雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
カラフルな魚群がぐるぐると回り泳いでいる。
ここ旧海中闘技場にて観る者を熱中させるような白熱の渦が巻き起こっている。
秒殺かと思われた事前の評判通りとはいかない護水内の両者の織り成す試合模様に、観客の貝間たちはぞろぞろと泳ぎ駆けつけその数を増やし沸き立っていた。
『ママァーーーーシャシャっとそこそこぉブイブイぃ!!!』
『ひょひょぅ!!!』
『海の王者キラーラの衰えしらずのエグい殺戮ショーのさなかをよくここまで耐え凌ぎやがるぜ…タコスケ!(それにしてもマジかキラーラオレ様のときより速すぎるぜ…ココココ! 見えねぇ…!)』
『んぼーまったくスピードアップしちゃってどうなってんのよぉー、でもでもさすがわたしをギリ倒しただけの実力はあるわねぇ。でものでもよ! この試合守りしぶとくに戦法を変えたようだけど攻守の比重を変えた分仕掛けれるような決定打はありそうにないし、結局ワカメくんの勝ち目はめちゃくちゃ薄いんじゃない? ねぇ? 電子シールド値…じゃなくていずれあのスピードとパワーにこじ開けられてバブルシールドがぱっりーんのバブルクラッシュ状態は必至じゃない? ねぇ?』
『そうだよ、ママは最恐!!! 本気ならワカメにもウツボにも貝柱にもずっと負けないもん!!!』
『ひょぅ…!!!』
『ココココ大きく出れるほどの本物の恐れ知らずってかぁ…』
『おちびのシャッちゃんのいうとおりスカッといつ本気を出してもいいぐらいにはあのびっくり出てきた盾は超硬くてつかえるってことねー』
『盾だけじゃない。中身もそう悪くはない、キラーラのスピードにちゃんと合わせてきている。重ねた経験があってのもの、いきなりはできない。積極的な猛攻を凌ぐのもはじめてではないのでしょう』
『あんた誰ぇ? ま、たしかに危なっかしい感じでも腰は引けてないし悪くはないけど。んーー?ぼーー…? ほら! 世の中には自分だけじゃどうしようも及ばない負けイベントってのもあるじゃないの。結果が同じ水の泡なら、わたしならお手上げこーさんで帰るか次いっちゃう。それもまた賢い選択でしょ? そうすれば怪我もしないしへこたれないしダンジョンで突然遭難したりもしないものーアハハハだれそれー』
『降参できない──何かを守りつづける闘い方もある…』
『ふぅーん……そりゃ面倒なたたかいねぇ? こんなにいっぱい巻き込んでねぇ』
彼と共にたたかったグループ雲丹の戦士たちも、海扇部隊の隊長も巻き込まれ、惹き込まれ、見届ける。
まだまだつづくキラーラとラックテン・カイトの攻防は中毒的なハラハラドキドキの体験を観客へとご提供し続けている。黒い腕鰭がぶつかる度に白貝の盾に刻まれた幾多の傷跡も、まだその白は砕けてはいない。闘いの行方はまだ誰も知らず、ただただこの闘いの結末が気になり皆がそれを見つめていた。
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試合は終始キラーラ有利のペース。しかし易々と崩させない守りと反応、キラーラの襲うスピードへのぎこちなくとも正しい対応とケアが海都の構える白盾の動きにはあった。
キレ味を増して喰らっているはずが、喰らいついてくる。
強くぶつけられても水中を転んでも予想以上に攻め落とせない白と緑のちいさな要塞に、キラーラは性懲りもなく再度仕掛けた。
何度仕掛けられても、また接近までのチャンスに銃で迎え撃ちつつそこからオーラブレードをちらつかせ受けるか、キラーラの鰭にも負けない白盾の硬度で上手く流し受けるかの二択。
海都は目を凝らし素早い魚影を追いながら、また構えた。
しかし海都は読み違えた、彼女のスピードとステップを────
「アタシにシェルアーマーなどいらないのさ」
相手のテンポ、スピードに慣れる。戦闘においてそれは己の本来持ちうるパフォーマンスを十全に保つにも実に必要な行為。だがその一方で未だ見せたことのない急激な変化にはその状態から対応しにくくなるのは常。長く浸り続けたゆえの慣れとは目や体の動きをときに遅くする毒やバグにもなりうるのだ。
まさかのパージ&スピードアップ。そのシェルアーマーの抜け殻を銃で撃ち抜いて爆破しても本体にダメージはなく意味はない。不意に要らぬ重しを脱ぎ捨てスピードを段違いに上げたキラーラは慌てて踊る海都のバックをさらに鋭く泳ぎ翻弄しながら取ることに成功した。
そして、バックを取られてしまっては致命的。銃と盾を主体とする海都がここから即座に仕掛けれる鯱女の万力拘束を剥がしうる技はない。
「組まれた状態でアタシの蛸真似はできるかい。フフフ、ここまでよくアタシの泳ぎについてこれたご褒美だよ。じゃァ……フィニッシュは天からマントルまでイただかれちまいな!!!」
『久々にでたぁーーー!!! 海の王者キラーラの代名詞【デビルオルカフォーぉぉおおおおおル】!!! これは不味いまずいぞおおおおラックテン!!! 散々耐え忍んだがここでついにラックが尽きたということかァァ!!! ノロマな獲物を高く高く舞い上がり連れ去りいいいそしてそしてええ錐揉み回転しながら堕ちてゆくうううううう!!! これは絶命必至、海中都市伝説の閉幕、豪快に投げられ泡となって消される儚い儚い人魚姫えええ!!! 命運尽きたかグリーンモンスター! しかし我々貝間実況カゼカツが苔のむすまで忘れない! そんな一戦となったことでしょう!! では間もなく着陸しまーす♡不幸な乗客約1名デビルオルカ号、バブルクラッシュ状態にそなえて、さいごは皆でご一緒に熱きコールでフォールしよう!!! いーち、にぃーー、さーーーん、シャーーーーー…………チゴーーーー!!!』
熱きうるさき実況の間にも、天水をさかのぼった鯱が獲物を抱え高速回転しながら落ちていく。完璧に決めに入ったその技を、激水流を、抜け出すことは何者にもできない。
ただただド派手に堕ちてゆく、そして到達するその瞬間を観客は悟り共にコールする。
「──薄氷の勝機やれるか、海都」
ただひとりそう呟いたのは誰か。
キラーラの代名詞、その一撃必殺の投げ技は既に薄く対策済みであった。
『粘り強くたたかえば、痺れをきらして本気でバックを取ってくる』待機洞で訪れたサンゴから聞かされていた通りに、その時はきた。
『なるほど…………うん。もしかしたらその技なら異界である護水の仕様の穴をつけるかもしれない、勝機があるとすれば決するその瞬間、キラーラは強いそれしかないだろう』サンゴが詳らかに推察した通りに、ひどく頭が揺られ混沌としながら息も苦しい決着へと向かって堕ちていく。
そして歓声渦巻く中、海中闘技場に滴り落ち決するその瞬間──
落ちたと思いきや────ダイブした。
薄く張られていた白いマットの上に。
薄い悪あがきなど可愛いもの、鯱女が臆せずニヤリ飛び込んだその先は──
ガッチリと逃さず拘束していたはずの獲物はいつの間に沈み消え、渦巻いていたのは何故か技を仕掛けた側の彼女だった。
キラーラは海都が仕掛けた白渦に飲まれ。豪快に落ちていった自分の技の回転力を利用し、さらにかき混ざり捻れていく白にその半身を埋もれされ、捕まってしまった。
「!? 柔くて…離れない!!? ただの敷かれたヒラヒラじゃない!?? どこサ!??」
キラーラは拘束から抜け出そうと、自身が迂闊に埋もれた白い柔さをその剛力で引き剥がしていく。そして見失った獲物を探すが────それはすぐに、あわてる彼女の視界にド派手にあらわれた。
敷かれていたもうひとつの洞、別の薄き円形クレープフィールドから翔び跳ねて彼は輪くぐりショーでもするかのように現れる。
そしてまるで魚のように、勢いよく飛び上がり、到達した頂から白貝を下に構えてとどまった。
天に聳えるそれは白貝というより輝かしき太陽。
そして太陽は鰭を広げる、左右に広げた美しきそれは鰭というよりは翼。
鯱はそれを知っているのか、知らずか。
不敵に笑う。
柔く沈み込んだ白き薄氷、そして舞い上がりひらかれた海の翼。
滴り落ちていった天地は今逆転し、グリーンモンスターが白く昂り生まれ変わる。
挑発するような眼差しで見上げるキラーラと、息とオーラを深く継ぎ覚悟する楽天海都。
魚群が白に集い、貝間が天を指をさす、旧海中闘技場がどよめくその勝敗の行方は────