雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
生存会はまだつづきまた盛り上がりつつある。
調理部屋に、やさしいほんのり甘い匂いがたちこめてきた。
13層、重ねたケーキを味わう。
皿とフォークと笑顔と。賑やかな笑い声が響き合う。
ミルクジャムを基調に、真ん中の層にはアクセントとしてフォークが進む度に味が様変わりするよう様々なフルーツジャムが塗られている。これは誰のアイディアだと聞かれて半分は自分だと海都は遠いその日の自分の誕生日のことを思い出して照れながら答えた。幼い自分の理想を叶えて焼いてくれるのはいつも母であったからだ。
心がほんのり温まるエピソードと甘いミルクレープに、甘さを七変化させフォークが進む。
『数合わせのデザートには間に合ったようだ、タイミングよくもったいぶりすぎず理想だったかな』
「ほんとだ味がずっと飽きずに変わっ…はっ!? 楽天くんあれって…スピーチが3秒でなんとかシーユーの…」
「え、えっ!? あれもなにもたしか…というか俺たちの……っすよね…」
「おっ、はは、汗キラキラさせてだれ、アスパラ王子?」
「雷夏? コイ…この…お方は?」
「ちょっこし? えらそう? くーるぐりーんすたいる」
「ふふ、誰かい…」
「来たか♡遅いぞミッチー!」
「「ミッチー!?」」
終盤の宴の席に、するり颯爽と現れた……。
シャレた百色の緑を用いた世界で一着の迷彩柄のスーツ姿は、学生ではない。その背筋のいい王子が深く濃い紫ワイン色のネクタイを意味もなく引き締めながら、皆の注目をあつめる。
それはミッチーではなく校長だ。ミッチーでもあり校長でもある、緑蜜高校の校長。ダンジョン用に迷彩風の装い、祝いのワインカラーのネクタイで宴もたけなわになってきていたダンジョン部にタイミングよく初登場した。
そして、さっと右手を品よい高さに上げ、ここに招待してくれた元気な赤目の持ち主に挨拶をした。
「やぁ、ナッチーずいぶんとめでたいようだね。──シャンパン、開けようか」
「「ナッチー!?」」
現役緑蜜高校生徒の2人はミッチーにつづきナッチーにも反応した。ポンっと、どこからか取り出したケーキ用のシャンパン蓋の音がなる。ミッチーは爽やかな顔で祝砲をあげ、そのボトルを驚き突っ立つ月山にやんわりと押し付けた。
「君がいつものツッキーね」
「いつもの…ツッキー…ですけど…。はい。(もしかしてこの謎のニックネームここから来てた…)」
地球色の青を見つめる男の黒目はそれだけ言い、王子様の笑顔のまま頷くと、次の訝しむ別の青、アクア色の方へと歩いていった。
「君はつぶらな湖に珍しいスカーレットが一輪咲いたようだね和風ランスロットちゃん」
「……」
ムスイは睨むのをやめ、珍しく浮かべたことのあまりない苦笑いをその男に浮かべてしまった。
「君は、──相変わらずお目目だねド神子、ほらせーので笑顔」
「あー、はは、──ぬにぃ、」
せーので笑顔──餅のように伸びるほっぺを伸ばして笑顔を強制、矯正。また王子様スマイルを披露してなつかしいつものスキンシップに頷いた。
「君はなんだい?」
「チュチュン、ミッチーりかい」
「君はチュチュンかわいいりょーかい。はいチーズ」
「チュチュ…もちゅもちゅ」
かわいい鼠の子にはしなやかな指先につまんで口に運んだチーズを──
「君は……しらないねははははははは、じゃ。──チーズいる?」
「ふふ…そうかい……。──お気遣いはけっこうさ…」
白黒ツートンのお姫様にもご挨拶を、だが人違いだったらしい。王子は彼女の肩に手を置き笑い飛ばす。
「そうだ、えーっと君はどうしよう」
「──層くん!」
「そ、そうくん? あの俺らくて」
「もぐもぐ────食べたことのない屋根裏部屋の秘密のまかないの味だねっ。じゃ、理想と伝統ある緑蜜ダンジョン部の生徒たちその輝ける器でほどほどにおのおの追い求め頑張りたまえー! あーそうそう慌てなくても大丈夫さ、天は必ず堕ちない! ふっ、シンリョクシーユー!」
パパッと決めた、彼のあだ名は層くん。鼠の執事に手渡された皿乗せのミルクレープを手掴みで口に運び、大口の丸呑みで食し、押し寄せた複雑な味わいに頷いた。
最後に両手をかろやかに広げ天を仰ぎ、左のウインクと振りすぎない手振りのさようならを────
校長は見つけた竹の皮に包まれた土産の紐を片手に、この生存会、祝いの場をテンポ良くしっかりと全員を祝い去っていった。
すっきりと整った長さの崩れない黒髪と百色緑の背が遠ざかっていく──戻っていく。
「──シンリョク道どっち?」
まだシャレたあだ名をもらっていない牛頭梢は、ブロック作りの部屋の進入口からひょっこり顔を出した迷子、良い笑顔で固まった彼の元へと率先し歩いていった。
輝かしいさわやかな風は去り、場は静寂と僅かな笑いと良い笑顔に包まれた。
やがて……腕を真っ直ぐに下ろしたまま押し黙っていた赤髪はとなり立つ青髪の笑顔に問うた。
「……アレはなんだ雷夏」
「もちろんここの絶対的校長だ。んやんや相変わらずおもしろい!」
「嘘をつけ。お前が先生でアレが校長ならそれはきっと学校じゃない」
「はは、よしな、ここ母校、」
すっと横に並び立ったチャイナ服を着た当主代行を一瞬横目にチラリ、ムスイは雷夏の方に向き直った。
「雷夏、お前が正しかったようだ」
この校長にこの先生にこの生徒、どうやら納得できるだけの説得力があったようで。
「まぁ、あーいう名物校長って中学にも…千葉にもフツウにいるよね楽天くん…」
「いた……っすね…」
生徒2人も全校集会で見た毎回3秒で済むチャーミングな挨拶しか知らないので、30秒以上濃密にしゃべり動いた若々しい校長の余韻と漂う白いシャンパンの香りに今また浸りつつ。
「アレがここのトップかい、ふふ…どうりで気品が気品を纏って立って歩いていたようだ(どういう風の吹き回しか…あとでうかがいましょうか…)」
肝を冷やした…岬麗が演じるシデン・レイラは顔の汗を拭い、サプライズで登場した気品ある男の部屋をあとで調査することを誓った。
緑野光男、今年でちょうど50歳。
その醸し出すカリスマ性と爽やかな容姿に惹かれた地元の新聞にもたびたび快く取材を受け載る、緑蜜高校の若々しい名物校長。
人は卒業した緑蜜の生徒たちは、理想のおもしろい校長とは彼のことを言う。…という。
そして道案内役を買って出た牛頭梢のあだ名はゴー★こずえに3秒で決まったようだ。その混沌と煌めく灰色のお目目に前向きな意味を込めて、燃える赤い理想へと恥ずかしがらずゴー。…だそうだ。
⬛︎マリアレポート46
WASA宇宙開発局所有エリアD-117
この日は亜空間入り口の穴から観測される電波ジャミング帯の活動リズムが不安定になり、試作した電波通信自律行動機器ドラヤキのEレーダードームが故障。
さらに改良したDウォッチマークⅤで測るあらゆる作戦数値が荒れており優れないため、この日予定していたダンジョンへのダイブはなし。故障したドラヤキが直るまで延期となった。
我々WASA宇宙開発局サブスペース開発部所属の第4探索部隊ホワイトカノンベルのおもな仕事は月のカケラほども価値のないチップの回収。分析班への食い扶持の提供ということだろう。
もっぱらの目標は亜空間内の中継基地の設立。今までのようなツギハギを一方通行するアトランダムな冒険ではなく定点から観測し不可思議なルールを解き明かす必要がある。だが、何よりも優先すべきは座標の特定とでも言うのだろうか。トランプゲームの神経衰弱に近い、一枚でもめくり手元に置ければこの亜空間、サブスペース、いいやダンジョンの可能性は一枚二枚と…果てまで推し広がることだろう。
光学レーザー通信は厚い雲霞のようなものに邪魔をされ役に立たない、電波通信も未知の高エネルギー帯にジャミングされ機能はしない。カメラで彼女らの愉快な戦いざまを映像におさめるのが精々。シャーウッドに提供する新作スペースオペラの制作資料ではないが、まだまだそのハック&スラッシュ&バイオレンスに需要はあるらしい。
スタート地点だけ与えられこうも問答無用に隔絶され宇宙空間以上の未知のエネルギー帯にこちらのズルが阻まれる。ダンジョンへとつながる小さな穴が幾つか開いているだけで現世に微弱な通信障害などの悪影響をおよぼすほどのひじょうにいらないものだと分かる。
あの当時隆盛を誇っていた世界多発的に発生した亜空間穴、ダンジョンに対する総意論文は現代人による現代の基本的生活基盤を維持するための忖度ではなく、論拠がないどころかまさに選んだ亜空間穴封鎖、縮小化ルートは正しかったのだろう。
元に戻ろうと爆発しないかぎり……。
さておき、通信機器が役に立たないならアプローチを変える必要がある。例えばダンジョンのルールに則り効果を発揮できるチップや探索者たちが固有するスキルのような物を私のドラヤキに用いる…。こちらの世界ではあまり役に立たずダンジョンで役に立つ……幾重にも積み重ねた科学の翼をあまりにもあっけなく折られた我々には今、流れをかえる真逆の発想が必要なのかもしれない。
私のようなものが二分された組織の中、憧れ花形の宇宙人にはなれずこちらの存じない利用価値の薄いアンノウンに浸かっているのは……やりがいがあるとも言えるな。
まぁ権力闘争というのは長い物には巻かれろが鉄則だ。
アーメリガの皇帝選びも、WASAでの活動も。
よりオーラのあるほうに巻かれていくのだろう。
■
白衣金髪は静かな音を立て、ノートパソコンにこの日の簡易レポートは打ち込まれた。
この日のダンジョン探索は中止、チームカラーである白服に着替え、穴から離れた荒野にぽつんとある基地で待機していた4人は結果着替え損だ。
しかし様々なデータで示された決定を部隊が無視することはできない。
むせるようなしけた空気が流れる。
そんな中突如、おそろいの白い戦闘服が宙を舞った。
がらりと姿を眩しく変えた、ウェーブしたセンター分けの金髪は耳掛けのサングラスを傾け下げながらすごく明るげに言う。
「さてイキマース、キバラシに有給でクール日亜へとせいひちゅツアーバカンス! このまましっけしけたホワイトカノンベルでぇっ!」
「ぼくは──…遠慮しとくよセリー!」
ナップはその女性の横顔をうかがい、突飛なツアーを提案したセリーにそう言い、好青年の良い笑顔で笑った。
「行くか馬鹿、ってなにんなことで有給使ってんだオマエ何回目だくそほど自由か右足の鎖打ち直すぞ」
アマリアはその早着替えのふざけた恰好をした女を睨みつけた。
水色水玉模様の水着、胸元は大胆豊満。デニムのホットパンツを履き、肩が寒いので淡い青のパーカーをはおった。
──夏の波をかんじる水着パーカースタイルで、腰に手を置き恥じらいのないへそ出しのポーズをしセリーは笑っている。
「行かない。日亜でくすぐられるのは京都観光寺院めぐりと大阪こなもんグルメイカ焼きを片手にそのままマルーン色の電車に乗りモーモーイチの肉まんを食べながら甲子園とついでのお祭りぐらいだ。それ以外ならここを出る必要はない」
皆の反応はいつものセリーのことだと、そっけない他人事だ。
「はぁ万年開かずのインドアなのにくわしいな。キョートオオサカはわかるぞ、コーシエンなんだそれ? それも食いもんか? てかオマエ華奢なのに食いすぎだな、その骨と皮のどこに収まってんだ」
「わお、アマリアなのに知らないのでぇすか? 熱い熱いサマーせいひつデスマッチでぇす! そこ甲子園コロシアムでは激闘を勝ち抜いたマイトシヒーローが生まれまぁす!」
「姉さんヒーローだって!!」
「はぁヒーロー…コロシアムだと? どっかで聞いたことあったか?」
「アマリア、セリーは嘘は言っていないがそれはコロシアムじゃないベースボール大会だ。スポーツ大国のアーメリガとはちがいあの国では一番のヒーローとも言えはするね」
「なんだベースボールかよ。そんな大会をオマエが見に行くなんて想像つかねぇな、あとふざけんな訂正しろアーメリガでも」
「姉さんがす──」
「ハッ、くだらねぇニチアのまねっこベースボールに興味はない。おい偽マリア様、このアマリア様が本物のベ──」
「ハハハえ、でも姉さん? この間…名前は忘れたけど何かの大会でニチアに負けてめちゃくちゃ悔しがっていたじゃないか? あの日はぼく腰掛けていたソファーにおおきなテディーベアを置いてそっと家を抜け出して特に興味のないレイトショーを見にいったよ。あ、ポップコーンはたべてないよ! 隣の姉さんが怒るから。でもアニメ映画のときは許してくれないかな? あ、アレも日亜だったね? 姉さん……? ぼくの弁護士はもう時効だって言ってたけど…怒らない?」
「ふふふ、それは」
「オォ、さすが絵に描いたアーメリガールでぇす。目の前にありがたく拝みまぁーす」
弟のナップはべらべらといつかの思い出を詳細にしゃべった。
しゃべりきるまでいけない事とは彼は分からなかったようで最後にアーメリガのよく身近にいる弁護士に相談したようだ。
アマリアは眉間の皺を深めていき、よく通る声のボリュームを上げた。
「しばくぞカスども、あんなの本気じゃないノーカンだ! 今度ヤルならオレが1番で出てやる! ラゼルあの野郎3番に居座ってブンブン三振しやがって、田舎で冷蔵庫でも売ってろ! 売られて縮こまって入ってろ! スーバもだ! お前はみっともないファーボールかセカンドゴロの図体だけだからな! 左のバッターボックスにチーズバーガーでも置いてろ、ケッ」
「アッハッハ姉さんが代わりに出たら優勝は間違いないね。デスタニア大学のチアリーダーのときいつだったかひどいヤジを飛ばしてたよね。バッターボックスに向かった姉さんが代わりにセンター前に綺麗なヒットを打っていたのは腹をかかえて笑ったよ。ハハハあのあと5番レフトの彼とは付き合ってないよね姉さん?」
「いつまでもくだらねぇこと覚えてんじゃねぇきもいぞシスコンが。アァ……ほんと今になってもムカついてきたぜカスヒーローどもが…こそこそやって負けてナメてんじゃねぇよ!球の祭典をどこのマリア様が見逃すかよ玉なし野郎どもめ! ハァハァっ……まぁベースボールで冷えたぶん今度のスーパーボールが楽しみってもんだな、ナップおまえが途中でそれこそ消防士なんてなるから楽しみは半減だがなーっははは! あのままぐぐーーんといったらよぉ国民的ヒーローになれるってのにほんと馬鹿したもんだぜ」
「もう代わりにその消防士もやめてここまでついてきたんだから勘弁してよ姉さん、だって一回やってみたいじゃんスモークジャンパー!」
「オマエなれなかったじゃねぇか、落ちこぼれ」
「だって高いのは怖いよ姉さん? アレ、無理だよ」
「ふざけんな乙女が、チアリーダーでもやってろ」
「アハハ姉さんがね! 大評判だったんだからさ!」
くだらない姉弟の会話ドラマが脱線しつづいている。
静かなうっすい微笑い声が、姉弟2人の会話をさえぎるように流れアメリアは笑ったそいつを訝しみ睨んだ。
「やはりアーメリガ人は自尊心がつよいとはよく言ったものだな、その化けてしまう体質だけではなくそっちでもいいサンプルになりそうだまさしく君は」
「強く殴るぞエセインテリ」
「こんなところに島流しにされたならそう言われても仕方ないね、フフ。エセインテリか…キミの人生はエセじゃない楽しいようで羨ましいよ私はドラマのないただのマリア・アケチだからね。ところでアマリアくんほんとうに私のつくった月の薬はいらないかい? ナップくんはどうかい? 自分の意思で試さないことには進歩はないと思うが」
小さな透明ビニールに封じられた怪しげな錠剤を、突っ込んだ白衣のポッケからおもむろに取り出し、姉弟のどちらかで効力があるか実験をしたいのだと笑いながら研究者のオンナは言う。
「あぁ? こんなところォ何【ホワイトカノンベル】までサゲてんだ? 殴るぞ、強く。そんでヒーローにそんなもんいらねぇっつたろそれにいいサンプルがそのながまつ毛とうす瞼の間にいるじゃねえか自分で飲んどけ、ナァァップこいつのことは今からしゃべるペーピー人形だ3分間無視しろ」
「おや、部隊をバカにする気はなかったが気付かれたか君は案外別方向のインテリだからね。こういう無駄口もここに来るまでは話す機会がなかったのでね日々大変楽しく学ばせてもらってるよ」
「今更学んでないでさっさとオレのために働け、腐るぞ39。歳重ねただけの置物論文野郎はカビたピクルスよりいらねェからな。さっさと宇宙船のひとつでも作りやがれ。口じゃなくて手だ、金だ、宇宙船だ、その無駄口でおだててお隣の宇宙人どもから金ぶんどって来い。誰のせいでこんな狭いバンズのあいだにオレたちは挟まれてるんだオイ、ポスドク、痩せたスポンジ、任期はあと何年だ椅子でカタカタタダ飯食い、そのカタカタカタカタやってる感打ち込んでる日記に何の価値があるんだ後で見せてみろそんで歯ァ食いしばれきっとそのAからMまでが床に散らばってるだろうな。──友達いねぇのか?」
「フフフ……手厳しい…な」
それだけ言うと、もたれかかっていた丸椅子を回転させ己の机に向き合う。思ったよりもぬるい紅茶のカップに一口唇をしめらせ──またカタカタと音が鳴りだした。
「さわがしいですねぇ…ここはせいひつに程遠いでぇす。あソレニー! エセ博士のんのん東京じゃないでぇす。みつけまた真のせいひちゅ。トチギのリョクミツヤキ予約したでぇーす。リョクミーツやきはひきこもりの博士もただしい器をもてるでぇーす、ロクロマワス」
「ただしい器? それは意味がない。私は私で正しい、器は人それぞれだセリー。そんな冒険をしていたらきっとここにはいない。私は科学者だ、オカルトがいきすぎるとそれこそやってる感と言われてしまうのでねふふ」
「ムゥ、マリアはアケチの子孫なのにつれないですねぇー。ニチアンサムライツアー! 神牙流道場! がいこくじんケンシューセーたいけんかい!」
「サムライ!?」
「おい、明らかに撒き餌だろ。ウサギに釣られてどうするステレオタイプ」
「そうだね姉さん? ウサギ?」
「ウサギじゃないでぇすファミリーでぇすさみしいでぇす、一人はすこし飽きまぁーした。それではナァント時空を超える剣技をエトクできまーす」
「時空を!? 姉さん!!」
ゲンコツ。
そんなゲンコツを弟の頭頂にお見舞いするステレオタイプの暴力姉はあまり昨今拝むことはできない。アマリアはイチイチ釣られ大袈裟に反応する弟がいつものように馬鹿っぽくてゲンコツせざるを得なかった。
「子供騙しめ。子供しか騙せてないぞ。サムライなんてただのオッサンがそれっぽく演じてるだけのまやかしだ。あいつら背中から斬られないらしいからな。ありゃ何回か時空を超えてる」
「あぁたしかにそうだね姉さん?」
「時空を超える……剣技。ふむ、どうやって剣で時空を超えるのかね。その剣は光より速いので何者も認識する前に首がトブ、あるいは剣の境地に達することで空間にオーラの歪みを及ぼすことで他と隔絶された相対的な亜時限を──」
「動画ありまた!」
「見せろ」
「ぼくも」
「やはり抜いた刀からマイクロウェーブを受信──」
一同が興味あり気に集まりのぞくセリーのタブレット端末から、神牙流道場の安っぽくて動作の軽いホームページの動画を見る。
『あー、なんか日亜の大道芸に兜割ってのがあるらしいわ。投げた兜を刀で真っ二つ。さァすがにそれはむぅりだから今からすぱっとスイカ割るわ、画面のむこうのみんな、できたら拍手、10秒ね、はは、』
『ツぅキぃぃヤぁマぁぁ、ちゃんと撮ってる?』
『撮ってるけど…』
『けど?』
『なんもない…』
『はは、これ真剣なんだけど、割と、スイカ割と、しごと、』
『ごめん、撮ってるから! もう何も言わないし』
『じゃあいくよ、じゃない、いってよ、今、』
映る映像の画面よこから中々のスピードでスイカが投げ入れられた。
そして瞬きする間もない一瞬──
『おー、』
『あーなんかすぱっとできたわ。あーこれみずみずしい良いスイカだ、高いヤ──え、8000円? はい拍手うううう20秒、けってい、はは、──ツキヤマ塩ある?』
宙に投げ入れられたスイカを十字に4等分していた。
ゴロンと道場床に重い音を立てて、赤い果肉が崩れることなく美しい断面を視聴者たちに覗かせている。動画は助手が塩を持ってきたところで終わり、まじまじと一つの映像を眺めていた者たちから3つの拍手が重なり鳴った。
「姉さん、すごいよ! はやいよ! 今の見えた!? それにゼンゼンおっさんじゃなくて美し──」
「馬鹿野郎…どこが美人だ笑ってるのに目がずっぅと死んでるじゃねぇか誰だこいつ、このゾンビ女はやめとけ。きっと枕が臭い、夜も寝られないぞ」
「そうだね姉さん? 枕は…臭くないよ? すごくかわいいのにゾンビだなん──」
「オォ、びっくりーおどろきまたチパチパチパチパー。こんなキュートな高校生がすごいでぇす、どうですリョクミーーツいくでぇす?」
白々しいセリーの台詞に動画の黒髪女にいちゃもんをつけていたアメリアは即答えた。
「イクかッ!」
「えっ、イクのかい姉さん!?」
「ファック!! 馬鹿野郎イカない! アレぐらいの速さとパワーならオレは左の小指一本でオマエの好きな目玉焼きも作りながらできる、行くぞ。(その拍手をヤメロ、イラつくぜ)」
「行くのかい姉さん!?(やめたよ、殴らないでね?)」
「ちがう、さっそくこの州の小銭稼ぎのエセサムライを片っ端からしめにいくぞ。いつも言っているだろナップ、カビたピクルスは抜き美味しい苺は後だ! まずはこの世にはびこる偽ゴミどもの大掃除だ! 皇帝のクソ野郎もそれがお望みだ!」
「なるほど姉さん! まずはゴミ掃除ッだね! それはまさにヒーローだ! あ待ってよ相手はサムライだよこのカタナを買いに行かないと」
「刀は現地調達だ、ナマクラは片っ端からへし折れヒーロー。わざわざ島国に行かないでもアーメリガは広いぜ、かぶれたホンモノがいればもうけもんだ、いなくても目玉焼きの塩胡椒ぐらいにはなんだろ」
「ははは、それはいい姉さん……。えちょっとナニ言ってるか3分前からわからないよ! ははははア待っておいてかないで姉さん!! ぼくモンスター用の斧しかないけどいいかな??」
アマリアはぼーっと立ち尽くすセリーの耳からふざけたサングラスをぶんどり、ニッと妖しく笑った牙をのぞかせた。
ブロンドヘアーを左に景気よく流しながら基地の手動ドアから出ていった。5つ離れた弟のナップは同じ色に染めた短い髪をかきながら、壁に立て掛けていた斧を片手に外の荒野色へと走っていった。
慌ただしい風が過ぎ去り、手動のドアを誰も閉めない。
「フフ、同じマリアでも彼女の頭の中身はひじょうに気になるところだ。毎日が古典的なホームドラマのようでうらやましいよ」
「アハッ、そのつまらないドラマはナガクなりそうでぇす。キバラシバカンスッ……モーモーイチの肉まんは?」
「いらない、セリー私はドラヤキの改修作業で忙しい。長いバカンスになりそうだ、金がおりない分この金をかけた知恵を注ぎ込まないとね」
「ムゥ……急にもえてつれないですねぇ、本物の博士みたいでぇす」
カタカタカタカタ。
いつもよりキーを打つ音が強い気がする。
セリーは華奢な白衣の背をみつめながらハート型レンズのピンクサングラスをかけた。みんなでアッチでハジケル用に買ったらしい。
「こちらもすこし似たもの自尊心でぇす……。──アハッ、イザベラさぁんみつけまぁたこっちこっちおそいでぇす──エ、さいしょから居たでぇす? せいひちゅですねぇ……あはっは」
黒髪三つ編みのイザベラは基地内の空気に溶け込んだソバカス顔で開いていた出口へと早歩きで急いだが、急に耳にかかり染まったピンクの視界に戸惑いながら……強く握る左肩と明るい声色におそるおそる振り向いた。
趣味の悪いサングラスをどけると自信とおデコを魅せつける金色のウェーブ髪と、金色のおおきな瞳が意味もなく笑いながら睨んでいる。
もしこの世で一番怖いものはなにかと不意に問われたら──この世の影の存在であるイザベラは後に考える。磁石のSとNのようにどうでもいい自分に近寄ってはくっついて、それも自分からは拒めど反発力が足りず離れられない…大して仲良くもない正反対の同性のものと彼女は答えることにした。
それからすこし騒いだ2人もまたイザベラの遠まわしな抵抗むなしくペアを組み出ていき、荒野を駆ける車のエンジン音が静かに響き渡り遠くなっていく。
鳴らしていたキーボードの音は止み……余りモノの博士は微笑いながらそのドアを閉めた────。
世界を牛耳るほどに広大なアーメリガ大陸の片隅で、ひどく自由な意志たちがそれぞれに動き始めた。
生存会から幾月かの時が経ち────
⬛︎
▽兵庫県川西市流水流道場▽
時刻夕暮れ、時を合わせ集まった木剣を打ち合う音が聞こえてくる。三姉妹が剣を握るのは現当主である父親に課せられた呪いであり、逃れられない日課である。そうした特殊な環境にもう慣れたように付き合い、幸か不幸か呪縛か自由か…積み重ねて彼女らは育ってきた。
いつもの道場稽古、しかしこの日はまた何かが足りない。
刻むステップの音は剣道のように静かではない──無法激情。
さらに、次には泣き喚きそうなほどの甲高い叫び声が……その剛力の剣にノセられた。
「スゥちゃんが帰ってこなああい!!!」
水色の髪…白いカチューシャ頭の長女の放った──道場の強固な木床を凹ませるほどの一太刀が、金髪頭の次女を襲う。なんとか後ろに跳び避けたが思わぬイチゲキに、次女は顔をしかめ、雪の結晶柄のおしゃれなマスクごしに白い息を吐き呼吸を乱した。
「ざけんなっ! 馬鹿がいきなりガチ解放してんじゃねぇぞ……アイツいつもの鍛錬だろ、山か寺にでもこもってるのか? 人里に帰ってきたらまた返り討ちにしようぜ」
「ほんとそれ、でも前はギリだった。これ以上強くなるのもうしんどい見つけたら一緒にゲーム。弱体化させるべき──スー」
同じような水色髪。ロリポップを口に含んだジト目省エネの三女が、厄介な感情のままに暴れる長女の元へと介入、3人の身勝手な剣がかわるがわるに、入り乱れる。
「もうほらぁああスゥちゃんがいないと剣なんてつまんなああい!」
「コッホコッホ…! あぁうぜぇ泣くなよ。いいじゃねぇか元々アイツに勝てばこっちはカラオケ行こうが自由なんだから、いなけりゃこんなことしなくていいしずっと自由時間が増えるってのがクソ親父のあたしらに課した呪われたルールだろ。あぁおめぇがいきなり泣くから口ん中冷えてひっついてキレたわだりぃ…」
「そうそう、目的がぶれてる。剣なんておまけ、スイレンの罰ゲーム弱体化が本命──ちゅるスー」
「そうだけどおおおお! もしかしてこないだの梅田デパ地下デートで映画のチケット取れてなくて嫌われてたらどうしよおおおお!」
「ないない、嫌われてもアイツは剣と歌だけにしか興味ねぇよ。ていうかおめぇの事はたぶん1番嫌ってるしアタシに隙ありゃ愚痴ってる、着せ替え人形じゃねぇんだぞ買い物がなげぇいちいちクソつまんないオチのない電話がいらねぇそのクソつまらん決まって死人が出るような病院直行の恋愛映画じゃなくてカレー屋で流れてるインド映画の方がよっぽど陽気でマシだってよ」
「それ昨日うちがきかされた。そっくりそのまま──スハー」
「そうだよね嫌われてないよね! もしかしてもう私より強くなったのかもおお! スゥちゃんってずっと努力する子だからー!」
「「ない」」
動きを止めて、次女と三女2人は声を揃えた。
「いやーそれはないわマジ。こっち天才だし、アイツ万年鍛錬! とかしてやっと打ち合えるレベルだし、親父も言ってたけど剣って血統とか才能らしいからな。アタシにはそれがあるって頼みこまれたからこうしてやってやってるだけだし。それじゃなきゃこんな辛気臭い汗臭いとこいねぇしな。いやー生まれ持った才能とセンスっておそろしいなぁ、片腕の片手の片手間で余裕ぅー」
「ほんとそれ、しかもこっち努力する天才だからレベル上げすればテスト勉強よりスイレンとのバトルはスーパー余裕──スーハー」
「そうだけどおお! きいて
「ひゃくな!? コッホコッホ…あぁだりぃ、もうやめ練習になんねいちいち泣くなよ
「ほんとそれ、三女のサンはゲーセンいく──57連勝かかってるちゅぷる」
「えーーんスゥちゃんの失恋おにぎりが食べたいのおお握ってえ、一世一代のお願いぃ!」
「きもちわりぃ、何が一世一代だよ恋愛脳。その趣味の悪い彼氏は何号でその失恋何回目だよきもっ。それにそんな昔の子供のころの約束事もうアイツも終わったろ、今はただの歌える打ち合えるちょうどいいアタシのための気晴らし、いい音のするサンドバッグ!」
「覚えてるよおおスゥちゃんにプレゼントした青いキラキラヘアゴムうううう」
「家のゴミ箱だろ、きもいし。──そういやアイツに貸した【アメイジングメイズ】のアルバムまだ返してもらってないな、ハッ、延滞するぐらいアイツの好みはわかりやすいぜ」
「一世一代のクレーンゲーム……一緒にたおしたドラゴンのぬいぐるみ──がりっ」
「スゥちゃんどこおおお帰ってきてええええ」
長女苺茅は木剣を床に突き破り刺し、膝から崩れ落ち流水流道場の歴史ある天を仰ぎ泣き叫ぶ。
彼女がこうなってはもう何リットルの涙が出つづける体質なので、
凍ったマスクを付け替えた次女は貸していたアルバムをもうひとつ買いに行きつけのCDショップへ、
ハッカ味の飴を噛み砕いた三女はまた咥え込み──やはり夕暮れのゲームセンターへと大物を狙いに行くのであった。
騒がしさの去った流水流道場は三人の才剣が散り散りとなり、また足りない何かを探し求め始めた。
⬛︎
キラキラと輝く水色のヘアゴムを、後ろに結び直した。
そのうなじに、突然ひやり……
「なにか妖気がゾクリとしたな……当主代行のオーラか? ……あぁ、そういえば海都とあの女子高生は今日で獣の学校が終わりか。いつの間にかだな────皆、成長するもの。雷夏アイツも、いつもの通り努力は私だけのものではない、か……──ハァッッ!」
青く硬く結んだ赤髪が、揺れ動く。
「ならばやはり私は負けたくないものだ! このそれぞれの自己満足の果て、剣だけは!」
一太刀、一太刀、流れる一曲目の音楽に乗せてこのアルバムを走り斬る。
何本目の木剣を握り…ムスイの鍛錬は新たな道場へとその身を移し…新たな仲間たちとともに今もまだ果てなくつづく────
▽
▽
7月20日、蝉の鳴き声が重なり、熱心な汗流す剣を振り下ろす音で騒がしくなってきたこの季節。
まだまだミエナイ果てを目指している学生たちは、そろって小休憩を許される。
この日で1学期は最後……緑蜜高校に在する学生たちは教わり学び、鍛え、正しく、正し、様々な冒険をした。
そして終業式が終わり──生徒にとって先生にとって、1学期さいごの聖タクは手渡された。
見慣れた眼鏡にきちんと纏まったクラウンブレイドの黒髪スーツ姿の岬麗先生と、緑のブレザーは少し暑いが丈夫な防具でもありこれが三着目……ブレザーをおしゃかにしてまうことに親からも少し心配をされた…楽天海都。
2人しかいない良い陽の差し込んできたD組の教室で。
いつもよりも気合いを入れた感想文が先生の目を通り、先生は頷いた。
そして、
「しっかりしてくださいね。そういうところからです」
すこし不恰好に曲がっていた彼の緑のネクタイを正す。
不意に近付いてきた存在に、ただよってきた匂いに────
(この匂い……?)
「なにか?」
「え、いや、なんもっす…ありがとうございま…す」
海都が戸惑いそう言うと、先生は珍しくくすりと微笑った。
普段あまり微笑うことのない先生であったので海都は口をぽかんと開け…すこし驚いた。
「ふふ、夏休み浮かれることのないように。この1学期すこし抜けているところが散見されるアナタもこれからも業務ノートの通りにやれば間違いありませんよ1年D組出席番号15番、楽天海都」
「は、はい!」
「何事も、ですよ?」
「は、はい?」
最後にまっすぐに正されたネクタイ、教師からのありがたいお言葉をもらい男子生徒は用のなくなった教室を出るように促された。
大袈裟すぎない別れの挨拶をし、彼は通い慣れた1年D組の扉をやさしく閉めた。
緑ブレザーは堂々とゆく道真ん中を、
1人だけの、あたたかい光の廊下を歩いていく。
(岬先生は時にきびしいけど指導熱心ないい先生だった。俺たちD組のことを思ってつくられたこの業務ノートも今となってはとてもありがたかった。俺の気付かないことに気付かされ正され…日々成長している実感がある)
(本当に色々なことがあったけど、栃木緑蜜じゃなきゃ得られない経験…出会いだったと思う。母さんにも感謝しなきゃいけない。でもなんだかんだで入ってしまった雷夏先生のダンジョン部は……正直まだまだ不安でいっぱいだ)
こうして彼は、彼女らは学生としての本業を果たし高校1年いよいよの夏休みを迎えた。
▼
▽
「おいカイト生徒ぼさっとはささっとぉ! さっさと回復で回復ぅ! 相手はずいぶんと骨のあるヤツだがこっちの骨が折れてるぞー!」
「えっと、ハイ! 【巻く膜以下略】!」
「楽天くんあの大関級の盾はまだ!?」
「いつものようにでないっすけど!(これだけはまったく成長してないような……ド神子さんはチップ使ってたら勝手に呼んでもないのに出るって言ってたような…)」
「ちょっこし見たことないどうぶつ」
青髪の勇者はいまだ恐れ知らず、勇猛果敢に挑むも白い爪と長い尾のコンビネーションに弾き飛ばされた。
そして雷夏先生の掲げたピースへと海都は言われたとおりに回復弾を打ち込み、先生への援護射撃も生徒たちは欠かさない。
彼女らに敵として立ちはだかったのは見たこともない片翼を広げる白骨のドラゴン。
どうぶつというよりは巨大化石、肉のない骨格だけの見本だけでも動く姿は獰猛だ。
「まーた新種に鉢合わせたなぁははは、じゃ行くぞダンジョン部!」
「じゃ! って4人でやれんのー、骨でもあれってドラゴンなんでしょ!」
「そうだ気をつけろドラゴンは辛いモノが好きなのが定番だ、きっと今にも火を吐くぞおお」
雷夏先生の言う通り、その白骨竜は天を飲み込むように首を仰ぎ、今にも何か吐き出しそうな予感しかしなかった。ドラゴンといえば火を吐くのが定番、ダンジョン部4人一同は表情を真剣に凄ませ次のただならぬ瞬間にそなえて構える。
やがて白骨竜は大口を開けて吠えた。肉がないぶんよく響く恐ろしい鳴き声が、威厳あるドラゴンであると人間たちの鼓膜を震わせ訴えた。
しかし、何も出ない。
出るのはソコからではない。
片翼を解体し、仰々しく宙に展開。
一同が目にした浮かぶ骨の群勢が次に何を仕掛けるのかは、一目瞭然。
吐くのは驚嘆、撃つのは火ではなく──
「火じゃなくて骨えええええ」
「おわっ!? おー、さんきゅーらくてんかいと、今のきゅんでぇす」
「はいっす…! って骨ってぇ! どわっ痛たたた!?」
「って楽天くんどっち、守って、んのー!」
「え!? だってあの月山さんは運動神経が…!」
「はぁ!? っと、あぶっ!? 骨が骨のブロック飛ばすとか聞いてないんだけどおお元ドラゴンのプライドないわけええポンコツうううううう」
回避能力と運動神経の低い牛頭梢を優先して、海都はタイミング良くチップから気まぐれに顔を出したレアチップの白盾を使い、援護防御に徹する。
トコトコトコトコと陽気な打撃音が鳴る。アタマをおさえ身を丸めたノッポを後ろに白盾の守り傘にぶつかり続ける骨の雨を凌いでいく。
同じく援護防御を要請する女子がいるも分身のできない海都は状況と能力を考えて、苦渋の決断で無視。
噛みついた月山もチラ見する余裕もない、押し寄せる大小様々な骨と骨のブロックの隙間を探しするりと必死に、ときにその剣とオーラで邪魔な骨を弾き返し皆の期待通りに抜けていった。
「ははは、ナイス運動神経! ようやくチームワークもできてきたな! 行くぞダンジョン部! 絶対的に夏ちゃん先生を援護しろ!」
ジャージ姿の青髪はブンブンと回す雷槍で骨を効率よく弾き、便利簡単に防御。息乱す月山は一瞬その便利技を披露した先生を睨んだものの、今は戦闘中それどころではない。
また臆せず大物へと向かっていった先生の背を────
「次はこっち守ってよね! 骨なら大人しく土で眠ってよねおためし【Zショット】!」
「えぇ…月山さんそれは…さっきのでぇ…ギリなんでぇ!余裕があれば…! 【熱熱クレープグレープ弾】! こいつって! 骨っすけど復活とかないっすよね!?」
「次もたのんだらくてんかいと。カルシウムはとことこぶつかるよりごくごく飲みたい──【牛頭ーカ】いつもの」
「いつもの絶対的夏ちゃん【架電斬り】! ははは復活してもおお骨なら全部へし折ってやれええ骨折ドラゴンーー、ダ~んじょんっ!!!」
惜しみのない激しい技と技の援護射撃が白骨竜を襲い、駆け抜けた雷剣がドラゴンの肋骨を砕き斬った。
自陣の部室から出発し乗り継いでやってきた──濁ったシャボンの天の下に、4人パーティーは安いのか尊いのか分からない命をかけてたたかう。
1学期が終わりまた始まってしまった…夏休みのダンジョン部は儚い蝉の鳴き声も聞こえないほどに強く、深く、──熱中している。