雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
海にはない料理クレープの物珍しさから新規開店日から客足はそこそこであったが、オープンから3日目には客足は目に見えて減っていた。そして海都自身店中から目撃したあのクレープ海中投げ捨て事件。
客足が減っても食べにきてくれる人はいた、めげずにちいさな店の一角でただただクレープを焼き続けご提供していたそんな海都さえも滅入ってしまってあの事件。その原因を推測した結果、何も浮かばずただ憂鬱な味を長く味わっていた彼に見かねてヒントを出したのはサンゴとエベザリス、彼女らの笑顔であった。
ヒントは笑顔であり、キラリ光る歯であり、食べかけのクレープについた歯型模様の差異であった。
サンゴとエベザリス彼女らにとって美味だったそのクレープは、一口で海底にポイ捨てをした貝間にとっては良くない柔さをしていたのであった。
原因は歯だと気付いた。
色んな海から漂い泳ぎ集まった貝間たちはそれぞれ異なる歯型を持つ。
ウツボ姫のような歯、獰猛な牙をもつ者もいる。反面、海藻などを主食にする者もいるのだ。当然主食とする物に応じて歯のカタチは大きく異なる。
この大いなる海のヒントを得た彼はまるで一気に水を得た魚のように、新たに考案したクレープ液を必死にかき混ぜた。
「なんて馬鹿だ俺は! 目の前クレープのこと自分のことばっかりで、お客様のクレープをたべたときの笑顔もまともに見ようとしてなかったなんて! そんな当たり前のことを!」
どうすればお客様を笑顔にできるのか、どこか意識の隅に欠落していたそんな当たり前のことを見つめ返す。
誰もを笑顔にできるクレープは自分の腕では作れないのかもしれない。
だがしかし、彼はあらたな試作のクレープ液をかき混ぜ、具材のチョイス大きさ切り方に至るまでをもう一度吟味再考していく。
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あらたに考案し直して追加した楽天海都の新作クレープの数々は口当たり、食感、中の具材、を大胆にアレンジ改善した。
さらにクレープの生地の焼き加減、歯のカタチと咬筋力に応じたおすすめの層(重ね枚数)をご提案し、貝間のお客様方がご注文する際の選択肢に幅を持たせることを試みた。
彼が編み出したこの画策は今まで取りこぼしていた客層を拾い上げ、一定の成功を収めた。
成功を収め勢いを巻き返したものの、しかし最初の評判をくつがえすまでは至らない。
一度しみついてしまったイメージやクレープとやらに関する悪い不味い噂は、いくら+材料を焼き重ねていっても払拭することは難しいものなのだ。
しかしそれでもクレープ職人の彼がやることと言えば。
やはり新作クレープの開発、楽天海都はまた鯛貝笑海から貸し出された洞にこもりクレープの良い匂いを連なる洞中に漂わせていた。
「一番の課題は食感だよなやっぱり……味より食感の方をだいぶ重視する人もいるみたいだ」
「とすると俺の今のクレープメニューって…アレから改善重ねてって悪くはないけどやっぱりまだちょっと食感がおもしろくないのかなぁ? 少なくともはむっ────うん、おもしろいとは言えないかなぁ…??(めっちゃうまいけど…漬けマグロアイスクリームチーズ。今の売れ筋ナンバーワン!! われながら……はむっ──)」
「んーでも、今のメニューを変えすぎるのも初期から来てくれてる既存のお客様が……うーん……やっぱ鮮度食感を重視したあたらしい────」
『────なんだと? 私はウツボ姫からそのようなことを聞かされていないが』
『貝柱たちが不在なんやから早いとこそれを決めるのは理にかなってるやろ? あんたさんも姫さんから遠まわしに吹き込まれてるやろ?』
『教える必要はないことだ。不在だからといって貝柱たちに無断で決めることはおかしいことだ』
『ふふふふ、なんや仲良ぅなれたとおもってたのに隊長さんはいけずやなぁ? 貝柱おらんと海扇部隊も負担と水圧が大きくて大変やろぅおもってのウチの善意やのに?』
『偽ってなくてもいらぬ善だ、とにかく勝手なことをしてもらっては困る。海の編成はウツボ姫が目覚めてから考えればいいことだ、それにそのような派手で馬鹿げた催しを仮にするのならばその目で直々に観戦してもらった方がいいだろう。進言が通る保証はないが』
『すまんなぁそれはできへん。もう配ってもぅてん──ビラ、いまごろ外海中にな』
『心苦しいがさいあく黒海に連れていくことになりそうだ?』
『それは冗談でも困るなぁ。ふふふふふ』
ボウルをウィスクでかき混ぜる音よりそのひそひそ声はボリュームがだんだんと大きくなっていた。
背方で話すサンゴとエベザリス、いつもの2人の元へと気になった少年はエプロン姿のまま近づいていった。
「……あのぉー? さっきから話し込んでどしたんすか? あ、なんかまたぁ俺のクレープのことで悪い噂がなんかふぇっ!? うわっ!?」
「ちょうどええわ。ええとこにええのがおったわ。クレープ、あんたさんは興味ないか〝貝柱カップ〟」
「貝柱……かっぷ?(!? 全然離れないんすけど……)」
そろりそろり様子をうかがうように近づいたらいきなり──海都はエベザリスに瞬く間に顔首を脇の間へと固くチョークされてしまった。
「そうそう貝柱カップやで。あんたさんが精出して店やってるなっがい開戦海鮮街道からも見えるやろ? 見たことあるやろ? 娯闘海で一番おっきぃアレが海中闘技場や。貝柱カップはそこでやるまぁお祭りみたいなもんやなぁ────闘いの」
「え、たたかいの?? あそこで……(闘技場の噂は俺もお客さんからきいて知っていたけど…)」
「あのぉー…そのたたかいって具体的にはどんな感じの……?」
「なんや興味ありげやな? ふふふふふ」
「グループずつの総当たり形式、グループから各1名相手を倒してひとつ奪える勝利貝を最も多くあつめた者のみが決勝の洞にくぐり進める。そこからも同じく予選グループを勝ち進んだ者同士の総当たり形式となり、勝利貝を奪い合う。そして全ての闘いが終わり勝利貝を多く集めた四名がその年の【貝柱】となる。例年とルールが同じならば──そうなる」
サンゴは2人のやり取りに割って入り淡々と貝柱カップのルールについて説明をした。
が、海都は彼の脳で新鮮な情報を
「なにしてんの、一気に詰め込めすぎやほらカチコチになってもぅてるわ」
「……」
サンゴは意味なく黙りピンクの髪をしずかにかきあげる。勧誘手段をひとつかっさらわれたエベザリスは渋いため息をもらした。
そんな2人が並び向き直り、止まったままの彼を見つめたなか────
「俺ぇ……出ます!!!」
「ン」
「お」
「足りないのは宣伝力……いくら焼いても美味しくなってもみんなに知ってもらえなきゃきっときっと食べても横目に通り過ぎてももらえない……俺、宣伝します!!! CGGを! CGGの…俺流のクレープを!!! ──絶対的に!!!」
紫エプロンをそよがせ、勇ましく手持つ銀のウィスクをかかげる。
彼が放ったまさかの絶対的出場宣言。
足りないのは味や食感だけではない宣伝力。
CGGに属するクレープ職人の卵にして、緑蜜高校ダンジョン部の部員楽天海都は既に開催予定の貝柱カップへの電撃参戦を決めた。
すべてはお客様とクレープのために、彼の熱意のヤジルシは熱く熱くとどまることを知らない。