雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
イニシアチブを譲られた開始早々に海都がハンドガンから放った熱々のクレープ弾は、右腕に立ち上げた鋭いヒレに一瞬にて切り裂かれた。
なおも突っ込んできた鯱女に放つ銃弾とスキルチップ技は、キレキレの泳力を魅せる彼女にはなかなか当たらない。
「噂の不味くて柔いヒラヒラとやらを撃ってるヤツかい! シャシャシャその程度の攻撃じゃあながち魚の餌にもなりはしない、評判通りだネェ!」
「それでもッ美味しくなりましたんでぇ!!! 味も! 生地の種類も! 噛む食感も! おもしうわっ!?」
「このスピードを前に余裕こかれるとは──ね! シャシャシャチャチな砲から伸びるそのヒレも、タコは切れてもシャチのアタシは易々と切れないサ。その体勢で受け止めたつもりかい? こっちはもう一手増やして噛み付くよ! シャレじゃないよほらほらァァシャシャシャ!!!」
「っ!」
右腕の硬いヒレを受け止めていた銃剣は下方から伸びてきた予期せぬ尻尾で弾かれて、
さらにもう一つの左腕からせり出し立ち上げたヒレブレードがオーラを纏い襲い掛かる。
しかしブレザー生地の薄皮を斬るにとどまる空振り、対抗する武器を失くした海都は寸前で後ろにさがり離れるも、ここは海中素早い鯱女の追撃は直撃必至。
交差させた、真っすぐ泳ぎながら振りかぶった左右のヒレブレードが×字にターゲットを切り裂いた────
しかしその瞬間、クロスに引っ掻き傷をつけられたのは鯱女の頭になかった不意に現れた白貝。
海都は鯱女の膂力に呑まれ水中を回転しながらも立て直し、再度構えた盾で鋭い攻撃を受け止めることに成功した。
(や、やっと出てくれた……。助かった…じゃなくて! それだけ、ヤバイってこと!? なのか…!)
「ナニ? 白貝の盾? ……シャシャシャ……たしかにその生意気な痺れる食感、アタシ好みだ。ナラもう少しイただいてみようかい! そらそらぁ!!」
しかしご自慢の双鰭に跳ね返った白貝の盾の触感のレビューはほどほどに、すぐさままた海を賭けたキラーラのインファイトでの猛攻がつづく。
「殻は良くても中身の方はまだ柔そうだねぇ!!!」
「ぐっ──!」
仕掛ける仕掛ける仕掛けつづける。
豪快豪速で護水内を泳ぐ鯱があちこち多角から、殻を刻みつつき揺らし破ろうと危険なヤジルシを向かわせつづける。
いくら殻が硬くてもこのスピードと鋭さで抉るような攻撃を仕掛けられれば、揺さぶられ続ける海都のカラダの方はもたない。
やがてそののろまな白貝で遊び飽きた鯱はオーラをたらふく纏わせる。
双鰭は炎を纏ったように赤く染まる【ヒートヒレブレード】になり、海都が最初に放った熱熱な技をもっと熱く温度とスピードを上げお返しした。
一気に迫った鯱の攻撃をただただ前に殻を構えて籠るのは────もうやめた。
開き直った海都は獰猛に迫るキラーラの熱き双刃に対して、右腕に張りつけ装備した白盾と逆さに手持った小銃、無茶して伸ばしたふたつのオーラブレードできっちりと受け止めて答えた。
「これでっ──ハァハァ…どうすか!?」
「敵に聞いてんじゃないよ! 歓声がきこえないのかい? ムカつく付け焼き刃だねぇ! シャシャシャシャ!!!」
緑に発光しながら己を回復し一時的にカラダを強化する、キラーラの鰭を真似た鋭さでただのオーラブレードの形と触感を改善する。無駄を省けばスキル技の二刀とて彼のオーラ量でも再現は可能なのであった。
咄嗟に編み出し繰り出したそれはウツボ姫との特訓の成果か、クレープ屋の意地か、絶対存在バウと対峙した経験か、それとも雷夏彼女の疲れ知らずのスピードと共にした理不尽な体験と冒険の数々が彼を強くしたのか。
勝負を捨てることはない。せっかく焼き上げたクレープを捨てることがないように。
そして今はクレープよりもダンジョン部楽天海都彼は、歓声渦巻くこの熱き闘いに──すっかり溺れていたのであった。
睨み合った両者は、鯱のよく出る尻尾で叩かれて────仕切り直す。
「亀が威勢よく噛みつき返すとはネ。イキって生やしたその鰭でアタシを倒す気でいるのかい? なんのために? 必死でやっても勝利貝も届きやしない」
「なんのために…と言われても……だっ、ダンジョンなら負けたら死んじゃうらしいんで? きっとそれでぇ……あ、あと先生ならきっとなんだかんだ……えーっと、そうだ!勝っちゃうと…思うんで!! 絶対的に!! あ…」
「絶対的にアタシに勝つぅ……?? しゃっシャシャシャシャシャ!!! ナラ──先に可愛い弟子をズタズタ♡に噛み砕いちまえばどこかで隠れ見てるソイツも威勢よくヤラれに出てくるものかねぇ!!! シャシャシャ…シャーーーーーーッ!!!」
なんのためにと問われたら、なぜか一番に出てきた雷夏先生のたのしそうに闘う姿。
余計な口は災いの元にしてバトルジャンキーと呼ばれる種族の闘志を滾らせる栄養。
己の黒鰭を舐めずり……眼を深くワラわせた全勝鯱女のキラーラは美味しさを増した獲物へと、水を尻尾と両脚で蹴飛ばしオーラ量を跳ね上げて泳ぎ向かった。