雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
赤髪の剣士は言葉をかけなかった。
そんな表情をする敗者の気持ちが痛いほどに分かったからだ。
だからこそ勝利の興奮はなく冷静でいられた。
かつての壁を越えていたことを此度剣を一度だけ交えて確かめた、このふらっと流れて来た白昼の道場での立ち合いは傲りで勝手であるが赤髪の剣士にとってそういう意味合いもあった。
何度も苦しめられていた長女の剛剣に対して何度もイメージし更新しつづけあたためていた剛剣を披露する……それがせめてもの誠意、そしてお相手に背をみせて神牙流の門下生ムスイはゆっくりと道場を去っていった。
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道場破りがまとめてへし折られ敗れた昼下がり。
▽喫茶カラオケ じゅんこ▽にて
誘われたのは久々の再開を祝うというのではなく、積もる話があったからだ。
ムスイはジーナとともに、歌えて話せる茶も飲める場所に来ていた。
古いL字のブラウンソファーに座りながら、ここまでの経緯を三姉妹の中で一番話ができるものと擦り合わせていく。
「流水流当主の許可を得て? ここまで三人でわざわざ…」
(当主は何を考えている? 神牙流の当主の状態は義理あって報告したが、秘刀のことで……しびれを切らしたか? アレは……黄蜜は…気まぐれな獣のようだ、私も海都の回復がなければ下手すればその身を食いつくされるところだった。落ち着いてはきたがまだ身を引き裂かんと疼く…そんなに易く手に入れられるものでは────)
「まぁそういうこった。アタシは剣なんてなんでもいいけどよ、てかここレトロで雰囲気がいいな、気に入った」
『だろー! カラオケといえばじゅんこ一択だ! 店長のママはともかーー!』
「……苺茅と太陽は?」
「イチならどっかにこもってまた泣いてんだろ、そのうち帰って来るな三日後ぐらい。サンはしらねー、アタシの誘いを断りやがったロックじゃないゲーム目の妹なんざなー」
「……そうか。たしかにな」
『えーーあーあー…ンンッ!! それでは夏ちゃんの喉がめちゃうまオレンジカフェオレでうるおったところで、栃木旅行客歓迎の夏ちゃんスペシャルメドレーかけちゃうぞー! ともかママいつものーーゴーーー!!』
「ちょっと待て……何故コイツを誘っている」
「あのそこそこ有名な宇都宮テカルに次ぐ栃木一の絶対的歌姫だってきいたから? その歌声をプロの耳に通さないわけにはいかねぇだろ? ハハハひゅーひゅーーー」
「アイツが……?」
ジーナにとっては剣よりも歌。歌えるヤツならば憎いヤツでも初めて会ったヤツでも誰でも歓迎なのだ。
マイクロフォンを勇ましく握り、小ステージに降り立った青髪赤目の歌姫によるスペシャルメドレーが始まってゆく。
17分後────
「17分メドレーでここまではっちゃけて歌えるスタミナはさすが栃木一をうたうだけあるな。へっ、やりやがるプロでもここまで腹から(バカみたいに)歌えねぇははは」
「……」
『とろぴかる夏ちゃんになる! あちこち夏ちゃんになる!』
「いいぞいいぞーははは──あ??? これは────!??」
(それは滋賀の歌姫スイレンの
「……」
『さすがに夏ちゃんだらけ? いやはや夏ちゃんである!(ナッチャン!) そろそろダンジョン部入る? さすがにダンジョン部入る?(ハイル)』
「……」
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「貴様ァ、そもそも栃木一の歌声がそんなに雑なものか!」
「んや? よく褒められるぞ?? 近所のお祭りでも夏ちゃんメドレーを毎年歌わせてもらってるぞ、5ねんれんぞくぅ♡だいこうひょう」
「ふざけるな! そんなものが栃木のトップ10にも入らん!! そして原曲の良さを変なアレンジをして壊すな!! 勝手にぶち壊すな!!」
(たしかに騒がしい祭りにはぴったりな歌声だぜ……しっぽりしてないどんちゃん騒ぎの夏限定だが……。そんでスイレンは歌も剣もストイックだからな、原曲のお手本通りに歌おうとしないヤツには厳しい。しっかりと基礎ができてからアレンジをする分にはむしろ文句はないらしいが…まぁ逆鱗)
「それだとつまら夏ちゃん? 盛り上げ下手かぁまったくぅ? ムゥちゃんは浅いなー♡」
「貴様のは歌とは認めない!! それにメドレーといいゼンブ歌い方が同じだ!! 剣とおなじく元気のおしつけだけか貴様は!!! きいていて疲れる三流!!!」
「あぁさんりゅーだとぉ?? そこまで言うならムゥちゃんは歌えるのかーー? 栃木一の絶対的歌姫の壁は高いぞーーーあついぞーーーたかいたかーーーい!」
「カ・せ!!! 素人くさい剣のつぎは貴様に真の歌唱というものを教えてやる! 歌に鍛錬の年月は必要ないとおもったか? 考える脳もいらないと思ったか? 能天気に歌うだけが歌じゃない!! 貴様はずっと能天気のおしつけ、無知な獣がずっと同じ月にむかって吠えているのと同じだ。私はちがう、歌というものは剣と同じ。美しい調べ、型や流れがある、常に大音量でまぬけにあえぎ流れを消して無視する貴様にはわからな────なぜ貴様もマイクを持っている?」
「デュオで?」
「いらん!!!」
「ははーん? あたしの耳がどっちがこの曲──に合ってるか機会採点より公平に採点してやるぜ」
(デュオか……万能歌唱とお祭り歌唱の、へっ)
「なるほど夏ちゃんvsムゥちゃん、世界一絶対的歌姫vsただの挑戦者か? いいないいな、んやんや、ノったぞー!!」
「誰がただのだ! しれっと世界一など名乗るな伊達歌唱が!! ちょーどいい機械採点でははじめから勝負にならんと思っていたところだ」
「やっぱりぃ?」
「貴様がだ!!! そんなので点が取れてたまるか!!」
「ともかママはいつも100てん♡」
「馬鹿か、獣がおだてられてるだけだ。いいだろう貴様の上ったそのほっそいヤシの木のテッペンを縦真っ二つに薙ぎ斬ってやる!!!」
「できるかなぁー? 83勝」
「貴様がな、197敗」
売り言葉に買い言葉ではじまってしまった、赤青激突カラオケバトル。
審査員はあらゆるジャンルの歌にめっぽぅ詳しいミュージック雑誌の連載も持つジーナと、マジックで書いた100点のプラカードをかかげる準備をごそごそとしている喫茶カラオケじゅんこのともかママ、とAIカラオケ採点ロボⅣ
以上の三名で。
そしてメインである歌い手、美しき赤と青がフェイストゥーフェイスで睨み合う。
いざ正面、ご清聴の審査員たちにむけて二重唱。水と雷のデュオがはじまった。
「「【どこ夏ココナツRPG】!!!」」
「ドキドキ砂漠をほってェ!」
「そのムコウ側へイカせて♡」
「つながるカラカラに咲く」
「「瞳色は恋ですか?」」
もちろん夏の定番、2人組のこの曲で──
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昼下がりこの日は休日、またダンジョンの様子の見回りをまかされた男は、学校の片隅にひっそりと置かれた青い戸をひらき現場に到着した。
ちゃぷ、ちゃぷ、薄暗い倉庫内で何かするはずのない水音が中に入った足底から響き渡る。
足を止めて、よく見えるように明かりをつけてみると────
「なな、なんだ……これ? みずたま…り??」
第イチ倉庫内は、水浸し。
昨日も今日も豪雨というわけでもない普通の晴れ。
訳の分からない濡れた現場のミステリーに、楽天海都の両足はひたっていた。