雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
背を貸し合い協力し鼠の残党を討っていた月山は、突如隆起した足元によろめいた体勢を立て直し、海都に話しかけた。
「ねぇ、やっぱりこれ…おかしくない? 色々と家とかヘンなのさっきから生えてきてる気がすんだけどッ」
「っすね…なんか雰囲気がイヤに変わったような…というか道もグネってる…?」
立つ地はぐねり、モノが無秩序に建ち始める。
壊れていた中世ヨーロッパ風の街並みがナニかの苛立ちに呼応するように────訳もわからなく増えていく。
屋根から飛び降り仕掛けてきた敵鼠の伏兵を白いミトンを纏ったオーラ平手ではたき落とした。
空中に跳躍したチュチュンは家壁を蹴り姿勢を反転、そのままかろやかに月山と海都の元へとおりていく。
「チュチュン、書斎のイワナイにきいたことがある箱舟はネムったままいきているって」
「箱舟は眠ったまま生きている? 箱舟はたしか獅子くんに聞くところによるとあの屋敷のことなら、チュチュンそれはどういうことかい?」
「チュチュ。箱舟は悪魔の化石だっていってた、だからイワナイにしか動かせない。なんかいかへやもようがえしたいた、きげんの悪いヘンなこれもきっとそう」
この賑やかしのために作られていた街がそうなのだと元リビングのチュチュンはいう。
箱舟、書斎のイワナイが彼女に教えた悪魔の化石とも言われているモノの仕業であり、また激しい模様替えの延長であり最中であると。
「箱舟、ダンジョンのケイオス、悪魔の化石? とにかくどれも理解にじかんが要りそうなヤバそうな代物かい。ふむふむどうやら…死してもなおあの腕ばかりのネズミの恨み、いや拗らせはつづいているか…家主がいなくなって暴走していると考えるのが美しい筋書きさ!」
「まじすか…まだあの滅茶苦茶な鼠のボスが…」
「ちょっと本当に理解できないんだけど…次から次へといってるそれって妄想だったりする…?」
「チュチュンは嘘つかない、かわいいにんげん」
「おぉ、たしかにどうぶつは嘘つかないでぇす」
別々の方向からささる…10の瞳が青い瞳の元へとあつまる。
見つめる10の瞳は何も言わない。
しかし、明らかに憶測をじぶんに向け言っている。
「ちょっとなんで私の方見てるわけ……はぁアレが相手なんてさいあく」
「嘘と妄想にMPをつかうのは無駄さ。ふふ、なら今度はそのアレが相手だ。しかし例の黄色をあと2つ見つけたら無理せずさっさとずらかるのもいいさ! 今日は観るのを忘れたのさ、昼間のお天気予報!」
「は、ハイわかりました! 雲行きが…なんかイヤっすから」
「はぁほんと…見つけたら即帰るんだからァ!」
荒れ模様がじわり広がりつつあるこの不気味さを増す街から…早く帰るに越したことはない。
皆はもう一踏ん張りと気を入れた目を互い互いに合わせ合う。
さいごにシデン・レイラは高みから子供たちにウインクしお茶目な星色をとばした、そして前方に目を凝らす。
屋根の上でしゃがみ構えたライフルが赤い閃光を放ち素速い鼠人形を射抜いた。
▼
▽
6人は屋敷から出撃してきた鼠どもの討伐スコアを重ねていくが新たな黄色いチップは未だ見つからず、ダンジョンと幸運に嫌われながらもオーラと体力のかぎり戦いつづけていた。
そんなとき、歪な戦場の風にひらひらと舞い────
汗流す青年の横顔へとべたりと引っ付いた紙切れを、シデン・レイラはぺろりとはがしていった。
⬜︎
ダンジョンの果てにはケイオス濃度の高い、身の毛もよだつような悪魔がいるはたまたネムっていると推測されます。
コスモスとケイオスの神話はご存知ですか?
フフフ、知らなくても無理はありません私もあまり知らないので。
すこし思い出した過去話をしましょうか。工場生まれの鼠のナカでも生き残りに生き残った通称レベルアップ鼠である我々は特別にこのような屋敷に住まわせられ他の鼠たちより愛でられていたとか、そしてまた世話人であった巨人や知らぬ存ぜぬ悪魔のおこぼれを運良くいただいた…ピラミッドの一点…いえ、永遠に捻れたリボン輪っかを成す一点にすぎない。
つまりは……鼠の身でありながら私がさらなるレベルアップと聖戦にこだわったのも本を読み解くうちに輪郭をあらわしてきた絶対的な頂点に対する恐れと敬いと好奇心からくるものでありなにも私の趣味ではないということですよ、フフフ。
さいごにヒラヒラくん臆病鼠は訂正します。あのような勇敢さと聖なる光にあっけなく焼かれるのもモンスターにふさわしいキリのいい一興であったかと。
では健闘を期待しています。
あとできれば動く悪魔化石のことを書物口伝として残していてもらいたいものですね。
⬜︎
手に取った一枚の紙ぺらを見つめ、真剣に黙したまま…
「あのシデン・レイラさん……それになにか…」
彼女の真剣な横顔に海都はおそるおそるたずねた。
しかし彼女は横顔のままぶつぶつと唱え、──やがてそれをくしゃりと丸めた。
「────この口ぶりだとアレは誰だと言うんだい。まさか本当に悪魔化石なんて夢のある冗談が動いてるのかい。しかしどうみても悪魔化石というよりは昔家にあったニンジャマン消しゴムを忍ばせ居候されていた玩具の家のようなファンシーさが勝っているさ…」
シデン・レイラが怪訝な顔つきで見つめる方を、海都もまたゆっくりと顔を向け見つめる。
立ち上がり、その光景は街を踏み潰す。ひとりでに暴れている……鼠屋敷がある。
『べああああああああああクソだクソだクソだ! せっかくネムリから覚めてみればこの姿はなんだ! この手は、このふざけたカラダは、この小鼠どもは! ええい鬱陶しい! 我から離れろ!』
『貴様らの仕業か! この我をコケにしたのは!』
彼方から大きな屋敷が歩きだし、ちいさな家々のカーペットをゆく。
小人たちは揺れる騒々しい地にそれを見上げ見つめた。
「な、なにこのこえ…楽天くん…家が動き出して空がしゃべりだしたんだけど…」
「月山さん空じゃなくてたぶん家がしゃべってる…っすね…」
「おぉ、しゃべる家ちょっこしほしいかも」
「たしかに家主が寝る時に子守唄をうたってくれるならば、それはかなり便利さ」
鼠屋敷の象徴である鼠の巨頭は、糸で縫われていた上口と下顎をぶちぶちと千切り解く音を立て…
鋭い牙を剥き出しにその大口を開けた。
『いかにもクソオルラの臭いしかしない雑魚がもういいッッイラつくカスども鼠どもメッッ!!! 夢から醒めた馬鹿どもは仲良くチリゴミ失せろォォォ!!!』
ソレは、巨大な鼠が怒りにまかせ引っこ抜いた時計台に次々と吸い寄せられていく。
カーンコーンカーンコーン、とチャイムは鳴り響き、散らすように逃げた嫌がる眷属たちを支配していく。
汚い小鼠の色が纏われ群がった…長い得物が出来上がり──薙ぎ払うように振るわれたソレが苛立つ街並みを根こそぎ抉り取っていく。
6人が目撃し耳に五月蝿い、反時計回りにすすみ始めた、あり得ない光景に────
「ってやばくない!!!」
「ヤバイさ!!!」
「うおおおお!??」
「ちょっこし詰んだ?」
「チュチュ…!」
「なぁに難しくはない一種の大縄跳びさ! 非常階段はこっちだ!! 落ちたらゲームオーバーさ!! 合言葉はトントンタンだッ!!!」
「嘘でしょー!」
「うおおおととととととにかくジャンプっすね!!!」
「チュチュンはとくい、トントンタン、チュチュ」
「私はやったことないけどォォォ! トントンタンってなにぃ!」
「俺もっすよ!!! よし…ッ…トントンタンっすね!」
「ちょっこし。腰にくるやつっ! 」
「落ちてもいいから急げ! この死の予感ッ死にますよ!」
「落ちてもいいわけッ! はあああああトントンタンッ!」
「トントンたおぉ、やば落ち」
掟破りの反時計回りで迫る…焦燥、恐怖、振動、極度の緊張、6人は各々の足取りで浮くクラブ葉っぱの足場をゆく。
虹色のグラデーションを急ぎ駆け上り、ときに手を取り合う。
急ぐ、
急ぐ、
急ぐ────銃口から伸びた赤い菱形がその腰を抱いた、遅れたダルメシアン柄のノッポを皆の腕で支え合い拾い上げた。
やがて反時計回りの死の針はお構いなしに流れていく。
吹き抜けた一陣の暴風に吹かれた礫チリゴミが、小盾を寄せ集めて成した一枚の大盾の裏面に殺到していく。
〝ガガガがガガガがかかカカカンッ────────〟
一枚の虹の葉にしっかりと捕まり、裏と側面から吹く浮く風に吹き飛ばされないよう互いの手と手で服を掴み皆は体を繋げあった。
やがて弱まった風に……力強く結んでいた12の手は離れ…
なんとかやり過ごした状況に、おもむろに起き上がっていく。
「ふふ、なつかしの大縄跳び!」
「どこもなつかしくないんだけど……」
「ちょっこし死にかけ…でぇす」
「チュチュぅ……たのしい」
「…っす──あァ!????」
この覆うカゲがなんなのか、見上げた彼らは──束の間の安堵から急転し迫る結末を悟る。
蠢くモンスターの外装と、狂ったように逆回りを続ける時計台の時計の針。
鼠屋敷の悪魔は寄せ集めた悪の剣を、寄せ集めの小人たちに向かい、叩きつけた────
思わず見上げた光景の、時は止まらない。
『強めの○ボタン、よっとぉ、』
みずみずしくくりぬかれ、あたりまえにすぎてゆく────
「技能じるしは○じるし、ドライブおわりのド神子、ただいま見参。────おっ、ツキヤマと毛布くんとクローンド神子じゃん、ここで何やってんの? なんかこれけっこうヤぁばいじゃん。おっ、なんか新キャラが3人? ひとり、にひき? へぇー、てかイマこれって浮いてない、?、やば、」
誰もソレに答えない、唖然とソレを見つめ、息が詰まるような目まぐるしく過ぎ去った瞬間をイマやっと飲み込もうとしている。
「ふふ……この夕立は予想できないさ。──ふぅ……」
6人に迫っていた死の針は丸く抉り抜かれた。
鼠色は弾け、数多の礫と鼠の残骸が地上へと散っていく。
荒々しく鋭い水撃で抉られた文字盤から崩壊した鼠時計台は、その計り知れない威力衝撃が最後まで伝い……全てチリとなり、砂礫の橋が重力に引かれおちていく。
6人を覆ったカゲは消え、陽光はふたたびその姿を覗かせる。
やがて降り注いだ天からのシャワーが6人+ひとりを打ちつつんでいく。
颯爽と現れたのは、学生と教師たちが見覚えのある緑ジャージを纏った、どしゃぶりのド神子。
虹の葉の上に立ち、小洒落た珊瑚柄の剣を持つ、ひとりでしゃべり笑った黒い眼差し、
過ぎゆく死の淵を味わったシデン・レイラはドキドキズキズキと高鳴り続けていた自身の中にある死の予感が失せていくのに気付いた。
纏っていた危機する冷や汗が、思いもよらぬやさしげな雨に塗り替えられていく。
濡れて乱れた白黒髪に──しなやかな涼風がながれた。
思いもよらぬ援軍、思いもよらぬ恵みの雨。
奮闘の末に訪れた…
運という運を吸い寄せ集めた虹色の四葉の上に、個性豊かな7人が集った。
チュチュンはブルブルと体と顔を揺らし灰色の毛についた水をはじき、
ちょっこし腰をいためた牛頭梢はどうぶつの仕草をながめている。
月山はぽかんと口をあけたまま…ツッコミたい口先を泳がせ我慢。
鼠執事はパッと黒い傘を咲かせていた、海都はずぶ濡れになったタキシード姿に苦笑いしながらもかるく礼をした。
「あいにくの雨だけど、アレをまかせて大丈夫かい」
ぽたぽたとしたたるモノをそのままに、少しメイクのにごり落ちたシデン・レイラは向かい合わせた参上した古井戸神子に尋ねた。
「あー、え? わたし1人で? えパンダフルウーマンそのヤぁばいオーラでやんないの? あ?────あー、ド神子タイプの訳ありかぁ、まぁ、あのクソデカチューチューハウスに飛び込んでみないとシュート撃てるかはわかんないか、あー、相変わらずここって狂ってんねぇ、いや前よりくるってる?、なにアレ、はは、」
(スペードルのオーラが見えている…)
(! …なるほど私と同じ4つの内在オーラ…いえ!設定された共通概念? ではなくこれは純粋な属性色…あの威力鋭い水属性の刃に、ここまで一瞬で駆けつけた雷光…雷夏と同じ雷属性ですか。のこり2つは…なんでしょうこのニオイ、石と…炎? わかりませんが……夕立どころではありませんね)
顎に手を当て考えだしたシデン・レイラの真似をし始めた古井戸神子。見つめ合い会話する実力者2人に海都はおそるおそる口を挟んだ。
「えっと、どうすれば…俺も」
「いえとにかくここは万全の彼女に任せて遠くから援護射撃だけで十分です。(パンダフルウーマン……なぜ…──しろくろ…)」
「え、は、はい…どみこさん滅茶苦茶つよいんで…? いいんすかね…? たしかにまた俺足手纏いになりそうなんで…」
「はは、まじ? 無限毛布くん、そのド神子とその他でシコりはじめたエロ盾で参戦すりゃいいじゃん、ビームビーム元気ビンビンだし、」
「しこ……えっと、たしかにコイツ…エネルギーがまた溜まったような…?? ってあの……」
ド神子は白い盾を指先でつつきいじった、海都はすこし困った顔でその長い謎のつっつきをガードしている。
羽織っていたボロマントをぎゅっと絞り、含んでいた水が滴り跳ねていく。気を引き締めたシデン・レイラは自由に遊びだした黒髪の兄弟に向かい、鼻からひとつ息を吐き口を開いた。
「流されないように状況とたたかいのスケールを考えるのさ。どんぱちやったこっちのオーラも残り多くはない、相手はあのデカさと攻撃の規模、まずは素早くこのミニチュアの街並に半分に散って各々守りを固めて遅れてきた勇者のお荷物にならないことが優先さ。あまり出しゃばると不意に天からやってきたグリフォンに啄まれるとガライアではよくベテランの冒険者たちの間で言われていてね」
「そ、そっすね…はい…」
「あ、もう、決定か、はは、めっちゃしゃべるじゃんパンダフルウーマン、」
「とにかく、も、もう決まった? はぁほんとさっきの死にかけてやばいんだけど…」
「だから言ったじゃん、ツぅきぃやぁまぁ~」
「いっ、わっ!? わたしはいいからふざけてないでさっさとアレ倒してきて!」
「えーー、ヤだよあんな変なの、──ヤルけど、」
「そ、そうしてくれるとめっちゃ助かる…から…はぁ……ほんとおねがい。ってほんとにヤレルの?」
「あー、ま、○ボタンと×ボタンつかえりゃなんとかなるんじゃない? テクニカルスピン、」
「ちょ!? こんとこで回さなッ──」
疲れた表情をした月山に意味もなく抱きつき──そのままくるくると危ない足場の上で回転。ずてんとふたりが柔く転んだところで──
「どうしようもないおしゃべりはここまでさ、さぁていよいよ帰って湯に浸かるまでがダンジョンかい!」
「あー、なが風呂、きらいなんだよね、」
「……いい温泉宿を紹介するさ、蟹つき」
「かー蟹かー、蟹よりわりと肉だわド神子、」
「たらふくの肉もちくわもワインもクレープもビュッフェもここを切り抜けてからさ! 腹は空かせて宝を存分に詰め込めるようにね!」
やはりリーダーは変わらず、その指示のもとに皆が返事をし動き出す。
6人はシデン・レイラと牛頭梢、月山と海都とチュチュンと鼠執事に分かれて歩く鼠屋敷攻略作戦は開始された。
大役を言い渡された古井戸神子は握る…珊瑚の柄の握り心地をたしかめ、──笑う。
地を蠢く鼠色に塗り潰し、地を揺らし動き始めたデカブツの光景にその切先をゆっくりと向けた。
▼
▽
勇者役を任された古井戸神子は鼠に埋め尽くされた街路を切り開き駆け抜けていく。
鼠に構っていたところに天から投げ捨てられた──建物を雷光光らすステップで避けながら、
轟音を隣に置き去り、また寄り付く鼠人形群を丸ごと水の刃で一閃し、ハラワタを街並みに散らしていく。
「あーこれがつづくかんじ?きたないシューティングゲームかー、そりゃその図体だとわざわざ出向くまでもなくそうするかー、剣ってやっぱめんどっちぃわ、止まったとおもいやそれねぇー、なーんか裏技で早いとこアレに取り付けないかなあ、当主代行に持久走はしぃんどいわ、」
ド神子が攻めあぐねていたところ……後ろから唐突に押し寄せた春風が、規模を膨らまし鼠どもを巻き込んでいく──
「おっ、ありゃありゃアレは、あー、──さっすがパンダフルウーマン気が効くじゃん、ってなにこれ製作者ドS?、」
鼠色の竜巻が明けて──ド神子が見上げた空には色鮮やかに煌めくクラブの盾が浮かんでいた。目線をそのカラフルの点々にたどらせていくと、そこを渡れといわんばかりに屋敷までのコース取りがされているのが見て取れた。
しばし立ち止まっていた雷光は、たかる鼠を一瞬に吹き飛ばし、地から飛翔した。
緑、青、赤、黄、紫────跳躍しながらそのハードなコースを乗り継ぎ行く。
レンガの腕をはやした鼠屋敷は、次々とモノを投げつけ出鱈目な弾幕を張る。そして投げつけた建物の中からドアをこじ開け更に出撃、空を泳ぐ鼠が前方に直進する無防備なド神子に収束し襲うが──不意に横から射し込んだピンク色の光に滅。
作戦で言われた通りに厚い援護射撃が開始され、ひとりのための道を作り出していく。
更にレンガの右太腕に6人は火力を集中、投げ捨てようとしていた教会を掴む不遜な指を破壊して阻止した。
黒髪を激しく靡かすデコ出しは、その光景にニヤリと頷いた。思いもよらぬこれ以上ない期待以上、充分な追い風を得て、
「────よっと、せったい、到着、」
そしてついに辿り着いた。
盾足場を蹴飛ばし直進する雷光はそのまま見知らぬ小部屋へと突っ込んだ。
異物が侵入した直後にバタンッ──
ひとりでに閉じられたドアは【マヌケのへや】と札がかけられた。
ナカはちゅーちゅーとやかましく音が篭り、重なり、静まり返り……
────やがて溢れんばかりの綿雪に弾け飛んだ。
人形の綿で黒髪を白く染めながら、埃っぽい空気に咳き込んだ。
「うぃー、ごっほごほッッ!! うぃー……到着、」
『べあッハッハッハ──馬鹿め、マヌケめ、痴れ者め』
「ごっほほ!! ……あ、なにが? 裏技でクリアされてくやしかった? そりゃわーりぃわ、ごっほえっほ!! うぃー……」
『べあッハッハッハ悪いのは我だ。ここは我の器のナカ、我が我でいれる起点エリアだ』
「おー、なるほど、いざ尋常にということか、チューチュー屋敷がうまそうなにっくやっしきぃ~、──だからダンジョンってヤァばいわ、」
どこからか響く威勢のいいアナウンスに呼応するように、
本来は外から中が丸見えガラ空きの構造をしていた見せもの屋敷は、みるみると塗り上げられていく異様な肉質の壁に閉じ込められた。
見ようによっては悪魔屋敷、ファンシーさとグロテスクが融合した美術屋敷へと様相は変わり果てた。
『ベアハハ見ていたぞ…カスどもの割にはなかなか上質な貴様のオルラと肉を喰らい、コノ我がこのふざけたカラダから貴様のモノに乗り換えてやろうというのだ!!!』
「あー、まじか、それで手ぬるく歓迎してくれたんだ、案外いいやつじゃん。あーてかまぁーたド神子でシコる厄介なやつ増えたな、はは、」
『ベアハハハ今のうちに戯言を吐いておけよ──我の課した試練を掻い潜りここまで辿り着いた褒美だ、貴様のそのアソビに付き合ってやろう』
宣った悪魔の戯言に、古井戸神子はぼーっと立ち止まったまま壁を見つめて訝しむ。
蠢く肉壁から、じわりじわりと捏ね上げて……顕現していくショウタイ。
不気味な音を立てながら足元の木床が軋み、イヤな色に穢れ濡れていく。
やがてツギハギの皮に縫合され……紫の悪魔はカタチを成し、現れた。
ほつれ狂ったボタンの瞳はワラい、縫合された口糸を引き攣った口角が引っ張り上げる。ニギニギと幾度か握った柔い手指から、イラついた鋭い爪が突き出ていった。
「ジカンだ構えろよ、小娘」
「あ?」
出来上がった世にも不思議な悪魔人形に女は見とれていた…珊瑚の柄をゆったりと構えたときには──
ソレは通り抜けていった。
急ぎグネった視界には紫のカゼがながれて見えた。
「べぁっはは、言ったであろう──マヌケのハリボテめ」
悪魔は、黒い臍の緒の飾りを反時計回りに狂わせワラわせる。
ズキリと痛みが走る…左の肩口をおさえ、勇者はその厄介そうな歓喜と奇声に振り返る。
その切先でぶちぶちと音を立てて縫い目を裂いて大口を咲かせていく。悪魔は嗤い顔を凄ませ深めていく。そしてこれ見よがしに赤く染まった黒い時計の針を旨そうに舐め上げた。
勇者はひび割れた自身を覆うシールドと、カランと床に落ちた珊瑚柄の剣に、苦笑いを浮かべるしかない。