雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
(重要なのはその見積もり用意する戦車の台数などではなく、つまりこちらから外敵の悪意やオーラによる脅威を取り除くために積極的に打って出る必要がない、さすれば不必要な仲間の犠牲も出ないという事。とてももっともらしく聞こえます。しかし、この論には穴がある。そもそもダンジョン部である私たちは見返りらしい見返りもなく挑戦心や冒険心で相反することを今まで息をするようにしてきました。そして雷夏が言うようにオーラを持つものこそできることもあるのも事実、現に我々は直近のダイブでも黒幕王子の地球に自生する茸類菌類を絡めた不測の大規模オーラ攻撃を止めさせることができました。悪に染まらない心をもちオーラを高めたものにできること最終的に向かいゆくその果て…それがガライヤ・ガラシャのいう魔王の脅威を取り除くことなら、問題はその成功とよべる結果に至るまでの難易度。敵の戦力のほどがまったくの未知であること。はたして小悪党か大悪党か、魔王など口々に畏れ言うだけで我々はその実態の切れ端ほども把握していません。しかし仮に魔王なるものが外界またはダンジョンの最奥に存在するというのならばいずれも強敵であったシーズに属したボーンクイーンや黒幕王子、それ以上のオーラ力をもち、あの厄介な怪人ゼリーフェイスを従えるほどの実力とカリスマ性があるということ。それらまだ顔を覗かせない未知の悪シーズのメンバーも含め全てを……今の稼働休憩期間に入ったダンジョン部の戦力で対抗できるかというと……やはり負けて得た成長込みの良い妄想をするにしても、単純に向かうところを斬り伏せるには話のスケールがまだまだ……大きすぎるというところですか)
未知の魔王討伐のためにガライヤ・ガラシャの協力要請をこのままリスク承知で飲むのか。
その虎穴にはあえて入らず、別にある自分たちの目的を果たすために機が来るまで鍛えながら、これまで通りのダンジョン部の活動をつづけるのか。
今顕現したこの世界の尊き存在に自分たちの行いを咎められないのならばきっとそういう選択肢を迫られているのだろう、女神たちの綺麗とはいえない諍いを見ていたシデンレイラは独りまたまた心の中で問答し悩み返してしまった。
果たしてオーラを持つこと持たないこと、オーラをもてど立ち向かうこと立ち止まること。
そのどちらが正しいのか熟慮し見定める者と、淡々と報せる者、今はまだ深く溜め込み黙りこくる者……。
はたまた心の波を荒立たせ、表情真剣に言を放ち戦う者がいる──
「オーラをもつことそれ自体が罪深いと言うのですか!? お考えなのですか!?」
「オーラ妖気に溢れた時代は子とも呼べない魑魅魍魎が跋扈する野蛮な時代よ、そしてそれはこの世界がもうとうの昔に選び捨てクリアした課題だということよ。いまだに外で騒ぎつづけるあなたたちのレベルに合わせてはいられないわ」
「オーラがクリアした課題? それはどういうことですっ!?」
「たとえば、その携えた刀」
早乙女雅はヒートアップするガライヤの様にも動じず、ゆっくりとムスイの腰に携えた刀を指さす。
「刀……だと?」
ムスイは突然指された自分のその鍛錬のつもりで常時顕現させていた秘刀に、目をやる。
皆もよくよくその指の先に注目するがクリアした課題とその秘刀黄蜜に接点をみいだせずにいた。
「長らくその鞘に仕舞われていたわ。今より妖気ただよう十二ノ国をまわり役目を終えて、ついにカレはその一言ものこさずに去り、強大な鬼気の支配を鎮めた時代はその剣をふたたびとらず。あらたにその牙を剥くこともなかった────そう振るう場なき無用の長物ね」
昔話か御伽噺か、黒セーラーの彼女はその剣のことを見つめあたかも何かを知っているかのように語る。しかしそれはたまたま彼女の目にとまった横道であり、今度はそのまま向けていた矢印をスライドさせ……別世界の偽神にそなわる青い髪の天を指差した。
「それに見てみなさい。あなたが挑み失ったものを。神の威厳の象徴であるその魂角だけかしら」
「それは……」
指し向けていた指をまたゆっくりと戻し、早乙女雅はとんとんと自分の頭を小突きさす。
丁度髪留めの役割をした漆黒のカメオの飾りが彼女の黒髪左右に二つある。そのひとつを意味深に指で触れアピールをしていた。
何故そんなことをいきなりしたのかと……周りの者が不審に思いつつも青と黒の髪を見比べてみてよく見れば……青髪にかくれたガライヤの頭には少しでっぱった石の欠けたような痕があった。
「あなたも血をひく尊き八角神たちのおしえはどうかしら。何故世界が八つ存在するのか。角を折り今ここに逃げ込んできたあなたが証明しているわ。そう、オーラを野放しにした世界とオーラをもたぬ世界。ちょうどここで邂逅を果たしたあなたとわたし、はたしてそのどちらが失────」
何度も釘を刺しずけずけと問う、オーラのある世界とオーラのない世界どちらが正しいのかを。
ガライヤに認めさせるまで問うつもりなのか。早乙女雅なるものの瞳は冷たく、瞬きもせずに、言い返す言葉を噛み締め…うろたえる余所者の女神ことを真っ直ぐに鋭く見据え続ける。
鋭く睨んでいるのは蛇でも邪神でもない。俗世の衣装を身に纏う紛うことなきこの世界ガイアの女神。今はただその結末をガライヤ自身の口から引き出そうとしていた、今一度ここに集う特別な子たちにその折れて散った彼女の悲惨さを聞かせようとしていた、そうも見えた。
うなだれた様子が乾いた口をぼそりと開いた、そのときだった──
「サディスティックなおたのしみはもういいだろう。夏ちゃんのじかんだ、ここからは────」
矢が立ったのは、黒い女神の黒い影、その股の間の地に鋭く焦げつく。
青きオーラの青い矢が早乙女雅なるものの股の間を刹那に射抜いた。
青髪赤目のダンジョン探索者を纏うその青いオーラはメラメラと……迸りゆらぎ黒い眼差しからギラつく赤目を逸らさずに、彼女を挑発する。
抑え付けて黙りこくっていたものが今ついに痺れを切らした、相手が誰であれ雷夏は己を貫き通す、そうせずにはいられない。
刹那に放たれた矢は彼女が神の影へと立てたもの、どうやらそれ以上の無意味なディベート模様は気に食わないようだ。