雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
「まぁ最初から想像はついていたな」
「怪人ゼリーフェイスに関してまだ聞けていないさ」
かがやくオーラ威光でつよくガライヤは語った。ボーンクイーンや黒幕王子の属していたシーズは、ガライヤの何度も語る魔王があらゆる世界にばら撒いた悪の種であり、そんな横の繋がりを持つ悪しき者たちのことであったという。
ガライヤの言葉を信じるか信じないかは別とし、ムスイや雷夏も自分たちが倒したシーズのことをなんとなく魔王なる存在と関連付けそのさきを想像できていたようだ。
シデンレイラはそのことを敵が何かを良く知るであろうガライヤから今一度確認するために、現状を説明するように投げかけたのであった。
しかしまだ説明のつかない項目がある……シデンレイラは服の中に忍ばしていたある一冊の資料をガライヤへと提示した。
怪人ゼリーフェイスのことを少し収録されている小谷螺夢から譲り受けた【都市怪奇ファイル】を開き、前回のダンジョンダイブ記録のことも含めガライヤへと説明しその透ける青の存在に心当たりがないかを問うた。
「あなたたちダンジョン部の前におそるべきオーラで立ちはだかり、シーズの一員黒幕王子をオーラ攻撃で謀り倒した怪人ゼリーフェイス…………すみません、その怪敵のことは私にもわかりません。ですがそれもまた招かれざる者かもしれません。マオウの元に集う今までその存在と牙を隠していた悪しき力は日ごとに増すばかりです、悪はより強大な悪のもとに集うのが必定……マオウのもたらそうとする破滅の世界にその存在もまた裏で協力しているのかもしれません。その不可解な動きはもしかすると相容れぬ者を始末し、あらたな忠誠心の高い者を手駒にし体制を刷新しようとしているのかもしれないです」
「魔王の幹部たちにあたるそのシーズとやらが寄せ集めの浪人集団だとすれば、そのフェイズに入った理屈はわかるな。フッ、おおかた魔王様を取り囲む会のちかい席数が決まっていたのだろう。嫉妬心からの謀殺の類もありうる」
「他に抹殺すべき理由があるとすれば敵に寝返る可能性も視野に入れたかい。私見ですが悪行より悪に染まるまでの悪と善の揺れ動く感情や物語性とやらをえらく重視しているようでしたからね、闘いの舞台上にいた彼は」
「くっ、黒幕王子さんは俺もそんなにただの悪人をやっているようにはみえませんでした……っすね……たたかった敵にこんなこと思っちゃうのもなんなんすけど……」
「カイト生徒の言う通りだ。あぁ、もうひとつ戦う理由があったことを先生は忘れちゃいない」
前回のダイブでは思い出すのも悔やまれるシーンがある。敵であった彼の最後を看取った海都のおそるおそる放った一言に、彼女も目を合わせて同調する。
大事に肌身離さず持っていた焼け焦げた真田アレックスのレアなキーホルダーをその手に……。
雷夏にはもうひとつ戦う理由があることを、握りしめながら再確認した。
「しみったれた感情だけじゃあ勝てないよ夏ちゃん」
その青髪はしみったれたように見えていたか。自分の番がとっくに終わり他の者たちにガライヤの相手を任せ、痒い耳を気にしながら大人しくしていた古井戸神子が突如水を差すようにそう言った。
「んや? どうしたド神子。いやちがうぞ、感情で高まることがあるのがオーラだ気合だ。その力は馬鹿にならないぞ!」
「はは、それは夏ちゃんが単純だからじゃない、それでパフォーマンス上がってんの? はは」
「なにっ! 夏ちゃんが単純だとっ!」
雷夏はすぐさまその論を否定しその剣士であり剣の師でもある彼女に返したが、すぐさまド神子もまた雷夏にお返しした。
「フッ…言えているな。感情に左右される力も完全にないわけではない。だがあくまで戦いの中の一要素。それを己がおろそかにする己の強さの根源であると伊達に履き違えてはもはや剣士ではない。やはり信じられるのは積み重ね、〝鍛錬〟のみだ」
「剣の指南書としてしたためるには禅オカルト感情論はいささか最後の巻がいいかい、ふふふ」
「大丈夫です雷夏さん! あなたは単純などではなく邪のない純粋な心ととても素晴らしいオーラをお持ちです!」
「ほらみろド神子、雷夏ちゃんの言うとおりでガラちゃんの言うとおりだ! ははははは夏ちゃんを見誤る邪があるじゃがいも畑たちにはまったくぅ困ったものだなーーはははは」
「純粋な馬鹿か。やはり言えている」
「さっそく左右されているようかい、ふふ」
「あぁー、ははは。ま、あっちゃいるか、はは」
(先生ってぇ…邪がぁ……ないのかなぁ…?)
呼び覚ますオーラと揺れ動く感情、その特異な人間に備わるみえないエネルギー回路の結びつきについては様々な論があるだろう。異色の剣士雷夏は指南書を読み漁るよりも強敵と手合わせして己の真の力を無限に湧き続ける泉のごとく引き出していく、そのようなタイプであると……。
怪人ゼリーフェイス戦で見せた彼女の不屈無尽のオーラと、自身の未熟な秘技をも上回っていた……カレを彷彿とさせるその青き雷のごとき速さに……剣士古井戸神子は今微笑み見守りながら、ダンジョンで成長した彼女のことをそのように心の中で分析していたのであった────。