雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
『天にあらず』
緑の山は冬の山。寒い季節に白く化粧されてゆく。
そんな一言をそえて、降りしきる雪に紛れた真っ白な鞘に打ちのめされたのは、黒髪黒目の未熟者。
敗者は積もったまっしろに、大の字になる。
やはり勘違いしていた真の実力のほどを、身の沈む冷たさにわかってゆく。
「今から本気だしても、むぅ~りかぁー、────」
舞い落ちる白い埃のような雪にネガティブにつぶやいた……それでも汗と熱を帯びたその右手に剣を手放せず。
古井戸神子は白い景色に去りゆくひとりの老剣士の背を見つめた────────。
今日も今日とて理想を追い求めて肉体をイジメぬく。だがいつもより多めの汗をかいてしまった。
使い古したタオルを手に取り、クールダウンをはじめた彼は窓際へと歩き出した。
そして夕焼けに染まる、手中にあるちいさな校章の煌めきを眺める。
「理想っこは理想を追い求める。流れる時は関係ない、そうだね」
彼が黄昏ていると──校長室のドアはノックされ、ひらいた。
染める暇もないのか真っ白な髪をした女教師が、まだオレンジの陽射しの中にいる校長緑野光男の背に呟いた。
「校長はカレのことをまだ信じているのですか」
「キミとおなじく」
「私はただカレと共に行動をしていた楽天海都がそのように報告したので、その他の色々な状況も鑑みて、判断しました。雷冬牙は敵ではないと」
「それはそうさトーガンがつくったダンジョン部に敵対する理由がないからね」
「しかし、苦労しやっと巡り合えた雷夏への反応は──」
「すべてはひとりのために────そういう
「そうだといいのですが……。カレについて…もういちど校長を信じてもよろしいですか? 校長の信じるものを」
「ぼくを? ハハハそれならお安い御用。だいじょうぶ、今日も天はおちない! ────アレ? すこしフケたかい岬麗先生? 玉手箱は開いちゃダメだよハハハハハ」
天を指差す。いつものように華麗に明るく汗をはじけさせて。
そしてすっかり白髪姿に老け込んでみえた岬麗先生に、冗談を言う。
シデンレイラの参照する性格ベースにもなっている緑野光男校長の爽やかな笑みを浮かべるそんな姿に、つい──
「たっ、玉手箱ではありませんが……はぁ、お気楽ですね」
「気楽な方が見える景色はひろいものさ、そう! 〝急がば回れ〟。カレもカノジョも、キミもさ。そして待ち合わせ場所は絶対的の果て、そうだそれがいい! じゃ、今後も才気あふれる小焼けちゃんたちをたのんだよ。そうそうキミが物語のつづきを繋いでくれたおかげで、ボクは今日も理想に胸が躍るものさ! シンリョクシーユー、────あ、鍵かけといて」
鍵束を投げあずけられ緑蜜の名物校長は颯爽と去ってゆく。
ひとり残された岬麗は、ちょうど彼の佇んでいた夕焼けの窓際におもむろにあるきだした。
(急がば回れ……はたして冷静をよそおいおどけるだけで、才気あふれる彼らを私はどれだけ導けるのでしょうか? しかし、やはり強くなる──今よりも強くなることでダンジョンにおける次のステージへと進める気がします。それこそ〝絶対的の果て〟カレとカノジョの思い描く果てへと……黄金の守り人シデン・レイラもま)
「そういえばおそくなったイブのよていは」
「おっ、おかまいなく…」
「ハハハハハ、いいね…! ハハハハハはは!!」
またひょっこりドアから顔を出した校長と二度の賑やかなさよならをし、岬麗は夕焼けに背を焼かれながらいらぬお節介に苦笑いを浮かべた。
夕焼け小焼け日が沈み……準寒冷地の栃木県に粉雪が舞いはじめた。
今日という誰にとっても特別な日はいつもより外を出歩く人の集いも多い、そんなクリスマスイブのよていはというと────────
仕事の終わりを待っていた。緑蜜道の駅すわるベンチの壁際はすこし風が強く、さむい。だから彼はお店のジャンパーを貸してくれた、そういう気遣いはよくできるのだ。
そして彼女が見つめるクレープ屋は混雑していた盛況の客列をさばき、見つめるさきにやっと待ち人が来たと思えば、彼はエプロン姿、仕事着のままだ。今日も明日もだいじな特別な日だというのに、おしゃれな装いも気にせずにいつもの彼の姿だ、彼という人間はやはりそういうことに無頓着だ。いや、ある意味彼の大好きな仕事でもあるクレープに関しては執着に似た頓着があり、その他のことは疎かにするほどなのである。
そんな彼はまた笑顔でクレープを片手に歩き寄る……それで彼女のご機嫌を取ろうとでも言うのか。無邪気な笑顔であらわれる甘い甘い…彼のいつもの手口だ。
(そ、そんな手口にきょうはかんたんにノらないんだから…!)
きょうはイブ。クリスマスイブ。待たせたかわりのクレープひとつで彼女は満足してくれるだろうか。彼と同級生である月山雨楽楽は当然のようにそのクレープを彼から受け取り、すこしむっとした表情をしながらも甘い匂いにつられかぶりついた。
「はむ────!? ────へ!?? ……ら、らくてんくん? これ、苺が……このイチゴめちゃくちゃ大きくない???(てか、クレープじたいもデカくない???)」
「あぁっとそれ
【宝石苺のクレープ】
粒の大きな宝石苺を一粒そのままホイップクリームとともに、月山の好きなココア味のクレープ生地の中へと巻いた巨大な一品。
「え、てっきりわたしこの前雷先生と話してたオレチキなんたらってクレープの試食かと思ってたんだけど!?? ジュエルベリー??なにそれぇ!??トウキョウ!??きいたことない!?? てかでか!!」
「あぁーオレチキもよかったんすけどそれじゃちょっと……。あ、そうだ! そのときちょうどあの三学期がはじまったばかりの廊下で月山さんに言われたことを俺なりに考えた結果────なぁんかこうなっちゃって? あはは、はい」
「え、わたし!?(たしかわたしあのとき、頭のなかがクレープばっかりの楽天くんに……)」
「やっぱ俺、クレープしかないかなって……。だから、なんていうかその…ダンジョンとかいろいろと大変なことも重なってごちゃついてた12月っすけど、そのクレープは俺からの…お礼……です。月山さんにたべてほしくて」
かじられたクレープはそれでも花束のようだ。
よくみれば彼女が両手にうけとったのは白い花束、花のようにたくみに絞られたホイップクリームに、幾重にも咲いたクレープ生地、とてもみずみずしい巨大なサプライズの赤をしのばせて。
美味しい美味しいクレープの花束、世界に一品だけの豪華な花束であった。
若葉色のバンダナをぬいだ彼は照れくさそうに黒髪をかきながら笑う。
この時期のクレープはすこし冷たい。だけど、それいじょうに美味しい。
ベンチに座り唖然と彼の顔を見上げる。
期待していて期待していないクリスマスイブになるよていだった。
この日、彼女は彼のしかけた特大のサプライズにまんまと────────
《第四章 時のはざまの緩衝世界-完-》
「てこれ、めちゃくちゃ苺とかクリームとか生地とかも凝っててすごいけど……い、いくらしたかちょっとだけ…聞いてみたりしてもいい……? …楽天くん?」
「あ、いいすよ? えっとたしか苺は……一粒ごま」
「ゴマっっ!?? ちょと待ってちょっと待ってラクテンくん!!! いかなりその冗談ジョーダンにしてもっこわいんだけど!!! じょ、じょーだん…だよ…ね???」
「え?? あ、あぁーー! そのことなら安心してください月山さん! CGGの社長が俺のウロボロシーでの出張店舗とクレープ開発日誌のご褒美で、珍しい食材をいっぱ」
「ちょと待ってちょっと待って!!! 楽天くん! それッッ、今言わなくてもいいかも!!」
「え??? そ、そうすか??」
「はぁ……てかこれもちろん美味しいんだけど、腕、ちょっとぉ…しんどいんだけど…」
「あっ!? あはは、すんません月山さん! 俺──はい、持ってますから」
「そ、そう?? ふぅん……ふふっ。はむっ──」