雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
開戦海鮮街道──CGGの出張出店3日目。
鯛貝笑貝が分け与えた洞の一室、この日も慣れない海中の地で精力的に活動し、クレープ開発室へと帰ってきたクレープ職人の卵、楽天海都は……。
いつもの場所から彼女たちは彼の背を見る。
ウィスク片手にボウルをかき混ぜるその背はどうだ、どんな元気なオーラがただよっているのか。
しばらくかきまぜて──溜息……とても話しかけられないそんな意気消沈した背であった。
「ひとくちで海底に投げ捨てられたクレープがきいてもうたんや」
「娯闘海は武骨な連中も多い。それはそれとして海を無駄に汚すヤツは私が沈めてこよう、どこだ?」
「慰めにならんわぁ。武骨やろうとなんやろうと必死に世話焼いて育てた商品捨てられるのはウチも気ぃわるいわ。ってそんなん余計逆効果や、無駄なお掃除はやめときや」
「それにあんたさんもあのクレープ試食したんならなんとなくわかってるやろ。──あんまうけへん理由」
「……あぁ、それは。だが、そうだな。アレに水を差したくはない。すごく真剣に悩んでいるのでしょう」
「ウチに満を持してアレと殴り込んできたわりには意外といけずやなぁ」
「それを言うなら分かっていながら開戦海鮮街道に放り込んだのが一番趣味が悪いとは思うが。正直時期尚早だと言わざるを得ない、商売素人の私でも分かる。物事の流れというものを娯闘海のトップに居座るものが分からないのは少し残念だ」
「隊長さんの皮肉は笑えんなぁ。そないに肩怒らせんと。甘い成功体験の連続もええけど鼻っ柱のたかい若いうちに苦い経験せんと腹から笑えんやろ? ──苦すぎて笑えんようになったら? 知らんわぁそんなん、ふふふふふふ」
他人の不幸は蜜の味か。貝長エベザリスは彼の背を見て笑っている。
同じく共に物陰から隠れ見ていたサンゴは唇をくっと、力を入れ──何故か表情筋の動きを試した。
「シュクレサレシュクれぇ……はぁ……」
フラッシュバックするのは平然と道端に投げ捨てられ漂った無惨な食いかけのクレープのこと。
押し寄せるのは憂鬱な気持ちと、そのクレープの何がいけなかったんだと今も苦慮する気持ちの半々。
ますます混沌と混じり合いもやもやと思考の質が悪くなっていく。
何も思い浮かばない、繰り返されるあのクレープの無惨な姿だけ。海都はクレープ液をかき混ぜる手すらも止めて────ネガティブな溜息をおおきくながく吐き、ただよわせた。
コーンスタンドに立て掛けられたクレープを眺める。
眺めても答えは見つからない。
ただただ彼の中に憂鬱な時間が流れ、それを打ち消す力もなく、気力も削がれていく……。
そんな完成品のクレープは────横から伸ばされた手にかっさらわれた。
「海都。────────」
「え? ────────」
歯を見せて笑った表情で静止する。一口食べクリームをつけたサンゴの下手な笑顔がそこにある。
隣に不意に現れたそれを見つめながら────分からない。分からず海都はただただ彼女のことを見つめ返している。
「分かるかいな。ま、そうや? ウチもそのまず美味いヤツ一口いただこか────────」
サンゴが一口かじりついたそのクレープに、下手な二人の睨めっこに見かねたエベザリスもかじりつき────同じように奇妙に笑った。
驚いた海都は、次第真剣な様子で訝しむ。
彼の視界に笑い並ぶ二人の女性貝間と、手持つ齧り跡のついたクレープ。
それは何をしたくて、何を意味しているのか。わざわざそんな分からない事を突飛もなくする以上、何かがある……。
「あ!??? あ…………ああああああーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
捨てられたクレープ、食べられたクレープ、食べかけのクレープ。
思考をシーンをさかのぼり重ね合うと、彼の中になかった衝撃のヒントが浮き彫りになる。
思い浮かべた悲惨なピースと今目の前で歯を剥き出しに奇妙に笑うピースを重ね合わせても、重ならない。
それはとても────
依然クリームをつけたサンゴとエベザリスの笑みに、手持つ食べかけのクレープに。
両手でがっしりと己の頭をかかえた海都はその脳天に舞い降りた電撃の事実に、────やがて腹底から噴き出すように笑った。