※この作品はR-18です。

雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!!   作:山下敬雄

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21 育ちゆく種❹

不意に窓ガラスを突き破る──蠢く腕々がはためく黒いマントを掴んだ。

 

ナカへと引き込まれたオンナは黒い剣を手にし、これを斬り裂いた。何が何やら腕が腕やら、が彼女に襲いかかる。

四角い箱の中で皿が割れ、木板が破れ、壺が割れる。鳩時計が狂った時間をお届けする。

破茶滅茶な荒れ模様のナカで踊り続ける──思い切り床に投げつけたスーパーボールのように素速くあちこちを跳ね回る道化師を、ただ掴もうと手腕は壁という壁から生えていく。

 

 

「なるほど追い詰められた鼠の親分はこうして腕を生やすのが手いっぱいかい!」

 

『なにぶん飽き性鼠なもので、ただ追いかけっこをするのではもったいのない、こうしてダンジョンで巡り合いせっかくの機会をいただけたのならば色々と試してみたくなる性というのでしょうかフフフ少し趣向を変えさせてもらいます! 飛んだり跳ねたりこの街がお好きなようですのであなたにも喜んでもらえるとフフフフ嬉しいものですねぇェェェ』

 

斬るも斬るも次から次へと生えて咲く手腕に対応が間に合わずやがて群がるモノにもみくちゃになった彼女は、

 

 

不可能に思われた壊れゆく箱から抜け出した。

 

 

ありえない脱出マジックを披露し格好をつけていたところ、不意に両足首を掴まれて前倒れる。

すぐさま頭両手を下に、両脚を上にし咲かせる大開脚、そのままプロペラのようにグルグルと回し足首に引っ付いたお邪魔虫を払い除ける。

 

しつこいしつこいなんともしつこい、それでも間髪入れず追いかけてくる立ち塞がる腕々の道を彼女は赤いダイヤの水をやりながら駆け抜けていく。

まるでこの街全体がどこに足を踏み入れようとも亡者の群れに支配されているのか。

 

「鉄鼠(てっそ)という幽霊がいると聞いたことがあるさ、これはさしずめ鼠の恨みかい、こんなにわらわらと恨まれるようなことをしたおぼえは…カラの書物宝物庫をヒッポン土産ベルショのちくわで満たしたときぐらいだ! こんなに手数をかけて追われるのはッ! 帰ったらチーズとワインでいっぱい!!! しゃれこもう、べっしょ水産のちくわにチーズの入ったヤツうううう!!!」

 

ダイヤのチェーンで地から煙突屋根へ飛び移り、屋根上から狭い窓枠へとうなぎや猫のようにしゅるり飛び込んだ。即興に次ぐ即興の判断で、手を伸ばし誘う街と手を取り踊るようにシデン・レイラは疾走していく。

 

剣で薄い壁を星型に切り抜き2階から外へと出でる────待ち構えていた地上から射出されるロケットパンチを、

 

「おててが星にいのるなんてかわいいじゃないかい! 【ルクラブ8】シーケンス【ルクラブ9】」

 

道がないならば道をつくる。

浮遊する計17のクラブは虹色のグラデーションを描き彼女の足場を作っていく。

スリリングで心地いい足場をゆき空中闊歩、ソラの階段を上りくだりノのらりくらり──彼女を追尾するおかしな手を双銃がロックし撃ち抜いていく。

 

街を見下ろし、クラブが導いた春風の葉の足場を味方にしながら激しく軽やかに彼女は舞う。

やがてぶち当たった鉄拳に小さなクラブの盾が壊れる、その小さな足場から刹那の間際の大跳躍でのがれ、

 

天に仕掛けていた一枚の緑の大盾。その逆さ足場にたどり着いた。

たどり着いた足場は、トランポリンのように深く深く沈み込んでいく。

 

そして大射出──追いかけてきたミサイルを、一転、彼女自身弾丸となりすれ違い潜り抜けていく。

その人間弾丸が通り過ぎていった道は赤くキラキラと煌めいている。

戦闘機のフレアのようにマントからばら撒かれた惜しみのない菱形が、ソラに鮮やかな爆発花火を誘い描きあげていく。

 

 

大空のトランポリンから射出した弾丸はやがて突き刺さるように着陸。

 

どんがらがっしゃんがん────────

 

1階2階3階……天に穴の空いた建物から────よろよろと出てきた。

出てきた…建付けの悪い外れたての木扉をていねいにハメ込み直し、閉める。

後ろ結びの白黒ポニーテールは、マントをバタバタと翻しちりごみを払っていく……。

 

「おやおやなんともまぁユカイ! この手数を避けますか? さすが道化師、なんたる華麗なる羽と奇怪なマジックをお持ちで、フフフフ」

 

大鼠の指がピンと弾いた──チリゴミが足元ヒールの前に突き刺さる。

くしゃくしゃになっていたモノがもう一度伸ばされ道に突き刺さるカードになっていた。

──くずれたスペードの4だ。

 

「いくらおててばたけを咲かせても無駄さ、地獄から天国、もう一周付き合えと言われれば……今度はメリーゴーランドがいいね、ふふっソフトクリームをかたてに」

 

「フフフフいやはやお上手ですねぇ。たしかにこのような手品では遊び慣れた道化師相手にはオーラの無駄のようです。では、──私自身マンカイに咲かせてもらいましょう。────やはり美しいのは、一輪挿しでしょうか」

 

道化師がみせた大道芸に拍手をおくる鼠は笑う。

拍手はつづく、パラパラと分厚い本のページはひとりでにめくられていき、喝采はつづく。

やがて重厚な音となり、大人数大喝采の拍手となり──止んだ。

不快な駆動音を流しさらにビルドアップする…それを見つめる星色の瞳は苦笑い、その瞳の色を驚嘆しよごすしかなかった。

 

それは一輪挿しなどではない、その光景を見ても人は凛とした花のように美しいとは思わないだろう。

 

おおきな灰色の体躯から生え増やした数多の…手という手を地に着き、悪趣味にワラう。

 

奇妙にかたどられたおぞましい異形の獣は道化師に襲いかかった────

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

(オーラ量は向こうが圧倒的に上、スピードは甘く見積もり2足では互角こじらせていて助かりました。攻撃は効いていないわけではない、DSシールド値はなんとかやりくり残り46%。やはりずっと相手は格上、しゃべりと入念な準備運動は必要でしたね。まったくなぜこのような状況ばかりを……引き当てるのでしょう彼は、かのじょは。私は! ふふふ、元ダンジョン救助隊だというのに逃げてばかりでまったくいいところを見せられませんよ!)

 

 

「んーなるほどなるほど…足音が騒がしく歩く度に多数の手が汚れてはスマートではありませんね。やはり多くても8本──これぐらいがちょうどいいのでしょうか。余った腕はそうですねぇ、ではこちらをおおおおおお」

 

天真上を目指し連なった長い鞭は振り下ろされた──叩きつけた長いカゲが石畳を割り、凄まじい勢いとパワーで道を破砕した。

 

「【百足(むかで)】とでも名付けましょうか手ですがフフフ、チュウぅぅぅゥィ!」

 

表裏色のオーラの特徴である生と死の予感は常にビンビンとシデン・レイラの頭に、その縄を避けろと警鐘を鳴らしっぱなしだ。

腕と腕、手と手をがっしりと繋ぎ合わせた大きな鞭を振り回し、大鼠は新たに生み出した破壊行動の手に耽る。

 

「やはりィィィチカラとはァァァこンンなッ風に遠慮はいらない馬鹿に振り回すのが1番スマートおおおおおおかァァァもしれませんねえェェェ」

 

なおも大鼠は秘めていた狂気を解放し街並みを破壊していく。その百足の指揮棒をあやつる八つ腕のおおきな姿は悪鬼の演奏とも呼べるほどの────

 

 

 

 

たっぷりのオーラをのせその手に踊らせ回った百足は、ついにどろどろと雪のように溶け、その破壊行動は終わった。

 

街に曇りとどまっていた粉塵、煙がしずかな風におされて失せていく……。

粉々になり平地に散った、名も知らぬ賑やかしの街に────ひとり立つ。

白と黒、ツートンカラーのフォルムは穴空きマントを翻し──その盾を構えた。

濁った視界に浮かぶ緑鮮やかなクラブ、その目標物を見つけた大鼠は嗅ぎつけた鼻でワラい走った。

 

打って来いとばかりに構えた盾は──隠しバネに押されて飛び出した。

緑のクラブがいきなり遠方に射出され、その小洒落たオンナの意図を──意図も容易く大鼠は殴り砕いた。

砕けるやいなやミドリあざやかに爆発────。

視界をまた濁すように遮り、真剣な表情をして待っていた道化師の繰り出したおどけたマジックに、大鼠は八つ腕を出鱈目に振り回した。

 

高速の8つの手ウチワに風は起こり、めくらましは吹き飛ばされてゆく。

──キョロキョロと目を動かし、うすら微笑いを浮かべる大鼠はがらんと静まりかえった辺りを探していく。

 

あらたに喚び出した腕を一本、手に取り…

しずかに石粒が落ちる…澄ました鼠耳で感じ取った廃墟を目掛けて、握り拳にした使い捨ての腕を一本投げつけた。

 

白黒ネズミの潜む半壊した家屋にさらにダメ押しするようにグーだらけの穴ボコが空く。

 

大鼠はまた腕を一本とりよせ…ようとしたそのとき──

しずかに石粒が落ちる…そのポイントは……──複数。

 

 

鋭く風を切る音が聞こえてが、物体が宙を飛び交う。

ぎんいろの翅を生やした──剣や槍、斧やナイフに盾棍棒お玉になべのふた、街中に潜んでいたイカついみんなが勢ぞろいで。

群れはつどう、騒々しい音を一点に集めて突き刺さる、押しかける、押しかけて圧し潰す。

 

「フフフフ────なにやらこそこそ仕掛けていた小細工とは、このようなチリも積もればという…意味のないモノでしたか。がっかりですが、道化師らしいオチですね」

 

外連味を効かせたパフォーマンスもむなしく、

数多の武器に付与されたオーラの虫翅は散り散りに……。

大鼠をおしくらまんじゅうするように集められたガラクタの牢は、意図も容易く八つ腕にこじ開けられた。

ちいさな玩具のフライパンは握る鼠拳に丸められ、コロンと足元へ転がっていく……。

最後までおもしろく演じてみせた道端の道化師へのチップ代わりに。

 

「フフフ存外楽しかったですよあなたは。もしこれに──耐えれたらそうですねえええ、意味のない道化師に意味深な首輪をつけて大人しく躾け飼うのも一興かと!!!」

 

それでも構えた黄金の銃、そのチャチな銃口を見つめる獣の眼はワラう。

 

たいしたオーラ量をもはや感じない。道化師の見せたその虚勢と人生を賭したおもしろいパフォーマンスに鼠はワラわずにはいられない。

──彼女が張りつづけるハッタリのマインドとシールドをぶち破り真っ向からぶつかるよう、巨体灰色は走る。

 

 

八つの巨腕に粉砕するチカラを込め握りしめた────

 

 

一歩、二歩、サンポ────まっすぐに伸びた、

 

 

青い閃光は、クビをつらぬく。

 

灰色の悪顔を一瞬、呑み込んだ閃光は──か細くきえていく。

 

 

「おててはガライアの神に与えられた、それぞれの数で十分さ……。両手両足でじゃんけんぽいぽいぐーちょきぱーふふふ……、ほらね? ま、青い指イッポンぐらいは足してもいいんじゃないのかい? 神罰はそちらにふったようだから(なるほど銃からビームソードとは便利ですね、帰ってから聖タクでも──)」

 

 

「あ、アレは!? 銃からクレっ…じゃなくて剣っ!!! 俺と同じ……いやこれはもはやビーム!?? ゴッチャビーム……!!!」

 

 

【ダイヤル8】黄金の銃口から伸びた青い閃光剣は、さっきみかけただれかのスタイリッシュな勇姿。

 

ついにその両膝をつく──頭の消し飛んだ八つ腕の鼠人形、【書斎のイワナイ】。

握りこぶしにしていた八つ腕はパーになり、ぷらぷらとチカラなく重力に引かれていく……。

 

腕の多い異形の大鼠のクビをとったのは──聖タクティクスグリフォン伝説、黄金の守り人、シデン・レイラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よぉく見つめる背がある──道化師は振り返らない。

止まった息遣いと息の根に、きたない風がひとつ吹き──歓喜にわく汗粒を冷やしながれる────

 

体毛のナカに隠した丸眼鏡を取り出し、そっとかける。

少々熱籠るクビをゆっくりぐるりと回す。

手指を焦げ跡に添わせてなぞり……クビとクビのつながりを今一度確認した。

鼠は見慣れた薄ら笑いを浮かべている。

 

「この味わい……いやいやヒラヒラくんの師でしたか、二度も同じ手を喰らうとはびっくりですフフフフ。使い方が…なるほどあなたの演技が良かったのですね、すっかりと騙されてしまいましたよフフ。やけにおふざけ好きな方だと思っていましたがあなたの戦い方は思ったよりも勉強になります、道化師を引退なされた際はオーラをあつかう家庭教師などいかがでしょうかフフフフ」

 

かのじょが汗をどっと流すのは、演技か真面目か道化か。

ここまで幸運をものにしてきたぶん、かのじょに降りかかる不幸はおもく連鎖していく。

 

手にしていた黄金の象徴は砕け散り、

ダイヤル:数多の手腕を避けて溜めたスタイリッシュオーラは青く出力し底を突き、

ルクラブ:かのじょを加護していた幸運のオーラは不幸にばかり転じている、

スペードル:死のオーラはなごやかに降り積もるばかり、

 

身体のダメージよりも、消費した内在オーラはもはや振り絞った極限。

手をぷらんと脱力し立ち尽くす、神風が凪いだポニーテールの白黒衣装は──

 

「おや? お得意の減らず口がさきほどからとまったままのようですが。どうされましたか? フフ、いやいや失敬、頭が生える手品は定番すぎてお気に召しませんでしたか?」

 

勝てない相手に、勝算を計算するほどにそれは馬鹿らしい。

饒舌に語り、薄ら笑いをふかめた大鼠は失っていた腕に気付いた。

三つ生やし八つ────

さらに絶望たる得点差を広げ、立ち尽くす道化師の様を見る。

そのボロボロの衣装、誇っていたうつくしさを失ったみすぼらしさに似合うリアクションに大変満足したのか、黒本を閉じた大鼠は尖る牙を舐めずり────

 

異形の獣は追い詰めた獲物に襲い掛かった。

立ち尽くしていても時間はトマラナイ──拳が迫る、

 

しかしなにやら、止まる気のなかったモンスターの拳がトマル。

 

ハートの描かれた白と黒のひざが跪く……その光景に、その意味に、この状況でまだ道化を演じ続ける阿保に。

 

 

道化師は土下座した。

 

 

きちんとカラダの折りたたまれた、柔軟性のある土下座に…鼠は理解ができない。目の前で止めた拳のまま、

 

「なんですかそれは? そういえばヒラヒラくんもそのような姿勢をとろうとしていましたね」

 

「このマチで生きていくにはこうするしかないと思ってね。にぎやかで気に入ったよ、ココ。まーずは、おててちゃんたちとの握手会の準備かな? ──かい?」

 

チラリ、低身から見上げた笑みを鼠は見下ろす。

風前の灯でまだナニかを魅せてくれると淡く期待していたところに、そのみすぼらしい道化師がイノチを振り絞った結果がイノチを乞う、キレイな土下座である。

さいごまで道化師は役にのめり込む。

それも一種の狂気。

際の際まで期待を裏切りつづけたその情けの無い様を見るとワラわずにはいられない。

 

「フフフフ、ハハハハハははあなたはやはり道化がお好きなようですねぇ。ではそのキレイな謝意に免じて────せっかくの道化師が握手会などしては台無しですっもっと赤くミステリアスに躾け直しましょうお飾りのお飾りにイッパツゥゥゥチュゥゥゥゥイ!!!」

 

もっとおもしろく染め上げる飾り上げる。

しゃべるモンスターはかのじょを理解した、道化師は痛めつければ痛めつけるほど化けの皮が剝がれていきより一層おもしろい。

痛めつけその最後の一枚を脱がせたときに、かのじょの生(ホンモノ)の演技を見ることができるかもしれない、それはひどく、きっと興奮するというものである。

 

しゃべるモンスターは右の四つ腕を一腕に束ね、そのあぶない巨拳を目一杯振り下ろした────

 

 

命を賭した星色の瞳が映し出すは…目の前に迫る巨大な危機。

つめたいボロマントの背に吹くは、勇ましい夏風──

 

『うおおおおおエスコおおおおおおおおと!!!』

 

戦況を、彼女の一挙手一投足を目を凝らしながら見守っていた男はずいぶんと前に気付いた。

緑のブレザー胸ポッケに忍ばされたタネに、

 

エスコートの銃が伸びた。

それは彼女が彼に託した仕掛け。

びゅんと伸びていった赤い菱形を連ねた糸は、ひざまずくシデン・レイラを絡めとり引っこ抜いた。

 

「ふふ、危機イッパツっ鼠がちゅー持つべきものはsonってね! 欲オーラ全開【ルハート10:せいれいの秋】!!! 攻守交替、今度はそちらさんが道化ってさ!」

 

その号令に蜻蛉は飛ぶ、この街をごあいさつ散歩し尽くした道化師が仕掛けたタネは無数。

つまりこの街全体が今度も彼女に手を貸す。

 

ぎんいろの翅を生やした武具は、街のカケラは、地に巨拳を埋めた大鼠を襲った。

にぎやかに集う。

蜻蛉の群れが人気者鼠のマスコットキャラクターに集る。

 

続々と突き刺さっていく秋風にのった攻勢に、

 

「またその道化ですかあきれるほどに。最初はかわいいものでしたがこうもスカされれば温厚な鼠の身も少々毛が逆立つ程にイラだってきましたよ、フフフフフそのガラクタはもう味わいつくしたァァァァァァッッ!!! さぁてニジュッパツ」

 

ガラクタを寄せ集めてもしょせんはガラクタに過ぎない。

八つ腕の大鼠は胸前に縮めた防御姿勢を解き放ち、腕を目一杯に開きまたもガラクタの牢をこじ開け周囲にいきおいよく弾け飛ばした。

 

その痒いだけの邪魔なパフォーマンスはもう見飽きた。

少々のイラ立ちに毛をすこし逆立てた鼠は、そのしなやかな尾を地に打ち付け怒る。左右六つ腕はグーとパーで叩き合わせて怒る。バチバチと音を立て澱むオーラを手に手に纏わせ、これから破壊衝動を解き放つ準備は完了、怒りながら鼠は深く笑った。

 

しかし──依然浮くチリゴミが近づいてくる。

 

〝ばちっばちっ、ばちっ…ばちちちちちちちちちち────〟

 

鳴りやまない、トマラナイ。ガラクタの流れがまた大鼠目掛け集っていく。

 

「ナ、なんですこれは?? なぜへろへろの道化師がそのようなオーラ量を隠し宿しているのですッ、このいい加減に鬱陶しいガラクタがああああああああああああ」

 

しつこく突き刺さるガラクタの嵐を、本を懐に入れ、八つ腕でまた防御を固めてやり過ごす。

この無駄なこそばゆいばかりで気持ちよくない礫が打ち付ける時間にイラ立ちばかりが募る。

フラストレーションはついに爆発、またもオーラを爆発させるように集るガラクタを爆ぜさせ押しのけた。

 

目をギロギロ、周囲に大きな聞き耳を立てながら、もはや血眼怒り耳でターゲットを探す、笑えない道化ほどイラつくものはないと鼠は理解した。

 

そして今に誓う、ターゲットを見つけた瞬間に誰であろうとこの拳をチカラの限りにねじ込むと。

特にあの白黒の道化師は十発殴り、衣を剥がし捨て、躾けに躾け丹念にシツケた後にまた十発殴ると、賢い鼠のモンスターは握る拳に硬く誓い決めた。

 

ターゲットを探す…

 

ターゲットを…

 

敏感な鼠の耳にやけにうるさい!

 

 

ターゲットは見上げる────

 

 

曇りゆく空に今更に気付いた、街を包んでいた陽光が失せていることに。

 

見上げた光景は理解ができない。また一種のイラつくあのながいながいガラクタ手品のつづきかと大鼠は毛を逆立たせる。

しかし逆立つ毛は、肌は手品ではないと道化に夢中になり冷静さを欠いたモンスターに訴えている。

 

「これは…このゾクゾクと打つものは…」

 

撒かれたタネは約束の2ターン後きっかりと育ちゆく。

大人可愛いツインテール、ウケのいいポニーテール、最後の合図は解かれた無造作ヘアー。

 

「救出できなきゃソンソン損、つま先ほども勝ち目のない勝負はしない、あなたに捧げるタネも仕掛けもありありさ、じゃあ合言葉は──」

 

 

 

「「【マリオネットクラウド】!!!」」

 

 

 

灰色のラッパはファンファーレを鳴らす。

 

天を埋め尽くす、天からくだる灰色のオーラ糸に吊るされたバズーカ砲の軍勢は、その種を惜しげなく地上へと降り注いでいく。

 

悪鬼に天罰が下るように、暗天から駆ける牛頭の群れはネズミに喰らいつき肉を頬張る…やがて灰色の花を咲かせていく。

 

 

「これはこれはっ!???ああああああなんだというのですゥゥゥウデよその魂よスベテ放てッ包めっ柱となりィィィうごけはたらけっコラッ逃げるなァァァちゅぅぅぅぅぅいアチュゥゥゥゥゥゥゥゥアアアアアアアアアア」

 

 

手が腕が魂が炎がページが飛び散っていく────

天を覆っていた気味の悪い暗天の舞台がじわりと明けていき……雲間から陽光がふたたび、射し込んできている。

 

灰色に染め上げられた地一帯が、やがてその色を失い浄化されていく……

 

その光を掴んだのは、焼け焦げた巨拳。

地から隆起し、天に突きあげたひとつの大きな巨拳であった。

 

それは耐えがたき天罰の試練を耐え抜き掴み取った勝利の象徴であるのか、閉じていた焼け焦げた拳はさらさらと土に還っていく。

 

そして彼を包んだおおきな手の慈愛、枯れゆく大きな花から姿を現した悪鬼は、清々しい悪顔を仰いだ天にワラい浮かべる。

 

「フフフフフはっはっはっはっはっはああああああああ!!!!! この身がこの耳が焼かれる大音量の死のマーチ、そんな死の試練を越え奏で得られるオーラの奇跡御業!!! これはこれは心地よすぎまし────」

 

さっきまでのイラ立ちが嘘のように晴れ、大満足の笑みをソラに向かい浮かべている。

しかし、まだこの味わい良い余韻と死の旅を経て得た進化を、全身と全力で堪能していたところに…………ノイズのようにちらつく…微かに聞こえた子鼠の足音────

 

 

「どわ生きて!?? …ッ────今しかないって! 千葉県ッ、チカラ貸せぇええええ」

 

聖なるミドリを纏いあたらしい純白を携え、ソレは懐に飛び込むように現れた。

 

「臆病鼠がナニをし────」

 

 

もしものために指示された標的はボロついたブック、見下げた獣の眼ごしに見えるさいごの光景は────

 

視界をあざやかに熱く染める。

美しい純白から出でるピンク色の拡散ビームが、スベテを撃ち抜いていった。

 

 

ゴッチャビームをクリティカルショットをシデン・レイラの青い閃光を、なんでもいい…オーラ全開の魔弾を撃ち込むつもりで、出したことのない底の底の底力の全力で。

 

格好つかなく尻餅をついた……そのまま純白の盾をかっこうよく天に掲げてみる。

瓦礫の街並み、そのナカにたしかに見える、その勝利の煌めきに、

 

託され勇敢に出し切った青年の耳にはだんだんときこえてくる、駆けつける足音が元気でさわがしい。

 

白い傘をどけ────やがて覗き込んだ灰色と星色と、青色、ねずみがにひき……。

ダンジョン部楽天海都は邪気のないそのにぎやかな光景に溜息で安心し、ただ──笑わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの腕だらけの鼠は、きっとこじらせて戦闘をたのしんでいたのさ。一種のバトルジャンキーというやつかい? だけどもまだまだハイハイをはじめたばかりのハイハイフォームの確立されていない読書隙の赤ちゃんだったみたいで助かったさ。あの黒本はおそらく手腕をたんまりと収容した武器庫、喚び出すのを手腕だけに限定することでそのチカラを高めていたのでしょう。それに鼠モンスターのものでないダンジョンで見かけたことのあるモンスターの腕も混じっていました、本を介しダンジョンに還ったなんらかの死や魂を司っているとかんがえるのが自然です、ですのであの馬鹿げたオーラ量をチリツモでもてるのも納得です。ダイヤル9で黒本を狙撃したときに攻撃の手応えはあまり感じませんでしたが…あのような苦し紛れの秋のそよ風に、妙にしっかりと防御を固めていたので確信しました。大事な本が少しでも汚れるのがイヤだったのでしょう。それにオーラの扱い方、技も、共通概念の設定もまだまだ試作段階だったのでしょう。チューーっと私をしゃぶり尽くそうとする貪欲な意志を感じました」

 

「な、なるほど…じゃあ」

 

「ええそうですあの腕だらけの鼠に見た目程の完全無欠の防御力や再生能力はない。あの黒本が本来の実力以上のものを解放するストロングポイントであり丁重に護衛するべきえらいウィークポイントだったのです。たとえば無敵のヘラクレスが赤子をかかえながら戦うようなものだったのかもしれませんね、ふふ」

 

「な、なるほど…! …あれ? シデン・レイラさんなんかそのぉやけに?」

 

「! とっととととおっとっととまぁ、わかりやすい説明口調はこんなとこでいいかい?(シデン・レイラモードが長すぎたために表の岬麗がうっかり…かい)」

 

「え、あ、あはははい!」

 

「ってはなしてる場合じゃないでしょ!」

 

「チュチュ……すごい、きてる」

 

先の一戦を振り返る談笑の間にも、路地という路地から仕掛けてくる鼠たち。

 

にんげんたちは手と手チカラを合わせ、狂敵であり鼠たちの取りまとめ役であった〝書斎のイワナイ〟を討った。

だが、まだ迷い込んだダンジョンでの戦闘はつづいていた。

 

激しい戦闘行為に灰色の爆撃その余波にさらされながらも、崩壊を免れ依然健在の屋敷からやってきたのは鼠人形で構成された残党狩り。

今こそが好機と意気揚々とハシャギ、先程の大ボス級の戦いで勇敢振り絞った果てに消耗したにんげん達に襲いかかっている。

 

もはや書斎のイワナイが提案した両者ふんわりと合意した上で成り立っていた、聖戦と呼べる代物ではない──取り囲むなんでもありの乱闘。

 

狡猾にいいとこ獲りを狙いやってきた色とりどりの鼠群は、

 

「【テクニカルスピン】! 寝てたぶんっ!」

 

黒髪の美少女は剣から発したなないろのオーラで近付く輩に斬撃をお見舞いする。

今更しゃしゃり出てきたよわい鼠ブロックを大回転させ弾き返し、大回転する鼠ブロックは後方のお仲間ブロックにぶつかり、なないろに連鎖爆発しながら効率よく爽快に散っていった。

 

「【かえす】。ねてたぶん」

 

ぬすんだものは全ておかえし。

今となっては味方は敵、敵であったものはなぜか敵対していない。元リビングのチュチュンはオーラで顕現させた冷蔵庫から、拾い集めていた壊れかけの武具スクラップを放つ。

爆発するように弾丸が飛び出た、さしずめ冷蔵庫ショットガンの威力弾速は十分、群がるモンスターを遠慮なく射抜いていく。

 

あらたな扉が迷わず開かれ、ぎんいろに煌めくオーラをはなつ。

 

 

「【牛頭ーカ】。ちょっこしねたい」

 

もう出番のないオレンジ色のイヤホンを彼女は両耳から外した──

 

シデン・レイラが街に散らばるチップのオーラ操作を補助し予め考えていた2人の合体技【マリオネットクラウド】を本日お披露目した。

指示されたここぞに大役を果たしお疲れの牛頭梢であるが…バズーカを脇に抱えながら重撃し、手堅く敵を砕き味方を支援。

味方するどうぶつたちも頑張っている、自分もここで寝てはいられない。

 

「ピクニックのおわりに、みんなでお昼寝をていあんするさ! 【ルクラブ3スピン】シーケンス【4】【5】」

 

クラブの盾で鼠の鼻っ面を殴りつけた。補充した幸運オーラを上乗せし4、5と、だんだんと勢い増す春風とともに鼠たちを踊らせ、あれよあれよと規模は膨らみつづけにぎやかな鼠色のタツマキが進んでいく。

 

 

「うおっと! こんのっ──よし…! だいじょぶす──か…」

 

味方のピンチを自慢の盾でガード。

誇る堅牢さは齧歯類の歯を砕き、すぐさま退いたところに左の銃口からビーム弾を打ち込んだ。

ダメージ限界を迎えた人形の綿は散っていき、青年は背を振り返る────

 

 

拾ったチップを白い布でみがきながら……目の合ったタキシード姿の鼠は丁寧にお辞儀をした。

 

 

 

▼

▽

 

 

 

「よしここらでしあわせの黄色い拾い物が何枚あるのか、せーので数えようかい。──ひぃふぅみぃフォー、────4つかい」

 

「ふぅん4つね」

「4つ…っすね!」

「おぉー、4つ」

「チュチュ、4つ?」

 

シデン・レイラの胸の間から手のひらにひとつ、

月山がポッケから取り出しひとつ、

チュチュンは冷蔵庫のナカに挟まっていた…ひとつを持ってきた、

鼠執事は姿勢良く…黄色いチップをたんねんにみがきあげていく。

 

全て合わせて、4つ。

 

しぜんと皆円陣となり、ここにかき集めた黄色がたしかに4つ各々の目に確認されている。

だがしかし6に対しての4……これでは数がまだ足りない……海都は若干できていた皆の静寂に、ゆっくりと口を開いた。

 

「あのぉ…やっぱりもう少し探してみます俺! 切符チップ…!」

 

「はぁ? 何当たり前のこと言ってんの楽天くん」

 

「ふふふ獅子くん、まだどこのメーカーのチーズが旨いかちゃんと聞き出せてないんでね!」

 

「チュチュンはしろい夢にぐっすり寝た。黄色いのひろうのもう少しがんばれる」

 

「おぉ、かわいいどうぶつ見捨てるのはありえないらくてんかいと、もっちょりのもち、おもちかえりでぇす」

 

次々と帰ってきた反応に、おどろき見開いた目を左右…流し、眺める。

海都の目にぐるりと見つめ映る、色とりどり────彼に向き集まる10の瞳スベテが──……驚いていたのは彼だけであった。

 

「えっと、みんな…そ! そっすよね…ハイっ!」

 

面を食らった顔から彼はしだいに黒髪の後ろをかきながら笑う。

彼の何気ない普通の返事とリアクションに、皆はやんわりと笑いだし、再確認するようにうなずき…円陣は横並びいっぽんに広がっていく。

 

見晴らしのいい荒廃した街広場で、陽光に照らされた6つの影がそれが当然のように同じ方向に向いた。

 

一度キリよく平らげクリアされた状況に、また性懲りもなく慌ただしいモンスターたちの足音が近付いてきている。

 

各々、武器を手に取り構える。

鼠の執事はそこらに落ちていたチップをまた丁寧に磨いていく。

この6人で一番の実力者シデン・レイラをリーダーに据え、皆はその指示をよく聞く、敵を迎え撃つ準備に抜かりはない。

 

 

「てかそもそも楽天くんの分がないんだからね! こずえのも!」

「え? あ……はい…」

「おぉ、でも──つきやまノンキに寝てたでぇす」

「の、ノンキじゃないからァ! と、とにかくあのメガネ鼠も寝てる間にみんなで倒しちゃったんだから! あんがとっ!! でも、どうせなら目指すは全員ハイスコアの白星でしょっ!」

 

海都の先程のお言葉に丁寧に突っ込んだ月山は牛頭梢にありのままの事実を言われツッコマれた。

少したじろいだものの月山は最後にまとめ上げ、威勢の良い言葉で締めくくってみせた。

その彼女の放った力強いお言葉におのずとまわりの士気が上がる。

 

「おぉ、おぉーもっちょりもちろん」

「もちろん…っすね!」

「チュチュ…しろぼし?」

「ハイスコアの白星かい、──ガライアでいうことろの、ワシ頭に駿馬の脚…ふふどんなときも欲張りたいものさ…黄金の守り人は!」

 

シデン・レイラは遠目に黒剣を突き刺し示した、狙うはどうせなら大物を、鼠屋敷の象徴である鼠色の巨頭のかざり。

黄金の守り人として、シデン・レイラとして彼女もまた役を果たすためのめり込んでいく。

 

全員で帰るまでがダンジョン。決意する彼らに黒星はカケラも──いらない。

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