雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
いつものように道場前を藁帚ではいていく。
ムスイにとっては当たり前のことである。
そういうほんのちいさな徳を積むことで強くなれるなんて……未熟な若気の至りと考えでもあったと思うがこの歳までつづけている。
「門前から気合を入れるのは、フッ。悪い考えではない」
そうちいさな懐かしさをしみじみと感じ落ち葉を掃いていると、
3つの得体の知れない雰囲気が遠方から漂ってきた。
ムスイはその方をじっと見つめた。
この距離からも殺気立てる異質なオーラの纏まりがなんなのかを考えながら────ゆっくりと大きく見開いた己の眼に、懐かしのみずいろの正体たちが熱帯びていき判明した。
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見覚えのある木剣を腰に差しあらわれた、ここまでの迷い道を自慢げに話す道場破りたちを仕方なく道場内へと招き入れてから、
既に、立ち会っている────────。
木刀と木刀を構えながら、お互いの切っ先の動きと久しい面構えを確認し合っている。
同じ水色道着の、ちがう髪色、スカーレットのような赤ときよらかな水のような青。
そんな負けた方の要求をなんでも聞くという、重みのちがう2人の真剣勝負を、傍から観ている次女と三女は道着に着替えながら2人の初太刀の行き先に熱心な眼差しを送っていた。
「ジーナはやらない? サンは別にいいけど?」
「まぁ、長女だし譲っていんじゃねぇか。そもそもどうにも止められないしな。なんならど~ちゅ~ずっとコワイカオしてたぜ、はっ。アタシはヤれなくても別にぃ、ずっと兵庫もあきてきたしなー」
「たしかにイチの剣にここんところドラゴンズドラゴンのリメイクもぜんぜんやれずに付き合わされた。でもスイレンが聞き分けがよすぎてぶきみでむかつくかも」
「なんか裏打ちがあんだろ。それぐらい見ていたら片手間の剣でもわかるぜ。久しく見ねぇうちにな、どっちもそんな表情だ」
「うん。でもこっちもゲームのあいまにたまに努力する天才。それで今イチがいちばん3人のなかでレベルが高くて強い」
「泣きべそがやんで研ぎ澄まされてる状態の苺茅は
「それさっききいた村人Gのせりふ」
「うるせぇ」
「うるさく夏っちゃん! だいじょうぶ夏ちゃんはすこぶる元気だぞぉーありゃムゥちゃんのお相手はなんだぁ? いつものサンドバックのシバゾウじゃないのか、けっこー強そうだなぁ? 夏ちゃんゴッチャンレーダーがビリビリピンピンしたものだから来てみれば、ふむふむおおーー、って両手に花ならぬポップでクールでみずみずしいオーラだ!!! ダンジョン部? 入るか? 入るんだろう!!!」
「「あ?」」
道場破りの次女と三女のあいだに元気な顔を出し、妖しい色合いの青髪とギラつく赤目の元道場破りの不審者が不意に現れた。
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絶対に折れない木剣がある。兵庫川西の流水道場に代々受け継がれている幾多の才ある剣士たちが握ってきた痕のある霊木の剣だ。
そんな剣は剣士の武器はたまた自信、プライド。暇つぶしそれともただの興味がないながらも握り続けた年月。
彼女たちにとってはどうだったのだろう。きっと生まれながらに天の才ある者はそんなことを深く考えない。
へし折れるだなんて────────
長女の剣は剛力の剣。
次女も三女もそれを躱すほどの。
彼女の放つありったけのヤジルシに食らいつくのはスイレンや
今それが折れた。同じそれ以上の剛力の剣で。
相手が握っていたのは特別な木剣でもない、なのに絶対に折れない木剣が生まれた時にさえ上げなかった悲鳴を上げて、────へし折れた。
初太刀と初太刀。同じような剣線でぶつかり合って、更に上を行く。へし折っていく。
ムスイが見せた流水道場当主の娘でありその長女、西川苺茅の剣への解答。
まるで彼女が来るこの日のためにあたためていたのか、そんなことは分からない。
だがどんよりとただただ曇るイチの瞳には宮本遂廉の切っ先が冷たく映っている。
いつものように泣いたりもしない。スイレンを吹き飛ばして泣きながら謝ったりもしない。
ただ涙が流れないこの感情を西川苺茅は知らない。
無自覚の天才は舐めていたわけではない。三姉妹で高め合い最高のレベルを更新し西の国からはるばる来た、負けるはずのなかった長女のその剛剣は────
おしゃれではない…しっかりと留めていた緑のカチューシャの吹き飛んだ……乱れる水色髪は、立ち尽くして膝からがっくりと崩れていった。
この日道場に痛々しくこだました、三敗。
真剣勝負で向き合った赤い剛剣に長女は崩れ、
ふらっと出没した青い獣剣に次女と三女は訳も分からず喰いちらかされ、
流水流道場からやって来た道場破りたちの剣は、神牙流道場の剣に木っ端みじんに敗れた。