雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
「……やはりオーラを肥やすことは間違いね。でも正しいのはいつの世も勝者。うしろにも目をつければ変わったかしら」
黄色いスニーカーが踏み入れていた円い影はいま緊張が解かれるように人影へと変わる。
同時に喉元に添えられていたその刃はさげられた。この先の剣に意味はない────もうたのしい遊びは終わってしまったからだ。
鬼のように生やした一対の魂角も、色味が失せて虚空へと溶けた。
勝者とは黒髪の神の後ろをとった青い探索者のこと、オーラへの見解は変えずとも早乙女雅は雷夏に負けたことを遠まわしに認めた。そして最初に取り決めた約束どおりに早乙女雅はそれ以上の抵抗をせずにいる。踏み込んだ雷の足跡が焦げ付くほどに刻まれた……その場に突っ立っていた。
激しくヤリ合っていた2人のオーラはどちらも穏やかなものになり、闘いの余熱だけが汗となり肌を伝っていった。
「オーラをもつものにこそできることはあるさ。夏ちゃんが証明してきたことだ」
一歩離れてその背に投げかける。言葉よりもまさに身をもって剣をもって証明した。
そんな迷いなくクリアにきこえた……。貫く彼女の言葉を耳にとおし、振り向かぬまま女神はまた口をひらいた。
「そうね。あなたが言うのならそうなのかもしれないわ。できることを勝手になさい」
「────! んや、じゃぁそうさせてもらうぞビィちゃん、早乙女雅」
「そう。ただしそこの迷い神の主義を認めたわけではないわ。私は閉ざされたハザマの掃除と浄化にいそしむ
神力でたぐりよせ拾い上げた古剣、その冷たい刃を向けるのは……ガライヤ・ガラシャただひとり。
遊びに負けたからといって付随する全てを認めたわけではない、そしてダンジョン部、オーラを持つ者たちの元へと今日は会いにきただけなのだと女神は言う。
しかし忠告はそこまで、刺し示した切っ先はうごかない────その先に立つ者もまた青い瞳をそらさない、鋭い剣と黒い眼光を向けられてもなお異世界の女神かのじょの宿す強い光は揺るがない。
確かめる用はもうない……それで全てが済んだのか。誰の言葉も待たずに早乙女雅なるものは姿を消した。
大きな鉄の目アイノスケがまた顕れ、黒髪佇む女神の頭上で目を閉じた。
眩く顕れた時とは逆に、控え目にフラッシュし────そこに黒セーラーの姿はもうない。
再会の約束もなしにガイアの女神はどこかへと還った。しきりに彼女らの前に顕れることはもうないのだと言い残し。これからの責任の全てを誰かにゆだねたとでもいいたげだ。
大きく腕を広げ、胸を前に、天に目を閉じ────深呼吸する。
できあがった静寂に誰も口を挟まない。今この瞬間……激しい雷のやんだダンジョンは自らの手で勝ち取った……彼女ひとりが支配する空間だと、皆が気を遣っているのか、察しているのか。
おだやかにそれぞれにその背を、風にそよぐ青髪の行方をしずかに見届けてゆく。
言葉はいらない。最高のオーラと、最高の剣、そして最速の剣────さっき繰り出した妙技てごたえを反芻する。ダンジョンと会話しているようだ、ダンジョン生まれだと豪語する彼女にはできるかもしれない。
深く深く……天を平らげるように仰ぐ頼もしいその青の背姿が────────平らに消えた。
『今日はもうダンジョンの空気をぞんぶんに…呑みすぎたようかい?』
『あぁー、これなんていうんだっけ……ツキヤマぁ、デリシャス?』
『それはデジャブだけど! ってそんなことよりまた雷先生たおれてるーーーー!!!』
『あぁー、それデジャブ』
『知ってるから!! それ言った!!ワタシぃ!! ってそんなことより楽天くん!』
『あはは月山さん……そうなんすけど、なんかもう一回一回先生のことで慌てるのも違うのかなぁって……』
『フッ…そいつの取り扱いは言う通りだ。今のうちにもとのロウヤにでも放りこんでおけ』
『え、え?? これ、わたしが変みたいになって……ぇ?』
『ダンジョン部部長、いいねがおね────』
大の字に寝転ぶその寝姿はどこかでみたデジャブ。
ひとり、ふたり、さんにん、その呑気に寝そべる事件の元へと集う。天から見下ろしながら先生のことを心配する、できあがった自由な弟子の様を微笑う、いつもよりも冷静に、いつものように達観する、二度目になる不思議ないきもののその寝顔を観察する。
またそれぞれに彼女の心地良さそうな寝顔をのぞきながら────