雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
ずっとこのまま。この状態のままぎゅーーーっと。
はじめて会った彼のなかでえんえん泣き、すすり泣き、やがて落ち着く。落ち着いたころには。
緑のブレザーはずぶ濡れに。
「なな、なんでぇ…ずぶぬ……」
「ごめんね…ごめんね…ぐすん…」
そんなにダンジョンが怖かったのか……そう思うと涙の理由はわからないがじぶんにも汗ばかりで涙こそは流さなかったがすごく共感はできた。
とにかく彼女がおさまり涙が晴れるまで、とりあえず海都は抱き着く彼女の背中をそっと迷った行き場のない手でさすった。
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数分間つづいた涙がやっと枯れて、そのちいさな苺柄のハンカチだけではどう考えても濡れた部分の全てをぬぐえないが彼は彼女からの気遣いをありがたく受け取った。
「いちごさんですか?」
「うん。本当は
「え? どういう……じゃぁいちごさんで? いいすか?」
「うん海都くん。海のみやこで海都くん、ふふ、なんか映画みたい、なまえ、ふふ」
「え、はぁ…あざっす…」
まずはさっそくの自己紹介を終えて、涙ばかりであった彼女がわらった。
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「帰りの黄色い切符チップ?」
「ハイそれが出ないとダンジョンが帰してくれないって、なんていうか先生が…いつもそう言ってますね」
「ふぅーん。そぅなんだ」
今いるダンジョンのことを丁寧に説明をする海都のことを、苺茅はまじまじと見つめる。
真面目に話をきいてくれるのは助かるが、海都にとってそんなに熱心に見つめられるとなんとも言えないが困り顔を浮かべそうになってしまうものだった。
「もっとおしえて。お姉ちゃん役に立ってみせるからっ! うん!」
「え、ハイ! ざっす…」
ダンジョンが怖い……そんな同族にはあまり見えない気がしてきた……。
涙が枯れてからはやけに前向きに立ち直った苺茅に、海都はどこかどこぞの2人に似た引力を感じてしまった。
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いくらダンジョンのシステムの説明をしても、ここは弱肉強食の魔境。
自分の支配するエリアではないかぎりモンスターを倒していき、進んでいくしか道はない。
また鍾乳洞に現れた貝蝶たちを今度は、苺茅が剛力の剣でまとめてはじき返し、握っていたふつうの剣とともに壁にぶつかった貝殻は粉々に砕け散った。
砕け散っていった剣を握っていた両手は、振り返り────顔の横傍に合わせて苺茅は海都にむけてしおらしい表情をした。
「ごめんねお姉ちゃん…そのでぃースキルちっぷっていうの上手くできないみたい」
「あぁーえっと、たぶんそのうちできるようになりますよ! ていうか!! できなくても十分滅茶苦茶強いっすよ!!! ほんと先生やムスイさんに引けをとらないぐらい! ……というか…あはは…すんません…」
しかしそんな謙遜は海都にとってド神子さんの適当に言うような嘘にしか聞こえない。そもそもDスキルチップを使わなくとも、オーラの扱い方を少し教えただけで彼女のその剣の破壊力は十分、貸した予備の武器チップの剣の方が物足りないほどである。
この前にピンチになっていた貝蝶どもなどリベンジを越えて意図もたやすく木っ端みじんにしていた。
「うん? 海都くんの学校の先生とお友達?」
「あぁーっと、はい…友達といいますか…なんつぅーんだろ……あははとにかく滅茶苦茶強い人たちです!!」
「めちゃくちゃつよい……うーん…お姉ちゃんはちょっとちがうかな…」
「え!? いやいやそんなことは…めちゃくちゃ頼りにしてますし! さっきから! って俺なんもできて! あっ、そうだ! そういえば俺今回は月山さんのときとちがって…じゃなくてッ反省して荷物持ってきたんでした! ってさいしょに戦うときに置き忘れてた! ちょっと俺ソレ取ってきます!!」
慌てて入り組んだ鍾乳洞の道を引き返す海都をほほえましく苺茅はちいさく手を振り見送った。
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急ぎその辺に放置していた荷物を探し当て持ってきた海都は、さっそく中の機具をとりだし取り掛かった。
三脚丸椅子のような形は、ダンジョンダイブ中でも携帯できるように開発された試作クレープ焼き機〝ダンクレー〟。
今、いざ、クレープグレープカンパニーの紫色のエプロンと若葉色の頭巾を引き締めて──
そのダンクレーの円盤鉄板の上で、さっそく持参したクレープ液を流し生地を焼いていく。
クレープといえばトンボだ、トンボというT字の道具で流した生地を薄く丸く伸ばしていく、クレープ屋としての腕の見せ所である。
カイトママ直伝のトンボ操作術でクレープをいつもやっているように伸ばし、スクトゥム(クレープをひっくり返すための長ヘラ)を用いて生地をひっくり返していく。
生地が焼けたらあとは準備されたものでいい、飽きのこないようビターチョコソースを中に少しばかり仕込み、イチゴホイップクリームを味のベースと決め、トッピングボックスから削り冷凍イチゴをアクセントに加え苺が主役なのだとはっきりと決めていく。
出来上がったいちごさんクレープをCGCの包装紙につつんで、コーンスタンドに立てて完成。
後ろでぴったり見られていると失敗してしまうかもしれないと彼に言われたのでじっとおとなしく待っていた彼女に出来上がりのクレープを手渡した。
「これ、イチゴあじ? すごぉい?」
「はい、いちごさんなんで…あはは単純に俺が連想しちゃって作りたくなっただけと言いますかあはは。さっきのハンカチも苺柄のやつだったんで…好きかなぁって? あ、先にきいとくべきだった! っすね…」
「うん、だいじょうぶ。あったかくて甘酸っぱくてめちゃくちゃ美味しいよ! こんな美味しいクレープ食べたことないっ、ありがとう海都くん! お姉ちゃんがめちゃくちゃ好きな苺の味!」
「どど、どういたしまして、あざっす! そういうの…めちゃくちゃうれしいっす! あっそれちなみに食べた半分ぐらいから中にビターチョ────」
希望や絶望などはそのときばかりは難しく考えなくてもいい。
腹を甘く満たして、ふたりは和気あいあいと未知のダンジョンの中で英気を養っていく。
ダンジョンでも腹は減る、腹が減ってはモンスターとは戦えないのだ。
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その後も順調に、微妙に中の様相や鉱物や岩肌の色合いのちがう鍾乳洞のステージを乗り継ぎ水棲モンスターたちを2人で協力しなぎ倒しクリアしていきながら────────。
石柱がへし折れて、激動するステージに天の石つららが危なく降り注いでいく。
暴走列車ではない。レールの敷かれていない鍾乳洞内の道を壊し散らしていくのは……。
「な、なな、なななんだぁーー???」
「危ないよ海都くんこっちこっち! また怒ったミゾレちゃんが突っ込んでくるからお姉ちゃんの後ろに!」
「えっと…ハイーーーーーーってそれでいいのかな…俺ってぇ? ってうおおおおおおおおってミゾレちゃんってだれなんすかああああああ」
それはミゾレちゃんなのか、いやそんな可愛らしいものではない。
巨大な青白いウミウシのモンスターがまたその軟体のやらかな角を向けて、地をこそぎながら苺茅と海都のパーティーに突っ込んできた。
貝を砕き、空飛ぶ魚を切り裂いて、お次に登場したのは謎の巨大ウミウシモンスター。
ダンジョンにて殻を捨てて急激成長した突然変異のウミウシなのか。
その体色の美しさと飛行機のように広げ立てたヒレのひらひらな動きに見惚れている場合ではない。
突風が汗粒さえも跳ね飛ばし、大蛇が鎌首をもたげるように立ち上がった巨大ウミウシに2人は剣と盾と銃をその手に構え、いざ、そうぞうしく立ち会った────────。