雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
注目があつまるなか一歩一歩草原を静かに踏み鳴らし、そこに佇み待つ黄色いドレスと青い髪に片時も目を離さず、近づきちかづきあゆみ寄るが……黒セーラーは立ち止まり睨み譲らない。
「細く長い時の支流、迷い込んだ白い蛍もどきが誘ったのかしら、そのもっともらしく照らす明るみが正しくつづいているようにみえたのね。いいこと、そこから先きっと破滅よ。甘く酔わされた一時の情けでわたしの醜たちを道連れにさせるわけにはいかないわ。一体どこへ連れてゆくというのかしらガライヤ・ガラシャ」
「さっきのその神々しく炎のように熱いオーラ……そしてウラヌスに似た世の目を持つ者……あなた様はこの世界の…ガイア神…?」
「勝手に名付けないでくれる。わたしは俗世では
(ガイア神……異世界ガライヤと対となる私たちの世界大地の母であり唯一の女神。ガライヤ・ガラシャの繰り返し言う8つの世界というワードから察するに、その2つの世界の神が今ここに顕現した? ……という認識でよろしいでしょうか? 私の参照する真偽交わる様々な考古文献や太古の碑文の通りであればですが……そんなことがまことにありえるというのでしょうか……しかしこの目まぐるしくも緊張感あふれんばかりの状況……より一層冷静にならなければなりませんよ雷夏)
驚き顔からやがて気付いたガライヤにガイア神と呼ばれた黒セーラーは、それを嫌うように早乙女雅と世人のように自分のことを名乗った。
髪格好はちがえどただ者にみえない、どちらも派手にここに顕れたという尊きふたりの存在。そんな方々のピリついたやり取りを傍目から見ていたシデンレイラは今疑うよりも仮説し、異世界ガライヤの女神と世界ガイアの女神が相見えたという非常な状況に緊張の息を飲んだ。
そして真剣な眼差しを向けシデンレイラは合図する。ゆっくりと合わせ鏡のように遠目にいた青髪赤目の彼女に頷いて見せたが……
「んや? たしかに股と股の間を縫う正確無比…鋭い弓の腕前だったな。さっきの演出はちょっとばかし痺れたぞ、さおとめみやび、ミヤビちゃんとやら! そしてすまないなッつい手を出してしまったはははは」
(はやすぎる彼女にはもう遅かったようです……冷静という言葉と眼差しは超常たるイカヅチの前では意味はなかったかい…)
表情を歪めメイクを崩す。シデンレイラは雷夏の不遜で自由でいつもと変わらない態度に、冷や汗をひとつゆっくりと垂らした……。
そして案の定穏やかではない黒眼はぎろりと、なおもニヤつきながらかがやく赤目に視線を向け合わせる。
「構わないわ。むしろそれを掴み選んだのは望ましいことよ。そんな答えを出せる者はとても珍しいのだから、語らなくてもあなたがどういう元気な子か想像がしやすいというもの」
「んー、珍しくて元気か? 独特な切り口だが……それは夏ちゃんだなははは!! それで────この矢をどう返そうか〝びぃちゃん〟?」
早乙女雅なるものは雷夏のみせた不遜な態度にもシデンレイラが心配するような彼女の怒りを見せることはなかった。むしろ至って平然と、むしろ好意的に雷夏のとった行為と言動を受け止めている様子だ。
しかし、雷夏は許された雰囲気に乗じてかさらなる提案をする。天から射られ素早く彼女が掴み取ったその矢を返すというのだ、含み笑いを足したなんらかの方法で。
「あなたが掴んだものはあなたにあげるわ、雷夏。でもあなた自身のその身もそのオーラもその刀も勝手にその偽神にあげることはわたしが許さないわ、あなたはわたしのつくった土俵の中にいるのだから、譲れないルールがあるのはわかるわよね」
「ギシン? 土俵か? ずいぶんと分からないこととそそられるおもしろいことを言うな? だがここはダンジョンだぞ、ここが夏ちゃんの得意とする土俵だとすればどうする? はははその譲れないルールとやらは?」
「そうね、これからわたしのする為すことに気に喰わないことがあればほんの刹那にでもそう感じたなら止めればいいわ。わたしはそれを咎めることはないのだから、でもわたしも今は止まるわけにはいかないとおもうわ。それでもいいならあなたの方から先に済ませてもいいけど」
少しばかり挑発するような問いかけにも早乙女雅なるものは揺るがない。雷夏の性格とやり方を把握し合わせるかのように彼女はすらすらと答えていった。それはそれはこれから雷夏が興奮と興味のままに試そうとなど思っていること全てを見透かし知っているかのように……。
「雷夏さんここからは私の問題です。どうか今は心とそのオーラを鎮めて、私に任せてください」
「ガラちゃんが…? んや、わかった」
しかしそんな怪しげなオーラただよう状況に割って入ったのはガライヤ・ガラシャであった。彼女は早乙女雅なるものが自分に怒りの矢をその足元に向けて放ったことを知っている。
目を見ながらガライヤにそう言われた雷夏はおとなしく今は引き下がることを選んだ。水を差していたのは自分の方であったと理解して、自らその場から離れていく。
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「この世界に私ガライヤ・ガラシャが勝手に顕現したことに対するそちらのお怒りの程は分かります、ですが事は一刻を!!」
「あなたに一刻も貸す気はないわ。この子たちの一刻も」
「それはなぜですか! ケイオスの化身であるマオウを討たねば世界はッ」
「ずいぶんと憑りつかれているのね。そのケイオスの彼に、みてとれるわ。手先にでも堕ちたのかしら」
「このガライヤ・ガラシャはとりつかれてなどいません! 悪しきマオウの手先にも堕ちてなどいませんッ!! 今もなお戦力を肥やす悪の軍団により迫る八つの世界の危機からっっ本当に星々の人々を救いたいだけなのです! そしてその平和を勝ち取るにはオーラと武勇に満ち溢れた仲間が」
「仲間の犠牲のうえに成り立つその平和はいくらかしら。ぜひともおしえて」
「いくらなどっ……!」
「破綻しているわ。平和の意味と対価を知らないのね。あなたの心ひどく乱れているわ。だからその魔王のことしか今の落ちぶれたあなたにはみえない。おもいえがく抽象的な平和はその先にある一時の産物でしかない。ミエナイ穴だらけの雲の上をあなたとせーので走れというのかしら。それで魔王の膝元にたどり着いたころには、あなたの周りにいる────ここに揃う姿はいくらほどかしらね」
ふたりの口論は激しさを増すばかり止まらず。
早乙女雅なるものはガライヤ・ガラシャののたまう事全てといっていいほどに、それも平然な口調で否定する。
マオウ討伐と平和への思いをぶつけ熱くなるガライヤに対して、彼女の言動を掬い上げてはそれに冷や水を浴びせつづけるように早乙女雅は容赦をしない。隙を見せることはない、逆にその熱き魂だけでのたまうようなガライヤの軽はずみな言動のその隙を突く。
そして今彼女を取り囲む顔ぶれ、青い草原に立ち並ぶダンジョン部彼らのことを見るように手を広げてみせ促す。皆にも聞かせる酷な問いかけをしながら、当然用意されていると早乙女雅が期待するもっともらしい答えをガライヤに急かしている。
「っ!! ここに集うダンジョン部の皆はそれぞれがそれぞれに素晴らしいオーラを持ち合わせています!! 今よりいっそうに鍛え上げればマオウにもシーズにもきっと負けな」
「元はといえばそのオーラのせいで皆が争い合っているのよ。忘れたのあなた」
「なにを言って!」
ガライヤが今もっともらしく掲げたその旗は簡単に取り下ろされ、それよりも別のもっと根底にあり初歩の問題を早乙女雅は唐突に語り始めた。
「オーラをもたない者たちは皆、平和。あなたのいう平和を手にしている。オーラに左右されない、身に余る力に左右されない、そこにあるのは神でもないオーラでもない願われるのは人と人との信じあうつながりだけ。それでもできることがあるならばわたしたちはその手助けをほんの少しするだけ、念じられてもはっきりとは答えない、祈られてもそこに顕れない、悪人がいてもすぐには懲らしめない等しく眠りにつかせる、善人がいても人前では称賛しない、何もしない者がいても何もしない。それが望まれるべき平和よ、一度その大きな手のひらで手を加えると時に翳り崩れてしまう砂の城のようなもの。それでも人が自らおもい改善しぎこちなく廻りおだやかにときにはげしく流れ流されつづけるのよ平和は、何処にでもでしゃばるあなたの知らない知ろうともしないこの世界のことよ」
早乙女雅なるものが説いたのはオーラをもたないこの世界の平和とあり方。
それは砂の城のようなもので繊細で崩れやすい。
一粒一粒がちいさく力も弱く揃っており突出していない、とても頼りない平和、だがどれも欠かすことはできず成り立っている。
天におわす神の手のひらにはそれはそれは小さすぎて仮にそこに生えてしまった良からぬ悪の芽を摘もうとすれば、そこから簡単にひびわれ壊れてしまうかもしれない。天から忍び寄るそのおおきな影は簡単にその城を覆ってしまうだろう。ならばその手を不用意に翳してはいけない。
寄せては返す幾重もの時代という名の激動の波にのまれて……最後に佇みのこっている──そこに、ちいさな平和がある。
「オーラをもたない……この世界の…それが……平和…」
彼らが歩んできたオーラの消えゆく歴史を彼女は知らない。
ガイアとガライヤその二つの世界はあまりにも、