雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
「しかしやるのぉ。ミゾレちゃんを2度も倒してしまうとは」
「ミゾレ……ちゃん…?」
「やっぱりミゾレちゃん! うんうん!」
「ワシのペットのことじゃ、透き通る美しいミゾレ色をしておったろ」
「うんうん! お姉ちゃんやっぱりミゾレちゃんはただのかたつむりじゃないと思ってたの! でも痛くして大丈夫だったかなぁ?」
「ほぉーミゾレちゃんの良さがわかるか。なぁにワシの噛みつきにもけろっとしておるヤツじゃ。ちっとやそっとでは完全にやられはせん安心せぃ──かたむつり?」
(あの鯨みたいな大きさの青なめくじ…ほんとうにミゾレちゃんなんだ……)
そのあとミゾレちゃんには気に入った物体を食し取り込むコピー能力があることなど、ウツボ姫に自慢げに教えられ巨大ウミウシに関する知見を深めた。そういえばと患部の治療のために一度ミゾレちゃんの中に入ったことのある海都も苺茅も何か思い当たる節があったらしく、苦笑いと笑みを浮かべた。
「海の都でカイトじゃと、なんといい名前じゃのー。なんと素敵じゃ! おぬしに過ぎたるものがあるとすればその素敵な名じゃな! はははは」
「ぁざっす…」
(千葉県で生まれたって意味もあるらしい……母さんいわく…)
地上と海の世界では、ずいぶんとじぶんの名前の価値がちがうのだと海都は感じた。
「────ほーほー何も知らんということはコスモスの使者ではないか。なるほどのー、ちとそれを見してみろ」
「え? …はい?」
海都はもくもくと煙る、水タバコの煙に装備していた白い盾を差し出し置き。
浮雲にのっかってウツボ姫の手元へとわたりその盾は鑑賞されている。
「うむ、どうやらワシの勘違いじゃったようだ。最近このウツボ姫を強引に動かそうとするしつこいヤツらがおってのー、まぁそれもある時を境にぱたりとやんだんじゃが」
またぷかぷかと進む煙にのって白盾は彼の手元へと返された。
煙を吸わないように苺茅に口を閉じられ、海都は困惑しながらもウツボ姫のした不可解な行動にとりあえず会釈をした。
「んぷ? ──はぁ…そそ、そうすか?」
「しつこいようじゃが、おぬしらはやはりその者たちとはちがうともうすか?」
「もちろんおれたちはダンジョ」
「だんじょ? さっきも言っておったの?」
「は、ハイ……ダンジョン部ってやつで、特にそんなことは……してないとおもったりぃ…ただ単にダンジョンをときどき探索してモンスターと出会ったら倒しているだけというか」
何故か思考が途中つっかかり断言ができない。喋りの最中も、海都は過去じぶんを幾度も強引に動かそうとした……先生のギラつく赤目を唐突に思い浮かべてしまい……。
「ダンジョンブ? やはりさっぱりきいたことがないのー。うむ、少しお喋りがすぎたようか足が痺れて飽きてきてもうた。──さて、肝心のおぬしらのこれからの処遇じゃが」
処遇、砕けたかんじの会話と確認がつづいていたかと思えば、ぽっと浮かびあがったその言葉に海都と苺茅は背筋をピンと伸ばしおもい息をのんだ。
水タバコの管を小刻みに揺らし考えた様子で、一つ吸い上げた──ウツボ姫の口元を2人はよぉく見つめた。
そしてやがてウツボ姫は吐き出した、丸い輪っかの煙が座布団に座るゲストの2人を囲うように広がり通り過ぎていく。
「────保留じゃ。なにぶんミゾレちゃんの脱走の犯人の貝獣調教師はもう数日前につきとめて珊瑚牢に放り込んでおるからのー。わしの領海に波風を立ておったそいつの処遇はきっと重くなることじゃ。
というわけじゃ、ミゾレちゃんとやり合いたおしたというおぬしらのその力とオーラとおもしろい小話に免じて、保留じゃ」
「ぬしらは狡猾な海賊どもとは属性が違うとは思うが本来の世はもっと邪悪も孕んでおるのも事実、餌食にならぬためには善良な者も疑いかかるしかないのじゃ。以後ワシの領海で疑わしき行動をせんようにな。あと何にも属さぬモンスターとやらにはワシも少々困っておる、ワシに近いとこでそやつらを掃除したいのならば許可を得てからにせい、ははは。それと海扇部隊のサンゴに感謝することじゃ、わしも邪気のない子どもと戯れているほど暇じゃないのじゃからな」
そう長々と理由を簡潔に告げながら、ウツボ姫はあくびをしながら豪華な金座布団とひらいた巨大貝の席からはけていった。
処遇は保留。事なきを得た海都は胸をなでおろすというよりはまだウツボ姫の言った内容の全てをのみこめず、きょとんと正座したまま────
ウツボ姫様のいなくなった人間が2人だけの部屋に、入れ替わりで貝間の従者たちが現れた。
後についてくるように従者に促された海都と苺茅は大人しく彼女たちにしたがい、あたためた座布団から腰を上げ、案内されゆく見知らぬ館内を歩き出した。
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「海都くん、どうしたの? そんなとこじゃぺちぺちなっちゃってちゃんと寝れないよ? ん? マンボーのお布団さんもあるよ?」
「いや、そのぉ……な、ななな…んと…いうか……」
長い廊下をゆき従者たちに案内された寝床は、よくわからないクラゲが頭上に浮かぶ天蓋ベッド。
白い白い透き通るクラゲの天蓋ベッド。しめった触手のカーテンがぺちぺちと端にすわる海都の非常な困り顔をシュールに打つ。
お姉ちゃんとカイトくん、2人は姉弟ということでウツボ姫様の粋な計らいか、ベッドになりそうなものはひとつだけの……同じ部屋へと案内された。