雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
あの時、足元に立った白羽の矢は、その神が彼女たちを最初から欲していたからなのか。しかし今の扱いが捧げものや贄ではないと思いたい。あの雷夏と早乙女雅の部室ダンジョンでの印象深い勝負の日から3日後……唐突に訪れた尊き者からの誘いを、市井の人が断れるはずもなく────
緑の制服姿の女子2人は今、見知らぬ場にお邪魔していた。摩訶不思議にも案内された和室は、どこか浮世離れした静けさに満ちている。品の良い香木の香りが、贅沢に鼻腔をくすぐった。室内は一見で分かるほどに綺麗に整頓されている、ゲストを迎え入れるにしても、埃一つ、乱れ一つない、完璧すぎるほどの調和がそこにはあった。墨で描かれた山水画の掛け軸や、見知らぬ誰かの石膏の彫像も飾られ、殺風景とは言えない。まるで日常に巧みに溶け込んだ博物館のようでもあった。
一部屋の中の飾り物を一通り見て回った2人は、和の雰囲気の中にひっそりと置かれた、茶のように渋めの色と雰囲気をしたアースカラーのソファーにおそるおそる腰を下ろした。
しかし、どうやら月山雨楽楽が気になったのは、探索した部屋の骨董品や珍し気なアートよりも、一緒に居合わせた彼女、イロハなる人物にまつわる話だったようだ。
「それで、さっき言ってた! そのぉ……楽天くんの家に住んでいるってのはどういう?」
「居候みたいなものね」
「居候?」
「あと、彼の姉のようなものとも…言ったかしら」
「あ、姉ええ!?」
「本当の姉じゃないわ」
「!?(良かったぁ! ──って! それって、本当の姉じゃない方が)」
「そういうのもないわ。彼、忙しいもの。他に気が多くて」
「!? ちょ! 私は別にそんなことっ」
「しっ──ちょっと待って、ここ壁が薄いみたい」
「え!? あ、」
イロハは何かを察した。月山との興味深い雑談を一度唇に人差し指を寄せたジェスチャーで止めて、ソファーから立ち上がった。山水画の掛け軸があった壁に目をつけ、そのまま近付いて辺りに耳を澄ました。
『あら、また迷い込んでしまったのかしら』
『いいえ。まっすぐに来ました、ここに』
『そう。〝あなたは〟呼んではいないはずよ』
『ウラノ…アイノスケ、神の目に探していた案内のご協力を願いました』
『誑かすのが得意のようね』
『そのような事は断じてしていません。きっとあの時は感情を抑制できず……伝いそびれた……私の本意と誠意とオーラが、親和し……届いたということでしょう。今、疑い思い得るような邪念などっ、ここに持ち合わせて来てはいません!』
『誠意────、そうね。来なければ話にはならなかったわ。それで、見せつける用は済んだかしら』
『話をしに来たのです! ガイア神、早乙女雅さん!』
『全部で言うのは禁止よ。ガライヤ・ガラシャ、ただの迷子』
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
「どっ、どういうこと?? これってぇ??」
「察するに、神と神の密会シーンみたいね」
「密会!?」
「この場合、意味が違ったかしら。〝密談〟の方が正しかったかしら」
「密談…」
「ここにいるお互い白羽の矢が立ったのも、そういうことね。わざわざ部屋を用意して、聞き証人でも欲しかったのかも」
「あっ。あぁー、そ、そういうこと……ね!」
「うん。流れ者としっかり者だから」
「私がしっかり??」
「うん。この世界では場をおさめるしっかり者の役目を【ツッコミ】……というのでしょう?」
「はぁ!? ってちがうちがう、なんか勘違い! それ! 果てしなっっく勘違いぃ!!」
「ん? ごめんなさい。ちがった……ようね? 何事もひとりで勝手に解釈するのは、危険ね?」
「別に謝るほどのことじゃないけど……あっ、それより、そんなこと今はよくて! その【聞き証人】っての、だったらちゃんとシた方が良くない?」
「そうね。ごめんなさい、つまらない脱線をさせてしまったわ。さすが、しっかり者ね」
「それはど、どうも?? ────あ!? この掛け軸、なんかオーラがゴツゴツして……る??」
神の密談の聞き証人として、流れ者としっかり者の2人はおしゃべりをやめ、耳を凝らし集中した。
山水画をそっと取り外し置き、壁際にもっと耳を寄す姿勢を2人は取ったが、どうやら届く声はさっきよりも遠い。何かに気付いた月山はもう一度今はずした山水画の掛け軸を手に取り、音の発生源をやはりソレだと確信する。さらに、その一見変哲のない掛け軸に、また何かスピーカーの役割以外の別の設定を隠し施されているような……異質なオーラの形を、月山はその肌に知覚したのであった────。