雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
『何故だ何故勝てない!?? ヤツのチカラがまた増して!??』
『何故だと? お前が喧嘩を売ったのはこんなちいさな島国の街なんかじゃねぇ、大国からはるばる呼ばれてきてやったアーメリガ帝国の王子様! いずれさっさとヨコヅナってやつになり!! 俺をこけにしたムカつくニチア人のフンドシどもをぶち倒す!!!』
『大聖龍部屋の天才RIKISHIいいいいいい!!! ────真田・アレックス・サンダーランス。てめぇのような雑魚怪人にかまってやる暇はねぇ、海底のマットで熱く死にさらせ【ゴッチャビーーーーム】!!!』
その後、海都も視聴したことのないレアものの超鋼RIKISHIゴッチャンのOVAを先生と病室で一緒にみていた。海都であったが……すっかり夢中になっていて、先生に指示された通りに次話のDVDをレコーダーに挿入しようとしたそのときに──ふと、我に帰った。
「そうだ俺せんせいにアレ持ってきたんだった!」
「はははさっきからいつ出してくれるのか先生も気になっていたぞ。ほぉ、これまた豪勢だなははは」
海都がすっかり忘れていた見舞い品とおもって持参してきていたのはたくさんのクレープだった。持ち運びできるのはクレープのよさだ。ドーナツを入れるような長めの箱にはクレープがいっぱい敷き詰められていた。まるで宝石箱をあけ目を輝かせるように雷夏は海都生徒の気遣いによろこびをみせた。
様々なCGGのクレープを一緒に食べることになった。楽しそうにみんなで食べるのがいちばん美味しいのだと彼女は言う。海都もその考えにはえらく同意し、遠慮なくベッドの横の年季の入り革の擦り切れていた椅子席からクレープをひとつ手に取った。
「あ…」
しかし海都が彼女と話しながらに手に取ったのは──
いつぞやの〝夏ちゃんゼリー〟だった。
かじりついたクレープに巻かれた台形状のゼリーから連想するのは甘くはない──直近のあまりよくない思い出だ。生クリームに口を白くよごしながら、海都は『しまった…』と思ってしまい少しフリーズしてしまった。きっとカイトママが気を利かせて彼女とのコラボ商品をその箱に入れてくれたのだろうが、今は……
それを見た青髪赤目の彼女は────止まっていた手からその食べかけの品をぶんどり、なんと一口にほおばりこんだ。
好物のゼリーに顔をしかめながら、独特な咀嚼音を鳴らす。そしてまだ熱い緑茶で一気に喉奥へと流し込んだ。
「────くそっっ今度会ったらアイツも夏ちゃんがっ!!! て、もういないんだったな……? あぁーあ!! あと少しで夏ちゃんが新ゴッチャビームで絶対的に倒していたものの!!! グぬぬぬぬ!!」
どうやら本気で悔しがっているようだ。
そんなおなじく生クリームでよごれた彼女の狼のように深めた形相に、何故か少し海都は安堵していた。しかし同時に彼女の今発した内容から思い出した……彼女に伝えそびれていたことを。
「いや、せんせぇ……それが実は……」
「ははははは。どこかで生きているか。そう来なくちゃな。ヨーし、ってもどかしい!! オーラがいつもの調子に戻れば、ダンジョンにすぐにでもッッ、だったんだがなぁ!(なぁクゥちゃん)」
膝上の透明獣クゥちゃんをごしごし撫でながら、雷夏はまた悔しそうに落ち着かない様子でそう元気に語る。そんな彼女の様子を見た海都は彼女が宇都宮まで隔離されている理由のひとつに、納得してしまった。
(先生が…緑蜜からはなれたとこにいる理由がわかったかもしれない……あはは…)
「あ、それでカイト生徒。緩衝世界でいっしょにいたというその男は…………全力のわたしとどっちが強かった?」
「え??? いきなりぃ……!? そんなことをきかれても」
不意打ちに気味に放たれた、脈絡のあまりない一言。
ぼーっとしていた海都はびくっと反応し、いつものように髪を掻きながら迷い…困り果ててしまった。そんなことは……できればすすんで答えたくない質問であったからだ。
しかし、真剣な瞳は離れない。含んでいるのは笑みともいえない、ただまっすぐにその赤目は彼に問うていた。
そんな目で見られればはぐらかすことは……彼にとって難しい。
静寂に息をのむ……彼が迷った末に導き出した誠意と答え、それは────。
かりた彼女の耳元でひっそりとささやいた。
嘘をついても意味はない、きっと雷夏にとっては意味のないこと、海都は彼女のことを深く理解し明かした。されど、堂々とは言えない。それはある種、ダンジョンでもうずいぶん雷夏先生の背を見てきた彼にとっての尊敬の念からくる行為であった。
しかし、黙る……耳元からはなれ彼女の横顔を覗こうとしたとき──
「痛タタタタタタタタタ痛!???」
視界はベッドの白に急転し、首はトツゼンきつく締まる。
電光石火のヘッドロックが彼の首にキメられている。怒ったのか、いたずらなのかも分からない、病衣の右脇に首をとられ固められた。
「今度は負けない。そしてその先を聞かせてもらうぞ。オーラがいつもの調子に戻ったら……もっと磨いた【爆雷斬】で!! ぶった斬る!!!」
「たたた……ええ!??(そういえばたしかあのときもしかしてぇ……あの人にせんせえから斬りかかってた??? っけ……あはは俺……)」
「絶対的にぃいいいいいいいい!!!」
「いタタあああィ!?? ちょマせんせ!??? おでのクビガッ────────」
ダンジョン部の生徒からききだし再確認した、自分の現在地。
うずうずと一層に…今日一番に燃え滾るのは──闘志。胸が疼き、オーラを内燃させ、内に宿る秘刀がいまかいまかと震えだす。
そしてやがて、思考回想をぐるぐると巡らせ頭の中で青い影を追いかけ……たどり着いた答えは、やはり闘う…それが彼女の最速の道──
雷夏はあの男へのいつかのリベンジマッチを固く誓った。