※この作品はR-18です。

雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!!   作:山下敬雄

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30 壁はぶち壊し投げ捨てるもの

水色のオーラを剣にのせ叩き込んだムスイはセリーの操る槍をついに砕いた。セリーは素手をあきらめ女剣士とのチャンバラに付き合うように乗ってきたのだ、手に取るいずれの武もWASAの高級シミュレーターや実戦での訓練を積んだ高い練度ではあったがムスイの剣を超えるには至らず。

 

「おどろきまた! 剣も、槍も、斧もぜんぜかないませーん。WASAにあるシミュレーターの域(レベル)ではどうにもならないようでぇーす」

 

(シミュレーターだと…どおりで途中から動きがかしこまったそんなかんじを。──コイツ意図して…)

 

「このままじゃ勝てませぇーん。でも今日は携帯していてラッキーでぇーす。えせ博士に感謝でぇーす、ドラヤキィィン! 変異武器チップいきまー」

 

セリーは虹色のチップをどこかから取り出し、使用した。

鮮やかな発光が纏わりつき彼女の身体をやがて着飾った。

 

季節はずれの白いセーターを着たセリーの姿がそこにあり────

 

「見たこともないチップ……着替えたなんだそれはセーター、防具? また素手か?」

 

「【ヴァリアブルセター】試してみまぁ?」

 

「……ヤル、無論!」

 

構える拳に、臆せず──

 

ムスイの振るった剣は──細い糸が受け止めた。

 

 

両手で握り張り詰めた糸がチカラを込めたムスイの剣をか細い一本で受け止め、やがて手早く巻きつけて絡めとる。

まさかの術に危険を感じたムスイは得物を手放しすぐさま後ろに飛び退こうとした。

 

「チッ!? 鎖鎌術か!?」

 

「ソデスモノシリデスネェ日亜せいひちゅツアーでアレンジ習得済みでぇーす! レッサムライガールいきまー!」

 

しかし離れるも既に遅し、ムスイの左足はセーター袖から伸びた糸に巻きつけられそのまま背中から叩きつけられようと────

 

ここはダンジョン、剣を失えどそれで終わりではない。ムスイは再度道着の袖に隠していたチップを手に取り剣を召喚。

刃にオーラをしかと込め、伸びたオーラの糸を断ち切り難を逃れた。

 

「おー、アマリアさんのような猪突モシーンではありませぇんでたー、いっぱちゅでプツリン見破るなんてやりますね、サムライはホントニンゲンですかぁー? アハッ」

 

「似たようなのとついこないだここで戦ったからな……(鎖鎌術などという夢幻ではない…あの服自体がオーラを操作し流せば攻防一体の読めない武器か、しかし遠い糸ほど恐らく強度は弱まる……それにこいつの変哲のない無味無臭のオーラはなんだ? まだ何かあるか……)」

 

ムスイは咄嗟の反応でなんとか背を打たず尻餅もつかずに済んだ。裁縫上手の黒牛と戦った経験から糸の類には警戒していたからだ。

 

表面上の互角の格好を保つカタチとなり、ムスイは得体の知れない敵の正体を明かそうと思考し眉間の皺を深めた。

 

「わオォ、そでしたかー。WASANBONのダイバーそれともモンスターですかぁー? テキリわたしセリーオリジナルと思ってましたソレは驕りでしたね…アハッそれならお試しはここまでぇもうちょっとつよくいきまー! ドチガつよいかいきまー!」

 

「……!」

 

変異武器チップヴァリアブルセター、WASAサブスペース開発部が彼女のために彼女の要望にこたえ開発したその特殊な武器チップ。世界のダンジョンの規模は縮小化しても研究は密かに続いているその研究技術とひらめきの結晶であり、現世では役に立たないチップ一片でもダンジョン環境においてそれは鎖鎌など比ではない優秀な武器へと変わる。

 

白いセーターを装備し水を得た金髪は意気揚々と、険しい顔つきの赤髪の元へと突貫していった。

 

 

 

▼

▽

 

 

 

セーター左袖は解けパージされ、宙を飛行しムスイを編んだ高速のグーで殴りつけた後に、再びカタチを解き、側面を解けた糸の雨で襲った。

 

「マサカこれもショケンでさけまーすか。堅牢でぇすね?」

 

「【流水陣】似たようなのと、戦ったから! ナッ!」

 

足元に張り巡らした流水の陣は流れ流れ攻撃を受け流し、水を吸い集めうねうねと迫り来る強固な糸を一気に断ち切った。

防御をおろそかにせず攻防に特化した技を持つのはムスイもおなじ、得意の【流水陣】のスキルチップを発動しつづけセリーの猛攻を耐え切った。

 

「ソデシタソデシタそれは誤算でぇす。ソデスネシカシィ……レッサムライガールそのソードスタイル特化だけではまだまだダンジョンのモサとはいえませぇーん。せいぜいCC級どまりでデス級にはショシーンできませぇーん、披露してくれたスキルチップ技は2つでかー? セリー先輩のアドバイチュいりまぁー?」

 

「貴様が何を言っているか半分も分からないがな、剣の道はイチド降りたらそれで終わりだ。ここまで染みつけつづけ今更そう易々とはな!」

 

耐久性が限界を迎え散った剣をもういちど召喚し、知らない柄を汗ばんだ両手で握る。

自分の鍛えてきた強みは意地でも手放さない。

今はまだ戦いの最中、敗因ならばスベテを出し切り終わった後で考えればいい。

ムスイはカラダの汗でみずいろの道着を汚しながら、セリーが操る奇怪な武器の激しい攻撃を凌いだ息を落ち着かせた。

 

「アハッいですねー、なんとも素晴らしい頑固なせいひちゅの心をおもちでぇーす。でも安心してくさいこのたのしいバカンスバぁトルがおわたらホワイトカノンベルがあなたを保全しまぁーす。我々と亜米利牙まできてくださぁーい、セリーの部隊はマエよりも強くなりえせサムライ狩りに夢中のアマリアも帰ってきてよろこびまー! その底知れない負けん気も好きでぇーす。イッセキニチュ」

 

「ハァハァ……私に寄ってくるのはどいつもこいつも…どういうヤツだ!」

 

「アハハソウイウ才能でぇーす、誇ってくださぁーい」

 

「ソンナ才能などいらん! ちまちまとなぶるな本気でこい!」

 

「アハッ、それはまだまだ甘いオゴリでぇーす! ですがセリーは日亜人のソユトコ好きでぇーーす! ホロビノビガク」

 

ムスイとセリー、その勃発した部室魔王城の戦いはついにクライマックスを迎えることになる。

セリーは今はまだ発展途上であるムスイのただならぬ才能を認め、

ムスイは既に確立した独自の戦闘スタイルをもつセリーの底知れないチカラを認め、

日亜と静謐を愛するセリーは全力で日亜人である女剣士ムスイのオモイに応えようとする。

 

ここで決定的な勝敗がついてもそれは決定的な幕引きではない、されど勝ちは譲れはしない。

だが、同じダンジョンの探索者として、次にダンジョンでバトルをするときには分からない。剣はオーラはスキルチップは時の流れとともに鍛錬し成長しつづける、──お互いに。

 

 

離れてぶつかり合うオーラはしずかに風を起こす。

 

赤髪は自身の間合いを可視化し強化した水陣を張り直し迎え打つ、口角をぐっと上げた金髪はしゅるしゅると身に纏うセーターの糸を解いていく。

 

水たまりにポツリ……握る剣の汗が滴る。

決着のイチゲキへと、揺れるただならぬ予感が────

 

 

「こんニチアじぃぃんヤッ──!! 何派手に苦戦しているんだムゥちゃん! はははは」

「ワオ!? びっくりまた!? しらないガール乱入でか!?」

「おい!? 勝手になにやってる!?」

 

予感はひとつ、ふたつ、──視界上煌めく切先のみっつ。

滅ぶステージの2階から、ターゲットをみつけ元気に急襲したツルギは天から舞い降りた。

 

青い髪を剣風衝撃に靡かせ、束ねた白い糸は天から降ってきたあぶない刃を咄嗟に受け止めた。

 

「ははは私もしらぁぁぁんとりあえずおもしろそうッこんにち【爆雷斬】!!」

「わお、いきなりエレキオーラガールでしたか!! アマリアもびっくりビリビリでぇーす」

「ソウソウっ夏ちゃんは名前のとおり雷夏ちゃんがーーる!! そして夏はご愛嬌真っ盛りィィィ!!」

「アオイこちらも相当元気でぇーす…!! いですねいですねー……こんにちのニチアンせいひちゅツアーぁぁぁ!!」

 

デコ出しの金髪と青髪は天と地で向き合いワラう。

 

予想外の雷が壊れたステージに明るく轟く。

ムスイとセリーの真剣勝負は思いもよらぬカタチで終わりを迎えまた新たな幕が幕引きを待たずにはじまった。

 

現れた雷夏にムスイは唖然と、顔をしかめ、激しく発光する2人の剣撃に目を細めた。

勢いよく瞬く間に、

繋がった白いオーラと青いオーラはビリビリと鍔迫り合い──やがて弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

雷夏(27)

:

所属 緑蜜高等学校ダンジョン部、体育教師、神牙流道場夜の道場の先生

出生地 日亜国 栃木県

特殊武器 秘刀名刀・緑蜜 ちくわ丸 ゴッチャマグナム

オーラ色 雷属性の青色

スキルチップ技

剣タイプ

【爆雷斬】

【電柱斬】

【電伝電柱雷酔斬】

【投雷】

【架電斬り】

【切電】

槍タイプ

【伸槍】

【婆沌永遠水車】

【槍玉】

【三日月】

【真田・サンダーランス】

銃タイプ

【ゴッチャビーム】

盾タイプ

【夏ちゃんヨーヨー】

【UFOライトニングダイバー】

その他多数

 

身長175cm

胸★★★

体重 絶対的!

 

 

 

 

 

飛び入り参戦した青髪は鍔迫り合いのちの殴られた体勢を猫の身のこなしで立て直し、横顔を痛く見つめる……澄んだ湖の瞳のおとなりに並び立った。

 

「よく邪魔してくれたな」

「はははごめんごめんネネー、んやんやははは猫の手が欲しそうに見えたからなぁー!」

「相変わらずお前の目は見たいものだけ見るようだな……チッ、おいあのセンター分けのセーターをさっさと片付けるぞ」

「んや? 夏ちゃんは1人でも大丈夫! 電撃ピッチャー交代だ!」

「馬鹿、猫の手がさっきの一太刀で実力を考えろ。オーラもあの武器も得体の知れないおかしなヤツだ、当主代行のようなモンスターかもしれない。(さっきド派手に剣をいなされ殴られたばかりだろ)」

「んや、それもそうだなぁ? そう言われちゃーしかたなっちゃん! よし、ムゥちゃんの猫の手になろう! 今回はそれでいいか? はは」

「水差しはいつものことだが…まぁお前ならそれぐらいにはなりそうだ、脚は出すなよフッ」

「オーケー分かった! ──え、今なんて? アシ」

「だまれ」

「ははは、シンプルだなぁ」

 

青髪と赤髪、目と髪の色をお互いに反転した似たような背丈の2人、そんな2人がなにやらごそごそと大声で話し合っていると思えば…2人武器チップの剣をこちらに構えている。

 

その空気を察した、

2人の動向に注目し呆気に取られていたセリーは、陽気に物言いをつけた。

 

「おー、サムライガール。2人がかりはひきょうでーす! さっきまでのわっふぅせいひちゅ武士サムライの心はどこですかー!」

「おい、馬鹿な幻想をいだくありがたい外国人旅行客だ侍やらとして伊達にして歓迎しないとな」

「あぁはは、それはなつかしくていいな。よーし金髪のケイトこの雷夏ちゃんざむらいが絶対的にただでは返さん! ビリビリにしてたのしませてやる! さっきのお返しは伊達じゃないぞー!」

 

物言いに対し悪顔を浮かべ2人は笑っている。

一般に理想とされる侍の風上にも置けないような悪臭ただよう行為だが、この先は2人がかりで斬りかかると物言いを無視し譲らないようだ。

 

無論それは相手の実力を計ってのこと、ムスイがここまで苦戦する相手は相当だと雷夏も同調した。1人ではきっとこの先の本当を計れない見れない知れない…2人がかりでもやってみないと分からない、だが2人ならこの強敵の果てを今に見ることができるかもしれない。

 

絶対的の果てと自己満足の果てを目指す2人がどちらを選ぶかは明白であった。

 

「オォ、今日の出会うヤマトナデシコはドイツもいささか凶暴でぇーす。アハハッいいでーすやんちゃな野良猫ニヒキアマリアとナップのようにすこし撫でてあげまー、あとセリーはセリーでぇすダテでもケイトでもありまーー!!!」

 

「来たぞ! あのセーター糸に捕まるなよ!」

「夏ちゃんは先生だからわかってるぅー!」

 

セリーはセットとなった2人を笑い飛ばし、ヴァリアブルセターの特殊糸にオーラを伝わせていく。

ニュルニュルとその編まれた一本一本先端の極細毛まで自在に動く白いオーラの白いセーター。

今、服は武器となり袖口から勢いよく解かれ伸び、構える赤と青の侍に襲いかかった。

 

 

▼

▽

 

 

戦いの内容は2人がかりで互角とも言えた、セリーにとって雷夏はいわばスキルチップネタの割れていない鮮度のある相手。

 

繰り出す剣槍技その新しい全てに注視する必要があった。

さらに速さではムスイを上回る元気さを見せ油断大敵、雷夏の獣剣と彼女のあとをカバーするムスイの水剣に翻弄されついに糸はほつれ一瞬のスキを見せた。

 

「【爆雷斬】!!」「【流水斬】!!」

 

「わお、芸のないギャクニィ虚をつかれまた【ガード・クヘーン】!!」

 

炸裂した【爆雷斬】と【流水斬】、刃にノセた単純な力試しは──されど阻まれる。防御姿勢の両腕に糸を集約しぐるぐると肉厚なバームクーヘンのような形状に高速で編まれた……そして2人の危ない刃を受け止めることに成功。

 

完璧に崩したはずが、超反応で正しいコマンドを選んだ曲者セリーは2人分の膂力に押されていき荒れたステージ床をずり下がっていく。

衝撃で弾かれた【ガード・クーヘン】の腕の二輪をホイール代わりにし、完璧な対応を魅せ下がっていく。

 

しかし鮮やかなそれも想定内、2人しか知らない仕掛けはバチバチとセリーの足元背を伝い一瞬で迸った。

 

起動した周囲の【電柱斬】×7。

雷夏が戦いの舞台に隠し包丁を入れ仕掛けていたトラップにはめることに成功。

 

オーラを秘めオートマティックに今解き放った、景気のいい青い雷電の重なりがターゲットを焼き天へと昇っていく────────

 

 

一瞬目を合わせて、ムスイと雷夏はワラいあったが──絵に描いたよう一喜一憂。

 

『ライトンエレキガール、なかなかやりまぁす! アハッダンジョンで戦い慣れてまーすね? トラップまでトラップと感じさせないミニマムな芸まで多彩でぇーす、まるでなつかしびっくり箱とたたかってまー』

 

流れている汗が冷や汗だと分かるのに時間はかからなかった。

セリーを包み彼女を守った白い繭そのスキルチップ技【ザイデンロープ】、白い霞がただようそこから生命が生まれるように。

また素肌の尻まで隠すロングセーターへと編み込まれ新品の衣装へと戻っていく。

 

「はは効いたか…」

「安心しろしっかり馬鹿げたオーラの繭に防がれて効いてないぞ」

「でもおとなりさんは確信してた」

「お前がヘンに笑うからだ、やけにしずかな授業中のアレと一緒だ」

「はは、なるほどってどれだ! ムゥちゃんの小ボケは学校の先生な夏ちゃんじゃないとわからないぞははははまったくぅ。それにクールなるーすいの美剣士なムゥちゃんのそんなのそうぞ」

「だまれ」

「はははは」

 

「アハハ仲がよくてうらやまでぇーす、ソデスネシカシィ……今日はオスイヨウビ、それに2対1の予想外ダイケントー大ピンチぃ──【ミットヴォッホのマーメイド】いきまー」

 

セリーから伝うオーラ色は変わり、変哲のない白からみずみずしい水色へと。

オシャレにカラーチェンジ。

水色セーターを纏うセリーはその場で陽気に踊り一回転、霧吹きのように細かいミストが辺りに散り虹色を金色の頭上に描いた。そして両足を広げ地に片手をつく女豹のポーズをその虹色アーチの下で決めた。

 

練習した自慢のクールな変身シーンをお披露目したセリーはにんまりと笑い、呆気にとられた2人の日亜人を見ている。

 

今日は水曜日、独愛(ドクア)語でミットヴォッホ。

セリーは無属性からこの日だけ許された水属性のマーメイドセリーに染色し、成った。

 

「はははは! はは…………ほぉムゥちゃんのお姉ちゃんはお茶目な金髪セクシー外国人だったか? さすが美剣士の一族(どことなく似ているか? 唇のかたち?)」

 

「だまれ知るか滋賀だ、やはりまだチカラをセーブしていたか……しかもこれみよがしな水属性……どいつもこいつも…天というヤツはよほど私の前に壁として立ち塞がりたいようだな!」

 

「まぁな!」

 

「お前はちがう」

 

「またまたぁ!」

 

「アレよりは遥かに足りてなくて弱いな」

 

「んや、身内贔屓? 夏ちゃん傷付くぅー」

 

「あんな変態が身内なわけないだろ、無駄口より集中しろ次の攻撃でしくじったらカバーしきれんぞ」

 

「ノーテンキですねぇー! アハッHENTAIではなくてSHITSUREIでぇーす、壁にぶつかて舌噛みまー」

 

弧状の虹はオーラの風に吹き飛び、目つきを変えたバケモノが剣士たちに襲いかかった。

 

隠していた実力をまたひとつ解放、底の知れないチカラを持つホワイトカノンベルのセリー。その大きな壁に挑むは、ダンジョン部雷夏ムスイコンビ。

水びたし女だらけの激闘はそのぶつかる熱量水量オーラ量を上げ、つづく────

 

 

 

 

 

ダンジョン部のダブルエースである雷夏とムスイの2人は水の糸をエンチャントし操る謎の外国人マーメイドセリーに苦戦を強いられていた。

 

シールド値はどちらもMAXの半分程度、敵に与えたダメージのほどは未知数。

だが、まだまだ元気であるのは明らか。虹の橋の下で不敵に笑う金髪がいつ仕掛けてくるのかを強者の余裕で腰に手を置き待っている。

 

息を乱したムスイはとなりの雷夏にいつものようにいよいよな場面で問いかけた。

 

「おい、ましな作戦は」

 

「ははきいてくれたか、ちょうど今練り上げたところ! ほやほやえーとだな、いつもの巨人相手のように【架電斬り】! とコツコツ2人で下拵えといきたいところだが……ちょいとマスターキャップちゃん戦の再現! になりそうだなぁ」

 

「アレを人に撃つのか……容赦がないな…いやあのうねる水魔法の防具を着た金髪はもはや人とは言えんか。しかし長ったらしいチャージがあっただろ足止めするにもそこまでは相手にできんぞ。黒牛のような中ボスとはわけが違うヤツはここまでやってもなお底が知れん、私はそう感じる。それに勝負は次に一歩でも動き出したときだ……体力的にも間違ったコマンドを選べばそれでおそらく終わりだ。わかっているか?」

 

「んや、わかってる! あいにくの水しぶきだがオーラ量は十分夏っちゃん! もう少し短くて済む燃費の悪い別の方でいく。ムゥちゃんがボっコボコのシールドブレイク状態になってもそれで決着! 絶対的!」

 

青髪は相変わらずギラつく赤目で言う。

雷夏は嘘をつこうとして嘘はつかない、ムスイは知っている。

 

(なにがそんなに楽しいのか、お前のその目は)

 

「…言ったな? よし、秘刀をつかう。せいぜいそれまで守られてろ」

 

雷夏は頷いた。

ムスイは一瞬だけ笑い前に歩き出した。

背を見せた赤髪は秘刀名刀である黄蜜を体内から顕現させ、その古びた鞘から今──妖しく光る刃を抜いた。

 

そして討ち倒すべき敵へと一直線に駆けていった。

 

「おお、いきなり猪突モシーンなんでぇーす! 鞘あり? ただの武器チップとは違う気がしまー? ワオ、フインキはカッコイイでぇーす」

 

「切り札は見せたら最後だ、コイツに逃げるか付き合うかは自由だがな」

 

「なるほど神風覚悟ですかぁー、アハッでもそれに付き合うのは逃げるより簡単でぇーす切り札は切り札でつぶしまぁーす【オダノブナガ】いきまー」

 

金色の瞳を細めセリーのちゃらけた雰囲気が少し変わる、

纏うセーターからうねる青糸は急接近してきたターゲットへと伸びゆき──多方攻撃を開始した。

 

ムスイは当然【流水陣】で対応。己に過ぎたる秘刀名刀・黄蜜のチカラも借り、陣内に侵入してきた8つスベテのオーラ糸を水剣で斬り払った。

 

「剣より服屋のほうが歴史も種類もリーチもながいでぇーすレッサムライガール、ここで派手に負けて学んでくださぁーい! おまちかねセリーホントの全力いきまー【アケチミツヒデ】」

 

さらに深く、金色の獣は目を凝らす。

 

青くうねる獣の尾はまた再生を始め、また別方向多方向からしなやかな尾をターゲットに打ち付けていく。さっきのはサービスでありお試し、これぐらいは防いでくれないと切り札というには期待外れである。セリーのまた一段ギアを上げた凄まじい連打攻撃が剣士を襲う。

 

「【流水陣】これは……なかなかッ鍛錬になるなァッッ!!!」

 

しかし足を止めてこれを迎え撃つ、ムスイが描く幾多の剣筋は同じ青を寄せ付けない。

重い衝撃音と水飛沫が、2人の並々ならぬ応酬に飛び交う。

 

「アハハ、い反応ですねー。もっつよくー、はやくー、耐えられまー!【トヨトミヒデヨシ】」

 

底が知れない、見れない、たどり着けない。

 

そういう感覚をムスイはよく知っている。

 

 

さらに勢いを増した10の水の尾の獣を相手にするには、過ぎたる秘刀であっても一振りの剣では頼りない。

 

いや、ほんとうに頼りないのは誰であるのか知っている。

 

 

肩に脚に脇腹に……バチバチと打ち付け当たる水鞭にシールド値が減っていく。

シールド値以外のなにかも……身を打たれる度に…。

ダンジョンのルールに則り持ちうるチカラをぶつけ合う、チカラを発揮できるルールは違えどそれは剣の道でも同じこと。

 

汗水を流し競い合った結果どちらかになる。

 

流れる汗は鼓動とかさなる焦燥、体に走る痛みは不屈ではなくやがて心地よい諦めに変わる、そうするとやがて納得していく…自己満足するように……うまくやった相手を褒めたたえ。

 

 

 

しっている、あまりにも。その感覚の果ては────

 

 

 

『ムスイさん! 【巻く膜以下略】!!』

 

傷付く、どこか悲しい背中をしていたムスイを緑の弾丸が援護した。

 

「わお!? なんです!? ミドリハッコー? うちまたニチアンボーイ???」

 

痛みに渋く細めていた目は背を包むあたたかな緑光に開かれ、それがなんであるのかしっている。

あまりにも心地のいい、ここぞのここぞで、

 

(私が欲しかったモノ)

 

 

「フッ……どうやらここが〝一世一代〟負けられないということらしい!」

 

見開かれた湖の瞳は笑っている。獣に打たれる度に鬱々と溜まっていた謎のネガティブを吹っ飛ばし、笑っている。

 

「アハッボーイフレンの叱咤激励妬けます…いですねーソデスネシカシィ…気合いだけでもオーラだけでもすぐにはセリーは超えられませーーん! ヨはムジョウ【ミヤモトムサシ】これでテンカムソウでぇーす、プライドも意地も熱血もこのセリーの描くせいひちゅのラインを超えさせませーーーーー!!!」

 

剣士ムスイに過ぎたる秘刀名刀黄蜜、そう評していたのは誰からぬムスイ自身。

どこか奥深く宿る敗北を積み重ねたネガティブ鬱々は、ムスイをまだ縛り付けていた。

 

だが違う、己を頼れなくて一体どうする。

 

理解の及ばない獣たちと戯れるのには慣れている、敗北にも慣れ切っている。ならばその先にこの両目を凝らし、今必要な戯れの剣は何かを考えいつもやってきたように────

 

積み重ねた経験はいつまでもこの手をこの柄に縛り付ける、最高の彼女のチカラだ。

 

 

「【無剣流水(ムケンルスイ)】──剣の歴史は私がここでぶち壊すッッ!!! 宮本遂廉、ムスイとして!!!」

 

 

刀その刃は頼りないやがて滴る水へと、水を頼り無限となり無剣となる。

より自由に、彼女のための最高の武器となる。

 

刃をスベテ水へとかえた真の水剣は金色の獣のもつ10の尾を、するりしなやかに描いた剣線で刻み落とした。

 

決してはなさなかったたった一振りを、敗北までの土壇場で進化させ離れ業を披露した、その女剣士の名は宮本遂廉、またの名をムスイ。

 

面を喰らった、あまりにも速いその剣に。セリーはずっと違和感を感じていたその赤髪の度を越した吸収速度に、

 

「!? (わたすのセリー流オーラ操作術!? 糸一本と剣一本、純度を上げたオーラ水剣!?)……ドタバタドタンバまねっこの天のサイでしたかぁー! アハッ! ソデスネシカシィ…これ以上あっけなく盗まれてはデス級のメンボク釜茹でのイシカワゴエモンザエモンでぇーす全力の全力のゼンリョクでぇーす! 最後の一滴までたのしみまー!!! 【センノリキュウ】」

 

【センノリキュウ】静謐を愛する彼女の切り札でありギアをMAXにした本当のスキルチップ技である。

彼女は本当はCC級のダイバーではない、D級ダイバー。

WASA宇宙開発局サブスペース開発部に属するダイバーつまり探索者の中で一番強い能力を持つクラス──デス級ダイバー、数少ない最高のダイバーの中の一人である。

 

静謐のセリーは喜んで驚いているばかりではない、ここで負けるようでは密命を授かった隠れデス級の名折れ。

 

ギアMAXのチカラは決して綺麗なものではない、荒々しくされど多彩な軌道を描き、金色の目を凄ませた獣の纏う愛武器ヴァリアブルセターを始点に伸びゆく青と白の18の尾が、今や強敵として立ちはだかった赤髪を本気で狙い撃つ。

 

掴みかけた…湖の瞳を凝らしても凄まじい嵐のような猛攻そのスベテには反応が間に合わない。

 

「ふざけた、チカラ、ンぐっ…」

 

オーラの水嵐に呑まれたムスイは閃いた新技と健闘むなしく、限界を迎え絶大なるチカラの前に敵わず弾き飛ばされた。

 

その時、セリーはいつものようなセリーであったのか。

静謐のセリーとは言えなかっただろう、手強い赤髪の剣士を前に珍しく熱くなった彼女の姿は。

 

大きく競り勝った安堵からかバケモノはあまたの水飛沫を浴びながら笑みを浮かべた、バケモノであってもそんな人間らしい表情をする。

 

そして──それは勝利を手にしたあとの一瞬の油断、勝って締める兜の緒など熱中するアタマに装備していなければできやしない。

 

「あわ!?」

 

オーラとオーラの競り合ったさわやかな水飛沫──やがてわけのわからない泡粒群がセリーの視界を覆う。

心地いい水飛沫が明けたら、見知らぬ泡が歓迎しただよっている。

おおきく虚を突かれ慌てたセリーは目の前にきたソレをあわてて処理した。

 

「邪魔でぇーす!」

 

しかしそれは誤ったコマンドである。

宙に浮かぶ中サイズの泡粒たちはハジケルとともに爆発した。

 

「えっほえっほファイアワークス!?(今セリーのオーラを利用されまた? ハンパツゥ?)

 

起爆した鮮やかな爆発花火が咄嗟に手を出してしまった者にダメージを与え、視界を意味不明な混沌に濁していく。

 

 

「ははは嫉妬するほどにシチュエーション良好っ、よーし待たせたなァ……」

 

古きアニメ、今もつづいている漫画でも見たあのバチバチと高鳴る鼓動が────

 

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『はぁナニソレ? 冬牙?』

 

『だから言ったろそろそろダンジョン部にこう痺れるような連携技をだなー! 名付けて絶対的超ビリビリ秘刀秘技アレックス真田サンダーランス! これその設計図』

 

『ん? どれどれ設計図…じゃなくてそのダッサいのが滅茶苦茶イヤなんだけど…!! ってそれアイツに見せられた変な相撲とロボットの意味不明なヤツじゃないわよね??』

 

『んや? あぁそうだぜ!!! いやーそれがなきけよアレから妹といっしょにハマっ』

 

『絶対イヤ!!』

 

『はは絶対的だ、間違えんな』

 

『絶対覚えない!』

 

『いいや、お前は覚える! 絶対的だ!』

 

『いや! いいいいいいやッ!』

 

『うおおおおおたのむううう!!! ド神子もロボット野郎のアイツも部長の俺の言うことちぃっとも聞きやしねーし! 妹の頼みなんだよー!』

 

『あんた前も妹ってナン…あぁっ! せ、せめてそのどうしようもない名前変えなさい!』

 

『さすが我がダンジョン部で唯一話の分かる通ずるぅぅ! はは、いいぜだがただじゃぁ譲らない!』

 

『はぁ!? 譲りなさいよ!』

 

『それじゃーコイツで勝負だ! 紙相撲! さぁ選べお前のRIKiSHIを」

 

『いいわよ望むところ! 言っとくけど小細工してんじゃないでしょうね──』

 

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数多のチップを砕き集めた青い雷電は頭上膨大、掲げる両腕がその荒々しさをガッシリと抑え込み見事震えながら制御している。

 

「13、じゅうし、じゅうご、じゅうろく、いいぞははははいつもより砕けず大成功だ。よーーーーーし、歯を食いしばれケイト痺れるの行くぞーーー!」

 

『馬鹿!! 何も言わずに早く撃て!』

『わお、なです!? なら食い縛りまー』

 

 

「【真田・サンダーランス】!!!」

 

 

《ゴッチャマグナム》ではない雷夏の持つもう一つのレアチップ、《ちくわ丸》は長いネムリから覚めた。

いつもより多い雷電をその白い筒状の棒パイプに纏い、雷夏の荒々しいオーラをノセて飛んでいく。

 

泡の花火で汚れた視界に迫るこれは並ではない……急ぎセリーを隠し無限に伸びてゆくセーター糸は超速で編む。

やがて編まれくるまる青い繭は、投げ込まれたとてつもない雷オーラを浴びた。

痺れる熱さがその細い糸で成した堅城を焼き焦がしていく。

 

秘刀名刀緑蜜の【切電】、ゴッチャマグナムの【ゴッチャビーム】、そしてちくわ丸の【真田・サンダーランス】そのどれもが強敵を討つために設計された…絶対的の果てに届きうる凄まじい技。

 

雷夏はすこぶる笑っている、すこぶる上機嫌だからだ。

またひとつ胸の中にあった絶対的な壁、気持ちいいモノを今投げ放ち──彼女の瞳にうつる……今日の素晴らしきダンジョンはバチバチと青く笑っている。

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