雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
「……いくぞ」
中腰気味に構えた。白刃はゆっくりと煌めき覗く……からだの内側から顕現するその秘めし刀は彼女の刀。
しかし右腰から滑らせてゆくその刃に見とれていては真の姿には気付かない、着目すべきは渦巻くように漂いだした妖気と、体の中を高速で巡り続けまるでシルエット輪郭を描きつづける青い電流。
より速く、速く、流れるオーラはとめどなく止まることはない。
反面ゆったり余裕虚空空白に構えた……尋常ならざる異質なオーラを宿したその剣士が飛び出すタイミングは────今。
瞬きは厳禁、噛みつく刹那に間に合わせ攻防──噛み合った。黒く開いた一面の番傘と、その花弁へと食い込む牙がある。槍と雷蛇をも凌いでみせたそのお気に入りの盾に、すっと刃が通った。鳴らしていた警鐘は正しい、神はそんな不測の鉢合わせをも悟っていた。だから反応できたのか傘を閉じ剛力のオーラを込め直す、守っては喰われるとでもいわんばかりに考え改め、刹那に切り返した。
閉じた番傘を刀のように振るい、上から叩きつけられた刃をその細腕で下から突き上げるようにはじき返した。俊足で噛みついた牙を強引に傘で打ち放つ、傍目からは黒セーラーの彼女が華麗に捌いたように見えたが超反応から繰り出したパワープレイに他ならない。
しかし見事はじき返しても遠目にギラつく赤目は諦めてくれない。
二太刀目は、弾かれ後ずさる黄色いスニーカーが姿勢静止するよりも早く繰り出された。
ありえない姿勢制御バランサー、前のめりにはやる気迫が最速の二太刀目を間髪入れずにお見舞いする。
しかし今度はわざわざ待ち構えて受け止め防がない、準備はできている。早乙女雅は今度は逆に自ら前へと踏み込んだ。神を前へと歩み寄らせたそれも初めての珍しいことだ。振るった番傘は目論見通り一歩手前でまた噛みついてきた雷夏の二太刀目の勢いを削ぎ、太刀筋の出を殺しタイミングを合わせることにも成功した。
だがそのとき────ヒヤリとよぎったのはどちらか。
突然、黒いボタンが見入っていた観客のシデンレイラの手元へと弾丸のように弾け飛んだ。
破れ焦げた右の白手袋に驚くシデンレイラが手にしていたのは……漆黒のカメオ、精巧な彫像が刻印された彼女の髪留めだ。
面をあげ、星色のカラーコンタクトを2人が激しく重なり合ったフラッシュする戦況へとよく凝らす、すると……黒セーラーの少女の頭部右には片角が生えていた。赤く赤く輝くそれは物体の角というよりはオーラで象られたものか。そしてその姿は清純な女神というよりも、もっと妖しくおそろしく──
インパクトの瞬間にまた合わせた刃をはじき返す予定だった。だが、悲鳴をあげたのは下方へ捻じれ歪む傘か、それともその白い細腕か。早乙女雅は己の身に危険というものをまさにその瞬間感じた、そして行使せざるをえなかった……二太刀目にして引き出されてしまったのだその秘めし角、漆黒のカメオで押さえつけられていた女神の片角を。
片角を解放せざるをえないというよりは本能、危機を感じ意図せず引き出された。だが早乙女雅のオーラはそれで一気に倍増した。叩きつけられた刃の膂力を勝る剛力の傘でお返しし、付随し渦巻く奇妙な青いオーラは逆の流れのオーラを同時に打ち放ち無理矢理解消した。
それを華麗とは呼ばない。かちあげるように荒々しく振るう番傘が起こした暴風竜巻に雷夏は吹き飛ぶ。先程の比ではない仕返しが仕掛けるばかりであった探索者を容赦なく襲った。さらに容赦ないのはそれだけでなかった、片角の早乙女雅は頭上にひらいた傘を回す、その傘上に乗せたのは赤玉のような光の粒たち。それがいつかの傘回しの芸のように乗せられて無限の末をひろがり描くながれゆく黒い舞台の上で踊り、今番傘を前方へと向けて溜め込んだ勢いは放たれた。
「【
閉じた番傘の先が指揮棒のように狙いをつける。そして宙を安定軌道に乗る星のようにひとりでに泳いだ赤玉群を、また傘を開くと同時に発射する。開き扇がれた突風のエンジンを得て、赤い星が青いターゲットへと集束し襲いかかった。
竜巻に崩された空中制御不可能な姿勢へと、赤い星たちが襲いかかる。不意の飛び道具を避ける手立てはない、だが今闘いの形勢をひっくりかえされ危うげな立場の雷夏が制御するのは手や体ではない、内側を流れるつづけるそのオーラだ。イチから強引に崩れた姿勢を制御するというよりは逆らわない、身を痺れ流れつづける流れに自ずと制御されてゆく。そしてありえないキレで虚空透明の壁を蹴り、雷のステップを空に踏むのだ。
迫る無理難題であった赤い星の弾幕を避けるその姿はまさに妖怪の雷獣。雷のオーラを轟かせながら空を駆けて襲い掛かる。
常人を相手にしているわけではない、伊達者を相手にしているわけではない、絵巻に描かれた動かぬ妖怪なぞよりもっと速い。されど神の目をもってすれば捉えきれぬわけではない、そのスピードそのギラつくただものではない赤い眼で近寄ることなど許さない。また赤い星をお見舞いする、動き出した雷獣を止めるためには鬼気迫る様で対処するしかない。
また執拗に追いかけ立ちはだかるように集った赤い星は、なんと靡く青髪を反れてゆく。赤い渦巻きを後ろに描いている。斥力ではない、彼女の内側いやもはや漏れ出た外側に描く渦巻くネイビーブルーの電流にノセられたのだ。
一合二合目より、妖しく青く濃く染まりゆくそのオーラは異質。赤く無限に垂れ流されるガトリング砲など、その無限回当たらずに避けられてゆく。
もはや衝突は必然、悪あがきに至近で放たれた弾丸すらも嵐達人のような剣捌きに全て弾き返された。
そして、もはや触れずともわかるその白肌にひりひり伝うただならぬ電流を全身に浴びでもすれば。
今度は自らの意志で漆黒の封を解いた。荒ぶる黒髪に、光輝く赤と白ツートンの魂角を生やし。闘いは出力を増す。
いや数値出力などでは表せない今重なり激しくフラッシュする気力神力の類い。
女神の本気を引き出す、本気を超えた雷の刃に対して。実力に封をしている暇などない。早乙女雅は全力で迎え打った。
それでも秘刀緑蜜は合わせたその番傘をズタボロに切り裂かんと唸る。オーラが煌めき圧し合う、がっぷりと相撲を取るように、とてつもない気迫魂を乗せたイチゲキに、ポーカーフェイスではいられない。両角の女神は形相を深めた、瞳を見開いた、とてつもない赤と白のたゆたうオーラを今爆発する炎のように燃え上がらせた。
秘めし刃には、秘めし角を。それでも足りないならば古風な傘に忍ばせていたその刃を────
実力を隠すことなど許されないありったけをぶつけあった三合目、
赤、白、そして紫にフラッシュした。
「だーん…じょんっ…! ────」
置き去りにされた風になびく……渦巻く黒い髪は、やがて地へとゆっくりと落ちてゆく。
乱れ髪その剥き出しのしろき頸には生っぽい息遣いがぶつかり、伝う汗が玉になる。
うしろから差し込まれたぴたり静止する殺気が喉笛の前につめたく、紫電のオーラ残滓を纏うその刃はちかく熱く……。
握る手にさす番傘はない……黒い花弁が桜の花のように舞い落ちてゆく。
握る手にたよる次の手はない……空を遊ぶように宙返りする秘めし古剣は風に横倒れた青草へと突き刺さった。
紫電一閃、刹那を超えて披露したダンジョン部