雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
千葉から移住してきた彼ら家族にたいして。緑蜜市が融通してくれたというその現代風に改修された大きな長屋風の古めの建物は、海都とカイトママ2人で住むにはやはりすこしばかり広すぎる。
それに古いと言っても外も内もリノベーションされ、都会にみっちり立てならびあるそこらの一軒家より豪華なものなのであるだろう。しかし市が案内し融通してくれたのは誰も住むことのなくなった長屋のみで、その改修費用を出してくれたのは……いったい誰なのかをまだ若い海都は知らず、カイトママはその脳裏にうかぶ渋めの顔を知っているようだ。
そんな一時居住するのに便利な通称クレープ御殿に増えたのは愉快な配信者のお姉さん(たち)だけではない。カイトママとクレープ御殿は来るもの拒まずまずは迎え入れてみる。やはり中がスカスカのクレープほど寂しいものはないから……という、ステキなシテキな理由で。
そしてまたそんな御殿にすむ居候のひとりが〝かいとの部屋〟をおだやかにノックし、聖夜の今夜に突然尋ねてきたのであった。
良い匂いがただよう。花のような良い香りだ。
海都が目覚めるとそこには、じっと見つめる生物がいた。
藤色のカーテンが垂れ下がる…海都の寝ぼけた鼻を打つ花のようなニオイの正体はそれだった。
そんな目まで藤色のその女性の名はイロハ。海都が迷家で出会った分政官ハイロ・ドーフィンの本当の人格の方である。帰る家のヒントも今はない流浪の身のイロハは楽天家に一時居候させてもらうことになっていたのだ。
海都は驚き目をしだい見開きつつも、見つめる彼女は平然とした顔を保つ。
ただお互い天と地、藤色のカーテンのなかで見つめ合い時間が流れた、そして────
「おはようでいいのかしら?」
「え? ぁはは…はい。おはよう…ございます?」
時刻は午後11時、海都とイロハはベッド上で目覚めの挨拶を終えた。
ところでイロハがなぜ突然自分の部屋にやってきたのか海都はわからない。だがそんな理由など長く気にすることでもなく、海都はゆっくりと明けた藤色のカーテンと共に寝ていたベッド上から起き上がる。
「ごめんなさいぐっすり寝ているとは思わなくて、起こしてしまったかしら?」
「いえ、全然おれも寝たくて寝てたわけじゃないってわけでぇ……ぁはは…あれっ? イロハさん、その服ってぇ??」
「うん。このとどいた制服が、おかしくないかと気になってしまったの。鏡ごしでもそこに映るのは自分、いくら見直しても着直してもここの世人の目に映る自分のことはどうにも分からなくて困ったものね? ────こんなことが用といえるかはわからないのだけど。あ、ひとつの判断材料としてあなたに聞いておきたかったのだわ。きっと、うん」
ベッド上で正座していた彼女はやがてこの部屋にきた理由を語りながら立ち上がる。
そこには深い緑のブレザー、
そこには千鳥模様のグレーのスカート、
唯一、花柄のネクタイはおかしいといえばおかしいが珍しいだけでそこまで派手な物ではない。そのチョイスは藤色の髪をした彼女にむしろ似合っていた。
イロハの緑蜜高校その制服姿のお披露目が、かいとの部屋でされたのであった。
時刻は午後11時13分、クリスマスイブ。
聖夜にやってきたのは二匹の騒がしいバニーではなく、どちらかというと月を見上げる花のようにおしとやかな女性。もちろんサンタでもない。こんな夜中に、彼に見てほしいのはこんな姿。
いつぞやの片しきれていないクラッカーの残骸で荒れた部屋に佇み立つ彼女の制服姿を、ベッドに腰掛ける海都は次に繰り出す気の利いた感想を考えながら……唖然と見つめている────。
聖夜に起こるクレープ御殿でのイベントはまだまだ尽きることなく────────