雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
突貫してきた怒った赤犬と元気な青犬に右手を向けかざした。
「待て────さすがにねぇむいわ、」
いつもより威厳のある身の引き締まる声で、待て────からのいつものやる気なさげなド神子ボイス、やる気のない台詞を添えて。
威勢と出鼻を挫かれた2人は、あまりの落差に剣を抜いたままドテッと砂浜にこけた。
おもむろに起き上がりため息を吐きながら、赤髪は冷静さを取り戻し黄色い鞘に刀を収めた。
「本当に…あなたという人はどうしようもないな。当主代行…そろそろしゃきっとしてください」
仮にも当主代行、試そうと盛り上がった熱気をスカされたことにすこし毒を吐きながらもムスイは古井戸神子がこういう人物だから、自身の剣が腐らないように雷夏と幾度も戦うハメになっていたのを思い出した。
「あー、さいきんは、しゃきっと、闘志をもやしてる炒め食いたいだわ、蛇口の美剣士、」
「……るすいの…だ。寝ぼけの(いちいちしょうもない小ボケ…)当主代行」
相変わらずだが、先程の剣舞を見るに闘志をもやしていたというのもあながち嘘ではない。その熱気に釣られてムスイと雷夏は当主代行に剣を抜き走り出していたのである。(結果は両者とも勝負をスカされてしまうものの…)
しかし、──
「ド神子おおおまかないはまたない夏ちゃんだ!!!」
お構いなし、いきなり斬りかかったのは雷夏。
電光石火で駆け抜けた青い雷撃、その剣線を寝ぼけた剣士は真正面から受け止めた。
その容赦なし不意のイチゲキに──寝ぼけ眼はパッと開き醒めた。
鍔迫り合う、やがて青い雷オーラは2人の四方に柱立ち、砂を蹴散らし迸る。
「ドタドタ下手っぴにどうしたの夏ちゃん、おっ──古井戸神子とおんなじヤツやってんじゃぁん、バチバチ─わかった?」
「フフ緑の電池を何度も抜き差しすればァぁゴールからスタート、体内迷路をクリアするのは簡単だああド神子! バチバチのバッチリィィィ」
「あぁーーーなぁるほど、そんなの強引すぎて電池4本マックスですくすくぅ寝てたら盲点だわド神子には。へぇー、そんなそんなカピバラな…命知らずの馬鹿は、──やっぱり才能あり、──やぁるじゃん、はは、」
「あぁ、言ったろ、絶対的だからな!!! レベルアップぅぅダ~ンジョンッ!!!」
「ははは時空を超えてここまでついてきたか、それ、ゼッタイばーか、──じゃーん。」
鍔迫り合い一度弾き合いはなれた──。
元気な青髪が駆け、再び交わるとき…今度は正面から受けることはない。
ド神子は猪突猛進の雷獣の牙をオーラを右側に偏り纏わせた雷剣で鮮やかにいなす。
バチっと反発する剣を一瞬──
半身にさっと構えたド神子に合わされた雷夏は、混ざり合った同種で異物の雷オーラを受け取り制御を失う、そして勢いそのままに後ろにそれ吹き飛んでいった。
高い練度の剣を魅せる黒パジャマの剣士、ただの剣術ではなくオーラを巧みに制御するダンジョン仕様…いやそれは雷夏対策の剣だと…はなれてもつれあう2人を見ていたムスイの目には見て取れた。
青く迸る熱気に当てられうずうずと…当主代行が本気の剣を披露している…一介の剣士としてこの機会を逃す術はない。
気付けば柄に手を置き、──抜いていた。
「わ、私もだ当主代行!!! イクゾッッ!!!」
「ヤダよ暗殺者、」
「ナ!??」
近付いてきた赤髪の方を振り向いた当主代行は、剣ではなく剣よりも…ぐさっと心に突き刺さる〝言〟を冷たい声色で放った。
深呼吸のちに意気込み──既に秘刀を手にして構えていたムスイは鳩が豆鉄砲を食らいすぎた顔をし一瞬呼吸が止まるほどに動じてしまう。
そして生じた、剣士が見せてはいけないその長々しいスキに、
「……! ッッあ!?」
「私できますよっなわりに案外お嬢様の剣、こういうのは怒るとこぉわいえっほえっほ──」
雷夏から受け取った完成品の時空剣術で素速く駆け抜け、気の抜けていたムスイの刀を地へと弾き飛ばした。そのまま足踏みしたド神子は呆気に取られらた赤髪の視界から遠のいていった。
「マ、待てぇええ当主代行! こんなのはッッ」
すぐに刀を拾い上げムスイは砂浜を駆ける黒パジャマの後を追おうとした。
しかしそれよりも速く、後ろからものすごいスピードで──接近。
るんるんと駆けながらやがて振り向いたド神子は、
「おわっ夏ちゃん」
受け止めるもののそのまま、すってんころりん──ビーチの砂地を裂く元気な青い剣にとばされ、尻餅をついた。
「ド神子、今までぐーすか♡寝ていた分、夏ちゃんと手合わせだぞ♡」
「──あたたた…はは、今いい感じにのらりくらりのトンズラきめこむ強者面見せイベントだったんだけどね、ゼッタイテキカピバラ族にじゃぁれられるのも嫌いじゃないけど、──あーー、わりぃけど、今日はもうほんとにねぇむい……ほあぁんだわ、いもうとよ、」
尻餅をついたまま大の字になった当主代行は眩しい太陽から目を閉じる。
「またぐーすかのらりくらりかぁ? 一瞬でヤラれたムゥちゃんの節穴は誤魔化せても夏ちゃんのくりくりな目は誤魔化せないぞぉド神子おお」
意気揚々、雷夏は秘刀緑蜜を片手に死んだフリ…寝たフリをしたド神子へと向かっていった。
だがド神子は起き上がって来ない。
意気揚々に行ったはいいものの、寝たままである。
砂浜には刃を剥き出しで無造作に転がる秘刀赤蜜がある。
「……やぁばいわ、夏ちゃんたすけて、経年劣化ド神子…し。ぬぅ…。」
依然目を閉じながらなにやらのたまう。
熱い砂のベッドに大の字に寝転ぶ置物と化した黒パジャマを、闘いの熱気の萎えた2人は見下していく。
「まだ息をしている、雷夏〝ソイツ〟は放っておけ。いかなる天の才でも、はぁ…生まれながらに勝負は決まっていなかったようだ。日々の鍛錬がいかに大事か身に沁みて分かる」
「んや……そうだなムゥちゃん…。──アっ! あっちにカイト生徒の作り置いていたクレープがある夏ちゃんスペシャルをご馳走するぞぉ!」
「クレープか、小麦じゃなければいただこう」
「なんだそのボケはムゥちゃん! クレープなんて小麦に決まってるぞぉ!──え、小麦がダメなのか、めっずらしいなぁー、ナラっヤァキソバだ!」
「ふざけるな、それも小麦でしかない。──仕方ない、いただくとするか(ここは流水流道場ではないからな)」
「なんだそりゃさっきまでの小麦フェチの設定は嘘か! まったくぅ夏ちゃんにツッコませてぇ。よーしやるぞおお夏ちゃん♡クレープ焼きそばああ!!!」
寝転ぶ黒パジャマへの興味は2度勝負をスカされたのちに失せた。
2人はその黒い残骸を背にし談笑しながら歩きはじめた。
赤鞘の刀とともに放置されたマイペースな構ってちゃんは、目をしっかりと見開き、
「あれ、もしもーぉ……、…………。し。──あー、はは。弟子の育児放棄、やぁばいわ、よっこら──お? ちぃともうごか────…はは────────」
熱い砂のベッドに溺れながら、数センチはなれた刀の柄に手を伸ばそうとするも──ぴくりとも伸ばせない。
近く、ホットプレートの上に焼きそばが焼かれていき香り高いソースの匂いとはしゃぐ若者の声が聞こえてくる。すこし空いていた腹にはうれしいはずが一種の拷問のようであり。
塩味の汗が鼻頭から乾いた唇に流れていく。久々にこれほど熱い陽の光を浴びた昼行灯の古井戸神子は苦笑いしながら、高い太陽にあるがままに焼かれていく。
【ド神子ダンジョン編】
秘刀名刀、13あるその刀は内から外へ顕現させ振るう度に体力とオーラ量を消耗してしまう。強力な技の使用にも耐えうる強靭な硬度を誇る秘刀であるが馴染み慣れぬ身体ほどその消耗量は大きく、使用可能時間のデメリットがついてまわる。
特に天の才を持つものの、才に見合わないチグハグな怠けた身体では、そのデメリットは顕著である。
現時点で1番秘刀との親和性があるのは自称ダンジョン生まれだという雷夏。その秘められし牙はもはや彼女の体の一部といえる。最速の神牙流時空剣術と強力な技、切電、そのどちらも秘刀緑蜜が役に立つ。ここぞのピンチここぞのタイミングで絶対的必殺技は使うものだと本人は言う。
次いで、ムスイ。彼女もまた培った剣術や殺気肌感覚においてのセンスは本人が自覚するよりも高く、もったいぶらない性格をした雷夏と試し合いダンジョンの戦い方にもすぐ慣れた。長年汗水を滴らせ注いだ剣の道で鍛え上げた身体を持つ故に、秘刀黄蜜も安定し顕現しとどめ、おなじく自己アレンジしたオーラの流れを速めた刃で受け、防御に特化した時空剣術を扱うことはできる。力と技とタフネスと速さ、いずれも高いレベルでまとまり、現時点のダンジョン部では1番完成度が高くバランスの優れた剣士だと言える。
いずれにせよ秘刀についてまわるデメリット…しかし簡単な解決方法もある。雷夏もそうしているように基本はダンジョンに落ちているチップの剣を用いて戦うことだ。バランス配分を慎重に考えれば身体が一歩も動けなくなるような電池切れはそうそう起こりにくい。
ベルトコンベアの駆動音をBGMに、グレーの地を流れ踊るように次々と首脚を刎ねていく。
「おー、なんださっき手に入れて死んだエロ剣、死んでもド神子でシコってついてきちゃって、おまえさんの握り心地マジやぁばいじゃん、」
珊瑚を模した柄が(使いづらくて)可愛らしい装飾鮮やかな水の剣を握り。
生気のない下手なダンスを披露していた鼠の群れを葬った。
「ま、耐久力だけはたぁすかるわ、んじゃーこれぐらいはいけるか?○ボタン(今命名)──いけっ、」
ダンジョンで稀に入手できるレアチップというものは強度を失い壊れてもまた探索者の手元に戻るケースがある。使用者の戦い方や生き様に魅せられたパターンなど…探索者たちの間では
丸く、円環は無限に流れ巡りつづけ、少ないオーラ量で背を押し合い勢いを増していく。
切先が虚空を染め描いた青い円環の魔法はのらりくらり──やがて天にぶらさがる生産機器へと届き──切れ味鋭い激水流が弧状に機器を削り取りとった。
やがて機器は切断され落ちていき、爆散破壊。
「クリティカルショットからの流用、○ボタンあらため…………あー、──てか終わったぽい。」
後日、この技は正式技名称【
誘われた鼠人形の工場をジョギングし尽くした古井戸神子は、片手のコンビニ袋からおもむろにアイテムを取り出した。ラップに包んだ巻く巻くクレープ生姜焼き味(冷めてもうまいカイトママの試作品)を食していく。
この日は、ちょっかいを掛けに来たものの…誰もいなかったのでスイカテントに置かれたクーラーボックスから物資をかっぱらいダンジョンで鈍った身体のジョギングを開始した。
ヤドカリが一匹、青い鳥が一羽、だけ。遠く彼女を見守る中でいつもの昼寝よりもなんとなく優先されたのはその選択肢であった。
寝れば死ぬ、手軽には後戻りできない状況に身を置きすいすいと進んだダンジョン奥深くで古井戸神子は久々にやる気を見せていた。
あんぐりと開けた口元に運ばれていく────ソースがべちゃり、オリジナルスパイスの効いた濃い醤油味。
「おっ──ありゃ夏ちゃんとジャグチが集めていたデカ帽子か、(あの日、蚊帳代わりにもって帰ろうとしたら怒られた、)」
「あー、なんか欲しくなってきたわ、あんなかで猫みたいにまんまるぅ、寝たらどうなるか、あー、気になりまくまくりんぐ、クレープ、」
粉砕破砕、ぶち壊された工場壁から出現。
巨人──巨人、黒帽──白帽。
「こりゃめでたい、よっと──」
雷光は斜めに飛翔した──×ボタンから○ボタンに体内ボタンは切り変わり水刃は斬り裂いた。
眼下の小人がバチっと光り、一瞬、喉元に突き刺さっていたのは魚の骨ではなく剣。
水の剣からタコ糸のように細くされど鋭い流れが刀身を離れ突き進み、流れは止まらずそのままクビをくりぬき落とした。
放った技の代償か、柄から切先まで…白化していき剣は粉々と砂になり、巨人の被っていた黒帽はひらりひらりと宙を舞い落ちていく。
「はは──握り心地アレでズレたか、すぅぐ死んじゃう、おつかれエロ珊瑚の剣もういらないよ、──あー、さぁて、首の皮イチマイ、黒いてんとう虫と白いてんとう虫、どっちのサンバがド神子のおテントぉ様か、はは、じゃーんけーん──。」
クビなし巨人の肩に乗るド神子は遅れて入場してきた白基調黒斑点のてんとう虫帽に、拳を揺らしゆっくりとじゃんけんの動作を披露する。
メインウェポンの両刃鋸を斜めに真っ二つ切り落とされ、それがパリンと音立て失せていく。
ダンジョンにある鼠人形工場、そこで暴れるネズミを一匹排除しにやってきたはずが…前方の黒基調赤斑点のクールな背姿をした兄弟が訳もわからず首とキャップを失い秒殺。
その足元から消えゆく残骸に乗る、黒パジャマの小人がいる。それが再びチップを使用し色鮮やかな珊瑚柄のレア剣を構えた。
巨躯は震えあがり警鐘を鳴らす、レベル違いのチカラとオーラに────
【月山ムスイ道場編】
神牙流道場に通うハメになり、この日も剣術修行はつづいている。月謝は雑事を手伝えば格安にすると、のらりくらりのアノ当主代行に言われたのも前向きに其処へと月山の体が向かえる材料であった。
月山雨楽楽はこの日もシデン・レイラが思いつき夏ちゃんに指示されたメニューを消化していた。
そして一汗かいたあとはいつものように小休憩。
借りたお古の水色道着を着た女子高生は道場端でスマホをいじりだした。怒りの形相を浮かべスマホ画面を連打したと思えば、急にニヤケはじめたり、また怒りはじめたり……。
「おい、ナニしてる携帯は没収だ」
「は?」
不意にとられて、虚空を指でへんてこにちょこまかするが、ない。
──スマホが月山の手元から赤髪の女の手元へと移っていた。
「お前は集中力が足りてない、のらりくらり病にかかりつつあるな。見ていたが何かとすぐコレをいじっているな。例の強くしたいと言っていた男とちょこまかメールでもしているのか」
「そそ、そんなのちゃんとヤルことこなして休憩だから何してもッかんけ」
「私に勝て、それまでこれは返さん、」
「は? ────……ちょ。は、はあああああああ!??」
賢い鉄板の代わりに壁にもたれ座る少女に投げ返されたのは柄の濡れた木剣。
赤髪のムスイは背を見せ昼の道場、その中央へと懐にただの鉄板を仕舞い込み歩き出した。
ムスイにとってはただの鉄板でも、
息抜きのテトラマーズ、栃木の歌姫宇都宮テカルの音楽、楽天海都くんとの思い出、写真、動画。
大事が詰まったスマホを質にとられた月山雨楽楽は必死な形相を浮かべても、かなわない。
ため息混じりに立ち上がり、ドスンドスン、足音をこれみよがしに怒らせ憎き赤髪の背を急いだ。
【牛頭梢、岬麗、小谷家編】
(この部屋にある…本の山に、絵に、CD漫画に、漫才DVD落語に古地図…多岐に渡りかなり調べていたということでしょうか、
「なんかわかった? しでんれーら、ちょっこし」
「ええ…ちょっ、すこし…」
(お聞きした校長の話によると、小谷螺夢はたしかに30年前緑蜜高校に在籍していたらしいです。もったいぶってオリジナルブレンドのブルーベリーコーヒーを3杯も飲まされましたが、岬麗くんこれが青春の味だとかごほん…30年前、このウォークマンの型式番号を調べた結果価格は4万円程度でその頃の最新のもの、学生の身ではかなり背伸びして手に入れたものですね。そんなことはどうでもよかったのですが)
(そして…世にダンジョンが次々に多発的に現れダンジョン探索者なる新たなるものがすこし栄えていた期間が約1年と半月の短くも濃い…であり)
(おおよそ14年前に熱心にダンジョンを探索すること、その多くの成果としては少しだけ研究しがいのある珍しい…ダンジョン以外では意味効力を成さない小さな鉄屑を命懸けの末に持ち帰れるだけであった。武器チップなどのことですね。そこから得られるメリットは短い目で見ればきっと薄いものです)
(一方、地球環境にとって常時開きっぱなしの亜空間の入口が存在することによる現世への干渉。それで自然と引き起こる微弱な電波障害や、ダンジョン遭難事故今でいうポケット災害による行方不明死亡の人的被害。人が長い歴史を経て積み重ね築いてきた既存の生活基盤と治安を損ねるデメリットが多く、それもこのままではいずれ穴に呑まれ世界破滅論まで…)
(と結論付けたいずれもオーネル賞を取るほどの世界的に有名な科学者たちに説かれた論文、その論文が出回ったダンジョンに対して重い決断をくだしWASAと世界政府主導の下に次々と亜空間を封鎖。結果的に正しい判断だとしても群衆が動くのにはもっと時間を要するはずです。何故これ程に迅速な正反対の方針転換ができたのかは極めて疑問が残るところですが、これは私見ですが…端的に言うと〝宇宙〟未知のダンジョンはフタツは要らないということでしょうね。リソースを割くならどちらか、人類にとってメリットの極めて薄い危険な方を即座に切り捨てるのは賢明な判断です)
(──そんな短くグレーな世界のダンジョン探索期と彼女の生きていた時期は全く重なりません。つまりブライギッドの盗賊団を追い未知のダンジョンを訪れ行方不明になったのではなく、緑蜜高校2年図書委員小谷螺夢はとつじょ神隠しにあう……。いえ、おそらく意味ありげで意味のないメッセージの意味は…………シデン・レイラと牛頭梢の共通点…………彼女がもちえなかったものは────)
「あんたらほんとうに警察す? うち、不法侵入のサーカス団を招き入れた気はないんだけど…」
他人のベッドに寝転び黒い漫画本を読み漁るダルメシアン柄のツナギを着た大柄の女。ちいさなベッドに背丈膝を曲げておさまっている。
白黒ツートンの髪をし、奇抜な色合いのメイクをした、長マントの女。古地図を広げて超硬RIKiSHIの指人形をその上に並べ三つ巴の勢力をたたかわせ聖タクの世界をシミュレートしていた。
フライパンを片手に…家主小谷命は小部屋に居座るサーカス団を見つめている。
「昼飯はまだかい? フライパン、ナポリタン」
「どつくよピエロ、あんぽんたん」
「…やるじゃないかい? ──あんぱんと牛乳を買ってこようかい、タンタたん」
マントを翻し──風のように舞い近づき、今年30の女の手を取りダンス。
最後にオーバースウェイ、細い腰をささえ背を後ろに豪快に仰け反らせ、顔を見合わせてフリーズ。王子様役のシデン・レイラとお姫様役の小谷命、見つめるピエロは微笑みを崩さない。
「あんたは庭の草むしりでいいわ、これ軍手、やって」
「……やるじゃないかい──タンタたん」
「じゃちょっこしわたし猫のさんぽ」
フライパンの中には軍手があり、黄金の守人今は暇人のシデン・レイラには庭の草むしりを依頼した。
りんりんと小鈴を鳴らし──フリーズした2人の股をゆっくりと抜けていった寝起きの飼い猫は、ダルメシアン柄の膝上に飛び乗った。
【海都月山雷夏ムスイ部室ビーチ編】
時は流れこの日、久々に多くの面子がここに集う。
「なんかめっちゃ増えてません…?」
「ダンジョンだからな」
「いや、意味が…せんせぇ…」
「またなんでなんでせんせぇ♡かぁ? ははは、ダンジョン部の戦力も上がってきたということだな。3倍、イヤ10倍! よっろこばしぃぃ! 順調順調ジュンチョウ夏ちゃんッははは」
なにもない平日こんなダンジョン日和に、雷夏先生に呼ばれてやって来た4人。
いつもの制服姿の海都が見たのは砂浜に増えた個性形状豊かなデカ帽子の数々、部室ビーチの砂浜の上に無造作に飾られている。以前見かけた時よりも討伐数が何倍も増えているような気がした。
「えっと俺ここ最近なんもしてない気が…まさかこれゼンブ」
「そうよこっちが育成メニューとかいうの必死でこなしてる間にあんなにこっちが苦労したバケツ頭の友達がいっぱいッハイスコア更新しまくってんじゃないこれええ、ってなんで──いんの!??」
月山は雷先生に思うまま吠えたと思ったら、もはや見慣れた水色道着を着た赤髪の方を見た。
神牙流道場のえらそうな人えらい人…ムスイがここにいるのに驚いたが、思い返せば自分がここの事を漏らしていたとも同時に気づく。
「あぁお前もここに通っていたか、携帯は返さんぞ」
「ってなんでイカゲン返して!」
「チカラない者は奪われる、敗者は獣の剣を堪え受け入れるしかない。私もそうしてきた」
「意味不明なんだけど…なんなのそれ(自分がされたトラウマ脳筋メニューで後輩いびりぃ? はぁさいあく…)ぇ……」
赤髪は赤髪で相変わらず生徒のスマホを取り上げるような脳筋思考、美女でなければただのゴリラである。月山は半ばあきらめつつもかるく怒られない範囲で悪態をつく。
月山と海都、もうダンジョン部にはこの2人がいればいいんじゃないかと顔を見合わせながら同じく思い、苦い顔を同調させ頷き合う。
「まぁまぁ今日はな、カイト生徒お前はこっちだ」
「え? あはい?」
「ついて来い、女子高生。真剣の全力でいい」
「は?」
緑ブレザーの生徒2人はそれぞれに分かれて連れられていく。
青髪に手を引かれていく海都生徒と、
髪をしっかりと後ろに結んだ揺れる赤髪の尾の後に月山生徒は仕方なく間を置き歩きだす。
海都の曲がった腰を背と尻を打ちととのえ、ブレザーの両肩をはたき、ハンドガンをぎゅっと持たせてそのまま砂浜に勇ましいポーズを取らせ飾り立てる。
「見せてみろ育成メニューをこなした成果! もちろん先生とチャンバラだ♡たいまん♡ぬきうち♡」
「えええ!?? 育成メニューって未だおっ、おお俺なんもおお!? な、なななんもしてぇ!?? ちょっ先生マっ────」
元気な赤目を見開き剣を構える先生がいる。
何がそんなに嬉しいのか、嬉しそうだ。
突然告げられた抜き打ちテストに海都は驚き喚くしかない、前方にハンドガンを構えた視線でフリーズする。
しかし、青い獣はゆらり動き出す。
乗り気でない生徒の意思を華麗にスルー。
振り下ろされた剣線は砂を引っ掻き、よろめいた足腰の緑ブレザーは伸びた青ジャージの美脚で腹を蹴られていた。
「【テクニカルスピン】ちょっとおおお育成メニューってずっと変なBGMで剣振ってぶちかまされてただけなんだけどおおお! あんなのなんも教えてないでしょおおおお!!!」
「ただ教えられて強くなるなら、私は今頃【天】になっている。その技もおおッッ!!! 【流水陣】──ここならもっと兎に角で楽しめそうだ(変なBGMではない血湧き肉躍る選りすぐりだ、流すか?)」
「ながさないッ! 類は友を呼ぶって、本っ当みたいッ赤くても青くてもはあああああ【Zショット】」
弟子の育成などこの女には興味はないのかもしれない。開き直ったムスイは自己満足の果てを目指して剣を振るうだけである。
もはや取り置き楽しみにしていただけの、
月山雨楽楽は技を繰り出し格上に挑む。
雷夏以外なら、ここならば、憎き相手を倒すために密かに編み出していた新技ならば、勝算が0なわけではない。
目指すはどうせならハイスコア、かましてかまして剣を振り落として邪魔な相手の剣を消して、今はただ全力で吠える。
質に取られた賢い鉄板を取り返すために────────
Z字の4マステトマズブロックは、月山が放ったモノを上回る青い流水のオーラでバターのように両断されキラキラと赤い粒子を拡散させながら失せた。
なんてことのない戦いの最中の一閃一弾、しかしひそかに鼻をくすぐる────違和感────
「ッ────この技…なるほどな…。獅子を逃げ惑うウサギが気付かれず一方的に蹴る方法があるとは盲点だ」
「な、なんのこと? 詩人にでもなったぁ? ふふーん? ふーん? ……」
「フッ、私も剣だけの馬鹿ではない。剣と魔法と冒険と、経験値ならば腐るほど遊び集めている。さぁ、次のコマンドはなんだ。間違えると、──勝てないぞ」
剣を片手にハンドガンを構えている……月山は銃口から幾度も放っていた新技のもつ企みを見抜かれてしまったと悟る。
もはや打つ手はなし、
「はぁ……さいあく……コマンドなんてナニやってもでしょっ【Sショット・ダブル】はあああああ!!!」
あの時海都が見せた戦い方を見習いターゲットは自身に…結合させた両翼のS字ブロックで背から加速し切先を光らせる。
奇剣をあやつりつなぐ女子高生剣士はオーラ陣を張り巡らし待ち構える赤髪の元へと向かっていった。
▽
▽
とても敵うはずのない敵と戦わなければならない場合、それも撃つのが躊躇われる敵。
ならば撃つ、撃たないと怒られるので撃つ。
錯綜する感情で意を決した楽天海都は狙いを定めて撃つが、マニュアル通りに狙いをつけても素速い青髪にはとても当たらない。
何度も転がされ砂まみれにされた男子生徒は幾度か立ち上がりなけなしのガッツを見せるも、この女はワラうばかりで手加減をあまりしない。
またもよく伸びる脚癖で倒されてしまい……。
ついに青年は捕まる──砂の中で少々あらがう意思を見せるもやはり無力。
「まったくぅ成長しないのはこのちんぽかぁ?♡」
「ああああ♡♡」
「久々の先生はきもちいいか♡そらそら~」
「ひゃめせんせっきもちあっああああ♡♡」
覆い被さる青髪が垂れ下がる。
もはや何度目かのいつもの光景に犯されている。
雷夏先生のおまんこに海都のペニスはストンと腰を落として、いとも簡単に食べられてしまう。
そしていつものような楽しみ味わうような騎乗位ピストンの刺激に、海都は成長なくいつも通りに喘がされてしまった。
「ひゃめないぞ♡カイト生徒はやっぱりまずこっちを育成していっぱいオーラざーめんぴゅーっしないとな♡」
「せんせぇああああはげしくしちゃああでるでりゅうううう♡♡♡♡」
「まったくぅ♡ほら大好きな夏ちゃん先生にいつものようにぴゅーっ♡だ♡♡」
「せんせああああああ♡♡♡♡」
夏ちゃん先生の密着騎乗位で海都生徒はあえなく射精した。
いつものように…海都は夏ちゃんの青ジャージを掴みながら激しい快感に流されないように甘える。
その甘えた行為をする男子生徒のとろけ顔をしっかりと見下ろしながらも、決して下の方は甘やかさない。
尻奥深く一気に打ちつけた最後の一ピストンで、海都は膣内に突き刺しているはずが突き刺さる大快楽を浴びる。
雷夏はその我慢回路がズタボロに決壊した可愛いペニスから出る白液を味わっていく。
ぴゅーぴゅーっとお漏らしするオーラ含有ザーメンを雷夏のおまんこはみっちりと締め上げ吸い上げ……飲み干していく。
回復オーラによる多幸感がじわっと内部から広がり、雷夏は恍惚に女体を疼かせ青年を抱き返す、ぎゅっと────
砂粒が肌にべたつく……
だくだくと汗を流して混ざった男女のむわつくニオイを青空にただよわせながら、暑い補給行為を終えた。
▼
▽
「まったくぅそんなことでは困るぞカイト生徒、当てる気が足りない! 回復するときのなぞの百発百中の超精度のように夏ちゃんをどこからでも完璧に撃ち抜いてみろぉ! まったくまったくぅ~」
流れで補給行為を終えた。
雷夏先生に海都は先程の腰の入っていない戦いぶりをやんわりと叱られていた。
ハナから当てる気がなければ話にならないのである。雷夏は海都生徒がやはり本来の実力通りに自分に攻撃を撃てずにいるのに気付いていた。
叱られた男子生徒は叱られたことはごもっともで、頭では先生に撃たないとと分かってはいるものの……。
「え、えっとカイフク……たしかに回復のときは……いや、でも…なんか先生にはやっぱり攻撃が当たらなくて良かったというか…俺やっぱりできな」
「……」
「せんせぇ? そ、そのごめんなさ?」
おしゃべりが急に押し黙り、すんとした冷めた目を生徒に向けている。
それはきっと学校の先生が生徒に向けたらダメな種類の目だ。
やはりさっきの言葉で怒らせてしまったのか…悔やんだ海都は慌てた表情でただただ謝ろうと──
「……」
「ンンーー!?? んぶんんんーー♡♡♡♡」
唇を襲われていた。
ものすごいチカラで瞬く間に脚をひっかけ押し倒される。
イライラうずうずと感情と胸が疼いた雷夏は生徒の口内を犯していく。
長い長いキスで啄み、啄み、離れていく──つぷーっとブレンド唾液のやらしい糸で2人は繋がる。
やごて繰り返すキスでふやけたかわいい男子の顔を赤目は見つめる。
「まったくぅ夏ちゃんをきゅん♡させてぇ──よっしょ、罰ゲーム決定だ♡ダメっ♡ゆるさんカイト生徒♡」
「しぇ、しぇんしぇひゃめぇ…あっああああああ♡♡♡♡」
再びはじまった騎乗位ピストン。既に聳えておねだりしていた海都のペニスを濡れたおまんこは平らげ擦り上げていく。
イジメるように一層、スイッチの入った雷夏ちゃんは尻肉を打ちつけるピストンを速めていき止まらない。
「って何やってんの!?? はぁ?楽天くん! はぁ!??」
「ちょツキヤマしゃちがあああ♡せんせひゃめああああ♡♡」
チャンバラの最中……月山は目撃した。
セックスしている、こんな開放的なビーチの中堂々と…セックスしている。
あまりにも衝撃的な野良セックスを目に入れてしまったウブな女子高生は──
「余所見をするな、ない者は奪われる。それは好きな男とて例外じゃない」
「いたたた…イッ意味不明っ! ビーチでいきなり野良セックスしてるのとソレは強さはゼッタイ関係ないでしょおおおお!!!」
追ってきた赤髪の剣に必死な形相で対応。
セックスにチャンバラ、二組の状況は意味不明に混沌としている。
同じビーチ熱い砂浜の上で剣を合わせ叫び、快楽に喘ぎ、────
▼
▽
熱気はおさまり太陽をさけ涼むスイカテント内、
「大丈夫すか…?」
「はぁさいあく…」
「ほんともうダンジョン部なんてあの2人だけでよくない…つよすぎ…新技もゼンゼン効いてないしその辺の熊相手にしてた方がマシなんだけど…」
どっとお疲れの月山はテント内に仰向けでダウンしていた。海都は月山の前髪をそっとかきわけて… カチ割り氷の袋をおでこにノセて、スキルチップを使いすぎた彼女のアタマの熱量を冷ましていく。
見えないところで月山は例の赤と青の女剣士たちに悪態をついた。
海都も彼女のそれに同調しつつ……。
「あはは…っすね。俺なんて全然敵う気しないし…あっ、でも月山さんすごいっすよあのムスイさんとあんなに打ち合えるなんて! あっ! やっぱりシデン・レイラさんが組んだ育成メニューの成果が!?」
「打ち合えたって言ってもどこまで本気なんだか…って楽天くん何喜んでんの! 楽天くんが強くならないでどうすんの!!」
「え、ええ??」
月山はパッと上体を起こした、相変わらず他人事でいる弱腰な海都の発言に噛みついた。
「千葉なんでしょ!」
「……? いや千葉はいま関係ないような…」
「とにかくっ! なァんで私ばっかり」
「いや俺もなんとか、はは、って思ってんすけど先生にはやっぱ敵わないですし…。回復以外は撃てないって分かりました…。やっぱり剣以外で何かかつや」
「はぁ…もういい。────ん、」
「く。……──?」
ならべられた彼の言い訳言い分を聞くも呆れた月山はふてくされたような険しい顔で海都の方に両腕両手をひろげている。
…海都は分からない。
「ん!」
「あぁ…たしか試作品のアイスクレープがそこに」
鈍い海都は分かっていたが、…分からない…ことにした。
クーラーボックスを漁りながら赤い耳たぶを誤魔化し、冷やしていく。
「ってじゃないっ! (もらうけどっ!)」
「え!? あはは、ハイっす」
いつものように月山に突っ込まれながらも、振り向き、彼女に笑い──手渡した。
「もうっ…! ──あこれおいし? あれ? …これ?」
「〝カチコチココアアイスクレープ〟月山さんココアが好きって前さらっときいたきがしたんで…はは俺も新技ならぬ新商品つくってみたーぁなんて? …はは」
「ふーん……ま、まぁ、おいしいけどっ! って楽天くん! ほんとさっさと雷先生あの盾から大関級ゴッチャビームでも出してとっとと倒してよねッ! ついでに赤髪のムスイって人もっ! ダンジョン部にあんな脳筋ふたり先輩にいたらこっちの身がもたないんだからァ! ──ふんはむはむふん…ッ」
「いや、月山さんそれはぜったいムチャぁ……の、ノウキン…」
愚痴を言い合い、緑蜜高校の学生たちは笑い合う。
月山のために(母と)作ったカチコチココアアイスクレープを分け合い涼みながら────
▼
▽
若い話題は尽きない。
会えなかったとき何をしていたのか、それぞれの育成メニューのことをおもしろおかしく談笑。また騒がしくなってきたテント外の声に2人は頷き笑いあった。
休憩もそろそろにしないと青髪が飛んでくる。元気をチャージし終えた2人はまた高まる熱気の舞台へと誘われていく────
「は? ────────なにここ?」
「え?」
暑さをしのいだスイカテントから出ると、────そこは鼠の国だった。
『チュハハハきたぞきたぞおおおおお』
『チュチュ…起点物質リカイ…ぼうしてんそう成功…』
『廃棄されたネズミの魂によると──あれはニンゲンっていうらしいですね。耳が小さくて尻尾も退化しているらしいですね。ずんぐり巨人の魂によると──中にはおそろしい剣とオーラをつかう強者もいるらしいです。アレではないようですが…出来立ての我々の余興にはいいものかと』
『チャハハなぁらァァァ、面白いものみせてみろおおおおにーーんげんっ!!!』
広々とした冷たいグレーの上に、表面をくり抜かれた大きなおおきな家がある。
そんな見せ物部屋からしゃべる人形群はニンゲンを見下ろす。
カラフル鼠たちは紅茶、クッキー、皿、椅子パスタをぶちまけはしゃいでいる。
おもしろいテントから出てきたおもしろい珍客に、狂気のオモテナシを────