雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
鼠の巨頭が天に置かれたファンシーな家、切り分けられた見せ物部屋に棲まう…にんげんを見つめ、ケラケラ嗤う鼠人形たち。
「なんなのここ…」
『なんなんでしょうねー、倒したニンゲンの魂によると──おそらく我々モンスターがレベルアップしたといったところでしょうか』
剥き出しの書斎から丸メガネの鼠が一匹、インテリぶった声色でにんげんに答えた。
やはり鼠はしゃべる。ニンゲンのように言語をつかい耳に相互に理解ができる。
モンスターがしゃべる、鼠がしゃべるなどこれまでになかった。レベルアップ…海都と月山は状況が未だ飲み込めず怪訝な表情で立ち尽くしていた。
「しゃべる鼠……すね…」
「すね、じゃなくて…楽天くんちょっとこっち!」
のんびり眺めている場合ではない、月山は我に返り休憩スイッチから戦闘スイッチへと頭を切り替えた。
緊張感の薄い海都のブレザーの腕を引っ張り月山は耳打ちをする────。
冷静になったニンゲン2人は一度スイカテントへとじりじりと鼠屋敷を視野に入れながら後ずさり戻った。
スイカテントの入り口のジッパーを閉めて、
喧騒から段々と静けさを取り戻していくのを耳に感じる…。
「えっととにかく…あっ、何かの部室チップじゃないすかね! 先生がまた新しいステージを手に入れていて、偶然繋がっちゃったみたいな……」
「そ、そうね! 楽天くん雷先生に文句言う準備できてる? はぁ……」
「大丈夫っす…俺今回ばかりはちゃんと月山さんの味方するんで…!」
「今回ばかりってナニ! 今回だけじゃな」
「え、えっととにかく部室ビーチに戻りましょうッ!」
「そ、そうね…はぁ…ふぅーー……ぃよしっ!」
男と女は顔を見合わせ唾を飲み込み、頷き、もう一度──
歯を剥き出し嗤い爆ぜている鼠たちが、自分たちをあの珍屋敷から見下ろしている。
「冗談でしょ……」
「ダンジョンみたいす……」
「いらないダジャレはいらないのッ楽天くん!」
「いやッそんなつもりは…ごめん! いや本当意味が分からなすぎてっ…! なんでテントから出たらこんな脈絡がないとこに!?」
「意味不明なのは私もだからァ! なんなのほんとこの喋る鼠御殿は!」
相変わらずニタニタちゅーちゅー聞こえてくる嫌な重なる嗤い声、しかしそれよりも──
「って、敵が来てるっすね月山さん!??」
──敵。
鼠御殿の玄関から出撃したのは敵と言わざるを得ない、両腕の筋力の発達した漆黒の大鼠であった。
「アレは…けっこうデカイ…それもあんな禍々しいカラーの鼠が三体! よ、よしっ…!俺も前でやります!」
あまりにも禍々しい黒、海都がこれまでダンジョンで狩ってきた鼠人形とは強さが同じには見えない色カタチ艶をしている。
そんなのが三体では──物怖じしつつも海都は素速く判断して、男を見せた。こんな状況を月山1人に任せるわけにはいかないと。
保管場所をブレザーの両ポッケに決めていた、ハンドガンのチップを取り出して男は勇敢に前へと──
「待って、アレは私だけでよさそう」
「よぉしッ──え? な、な何言ってんすか! どう見てもムキムキでぇ」
「いいから、黙ってて!」
「え、あ、は、ハイ!? …わかったけど! ……!」
月山は1人であのデカく逞しい鼠モンスター3体をヤルのだと言う。前に出ようとした海都を手と口で制し────彼女はチップから剣を抜き前へ────
(月山さんなんでだ……いや、今は月山さんを信じよう! 俺より強いし…! あ、きっとシデン・レイラさんの育成メニューとさっきのムスイさんと打ち合って自信がついたんだ!)
海都が彼女の行動とチカラを信じるように、
ここ最近の特訓で雷夏、ムスイの2人さらに神牙流道場の力自慢の男たちと剣を交えていた月山には相手の力量がある程度力士の番付として掴むことが出来ていた。
彼女なりの自信の裏打ちがあった、先走った彼に代わり一歩一歩と勇敢に踏み出せる。
そして切先を向け構える剣を合図に、三体のモンスターは縦一列の隊列に並び──巨体を揺らし接近してきた。
まさかの隊列を組み月山を襲う肉の三重奏、
力士と見紛うほどの迫力をした黒鼠に対して、
自信満々の少女は焦ったのか、剣は飛んでいく。
一直線に投げ捨てた剣を避けもしない。それを受けたところでダメージは大したことはない、最前列の鼠はその腹で受け止めてそのまま突進する算段だ。自慢の巨体と筋力でターゲットを押し潰せば勝ちなのである、止まる必要など彼ら3体のモンスターの意志にはないのだ。
剣は──飛んでいく──ただ真っ直ぐに、
ピンと真っ直ぐにいき、回転する。
「【テクニカルスピン】」
凸オーラブロックを付与できるのは敵だけではない。投げ捨てた剣は突如、脅威的な初速で高速回転し黒い胴を掻っ切った。
溢れんばかりのなないろのオーラは迸る、真っ二つに裂いた三体のだらしのない腹から。
「────序の口ほどもないみたい!」
なないろの旋風剣は果てしなく飛んでいきそのまま鼠の屋敷に切れ味鋭くも、ご挨拶。
ケラケラちゅーちゅー……
にんげんの美少女の魅せた大鼠3枚抜き、その美技と可憐な微笑みに嗤い声は止んだ。
静寂にパリンと重なる爽快なモンスター撃破音がたしかに、鳴った。
その音を合図に、巻き起こった疾風に靡くつややかな黒髪と緑のブレザーの背には、鳴り止まない心地よい拍手と聞き覚えのある彼のおおきな歓声が上がる。
月山雨楽楽はまたその口角を上げた。
玄関のムキムキラット×3:
豪華鼠屋敷の玄関スペースに棲まう大きな黒鼠人形。
彼らはしゃべらない、鳴き声も発さない。
ただそのかしこさの代わり筋肉が発達しており脂肪もかなりだらしなくついている。
日々三匹で切磋琢磨し身体を鍛え続け、何回りも大きくつよくレベルアップした。
見つけたターゲットに対して猪突猛進に攻めて来る血の気の多いモンスターであるが、
1番チカラの弱いものがあの縦一列の隊列の最前列になるという…漢らしい掟がある。
「うおおおお月山さんまじすごいっすよ! あんなのを三体イチゲキって!」
背に鳴る心地うるさい…彼の声に月山は振り返りクールに答えた。
「ふんふーん──あんなの敵が弱すぎただけじゃない、って楽天くんもアレぐらい料理できるでしょっ!」
「え、俺…いやぁ俺は三体はちょっとあんまし…」
〝ぱちぱちぱちぱちゅーちゅー〟
2人が先程の大勝利の余韻に浸る間もおかしい……。絶えずだんだんといきおいを増し聞こえてくるのは鳴り止まない拍手、鼠たちの拍手であった。
「玄関の三匹の魂によると──次はぜったい避ける…らしいですね。フフフフ」
赤絨毯の書斎に座る丸メガネの鼠は、本棚から見つけた黒い本を開き読みながら笑っている。
「チャハハおっもしろいなぁーにんげん!!! びよ~~~」
月山がさっき放った旋風剣は1階の汚部屋へと突き刺さり、
刺さった剣の上に乗り、刃をしならせ跳ね遊ぶ──赤い鼠が一匹。
跳ねて跳ねてギリギリと…壁に刺さった刃は音を鳴らす。折れることなくおかしくひん曲がった剣に乗り、ために貯めた反発力で赤い弾丸は射出される。
赤い弾丸はものすごい速度で──屋敷を振り返った月山を襲った。
シールドとブレザーの脇腹部には三本引っ掻き傷が出来ている。
月山の左を掠めていった赤い鼠は地を滑り、足底の肉球を燃やしながら止まった。
「つ、月山さんっ!?」
「痛ったい…! ──じゃなくて今度は一対一…? ら楽天くん大丈夫だから、ちょっと油断してただけ!」
「え、でも! やっぱ俺もッ」
「まだまだ序の口だからァ!」
月山は援護に来ようとした海都をまた口と手振りで制し、折り返してきた赤いモンスターに向け新たな剣をチップから抜き構えた。
(ま、またぁ…。でもイカつい黒鼠を三体一瞬で料理した月山さんならッ…! 俺より強いし…! たしかにこの赤鼠、滅茶苦茶速いけどパワーはあんまりなさそうかも…しれない……。そ、そういやさっきも同じように出ようとして止められたし月山さんにはなにか考えが────)
海都はまた月山を信じることにした。
自分が物怖じし過大評価していた黒鼠三体を文句なく料理した彼女の目利きと指示に、従わないこの場の理由はなかった。
右のポッケの中にうずうずと握りしめていた汗ばむ手で、彼女のたたかいを見守っていく。
左手に鉤爪を装備した赤鼠は足底を燃やしながら加速、今にも彼女の側を襲いかからん。
しかし、三本の鉄線に合わせた剣はなないろの光を発し唸る。
剣は、右足を掠める赤い思惑を見抜き下段に受けた、交じり合った一瞬の攻防は──
「【テクニカルスピン】」
やはり魅せるは万能のテクニカルスピン。
今度は武器に纏わせた両者のオーラ量で防御に成功した月山が打ち勝ち、
敵に技の概念効果を付与。
赤鼠は鼠花火のように回転しながらグレーの地を滑り、────鼠屋敷へと衝突した。
突如電光石火の奇襲で仕掛けてきたはずの赤鼠は再び汚部屋へと逆戻り。慌ただしい悲惨な物音を立てて、ひん曲がった赤尻尾だけを情けなく突き出しガラクタに埋まった。
玄関の黒鼠三体につづき再び返り討ち、そして緑ブレザーのニンゲンたち2人のデジャブする喜ばしいやり取りがはじまった。
またも勝利またも浸る余韻。
この女子高生は間違いなくつよい。
育成メニューの成果もあってかダンジョン部月山雨楽楽はやってみせた、それも1人で…。
部活動する同じ仲間のようにハイタッチで喜び合おうと、月山は振り向き、海都は既に彼女のことを両手を盛大に上げ待ち構えて──青い弾丸に吹き飛んだ。
「え? 楽天くん!??」
「チュハハハハハいたっちいいいいいいいい!!!!!」
赤い鼠ではない同じく鰻のような細身をした青い鼠。
豪華鼠屋敷の一角、開いたせまい押入れ部屋から射出された──青い弾丸。
〝押入れのチュハハ〟はニンゲンの片割れに弾丸ハイタッチしながら現れた。
ご挨拶も一瞬に青鼠はもう片方の雌ニンゲンへと突っ込んだ。赤鼠とお揃いの鉤爪の装備を煌めかせ月山へと襲いかかる。
危ない爪をなんとか避けた。目の前で海都が吹き飛ばされたのを見た月山は焦燥しながらも身体だけで反応、右に腕をのばした右の鉤爪を左ステップで避け、
殺気──
月山が避けた隙をつき、再び飛んできた赤鼠の攻撃を寸前で受け止め【テクニカルスピン】を発動。おなじ要領で赤い鼠花火へと変え、血気盛んな敵の一直線のプランを大回転させ崩す。
が、──
「イイイイイイイイ回転だああああ酔いも醒めるぜチャッハーーーー」
赤い鼠花火は四つ足をつき火花を散らしながら止まった。
テクニカルスピンの搦手に対応、イカれた赤鼠は心地の良い酔いを快楽へと変換し慣れた。
「くっ──楽天くんんんんんどこいって!??」
自分の心配よりも他人の心配、吹き飛ばされた海都がどこにいったか分からず彼女は戦いながらも叫び呼びかける。
しかし敵は叫んでも待ってはくれない、青と赤は交互に月山に向かい飛び交い、獅子が群れで獲物を狩るように連続攻撃を仕掛け痛ぶる。
そして舌舐めずりした悪顔を浮かべ、青と赤の似たモノ同士は息を合わせた。
交差しようとする赤と青は少しボロついた緑のブレザー一点に集まる、
最後の1ピースを仲良く同時攻撃で埋めに行く、
狂気の左右鉤爪は緑を貫いた────
貫いていたのは貫けない──聖なる緑。
「俺もいるってぇ!!」
二足の普通スニーカーはびたりとも動じない。6つの引っ掻き傷を刻まれた緑のオーラ纏う白盾は、赤と青の間抜け面を後ろへと底力をみせ弾き返す。
盾を装備した右腕を目一杯開きモンスターを押しのける。
すかさず左ポッケから取り出したチップはハンドガンとなり、
彼がモンスターに弾くトリガーは躊躇わない…怒涛の連射で体勢を大きく崩した赤鼠を射抜き、繰り出された【熱熱クレープグレープ弾】赤いオーラ膜は鼠を捉えて捕らえた。
「あっチュゥうううううううううううう」
青い鼠は宙から地に背を強く打ちすっ転び、
海都特製のクレープ膜に包まれた赤鼠は急速に熱し蒸されていく、断末魔らしき叫びを上げながら海都の繰り出した技の熱量にひどく悶えた。
「【熱熱クレープグレープ弾】────ソレ、あついぞ!! 、甘くないぞ!!」
並々ならぬシチュエーション普通じゃない戦闘行為でテンションを上げ男は雄へと変わり──勇ましい雄叫びが上がる。
今まさに、
傷ついた月山の目の前にデジャブする素晴らしい光景がある。
逞しい…緑ブレザーとなびく黒い髪…聖なる光をはなつ背姿、
ハンドガンで襲う鼠を狙い撃ち、
心やさしい彼にもっとも似合う純白の盾を携えた、
絶対絶命のピンチにかならず駆けて現れる…
(同級生で私の隣の席のひと、1年D組出席番号15番かっこいい楽天海都くん!)
彼女のピンチに援護防御に駆けつけた緑背姿は、赤と青のモンスターを硬く一蹴し制した。
「痛ぇ…くない? ──ア! 大丈夫…すか! 月山さん!」
回復兼シールドを強化、レアチップの白盾を装備した楽天海都は鼠が少々じゃれた浅い引っ掻き傷だけを負い万全の無事。そして守った背を振り返り、剣を片手に突っ立つ彼女の顔を見た。
横顔──見つめる黒い瞳と、
キラキラとブルーガーネットのように見開き輝かせていた女子高生の青い瞳と目が合う。
目を合わせた彼女の頬は──かってに赤く染まっていく。
「だ……大丈夫じゃないし、ててかオッソいんだけどォ!」
「ええ!? いやごめ…まさかのハイタッチ中にふっとば──ってアレッアイツ生きて…」
技をクリーンヒットさせたターゲットは三角片に散り散りにならず──
焦げ焼けた赤鼠は黒い綿を口から吐き出し、けほっ…と耳に聞こえる苦しい…ゲップを幾度かした。
手応えは……てっきりあの断末魔らしき悶え方を聞き倒したものだと思い込んでいた。
海都は勇ましい顔つきから心配顔、心配顔から怪訝な顔に変わっていき右隣に並んだ月山の方を見た。
「何おどろいてんの…火鼠を熱熱に焼いてもそりゃ生きてるでしょっ楽天くん!」
「え、え…? た、たしかに?? そういや火を散らしながら走ってた…すね…(よく分からないけど耐性とかあるってことなのかな…? ほそっこい青いのを狙えばよかった……)」
赤は火鼠、たしかに足裏から火を発しそれを推進力に変えてスピードを上げているように、対峙していた月山とそれを見守っていた海都には見えていた。
「あちゅううううイイイイイイあちゅさだああああにんげんんんんじゃなくてあちゃァァァさだああああ!!! チャハハハハハ」
「汚部屋のチャハハなにあんな遅いヒラヒラくらってんだくせぇくせぇどんくせぇ焦げくせぇ」
「押入れのチュハハてめぇはバネだからあのヒラヒラをくらえなかったからなあああチャハハハハイイイイ熱さだあああ」
「汚部屋のチャハハおめぇはヒラヒラくらってんじゃねぇかくせぇなああああ」
「押入れのチュハハてめぇはバネだからあのヒラヒラをくら────」
丸めた焦げ綿を投げ合う、不毛な喧嘩やり取りが長々と続いている。
海都と月山は静かに頷きあった。
乱れ飛ぶ弾丸の雨は、赤と青を襲い──
狙いは赤よりも始動の遅れた青、月山は好機を狙い撃つ。
「【Sショット】」
粒状のブドウ弾から途中展開した危ない危ない熱熱の赤いクレープを驚異的なバネで飛び上がり青鼠は宙を舞う、
その好機──
銃口から放った二発のS字オーラブロックの内一発が青い細身を撃ち抜いた。
「チャハハハ押入れのチュハハてめぇダッセぇえ変なのもらってるうううにんげん菌かあぁ? チャッハッハハ」
「汚部屋のチャハハおめぇのせああだろうがっ! ぐぎぎぎばねえええええ──オッ、チュハハハみろおおお変なのすっぽ抜けたぞきっもちいいい」
S字オーラブロックは、青鼠のへそからポンっとすっぽ抜けて彼方に飛んでいった。
好機とばかりに技を直撃させたものの選んだコマンドはダメージ的にはあまり効かず。
また互いを笑いながらイチャイチャしだした赤と青の鼠人形の晒している隙に、月山と海都は作戦を立てることにした。
「えっと、じゃあとりあえずコイツの大関級ビーム撃」
「待って楽天くん、これって曲がりなりにも取り組みの決まったタイマン形式のながれみたい。ほらアイツら高みの見物で動いてないし、しゃべる鼠たちってことはこの状況を理解してたのしんでやってるってことでしょ。刺激しない方がきっと得だから。(それにこっちには楽天くんの回復もあるしねっ! ふふーん)それにあの大関級のビームでもあの屋敷の大きさを倒すのと赤青小鼠の速さに当てるのも確実ではないでしょきっと!」
「な、なるほど! たしかにどこに拡散するか分からないので狙って当てるのはお祈りになりそうっすね…まだ控えてるなら鼠2体に使うのは非効率…ってことすか! 屋敷に当てても怒った鼠が増えるかもしれない…たしかにッ(てかあれぇ…う、撃てないかもしれない…今気付いた…お、オーラ?エネルギーの充電が足りないのか?……これを月山さんに言うべきか! ……)」
「それに、序の口のちゅうスコアじゃない。あの赤と青──2人に比べたら?」
「…あはは…っすね!!!」
2人はふたりになり、もう随分と見慣れた顔を見合わせて話し込んでいくうちに互い元気威勢を取り戻していく。雷夏、ムスイ、あの青と赤の良くも悪くもスパルタな大人たちに比べれば、鼠相手は勝算はちゃんと上手くやれば計算できるハッキリとしたものである。
「チャハハあんなのろくて四角いのになに当たってんだダッセダッセ」
「一発当たってやっただけだからチュハハ当たってねぇよチュハハ」
「チャハハハハ…」
「チュハハハハ…」
「チャッハーーーー!!!」
「チュッハーーーー!!!」
赤青鼠の中身の無い会話劇を見届けていたところ、
突如。脈絡のないオチのないところで話を終わらせモンスターペアは奇声を上げ襲いかかってきた。
先ほどのにんげんたちの仕掛けた奇襲、それに対する奇襲返し……のつもりか。
しかしいくら隙をついても芸のない直進する赤青の超速弾丸。
ソレに対するコマンドは既に決めている、ラッキーであれ使えるものは使う素晴らしい硬度を誇るレアチップの盾で防ぐゴリ押し。
巻く膜クレープグレープ弾の強化効果を受けていない素の防御力でも十分に鼠の奇声突進を防ぐに足りる働きをする。万全の準備に勝るものはない。
タイミングを合わせて少しオーラ量とチカラを込め押せば、超速で突っ込む割にはパワーのない鼠にダメージを与えるのは簡単だ。
「チュッッッハああああ!?」
案の定バランスを崩しスピードを上げすぎた青い鼠はクラッシュ。びよんびょんと青バネは不恰好な姿勢を二転三転しながら遠のいていく。
同じく仕掛けていた赤い鼠は急遽直進をキャンセル、白いヒラヒラにぶつかる二の舞を踏むことなく止まった。そして赤鼠は進路を変えて一旦スピードにも乗れてない敵に近いその場を離れようと──しかし見え見えの進路変更には。
高速回転し横腹から飛んできた旋風剣を紙一重で、口から地に火を吐きながら上昇し回避。
足裏に火を灯すより効率の悪い使い方でオーラ量を使い燃やし、辛くも緊急回避に成功。
(これなら俺でもやれそうだ…! トラップの策咲クレープグレープ弾はたぶんあの速さじゃ当たらない、熱熱もあんなに速いと…俺がコイツで月山さんの防御に徹しながら戦う…! うん、いける!)
(そしてかましチカラのつよいチート盾持ちの楽天くんの作った隙を私が攻撃に徹すれば、多少速くても難しい敵じゃないはず。チマチマやられても怖くないし、だってわたしの楽天くんは回復もあるんだからァ!)
「なにやってんだ押入れえええええ…けほほ…うぷっ、」
「うるせぇオベヤああああてめぇこそビビリがぁ!!! この白いヒラヒラ硬すぎんだよおおおおお俺のハナが無くなったらどうすんだ!」
やはりどうしてもあの白いヒラヒラが邪魔である。
仲が良いのか悪いのか再び鼻先を合わし睨み合う距離に集まった、赤鼠、汚部屋のチャハハと青鼠、押入れのチュハハは──なぜか見合わせしだい……悪顔を浮かべる。
無意味に青バネは地を飛び回る、
無意味に火鼠は地を燃やして撹乱する、
鼠はお互いぶつからない高速移動を繰り広げ緑ブレザーのにんげんを囲い込む。
今度はただの芸の無い直進攻撃ではない、得意のスピードを活かして遊ぶように鼠は舞う。
狙うのは守りを固められた雌ではない、守りが薄いのは白いヒラヒラの方であるとにんげん雄雌2人の関係性を鼠のペアは見抜く。
雌を無視し白いヒラヒラに双方から同時攻撃を仕掛けることで問題を解決した。
飛び回りながら練りに練った赤と青の思惑は──
右に構える白いヒラヒラに勇敢にも青鼠が鼻先から突っ込む。
なんと選んだコマンドは1番ただ単純に破壊力を誇るぶちかましであった。
今までは掠めるように過ぎ去り去り際に引っ掻くヒットアンドアウェイ戦法がほとんど、余程の決まり手と確信しない限り海都や月山が誘っても胸元に突っ込んでは来なかった。
海都は驚き顔で目を見開きつつもグッと堪えた。見えるのはバネで縮んだ鼻先…潰れた顔で狂気の眼をし嗤う青鼠。
普通のスニーカーは密着するバネ鼠に圧された衝撃でずり下がる。
そして、ずり下がったところに到着する必殺の同時攻撃がある。
進行方向横軸に高速回転しながら、全オーラを込めた炎は荒ぶり突き進む。
目の前は赤い舌をべーっと…おどけて両手を振る、だらんと伸びたバネの青鼻が離れていく。
そのくずれた体勢では脇腹に白盾は間に合わない、
盾とは別の手に取った左のハンドガンは熱熱な膜を放とうと赤鼠には無力。
これが鼠の思惑にハマった青年にとって詰みの状況というのならば、
超速で迫り来る獄炎の槍は時を待たずに貫く──
「チャッハーーーーーーッッ左ぃいいいいいイイイイイ!!!」
一瞬の判断の遅れ判断の間違いが命取りとはよく言う。
だがしかし命を取り合う戦いにおいて正解は誰にもわからない。正解のコマンドを繰り出しても、常識を破る不正解が勝つ場合もある。
一刀両断──一瞬左に狙いを合わせた銃口から、扇状に広がったココア色のクレープビームは汚部屋のチャハハを縦真っ二つに切り裂いた。
「ッ──俺だってさ。何もしてないわけじゃないッ【カチコチココアアイスクレープ斬り以下略!】」
通り過ぎていく、貫く獄炎の槍などない。
銃を構えた海都の背と腹を通り過ぎていくのはココア味に染まったドブ鼠の二等分。
月山雨楽楽はまたも目の前に目撃する。
またもこの雄は、かっこいいと。
今度は勇ましいその横顔を左隣のアングルから、
見惚れる雌は青い瞳を輝かせる。
用いるシチュエーションはやりのけた本人にとっては完璧、楽天海都の新技がここにきて大炸裂した。
正解は誰もその彼の銃口からは予期せぬ甘く鋭い不正解。
その技を例え表すならばいわば銃剣【カチコチココアアイスクレープ斬り】。
略ではない。