雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
「弟子をほっとくわけにはいかないかー。またどっかで勝手に負けられてても困るしねー」
「それを言うならば……失礼…当主代行も?」
「あぁー、今度ばかりは返す言葉がないってヤツだねぇ、はは。当主代行なんてたいそうな看板背負って弟子の前でそろって負けてちゃ世話ぁないか。まさに鍛錬ってヤツ、だましだましじゃ騙せなくなってたみたいだねぇ」
ムスイと雷夏はゆっくりと怪訝な顔どうしを見合わせた。いつものようにはふざけているようでふざけていない……その同門神牙流剣術の当主代行の言葉に。
(神牙流道場の当主代行古井戸神子、彼女を剣の正道へと誘いつつあるのはいったい……やはりただ者にあらずか……この門をくぐったものたちは。強くなるのは私だけではない、日々の鍛錬だけで追いつくと思うこともこのムスイ傲慢といたく身をもって知っている。だがたとえ死してどことも知らぬ剣客にやぶれようとも引き返せないものだな剣とは)
ムスイはもう一度彼女の目を見て、やはり今日ここで会ってからはいつもとは違うその剣士の……どこか伊達ではない雰囲気に……己の息と固唾をぐっと飲んだ。
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こうして乗り気でなかった古井戸神子も最終的にはガライヤ・ガラシャに協力する仲間に加わることになった。ついさっきの青獅子との死闘で、久々にいい剣の感覚を取り戻しつつあるのも前向きになれる要素のひとつであった。
シデンレイラは中立的なスタンスを変えず協力要請に『はい』と言った様子はないが、彼女の自作小説の舞台ベースにもなっている架空異世界ガライヤ、そして本当に存在した女神ガライヤらしき者のことをその語り明かした博愛と情熱に満ちた物語のことを、内心は好意的に受け取っていたようだ。
「よし、じゃあいくぞダンジョン部!!」
「はやいって! どこかも聞かず! ちょっと雷先生!」
「はは、さぁすがイナズマダンジョンっこ、ってツキヤマいたのー?」
「さっきよばれて来たところなんだけど…(おおまかの状況ぐらいは楽天くんがおしえてくれたし)」
「ナイスイナズマツッコミ────ん」
「別にツッコんでないんだけど…親指たてないで────うなずかないで」
「しかし事は一刻を!!」
「はいはい落ち着きなよブルーカピバラぁーず、一刻ぐらいは、はは」
(なんか今日ド神子さんの方が冷静な気が…)
(ふぅん…この人がちゃんとツッコんでるとこはじめて見たかもしれない…って私ナニ目線…)
続々と現れたダンジョン部の仲間たちと青い鳥から顕現したガライヤ・ガラシャが融和するように結束を固めつつあった……そんなときだった。鳴くはずのない風が鳴いたのは────
トツゼンの鵺が鳴いたような奇音に皆のほとんどが耳を奪われていると、月山とイロハの足元にはいつの間にやら突き刺さっていた────白羽の矢。
月山は未だ経験したことないようなゾッとするような感覚に襲われる。立ち竦んだまま自分の股の間下にささった場違いな矢を見つめ、唖然と動けずにいる。
「頭上におわすのは……ガラちゃんの知り合いか」
「頭上? あっ、あれは…………ウラヌス!? 世の目がなぜここに?」
硬く結ばれていた握手をやめた雷夏は焦げ付いた矢を片手に、さっきから突き刺さるその視線のありかを見上げる。いつもの濁りゆく異界の天には、目んたまがひとつ。大きな目んたまがけだるそうにその瞳孔を半開きにし、天から彼女たちのことをじっと瞬きもせず見下げていた。
『わたしのアイノスケに勝手に名付けないでくれるかしら。不快よ』
天から声が拡散し響き渡る。まるでテレパシーのように皆の耳元で語り掛けるように囁いている。
「土俵の外に出ていいルールだったかしら。逃れの町なら他を当たりなさい偽神ガライヤ・ガラシャ。角なしの墜神がはるばる顕れなんの用、まさかわたしの
重そうな鉄の瞼をゆっくりと上げ、いま天の目が見開かれる。それは煌煌とおおきくかがやき、真っ白な太陽のように皆の目を奪った。
怪しげな光るマナコの浮かぶ天から皆が眩んだ注目の視線を外すと……青い草原のそこに佇む黒髪、黒眼、黒いセーラー服。とても白い肌が赤い唇をちいさくうごかし、ほそい生の声が世人たちの耳に伝いまた注目を集める。
そして忠告する。歓迎はしない。我が子たちの目をすりぬけてこの世のものではない異物に今冷たい視線を向ける、殺気にも似た鋭い眼で。
またしても亜空間にてダンジョン部の前に顕れたのは、何者か────
なおも輝き、白く揺らぐ黒セーラーの纏うオーラは火のようにメラメラと、その秘した感情をあらわにするように燃えている……。