雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
この白い石像はなんだろう……。
サンゴ邸よりすこし離れた場所にあったその人型の像のことを気になり見つめていた海都はサンゴになんの気なしに質問した。
「
聞かれるとそう一言だけ、彼女はつぶやいた。
海底に立つ純白の象徴。地から色とりどりにのびたサンゴの装飾に囲まれたそれは、真新しくも見えるほどにかたく石灰化している。
きれいに象られたソレが何なのか海都は分からない。
いったいなんの象徴だろうか……。
ただ、彼女の横顔はその女神のことを真剣にそしてやわらかに見つめている。
なんとも一言ではやすいようで言い表せないそんなサンゴの横顔に、海都もまた同じ方向に────────。
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サンゴの受け持つ小海で貝間の呼吸法と歩法の一部を学んだ海都。
これ以上の練習の必要は今はないとサンゴは判断し、彼の方へと手を伸ばした。
「娯闘海へと移動するにはこの海流に乗っていく。準備が済んだなら言ってくれ、ひと泳ぎほどですぐにたどりつくことができる」
群がる小魚が散っていく。重いリュックを背負い上げた海都は既に準備万端。
返事はもちろん────
「ハイ!! だいじょうぶっす! た、たぶん!!」
伸ばされたその手をとる。
貝間と人間、重ね合わせた手を結び、いざゆかん。
娯闘海へと連なり吹くとくべつな海流に乗り、サンゴと海都は小海を発った。
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娯闘海、元は娯海と闘海に分かれていたが利害合って統合された大海。
サンゴ邸のある小海の静けさと打って変わり、
泳ぎすれちがう貝間、魚、海老、シャコ、ウミヘビにご挨拶を……活気にぎわう海の商店通りを抜けていき、やがて細い岩穴へと……2人がたどり着いたのは────
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水中を歩き水の境を抜けたら、不思議なことに空気に満ちた部屋の中。
そこは天然の光る岩肌を利用した洞窟部屋のようであった。
多方にあいている穴から部屋へと、滑り台のようにすべり、続々と役者は派手に登場し集った。
一等ひろい商談部屋で、アポなしの訪問客の2人を仰々しくなぞの集団となり出迎えている。
そんな予想だにしなかった群れなすプレッシャーの中も、若葉色の頭巾と紫のエプロンを引き締める。
緊張しながらも作業工程は手慣れたいつものように薄く焼き上げる……コーンスタンドに置いたできたてのクレープを提供し、
小細工なし、アレンジなし。どちらも生クリームをサブに苺味とチョコ味の二種類を提供し勝負に出た。もちろんサンゴに試食してもらったものと同じクレープで。
糸目はずっと糸目のまま……未知の料理〝クレープ〟と説明された珍品にその歯はかじりついた。
表情は読み取れない。
烏帽子をかぶった金髪、作務衣のような薄く軽い服をきた金髪の女性に注目が集まる。
おおきなおおきなマグロさんのソファー(解体ショーver.)に座るその貝長へと……料理人に隊長、取り巻きの貝間たちまでもがじっーーと熱こもる視線のヤジルシを向けている。
しばらく押し黙り……口についたクリームをゆっくりと舐めずる……。
返答はない感想はない、力の入った表情がぐにゃり苦しそうに変わったのは知らぬ海の料理人。
期待と焦燥と不安が混じり合う汗が一筋、彼の額から顎まで伝い垂れていく。
そんなに溜められて悩むほどの味なのか……不安の方が勝り募りだすもうダメかと思われたそのとき────見開かれた。
糸目は開眼し、取り巻きの貝間たちへと出された料理をゆっくりとあずけた。
「ウチはバリいけるおもうんやけど──どう? なんかせんねん若返る味やわぁ。ふふふ──」
左の口端を舐めずる。
鯛貝笑海貝長エベザリスはそのクレープのお味に、細めていた目を見開きながら〝笑った〟。
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その後取り巻きもニヤニヤと笑った。鯛貝笑海で笑うという行為はとても前向きな意味を持つらしいと海都は居合わせていたサンゴに耳打ちで説明をされた。
「なんや食材が足らんのか。んでわざわざウチに残った貴重なクレープを届けてくれたんかぁ、けなげやなぁ。姫さんを差し置いてウチに……ふふふふふふ──冗談やで」
関西弁か京都弁なのかバックボーンが千葉の海都には分からない。
その後のその後も淡々と話は進み、クレープは笑えるほど美味いもんと鯛貝笑海は認識された。
話は肝心のクレープを作るのに必要な食材のことへ。
海都はサンゴとの打ち合わせどおりにその旨を貝長エベザリスへと伝えた。
「ええで。今ここ鯛貝笑海のウロ奥にあるもん、ぜんぶ使ってええわ。──しょくざい」
「え???」
「なにおどろいてんやぁ。このめずらいお味をこの海にあるもんで再現しようってはなしなんやろ? そんためにウチの舌脅しにきたんやろ? ふふふふふふふ」
「さい……げん……そ、そそそそそうっす!!! ──いやオレ脅してぇ!!?」
みなは言わずとも分かる。商魂逞しい娯闘海の支配者、鯛貝笑海貝長には分かる。
読んだ先の先の流れへと、餌をまきてばやく流していく。
それを商機といいはたまた商気とも言う、そんな特別なオーラを金髪烏帽子がつくるその笑みは醸し出している。
ちょっと分けてもらうどころか全部──海都は突然の大胆な提案に慌てながらも、このような僥倖に抗う必要はない、何度も壊れたようにイエスイエスと頷いていた。
もちこんだ材料で自分が作ったCGGのクレープの味をこの海にあるもんで代用し〝再現〟する。
そうすれば、きびしいきびしい商いの神様が舌をうならせ微笑むのも一番確実である。先ず目指すべき現実的な提案であった。
それができてから徐々に商売として商品を展開しステップアップしていく……そんな黄金に後光射す未来流れを頭ん中で描きながら……。
目を輝かせているエプロン姿の若者をみて、貝長エベザリスはまた細い目を見開き笑った。