雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
こぼれた雫グランマルニエ
あなたをさがして
ふらりと彷徨うフランベ…
シュクレサレシュクレサーレ
おどけた唄にのって 甘えてもいいじゃない?
それがわたし流
シュクレサレシュクレサーレ
巻かれては抱き寄せる
だってわたしたちは…
クッレープグレープグループ!!!
クレープの唄(CGG)2ばん おわり
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▽CGG千葉本社 第7層CGG社長室▽にて
「これが全国のCGGに属するクレープ店、夏場の売り上げの平均値です」
「何故だ」
そう一言。
机上の紙に目を通していた面を上げて、白髪の男は表情に年季の入った渋い影をつくる。
紫のメガネフレームをかるく持ち上げ、目を天の照明に光らせた秘書は報告をした。
「我が国日亜におけるクレープといえば1977原宿にあったクレープ店が源流であり、外側よりは中のクリームが主役のイメージです。まさにクレープはクリームを食べるためのもの…そのイメージに引っ張られているので国民に溶けやすいものと認識されており、このように夏場は収益が下降気味になります」
「うむ…それより……キミは熱くフランベされた、この魂の叫びがきこえないか」
男は高層のおおきな窓外からみえる千葉の海を見つめながら、小麦色のスーツの背を見せ──耽った。
「これがデータで示されたリアルです。魂の叫びはたった今丸めてしまったその中にもあるのではないのでしょうか」
「うむ…」
手にした報告書を丸め巻いてまた手ぐせでクレープを作ってしまった男は押し黙り、突っ立つ秘書の元へとゆっくりと歩み寄った。
「だがしかし…これは認め難いシュクレサレだよ、
「はいですが、これが現実です」
「現実などきっとフランベ、私はいい匂いのするいい厚さのいい焼き目をここまでただただ追い求めてきたというのだよ丸夜麻くん。そうしなければ私ごときはこの席に座ってなどはいなかった」
「────栃木緑蜜市道の駅前。
「何故それを言わないーーー!!!」
「悪い知らせは包み隠さず先に甘い知らせは後でと、以前CGGが私をひどく叱責しながらおっしゃられていた事と存じ上げますが」
「ごほんっうむ……そういえばそうであったか。やはり……やはり此度も彼女のいるところに、夏の暑さにも負けぬクレープ熱はかき混ぜられていくというのかね?」
「シュクレサレシュクレサーレ希望の唄にのって…」
「会いに行かれるのですか。今度はどのお立場ででしょうか」
並ぶ数多の帽子掛けから、鼻歌混じりに麦わら帽子をチョイスしたCGGの顔が強張った。
ぐさりと……いつもと変わらぬ平坦な声で呼び止めた丸夜麻秘書のその顔を見つめながら、立ち止まったCGGの表情はやがてクールに染まっていく。
「丸夜麻くん……私はCGG。今は遠く孤軍奮闘する〝社員たち〟に会いに行くというのだよ。私のフランベする情熱を止められるというのか」
「申し訳ありませんCGG。少し……
「丸夜麻くん……」
「「シュクレサレシュクレサーレ
巻かれては抱き寄せる
だってわたしたちは…
クッレープグレープグループ!!!」」
CGGは踊り、唄い、────────出かける。
また、クレープの焼かれあるところへと────────
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▼鯛貝笑海の洞 クレープ開発室▼にて
『シュクレサレシュクレサレェえええええ!!!』
銀のウィスクかき混ぜるその背は情熱。
どうじに唄いきこえる唄は未知白熱。
「ところでさっきからなんのけったいな呪文や。…………まぁええわ。ほらあんま盗み見しなさんな。姫さんのおらんうちにこっちはこっちで大仕事の準備に取り掛かるで、あのバカ笑いに負けじやな」
物陰でその少年のエプロン背を覗いていた鯛貝笑海の面子はニヤニヤと笑いながら散っていった。
▼
▽
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【海クレープ・シュクレ】
沈没船に眠るリキュールで甘味と香りを加えたクレープ。そば粉の割合をさげてシープラントで新たに調達したたくさんあった芋類を用いて甘味に合うように仕上げた生地。
【海クレープ・サレ】
そば粉と貝出汁のきいたクレープ。こちらは生地の甘さは控え目である。
⬜︎
かき混ぜて焼き上げること丸二日────ついに完成した【海クレープ・シュクレ】【海クレープ・サレ】。第三の壁もクレープの原形ガレットから進化させつづけてきた彼にとっては、打ち破る必要もない。壁などない…スベテ歴史にそうように導かれるままにかき混ぜた二種の正解と信じるものへと、半人前の彼のクレープは洗練されその見事な変貌を遂げた。
しかし壁はないと言ったが、この二種の新クレープ液で焼き上げたクレープが貝間たちに認められるかは話は別。
この日の大一番何かと彼のことを気にかけてくれていたサンゴには海扇部隊の仕事で会えず、だいじなだいじな運命の試食役は貝長のエベザリスにしてもらうことになった。
鯛貝笑海にサンゴとともにアポなしで乗り込んだ時とあわせて二回目になるが、彼の緊張はその時の比ではない。やはり他人に食べてもらわないことには完成しない。彼のクレープは完成しないのだ。
「なんやよぉさんアレンジしたな」
いつぞやのマグロさんのソファー(解体ショー.ver)の赤身の部分に腰掛けながら、一種ずつゆっくりと味わいながらエベザリスはそう言った。
相変わらず彼女の表情は彼には読めない。鯛貝笑海のトップはそんなにやすくその糸目の表情を変えない。
「はい…」
カイトママのクレープ液と全く違うものであることを見抜けない貝長ではない。
再現するという約束を反故にしてまでも提供された彼のクレープのお味は────────
「たしかにこれもこれで美味いわ。〝ウチにはな〟。どっちもバリ美味いわ」
「え! や、やったーーー!!!」
返事は美味い。
お味は美味い。
ということは美味い。
海都は大喜びで思わず気合を入れ過ぎていた頭巾を天へと投げ上げた。
彼のクレープはエベザリスにとって『どっちもバリ美味い』のだ。
【海クレープ・シュクレ】【海クレープ・サレ】が彼の中でやっと完成した瞬間であった。
「じゃお次は。初陣の出店やな。期待してんで──あんたさん」
「やたーーーーー────え? ────────え」
天を見上げ両拳を突き上げて全身の全力でよろこぶ。
ついに認められた──そんな人生でひとつ、最高潮の気分を迎えていた彼が現実の方を見直す。
きょとんとまっすぐに見つめる海都の視線の先には、糸目を開眼した金髪烏帽子のお偉いさんが妖しく笑っていた。
▼▼
▽▽
壁をいくつも打ち破り乗り越えた先には────海が広がっていた。
ここは
このながいながい横並びの一部に組み込まれ彼のクレープ店が出店することがぬるりと決まった。
いただいた小さな小さな出店スペースに、お手製のCGGの旗を堂々とかかげる。
ダンジョンクレープ焼き機の便利なダンクレーを立ち上げて、それだけではきっと間に合わないので漂流物の普通のフライパンもお借りした。
クレープ屋としては足りないものは多すぎるが、足りていることもある。
彼はじぶんの気合の入れ方をそれしか知らない。
きゅっとパープルエプロンの帯を締め、硬く硬く若葉色の頭巾を結ぶ。
「海の中でも……出張出店CGG!!! よーーーっし!!!」
銀のウィスクをかかげ、透明ボウルのクレープ液をかきまぜる。
今はクレープのことだけを、気合白熱集中した彼の情熱はたとえ遠い海の中でもとどまることをきっと知らない。