雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
『ほれいつまで寝ておる』
そんな聞き覚えのある低めの声と額を小突く感覚に、楽天海都は目覚めた。
海都が額の痛みをおさえながら目覚めると湾曲した黄金の天井が視界にあり、やがて黒と黄色のギロり…睨み下げる面と鉢合わせてしまった。
「誰のひざのうえをぐーすか自由につかっておる」
「ご、ごめんな……さい…」
海都が目覚めたのはこの領海の支配者ウツボ姫のひざのうえだった。
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即刻不遜なひざのうえから飛びのき、ここまでの経緯をうかがったところ彼が宿泊部屋で茹蛸のようにぐったりしていたところをウツボ姫の従者たちが見つけ、こうしてウツボ姫の憩う華美な部屋まで寝ている間に運ばれたしだいだという。
「ワシのおる海の都で干からびられては困るからの。ほれのめ、アクアじゃ」
海都はウツボ姫をアクアをもらった。
大きなガラス玉のような丸い透明容器にストローがささっている、それがアクアというらしい。ココナッツジュースでも飲むかのように海都はおそるおそるはじめてのアクアなるものを飲んだ。
「ん……これ!?? もしかして……少し飲んだだけなのにまるで飲みごたえがッ……ちがう?? カラカラの喉が……めちゃくちゃ一瞬でうるおうかんじの…」
「ほぉそれの質に気付いたか、やるのー。まさしくそれがアクアじゃ、ただの水ではないと喉を通し鳴らして分かったであろう。そうじゃな? 気の利いた感想のひとつでもなければその喉元にぐわりッ…! ──噛みついているところじゃったな、ハッハ」
「か……かみつ…く…」
このまん丸ガラスの中の水をひとつ飲み干すのにも苦労しそうな、一吸いで十分喉の渇きが満たされるそんな特別なお味の水だった。無論いままで味わったことのない特別な水〝アクア〟に海都はまだ興奮気味で、ガラスの瓶に映るクリアな水の色を眺めている。
(いや待てよ? この水でCGGのクレープ液を作ったらどんな味に────────)
「そうだおぬしその珍しいオーラと技でワシのペットであるミゾレちゃんの痒い所をなにやら治療したときいたぞ。ぬしならこれも治せるんじゃないか、ちと試してみせぃ」
「いやそもそも焼かずに生クレープにして────えっ!?? あ、ハイーーー! や、や、やります! ど、どのペットっすか!??」
「ペットではないワシら貝間に欠かせないベッドのようなものじゃ、これと言ったであろう」
ウツボ姫がそのながい指と爪で指し示すのは、ひらいた大きな貝殻であった。
人間と異なる種族、貝間のベッドのようなものと説明するが海都は分からず。だが分からないことをもう一度オウム返しで聞き返したいところを堪えて……。あの巨大ウミウシに回復弾を撃ち込んで治療した実績とオーラを買われた海都はウツボ姫の言うように従った。
しかしとても大きな貝殻のどこが悪いのかわからない。とても白々としていて、虹の光沢が綺麗にうつるそれは不思議がる海都の目には完璧に見える。
(貝を回復……ってできるのかな…? 青いナメクジもできたし、いける…?)
「ここがちと欠けておっての。気に入ってはいるのじゃがそれが気になってなぁ、また買い替えるか悩んでおるところなのじゃ」
「え? どこすか?」
「ここじゃここ」
貝の殻の外から前のめりに目を凝らせど欠けている部分はわからず。
ちかづいて指差すウツボ姫の指先にもっと凝らしていくと────
「ええ、ど、どどこなんだろう……わぱっ!?」
いきなり後ろから押された海都は貝殻の中にころんでしまった。
こけて痛む体を上げようとすると、海都の間近にウツボ姫のそのご尊顔があった。
頭をぶつけてしまいそうになった海都はその不意に視界に入った圧にあわててまた後ろにころんでしまった。
「貝間は個人によるがこうやって自分の貝殻で休むものなのじゃ」
「ええ!? はい!? そ、そうなんですか…ってそのなんでぇ俺押されて…」
「傷も見つけられんおぬしの節穴のせいでワシももういちいち答えるのに飽いてしもうたのじゃ」
「す、すみません……あれぇ……でもぜんぜん見つからな──ンッ!!??」
のうのうと言い訳を並べていたその口は、一瞬で何かに覆われた。
不意に視界一面ちかく……襲われた海都は噛みつかれたような勢いで貪られていく。
それだけでは留まらずうねりぬめり侵入していく。やがて呼吸ができない程に、長い舌がすべりこみ海都の口内を、舌を、巻き取り、絡めて、いっぱいにしていく。
突然のキスが────ながい。
ながく黙らされて、唾液が舌と舌で交わり、あふれて、思考までもぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てていっぱいにされていく。
「────ぢゅううぅチュプッ……ふぅむ……野暮じゃのぉ。そんなことはもうどうでもいいのじゃ、ワシの海に浸かったからには全てワシの獲物ということじゃ。それにおぬしらをもてなすなどワシは一言も言っておらん、この領海ではすべてワシの裁量と気まぐれで事が動くのじゃ。そんな大それた名前で理解しておらんよぅじゃのぉ海都とやら」
「あぁあ……まっ…まってなんでぇ…」
「ちっともわかっとらんナァ? 何度も言わせるでない。言ったであろうもう既におぬしはワシの獲物なのじゃ。ウツボ姫に天敵はおらん。今まで好きに泳がせていたのを勘違いしておったようじゃのぉ? そんな無防備に噛みつきやすい距離におったらもう…噛みつかれるのが世の末じゃ? ハッハッハ────では覚悟するがよい♡」
「そそ、そんな……ま待ってぇ…! 何を言って」
「もう十分に待った。勝手やりよるツガイを観賞するのはこれぐらいでよかろう。あとは獲物らしくワシに噛まれてか弱く抵抗でもしてみるがよい♡」
ギロリと細めた黒黄色の目が蛇のように睨み、常人より鋭い歯形を剥きだしにワラう。
黒髪が垂れ下がり彼を覆う。
虎柄模様のへそ出し服と、その鋭い目つきと歯で。
そのウツボ姫の醸し出す圧に、既にキスでふやけた海都はそれでも抵抗しようと試みるが────その存在感に睨まれてにじり寄られては……。
やがてワカメ色の服を着た獲物はまたウツボに噛みつかれた。
捕食者と獲物、ふたりを乗せていた大きな貝殻のベッドがひとでにパタリ────音を立てて閉じていった。