雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
三脚で聳え立つダンクレーはクレープを焼き上げる、そこが川岸であれキャンプ場であれダンジョンであれ海中の家の中でも。
サンゴ邸にて行われたクレープ試食会。
あえてひとつひとつシンプルな一枚に巻き上げて出したクレープの味は好評であったものの、喜びもつかの間、別の致命的な問題に海都は気付いてしまった。
「もっと海扇部隊のみんなやここのみんなにもと思うんですけど、材料が。ちょっと全員分は……」
そう、材料、食材が足りないのだ。
カイトママ秘伝のクレープ液も、苺もチョコも生クリームも。
美味しいと言ってもらえたのにこれ以上クレープを作ることが難しい……そんな状況は三度の飯がクレープといっても過言ではない彼にとってどうだろうか。トッピングボックスを開き確認しながら海都は残念そうにそう言った。
「それならとっておいた方がいい」
サンゴが即座に返したそれならの意味がよく分からなかった海都であるが、やがて手を打ちまた気付いた。
「あ、ウツボ姫…さまにですっすか!」
やはりこの海で一番偉いお方に代表して毒見を既にしたクレープをご賞味してもらう、そのための残りの食材をとっておいた方がいい。みなは言われなくともサンゴの話の間に海都はひらめき答えた。
「いや、それよりその品は娯闘海にもっていくのがいいでしょう。その味に価値があると判断されれば〝クレープ〟はこちらの海にも受け入れられるはずです」
「後藤…会?」
「ええ、娯闘海」
彼の脳内で優先順位を考え当たり前に至ったその結論は彼女の導いた正解ではなかった。
娯闘海、突然聞いたことのないカイに海都は誘われてしまう。
固まった彼の表情をみながら、サンゴは食べ進めていた最後のひとかけを口に放り入れた。
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▽
サンゴは彼のクレープをただ味わうだけではなくもっと先を見据えていた。今は眠りに籠った一番上の立場のものの腹に収めるよりも、有用な手があるのならばそちらを優先すべき。
娯闘海には海の商いのほぼスベテを司るそれに相応しいトップが別にいるのだ。
その人の舌に美味しいと言わせれば余所者でもそれだけで話は通じる。この品ならば万の語りより説得力は十全であるとサンゴはクレープを毒見しながら判断した。
思いもよらない提案であったが海都もサンゴの展開する説明に納得をした。
そうと決まれば──
コンパクトに畳み上げたダンクレーと残りの食材をつめこんだリュックを背負い、準備を終えた。
そしてさっそく家主がちいさな貝殻のたくさん埋まったおしゃれな戸を開き、共に外に出ようとする。
────だが、海都は立ち止まった。
どうしたのかとその冷たい光景に浸ったピンク髪が振り返る。
「う…………うみ……」
それはまるで海の世界。ドアを一枚ひらいた外の景色はあおく冷たく揺らいでいる。
当たり前のことを言う彼に、当たり前のように水中で平然としゃべり返す彼女がいる。
同じようであまりにも違いすぎる貝間と人間との境が、その戸の外と内でくっきりと映し出されていた。
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▽
人間は海で泳ぐことはできるが、しゃべることはできない。
長時間水中で息をつづけることもできない。水中の酸素を取り入れる身体機能がないからだ。
それは当たり前のこと。覆すことが難しい当たり前のことが────
今、ひっくり返っていた。
おそるおそる揺らぎみえる外の水境に飛び出ては、サンゴの家に戻るを繰り返した────その結果。
水中活動可能な時間は伸び続けついにおぼつかなかった彼の息が苦しくなることはなくなり。補助していた彼女の手を借りずとも海都は海底の砂に足を着け、水中でフツウに貝間の彼女とこうしておしゃべりをしている。
「この獲海の酸素レベルは低くはない。オーラレベルも低くはない。口の中にできるだけ水を入れるな。その前にまわりの溶けている酸素かオーラを吸い出せれば十分に呼吸は可能だ」
「えっとなんか……これでいいんすかね……。俺ってあのぉ……今、おかしくないすかね……?」
「それならば問題はない。そのまま娯闘海に行っても貝間たちに奇異の目では見られないほど上達している。その呼吸法で──ん?」
海都はサンゴの傾げた首にかるく頷きながらも、まだどこかつっかかる……。
じぶんは今水中で呼吸をし、それだけではなくおしゃべりをしている。
サンゴの教えに丁寧に添いコツをつかんだといえばそれまでだが、その前に人間としての今のじぶんの姿を考えようとしたが──いくら考えても余計困惑に呑まれる。
習い慣れてしまってフツウに水中で呼吸をしている自分がただそこにいる。
それはすごく変、だがここでは普通の事。
正面のピンクのグラデーションの髪が水流にゆらめき、ただただ彼のことをその淡い桜色の瞳で覗いている。
ぼーっと海底に突っ立っていると小魚たちが海都の視界を悠々と横切っていく。そんな未知だらけの世界に浸りながら、ピンクの髪が今なぜか一瞬彼の目に青く染まって見える。
「だ、ダンジョンだからかなぁ……────っし…!」
思えば旅した世界はダンジョン、不思議なことが良く起こるダンジョン。
立ち止まっていても自分には分からない。
たたずむ彼女の目に映るスイッチを切り替えたようなわかりやすい表情をした少年は堂々一歩前へと、海の