夫。薄々気付いていたんだけどね私はきっと時空のはざまのパラドクス、じぶんでも分かるの。だからね────なっちゃん」
「パラドクス……」
吹く風は、すこし強い。
それはまるで青髪と白髪、ふたりの間を隔てるかのように吹いた。
見つめ合うその白髪の彼女の瞳はワラっている。だが、すこしその瞳のかがやきはすこし寂し気に……そして、揺らぐことのない真剣な眼差しにもみえた。
「あ、そうだそうだ。もしむこうで私のラボの助手くんに会うことができたら〝研究のつづきはもういい〟と、そう伝えてほしいんだ。んー? 今まっさきに浮かぶのはそれぐらいかな? 研究者としては生のマリア様レポートのこともやっぱり気になっちゃうけど、時空と時空、世界と世界、カンショウしすぎるのはきっとお互い益もあり良くないことでもあるからねぇ? ほら、青い片方の靴下をしまう引き出しをどこかいつものとことまちがえてぇ……そしてそして私が万が一にでも知らないタンスの角に小指をぶつけてぇ……ぼーーーーん!!! 星が爆発しちゃうぞおおおおなぁーんてこともあはははは!!!」
「あぁハハハハハ、──わかった! その助手くんに会えたら必ず伝えておくぞ」
「うん。そうしてくれると私もきっとうれしいよ」
おもむろにまさぐったチェック柄のコートの内ポケットから、
風に流れ、青髪の手元へとひらり……さいごに手渡されたのは──ひとつの写真であった。
だいじなものを受け取った雷夏は深く頷き了承し、自分nジャージの胸ポケットへと丁寧にしまいこんだ。
「じゃあそろそろ行ってくる。もっと色々とひみつの女子トークといきたいところだったが……あ、そこで待っていろよきぃちゃん。今度は夏ちゃんより賢い知恵をたずさえて迎えに行くぞ! そしてそれはきっとじゃない絶対的にだ!!! ──よし、ハハハハ」
さっぱりとした笑い声は、また強まり吹いた風の音に流れる。
別れというにはお互い良い笑顔で、しばし──向かい合い。
やがて……お互いの頷きを合図に、赤目は振り返らずに前を向く。
ながい深呼吸をひとつだけおき。いざ、大樹に構えたのは秘刀名刀緑蜜、その刃。
そして集中を凝らし……みるみると青く青く染まってゆく。
丁寧に内燃させ練り上げたオーラをカラダに纏って、クビに纏った透明獣も親和するように雷の青に染まりゆく、やがて青は剣を伝いするどい切っ先まで余す事はなく────。
オーラを操作し上手く全身に纏いあげる……それだけではどこか足りない。
これは実験ではあるが鍛錬ではない、剣を向ける相手はどこか大自然が相手でもない。
今誰をもっとも想い、何に臆せず挑むのか……
彼女のオーラを極限まで高める方法それはもちろん────
「行くぞ、ダンジョン部!!! そして……ダーーーーーンジョンッ!!!」
堂々と立つ大樹に向かい、覚悟に煌めく赤目は堂々と今真っ直ぐと、内のスイッチを入れて駆けだした。
風を置き去りにする最速の青が、モンスターを討つ痺れるその刃が、白い渦を切り裂いて────
極限のオーラを見事全身全霊で叩きつけ、黒い森に佇み立っていた大樹は枝葉までまるまる青く熱く色を変える。
打ち込んだそれは紫電一閃──轟き、するどい光をはなつ。
誘うように渦巻いていただれかを待ちゆく時空の歪みを、雷夏はこじ開けた────────。