※この作品はR-18です。

雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!!   作:山下敬雄

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小槍岩の上に、掛けてかざり置かれていたなぞの帽子から現れた────

 

青髪はふわり、緑へと降り立つ。

 

青空と草原、くぼんだ地に奇岩がいくつも点在する粗削りで牧歌的な風景に、

赤い目はきょろきょろとうごき、やがて腰に両手をあてながら首を傾げた。

 

「んーーーーー? んや? ……んーーーハズレ夏ちゃんピース──!!」

 

なにもない、ごつごつとした緑景色に左手の夏ちゃんピースは咲いた。

 

飛ばされた先はハズレ。人っ子骨っこ一人いないのは何故かと雷夏は考えたが────考えられるのはチュチュンの巨人帽子への転送が微妙にうまくいかずに部長の自分はハズレ、部員たちとはぐれたということであった。

 

「んやんやイキナシ困ったなこまった夏ちゃんだな。ここは夏ちゃんのお昼寝&瞑想サンドウィッチ部屋なんだが……。ん? んーかんがえると、これは夏ちゃんだけサプライズではぐれてダンジョン部大所帯の部員たちが先に行っているだけかもしれないな。ナラ──? 絶対的に急ぐか、生徒たち部員たちムゥちゃんたちに決戦バックレ夏ちゃんは絶対的にまずいからなああああ!!! ツッキーにも『雷先生ちょっとちょっとぉ!』って言われちゃうーーーー」

 

立ち止まっていた雷夏はただ緊張感にしたがい急ぐことにした。体は動きだしひょいひょいと奇岩の上をスニーカーでテンポよく踏みつけていき次の部室へとつながる渦を探し目指していく。

 

丸みを帯びた緑の地平線をつぎつぎと風とともに追い抜いていき────

 

 

どこかから飛んできた岩のアトラクションを素速く点在する岩岩を行き来しながらすり抜けていく。

 

体を折り畳みまた伸ばし常人ではありえない宙返りを披露、空中に投げ捨てられた岩の頭頂を両手タッチし、跳び箱のように飛び越えた。

 

 

『うるさいのがいるな誰も来るなとブチコワしたはずだが──なんだてめぇ死にに来たか』

 

 

どこからかしゃがれた低い男の声がする。

 

そんな耳に入った気になるアナウンスを、

 

「んや? 悪いけど夏ちゃん先急いでるからアトでなーーーー」

 

ダンジョン部部長としての優先順位が上回った。

アナウンスを無視しまた次のステージを見つけるための移動を雷夏は開始した。

 

 

先を急ぎ飛び跳ねる忠告を無視した青髪の雌獣に、

後ろから同時に投げ捨てられた6つの岩が迫る、

 

跳躍中に飛んできた6つを、青い剣はまとめて斬り裂いた。

 

 

「オマエ、どれぐらいコワせる?」

 

 

すたっと着地したところにさらに飛んできた岩を、鋭く突き刺し岩ヒビを流れた青がぶち抜いて破砕。

 

「夏ちゃんは壊すというより──斬ぃぃぃる!」

 

爆散した岩肌からギラつく赤目が覗く、雄の獣は素速く駆けながらその声をあっちこっちから雌の獣の耳に突き刺す。

 

「オマエも剣士かよ、なら、〝こいつ〟、だ。スカして避けてくれるなよ、斬れよ! その剣と赤目が飾りじゃねぇならなッッ!!」

 

辺りをギラギラと目を凝らし、ぴくぴくと耳を傾ける。

そこから動かぬ青と赤目に、危険がぶち当たる前に風が吹き抜けた。

 

見えてきた──おおきく無骨な棍棒をうしろ肩首に担いだ赤い巨躯の獣に、臆するという感情はないのか、青髪の獣はあたためていたオーラ迸る剣を合わせた。

 

 

「【爆雷斬】!!!」「【凹(ドリーネ)ぇぇ】!!!」

 

 

ぶつかり合いせめぎ合う、青の雷剣と赤のオーラを纏った骨の棍棒はやがて混ざり合い爆発した。

 

2人の間に生じたただならぬ風が緑と岩色の景色を撫でていった。

 

「いいぜ見かけよりパワーがあるな合格だオンナ、そのまま痺れた手は抜くなよ? 測り間違えて実力を出せないままコワれられたら一文もねぇ──弁償しやしねぇゾ」

 

「器物破損に口答えさらにこの夏ちゃん先生におヒゲの生えた留年生が合格をだすたぁ、ひさびさに許せないな! よしッお望みどおり全力で教育だ、はは絶対的にぃ!!!」

 

パリンと割れた剣を握っていた痺れた手をぷらぷら…宙に遊ばせて、正した。

そして失った普通の剣の代わりに、ポッケから光片を抜き出し起動した。

 

両手に掴んだ白い丸パイプは頭上でぐるぐると旋風と風のリズムを起こし、その勇ましく構えた穂のない白槍で──赤髭上裸を相手取る。

 

「剣士じゃねェか? 戦士か?」

 

「夏ちゃんだ! 【伸槍】!!!」

 

不意打ち伸びた白槍は、瞬く間に8度突いた。

熱血し輝く赤目とは裏腹にいきなりの伸びる棒のギミックに赤髭の獣は面を食らった。

8度小突かれたその鉄塊のように頑丈な巨躯カラダは、バチバチと届いた青いオーラの残り香と白煙を上げ悦んでいる。

 

「このタコオンナ不意打ちタァ……チッやりやがったな。いいぜその調子であらゆる手で俺をコワして来い、上手くヤレたら褒美にラストは気持ちよくブッコワしてやるゥゥゥ!!!」

 

赤髭の獣バウは、この強き雄に見合う特注ウェポンである悪魔の背骨を凄まじい膂力で大地に叩きつけた。

 

叩きつけられたそばから深く割れゆく大地を高く飛び跳ね、

 

「夏ちゃんはなァァ、壊すのも作るのも結構好きだぞぉぉ!!!」

 

興奮を抑えきれない雷鉄球のオプションをつけた長棒は天から景気良く打ち下ろされた。

絶対に壊れないという珍品、巨大悪魔の背骨で雷鉄球を真っ向から受け止める。

侮れない豪快なパワーと迸るオンナの雷、それを受け止め味わう瞬間瞬間に分泌され積もる高揚感が────赤い雄獣の混沌の紫眼と青い雌獣の見開く赤い瞳、睨み合う2人を熱くワラわせた。

 

 

 

 

 

 

 

濁るシャボンの不快な天の下、はげた元気のない草地に、堂々と佇むブロックでできた見知らぬ女神の石像には帽子がかけられていた。

 

それは不遜なことではないのか? と修道服を着た女は思ったが、これが敬愛に値する女神とも限らないので細かい服装のことは放っておいた。そしてとりあえず見つけたこれに目覚めてはじめて祈ることにした。

 

手を合わせにぎり、祈っていると────ただならぬモノを感じた。

祈りが届いたとも思ったが、祈りがとどいたことは一度もないので違うと彼女の中で確定し──

 

「ン?」

 

光り、像の頭上から舞い降りてきた緑の物体がばたつきながら尻餅をついた。

やがて立ち上がりキョロキョロと辺りをうかがうのは、そこそこの背のまだ子供に見える。

 

「なんだ? おまえは? お祈りの時間を妨げるヤツ」

 

「え、え、(だれ?)えっとここはたしか──聖タクにでてきたガライアの女神像前? なんで俺ここに?」

 

ブロックんたちがシデンレイラの設計案に従い殺風景であった何もない部室に立てていた、ブロックアートの角ばった女神石像。まだ未完成のものが転送された海都の振り返る背にある。

 

しかし背も気になるが今は背より前、見知らぬシスター服が立っている。

ぎろりと睨んでくる目の前の彼女の焦げ茶色の眼は、たしかに自分に先ほど語りかけていた。

 

変な状況にいきなり景色が変わり挟まれて、海都は焦燥するが、ここは魔王城前ではない…セーブポイントの前でもない…何か自分にアクシデントが起こったことだけは分かった。

そこから問題の解決に至る道をひねりだし、ひじょうに焦りながらも出会ったばかりの謎のシスターへと口を滑らせていく。

 

「あぁあえーととにかく、色々ヤバいんす! 俺のせいで!」

 

「何言ってる、とりあえずお前あやしいな全部吐け」

 

「ええーっと今はそんな場合じゃなく! 先生たちみんなと会わないと! ちょっと俺イソ」

 

「…悪いけどそれはできない、こっちも譲れない使命がある。なおさら悪魔のもとに子供なんて通せるか、何故いる言え」

 

海都が横に失礼しようとしたとき、シスター服の女は既に海都の前に立ちはだかっていた。

 

慌てて海都は後ろにさがり、反射的にその女から距離を取った。

 

「うわ!? ──びっく…何故って言われても…とにかく俺がボーンクイーンに捕まったせいでこんなことになってんす! だからここ通してくれないと、説教ならあとでききま」

 

「なに…落ち着け捕まってお前がそちらへ行くのは話が支離滅裂だぞ。まさかヤツに負けて連れが良くない契約を迫られたのか?」

 

「え、なにが…と、とにかく通させてください!」

 

「わかった」

「え、ありが」

「そこまで言うなら私がお前を倒す、聞き分けのないガキはクソ嫌いなんだ、説教だイライラするっっ!!!」

「え、ええ!? うわっ!?」

 

どこか素知らぬ雰囲気の喋り方が一変、いきなり怒りキレだしたシスター服の女は走り緑ブレザーの子供を殴りつけたが。

 

「!──盾?」

 

召喚した白い盾が拳が届くまえに遮り、上手く反応した海都はそのまま無理に押し返すことなくまた後ろにさがった。

 

「あのっ、敵なんすか!?」

 

「逆に問うぞ。お前は私の敵か、嘘をついたらもう1発いく」

 

「え…………敵です!!」

 

「なら説教だ、嘘もバカもガキもここでしね。これ以上ミエナイ災厄をあかの他人様に呼び込む前にな」

 

「う、嘘だろ……ってマジできてる!!?」

 

シスター服の女、ライトは召喚した黒い十字架を地に叩きつけた。

 

純粋な膂力で抉られた土が激しく飛び散り──

 

 

「女を躊躇なく焼くとは、お前説教だぞそれ──はっ」

 

「雷先生……相手の感じで…」

 

いつしか全力で躊躇わずトリガーを引き撃てるようになっていた雷先生を……目の前のパワーあふれる理不尽なシスターにどこか重ね、

 

回避と同時に一連の動作で予測してはなった熱熱のオーラを含んだクレープ弾は、舐めてかかっていたシスターライトの冷えたカラダと抑え込んでいた闘志を少し燃やした。

 

 

 

▽

▽

 

 

 

相変わらずの天気の悪さに、ブロック作りのコロシアムは急遽この地に建てられていた。

 

骨と骨のひしめき合う殺戮模様は、大盛り上がり、熱気を帯びつつ朝から晩までとどまることを知らない。

骨どもは暇なのだ、ガス抜きに必要なのは闘争。

コロシアムとは円形劇場ともよばれる、至高のエンターテイメントであり人間の…骨の滾る欲望を満たす太古の優れた政策であり発明品である。

 

そしてまたひとつ、骨の剣戟の舞台は終わり次の幕へと。

物言わぬ骨も拍手や地団駄、されこうべが客席から客席へと飛び交う、賭けに負けた腹いせなのだろう。

散っていった骨どものゴミは放たれた犬が咥えて嬉しそうにしゃぶり掃除していく。

 

 

『オウオウオウオウマイテマイテお馴染みカタカタとうるせぇだけのテメェらと違って喋りの上手い骨の実況、ホネズナーです。相変わらずのごセイキョウですが、ここでなんと空からのサプライズゲスト、可憐な乙女センシたちの降臨、登場です』

 

 

まるく広い暗色のステージ、白くそびえた壁が覆っている。夏の甲子園でも開催中であるのか、観客の骨がびっしりと埋め尽くしてカタカタとうるさく合唱し異様な雰囲気と空気をつくりだしている。

 

 

「は? なにここ」

 

「ははーんさては、これさっそくやべぇ野郎どもの巣にこのうるわしいお方が飛び入り参戦ってやつだ。──ところでお嬢さん誰だっけ? 栃木なのにかわいいじゃん」

 

「え…ってだれなの? そっちこそ…って栃木なのにってナニ…」

 

「ふっふーーん。──だーーーーーんじょんっ! でお馴染み、死のダンジョンの吐い信者ダンおねだよ!」

 

「だれなの……いったい…(どっかで見た気しかしないポーズ)ってそんな場合じゃなくて!」

 

 

『オウオウオウオウそうこう言うあいだに出揃ったみたいだな。とりあえず、ボーンズトゥエルブvsグリーンベージュシスターズ! 賭ける肋骨といらねぇ奥歯は決まったかぁ? ナラさっそくいくぜええええ雄雌どっちもちんこなしどもおおおおおおおおおファイトファイトボーーーーーーんッッ!!!』

 

 

実況の煽りを受けて──

客席から骨を疼かせて飛び降りた12人の物言わぬ骨戦士たち。ベージュとグリーンの服を着た女2人に向かい、各々の武器を構えうごき出した。

 

「どなってんのおおおおお楽天くん、雷先生どこぉ!? ちょっちょっとおおおってきてるううう!!!」

 

「あひははは騒ぎなさんなお嬢さん、このダンおねに──ところでお名前なんだっけ?」

 

「今そこじゃないでしょおおお月山雨楽楽【テクニカルスピン】!!!」

 

「なるほ……けったいな名前で?」

 

「ってちがーーーーーう!!!」

 

向かってきた骨槍戦士は、危ない槍の穂にちょこんと触れた月山の剣に、そのまま摩訶不思議に握る槍ごとスピンさせられ弾かれ吹き飛んでいった。

クルクルと制御不能で踊り回る槍の舞は、他の骨を巻き込みながらやがて一緒くたに砕け散っていった。

 

「のほおーーーヤルじゃんウラちゃんうらやまじゃん!」

 

「ありがとうだけどッ大人なら生徒を手伝って!」

 

「あひはははそういうのは若干ちゃんとした大人に頼んだほうがよくなーい? まっ、ごあんしん。ダンジョンのことなら大人を超えたダンおねにおっまかせえええ」

 

ダンジョントラブルはダンジョンお姉さんダンおねにお任せあれ。

素手のステゴロでダンおねは月山生徒の要望通り、元気に剣槍弓を構える骨の海へと駆けていった。

 

ベージュ戦士の名作映画アクションばりのカンフーと縄遊びと、誰もみたことのないグリーン戦士の奇剣躍動に、ボーンブロックコロシアムに集う冷えた骨身もあたためるほどの一層熱のある喝采が上がった。

 

 

 

 

 

 

離れ離れ散り散りに、ダンジョン部の皆は不幸不遇のハプニングに見舞われながらもその身はやがて辿り着く。

 

 

なんとへんてつのない暗雲の地。

 

ダンジョンで見られる見慣れた普通のステージに、

 

ぽつりぽつりと、向かい合う。

 

訝しみながらも不思議と一歩一歩引き寄せられていく引力と魔力に、お互いがどういう属性のものなのかどの道を進んだものなのかが、ぼやりと…相手の挙動ひとつひとつを見て取り深まっていく。

 

 

湖の瞳が見つめた立つ骨は肉を帯びていく。それは蘇りの魔法というよりはその骨に刻まれた記憶と呪縛そのつづき────若かりし頃の姿へと。

 

遥か昔その星ある世界で剣聖と呼ばれた者がいる。銀色の髪に、銀色の鎧、銀色の剣。そんな見目佇まい聖なる者が何故悪にその手を、その剣を貸したのか、それは────

 

 

交わす言葉もなく、無言で静かに構え合った。

 

湖の瞳をしずかに凝らした赤髪の女剣士と、全盛期の姿を今また写し取り戻した銀色の剣聖。

 

「星を見上げても、剣士。いくら斬っても、研いでも、別れても、届くことはなかった。やがて食事をするようにくりかえし…そしていつの日か私はこう呼ばれた────剣聖。己が飾られた今また見上げてみよう……やはり、同じ。このくりかえし選んだ剣には一体何の意味があるのかを、お前の剣は教えてくれるか」

 

瞬きもない泰然とした表情をした銀髪の男にムスイが問われた剣の意味。

 

 

「飾られた真剣な話に失礼だが、──あいにく教えられることの方が多い。フッ」

 

 

ムスイにとっては今は語らず穏やかにそう答えるものであった。目の前のただならぬ雰囲気をした相手に己が教えるものなどきっとやってみないと分からなく、されどきっと剣を通して戦いを通してこの先この相手…教えられることは沢山ある。これまでも喰らいつきときに傲慢になり、挫折し、されど破れた綿がそれでも水を含むように何かしらを吸収してきたように。

 

強者セリー・ヴェーバーにも、影の存在イザベラ・ゴールドにも、底の知れない当主代行にも、ながく共にいた天才三姉妹にも、雷夏にも。

 

変われど──ムスイが挑む心は、もう、変わらないのであった。

 

 

その時────おしゃべりにできた2人の間をかき消すように、雷鳴は暗雲から地にとどろく。

 

 

地に剣を構え合う2人に火を灯すように──降ってきた、たたかいの合図に、足音を立て交わりあった刃は激しい青と銀に煌めいた。

 

 

 

 

▽

▽

 

 

 

 

今宵は未だやって来ず、されど待ちきれず舞踏会。

 

ブロックで作られたこの舞踏会場、思わぬゲストとして招かれたシデンレイラはここを知っているが知らない。

空のグラスで乾いた音を鳴らし、生気なく自動で背景が踊るこのような気の利いたものは知らない。

 

煌びやかなステージで紳士淑女たちはペアになり踊っている。

燕尾服やドレスだけではない、パン屋や騎士や記者や酒場のあの娘や、ドレスコードはご自由に。

 

「ふふふその白と黒のゴージャスで物珍しい服は見かけないのねどこの服屋で買ったのかしら、東の王都かしら」

 

「ふふ、さぁたしかとても煌びやかでかわいいあおいペンギンがいるところさ」

 

剣とレイピアが火花を散らす。

バイオリンの演奏が鳴り響くこのステージで、一層目立ち踊っているのは刃と刃を合わせてあつい星々を生み出す白黒マントと赤いドレス。

 

見知らぬ妙齢の高貴そうな女が豊かな金髪を揺らし、共にヒールで器用にステップを踏む。

鋭く飛んでくる細い切先を見極めながらシデンレイラは微笑みを崩さない。

 

「ふふふ、ペンギンってなにかしらあなたの街はオシャレで変わっていてすごいのね。その素敵な服と2色のダイヤのマント、わたしにか死(し)てくれない? わたし通り越してしまって生きてる服は着れないの、ふふ、だってそんなのただうすく着せているだけでありふれてるもの、ふふふ────」

 

剣音が鳴り響こうがなんの気無しに悠々と踊っていた別のペアが突然────ひとりは右手を掴み誘いひとりはナイフを抜き走り、シデンレイラの右脇へと襲いかかる。

 

シデンレイラはマントを華麗に翻しながら拘束してきた一体を引き剥がし、ナイフで突っ込んできたもう一体へと引き剥がした一体を吹き飛ばした。

そして華麗にターンしながら、誘いを断り踊るシデンレイラへと連動するように襲ってきた赤ドレスのレイピアに、新鮮な死の予感を感じ取りながら後退。

白いテーブルクロスの敷かれた台の上へと乗り上げ黄金のシャンデリアへと銃口を向けた。

 

(彼女が赤いドレスを着ているのは何故でしょう。気ままなのが突然、おそらく指示通りに踊り動くマネキンたちの衣装にはところどころ虫食い穴が空いていて、絢爛な舞踏会に似つかわしくない…)

 

「サクッと狙うお宝のはずが自分が着る服までには袖を通しても価値に気付かなかったさ。コーディネートは慎重に、変装は町娘にナイトにパブの看板娘お手のものだがこの服を真似されたことは未だなかったさ。なにやら創作意欲のわく面白いお相手と当たったみたいさ……またいちページ、鼠屋敷に招かれたときのようにっ、ガライアの女神の脇腹をくすくすと笑かせるといいのだけど──ねッッ」

 

金の小銃の銃口からのびたダイヤのチェーンはシャンデリアへと伸び、シデンレイラは華麗なワイヤーアクションでこの熱心な舞踏会のペアである情熱の赤を見下ろして微笑った。

 

 

 

 

 

 

ぶくぶくと溶液に浸り泡立つ不気味な円柱カプセルが並ぶ──妖しき緑光放つ薄暗きラボにて。

 

『我がラボにようこそ、新鮮健康な素体の調達の手間が省けるありがとうございます。ここで取り扱っているのは人間を用いた人間のリサイクル創生。いつの世も人は人が成し得なかったことを受け継いで埋め合わせていく──さすれば魔学と科学。セカイはいずれそれだけでいいと思わないかァァ?』

 

聞こえてくる声はきいていない。

 

砲の音が盛大に鳴り響き、ダルメシアン柄のツナギの元へと殺到してきた銀髪の美人形を粉砕する。

 

 

『何不自由ないッ、何不自由なく突き詰めて自由!!!』

 

『しかぁし例えばだれかがだれかを呪おうとするとき、魔学や科学、これだけでは不自由。この世でもっとも洗練されていない呪い、その一種の強烈なバグを引き起こすには何が必要か…………』

 

両脇に含むようにバズーカを二丁構えた。

殺意を込め、演説もお構いなしの灰色の爆撃が連なり起こる。

寄ってくるものには容赦はなく、自分の命と相手の命を天秤にかけた末、意図も容易く実行されてゆく連なる灰色のリズム。

 

 

「背の高い灰被りのショートカットいいよねーーー俺、君にも恋しちゃったよねぇーー!!!」

 

 

黒のガウンと角帽を被った、アカデミックドレスを纏う魔科学士が後ろに控えている。

 

素っ裸、学生服、私服、職業服、髪型、成長度合いも違えど顔つきはとても奇妙なことに似ている。得体の知れない銀髪の美集団は、浸されていた眠りから醒めて彼を守り彼女を襲う。

 

「ちょっこし、──やばい?」

 

爆風に外れかけたオレンジのイヤホンをずっぽりとノーハンドで両耳にハメ直し。

繋がった黒い音楽再生機から耳に奏でられた、疾走感溢れる曲をリピートした。

 

灰色髪のショートカット、牛頭梢はそんな唐突にひびいた歪んだ恋など知らない。ただ死の予感を感ずる目の前の敵を自分色に爆撃するのみ。

 

荒れていく…生まれていく…ラボ。

魔学か科学か呪いか恋かただのバズーカの爆撃か、

一途に呪われた古の学士と、ちょっこしスペシャルな現役女子高生牛頭梢のたたかいは、

時空を超えて特に互いに共有する概念や信念もなく…始まってしまった。

 

 

 

 

▽

▽

 

 

 

 

「よーしいくょーー夏ちゃんジャグチぃー毛布くーん、────────はは」

 

遠く聳え立つ目標を指差し、元気にテンションを上げる。

黒いいつものパジャマ姿は寝ぼけてはいない、寝起きではないからだ。

しかし、妙に風がさむい。周りの何にもぶち当たることなくかのじょひとり、自分だけに吹き抜けている。

 

白い骨に禍々しく飾られた、ダークな色合いの巨城がド神子の目の先にフツウに見えている。

 

「んーー。……置いてけぼりぼり、古井戸神子。あぁー、アソコにぃ、弟子をまかした骨悪党がいる、かんじ? はは、ここでお師匠でてきていいのかなぁー、ははは、えー? 夏ちゃんずにはまだまだ荷が重いってぇ? じゃーちょっこしごずこずえ、ツキヤマついてることを祈って、──終わらせるかー」

 

古い黄色のスニーカーは駆け出した。

駆け出した道中土中生まれてくる白骨の障害物をひと撫でに刃をすべらせながら、ダンジョンの土を懐かしのスニーカーは蹴り駆け抜けていく。

 

運良く辿り着いた古井戸神子はただひとり、雷夏たちの到着を待たずして骨の魔王城へとお邪魔しに向かった。

 

 

 

 

▽

▽

 

 

 

 

▼部室①青い草原▼にて

 

 

亜空間調査万能レーダー機器DORAYAKIが宙に投影したワイドビジョンに描かれるグリッドマップには、ぽつぽつと光る点が散らばり広がっている。

 

「チュチュン。なんかちょっとしっぱい。ひとつ、箱からもれた重すぎるかんかく、したきがする?」

 

白フードを被った灰鼠ニンゲン、チュチュンは手にハメている白いミトンから立ち上る煙を見ながら首を傾げる。転送の手応えを、目標にしていた離れた箱へとちゃんと全てパーフェクトに投げ入れられなかったように感じた。

 

「ふむ、なるほど。どうやら君達のお仲間の中に見たこともないすごいオーラ数値…を宿していたバケモノがいたからかな。重く圧縮されたそっちにチュチュンくんの転送に消費したオーラを吸い寄せられてそれより小さい方は結びつかず分離しやすくずれた座標にそれぞれ散らばってしまったようだ……。このグリッドマップはそう示している、デカい一つだけが目標に辿り着いたと言える。フフフ、あくまで仮説だが…しっぱ…ではなく想定外ほどおもしろいっ。今日は特異日、温室でキーボードを打っているだけでは分からないことがまたひとつ分かったな、フフフ────」

 

「チュチュンかいとたち助けにいく」

 

白衣の博士が金髪を両手でかき上げながら異国アーメリガナイズドされたオーバーリアクションしてわらっていると────チュチュンはそう博士に普通に告げ、さっそく青い野を寝転がって遊んでいた白帽子のマスターキャップちゃんの元へとはしった。

 

「待ちたまえチュチュンくんッ。────私もただの女だ、ひとりはこわい。ふふふ……」

 

明智マリア(39)、歳を感じさせない美しい容姿をしており特定のいくつかの分野に精通。他人よりとても偉くはあるが、人並みの心は持っている、そして汗をかくような運動をひどく苦手としておりそれを重々自覚している。他所に行こうとしていた鼠ニンゲンのチュチュンを呼び止め、何が起こるか分からないダンジョンでの偉くて戦闘力のない自分の身辺警護に口説き当たらせた。

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