雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
イロハと海都は協力しひとつの武器にオーラを練り上げる…数多のチップを消費し、さいごに残された設計図通りに巻き戻しのフレーバーをまぜたマジナイは成功した。
盾は白い時計盤に見立て、刻むピンクとミドリ色のオーラの針が時を遡るようだ。
数刻前はいっしょにいた失せもの探しをするように、彼のつよく念じるオーラの元へと……迷家の灯りに誘われ集ってゆくのは────
脈打ち始めたのは白い時計盤。どくっ…どくと心臓のように鼓動する。やがてその鼓動は高まり刻む時の針は狂い歪みながら速くなる。そして────いきおいよく飛び出した。
さっきまでは見せることがなかった異常な反応をみせていた盾を臆しながらも構えていた少年は、激しい衝撃と眩い光に吹き飛ばされ尻餅をついた。
瓢箪から駒どころではない、白い時計盤に見立てていたその盾の中から登場したのは────
勢いよく出でた身を、猫のような身のこなしで反応した。
痛みと驚きで瞑っていた目を開けた少年の上には青髪赤目、カレ…ではなく、居なくなっていたなつかしの彼女の姿がそこにあった。
「ここは…………浪漫パートは成功か!?? んや──あ!!! いたっっいたぞっっカイト生徒!!! 雷夏ちゃん先生が助けに来たからにはもう安心だぞ!!!」
「え、先生!?? いまどこから現れて!??」
「んや? …あぁ! ちょっと大木をオーラ全開!思いっきり切り裂いて、現れたぞ!! うん大丈夫だ、きぃちゃんと夏ちゃんの実験はまさしく大成功だ!!(もちろんクゥちゃんもな)」
『ククゥ!』
「え、ってなななななん!? うわひゃっ!??」
首に巻きついていたやけに透明なマフラーが、海都の顔を舐め這いまわり。彼のブレザーのポケットをまさぐった。どうやらクゥちゃんは一粒ポッケにあったチョコレートの甘い匂いに釣られたらしい。
そんな生徒と先生が地と天で久々の再会もそうそうにテンション高めに語り合っていたところ──
「てことでよーし! このままこの調子でどこかの緩衝世界で絶対苦戦しているムゥちゃんと、どこかで優雅に遊んでいるシデンレイラ、ド神子とツッキーのなかよしコンビも探しに行くぞおおおカイトせ──」
「馬鹿め、お前が最後だ雷夏。どこの誰が苦戦している、あと10秒遅ければお前を見切ると話し合っていたところだ」
「ふふ、苦労はちょっとしていたさ。だが黄泉の橋の上にいいかんじに垂れ下がる蜘蛛の糸に導かれたようかい。期待を裏切らない派手なおかえりだねカミナリナツ」
「なぁんだ、びっくらぽんはなっちゃんか、はは、ざんねんしょー、おっかえりー、」
「んや!? いたのかムゥちゃんシデンレイラド神子!! で、颯爽とピンチに駆けつけ助けに来たわたしが…最後だと?? 本当かカイト生徒??」
「ハイ……いちおう…せんせいが…っす」
どうやら雷夏を最後に…
海都生徒とともに転んでいた彼女が知らない床から立ち上がると、囲炉裏の火を囲うそこにはダンジョン部の皆が既に堂々と待ち構え、集っていた。
藤色髪の着物姿に、眠そうな表情の夢魔、知らない面子も何やら数人増えている。振り返った赤目にみえるひとつの古風な部屋のなかは既に賑やかな様子であった。
しかし賑やかに勢ぞろいするそれよりも、気がかりは。
黙り驚いたまま…赤目を凝らし…ずらり並ぶ顔ぶれを一周するように首を振る。
「あのぉー、せんせい…じつは……」
海都もいつもとは全然違う彼女の様子に何かを感じ取ったのか。何かを重い口でざんねんそうに告げようとしたが。
一つ大きな息をついた。それは海都の声をさえぎるほどに大きく。
そして今一度刀を鞘をその手にして。
「大丈夫だ。雷夏先生は〝絶対的の果て〟を目指しているからな。────どこに向かおうが、追いついてみせるさ」
握りしめる深緑の鞘、その秘刀をみせつける。
答えはきっと今もなお、うずうずと刃が震える余韻のつづくここにあり、この剣を手放さない限りまた会える気がする。そう思わずにはいられない。
たとえカレがどこへ雲隠れしようとも、何故かじぶんを拒もうとも……雷夏はそんなことの一度や二度では折れやしないそんな人間だ。
海都の唖然と見つめる彼女の赤目はいつもより、より一層に真剣にギラついていた。
海都もそれ以上は何も言わない。彼もまた彼女のまっすぐに信じるものを、信じたくなった。
口癖のように聞かされていた〝絶対的の果て〟その意味が彼にもすこし分かってしまったようだ。
やがて、ふたり、おたがい釣られて笑みを作っていく。
そんな見つめ合う中、海都は不思議と何故かそのようなことを思い立ち、異界での戦いの終わり際に一瞬見せたカレの笑みをカノジョの笑顔に重ね合わせてゆく……。
深い青髪とギラつく赤目、やはり同じ種のようにみえるその色は────重ならない。
重ならないどころか、海都の視界からばたりと────急に失せた。
『そんなことで目指せるのか。今までのぬるい鍛錬だけではきっと追いつかない。ヤツはとんでもなく強いぞ……。フッ』
『目指せるのかねぇ、ぜったいてきぃ…青いカピバラ兄妹、ははは』
『いや、ここまでは来れたのさ。カミナリナツならその先も……やれそうかい? ふふふ』
『って雷先生倒れてるううう!!! 全然そんなことしんみり言ってる場合じゃなくない!!!』
『アレ、ツキヤマぁいたの? イマ、あんま、そういうやぼいふつーのツッコミはいらないよ』
『はぁ!? ってそれはいきなり消えたとおもったらよびだされたこっちのセリ──』
『ってそんな場合じゃなくてま、まずはいったん回復をしないと!!? って回復は俺だった!? 先生!!! 雷なっちゃんせんせええええ大丈夫すかあああ!!!』
『ククゥ…?』
元気の塊であるような彼女が突然ふらふらと倒れた。
青髪赤目、ダンジョン部部長の元へと生徒たちとクゥちゃんイロハは心配し駆け寄る。
絶対的の果てを目指す……その前途は早くも多難か。
寝ながらにうるさそうな顔を浮かべ、しあわせな寝息をたてている。今日という日はさすがにお疲れの雷夏のことを皆はその面の感想を好き勝手のそれぞれにし見守っていく。
ダンジョン部の皆がぶじに憩っていた異界迷家はやがて霧散してゆく。
あたりの濃霧が晴れると、気付けば周りの様相はみたことのある青いいちめんの草原へと姿を変えていた────────。