Part1はほぼユウと百代と風間ファミリーのみだったので、Part2はそれ以外のキャラも動かしていこうと思います
小島梅子にとって、水城ユウという生徒の印象はとても優秀な生徒だった。十代という若さで、武道の最上位の次元である壁を越えた存在になった。その力に自惚れず、勉学も励み成績も上位をキープしている。
生活態度や人間関係もこれといった問題はない、川神百代絡みで騒動を起こすことはあったが、殆どが彼は巻き込まれる側か、それを止めようとする側だ。教師として、同じく武道を嗜む者として、文武両道を行う水城ユウという生徒への評価は好印象なものだった。
今日も川神大戦での活躍を褒めたはいいが、その後の彼の様子はガラリと変わった。
「く……うぅ……!ふぐっ……」
頬を赤らめて、何かに耐えているかのように表情を歪ませている。時々耐えかねて喘ぎ声のようなものも聞こえてくる。
よく見ると前屈みの姿勢で身体を揺らしていた。
(いったいどうしたというのだ……?)
身体の容体を安否した梅子だったが、必死の形相で「問題ありません……!」と返された。その目は充血しており、明らかに大丈夫ではないのだが、彼の覇気に押されて今はとりあえず授業を進めている。
チラリと一瞥すると、ちゃんとノートは取っており何とか授業にはついていけてはいる様子。だがやはりおかしい。そんなユウの状態に、梅子の頭の中にある生徒の顔が思い浮んだ。
福本育郎。梅子が担任を務める2年F組の生徒だ。
問題児の中でその問題ぶりは上位に食い込む俗物。『エロ猿』とあだ名で呼ばれている彼は魔性の変態、エロ絡みとなれば執念を燃やす性欲の塊であった。
年頃の男子、そういうことに興味を示すのは仕方ない。だが、彼の場合それが強すぎた。いつも梅子や他の女子生徒を見ては、顔を下品に歪ませて前屈みになっている。……そしてよくトイレへ行く。尿意が原因ではないのは確かだ。
……そう、今のユウの状態は、その育郎の動きと非常に酷使していたのだ。
(バカな!あの水城が……そんなことを……!)
一瞬、いつものように手に持った鞭で、問題児に教育的指導を行おうとしたが、何とか踏み止まる。担任ではないが、水城ユウという生徒の人となりはよく理解しているつもりだ。決して、授業中にそんなことをする男ではないと信頼を置いている。
だがもし、もしも……ユウが
彼の様子に変化が起きたのは、梅子が教室に入ってきた時。つまり……
(まさか水城は、私をッ⁉︎)
黒板に滑らせていたチョークの手が止まる。俗物か私は!と、一瞬だけでもそんなことを考える自分を恥じた———が、ほんのちょっぴり期待している自分がいた。
そうこうしていると、授業終了のチャイムが鳴る。
「きょ、今日の授業はここまでだ」
皆がノートやペンを片付けていく中で…
「も゛〜ッも゛〜ッよぉ〜〜〜ッッッ‼︎」
1人立ち上がり、爆速で教室から出て行ったユウ。その赤く火照っていた顔は、さっきまでの何かを耐えている顔ではなく、怒りに染まっていた。
目指すはトイレではなく、3年F組。そして怒りと共に吐き出された、百代という名前。ユウの異常に困惑していた梅子とクラスメイトはその姿を見て、ホットを息を吐いた。
「なんだ〜、やっぱり川神さん絡みか」
「きっと昨日の傷がまだ残ってたのよ」
「てっきりあいつ授業中にヌイてたのかと……」
「早速リベンジに行くようだな」
(そ、そうか……やはりそうか!全く、妙な勘違いをしてしまった)
川神百代との戦いのダメージが抜けていなくて、それで苦しんでいただけ。梅子とクラスメイト達はそう結論づけた。彼は器用ではないため、気による回復ができないのは周知の事実。しかも相手が武神であるため、傷の治りが遅いのは当然である。
しかしそれは体調管理を怠った、ユウの責任だ。せめて容体を教師である自分に報告すれば、納得してある程度の処置はしたというのに。
あとで軽く注意しなければと、不安要素が解消された梅子は教本を持って教室を出る。その際すれ違った女性の言葉に…
「にしても……喘ぐ水城君、エロかったわね」
ちょっと、心の中で同意した。
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「百代のバカはいるかッッッ‼︎」
3年F組の戸を力づくでこじ開け、百代の名前を叫ぶ。怒りのあまり気の制御ができておらず、怒号と共に放たれた殺気が校舎を揺らす。クラス中に放たれた殺気は、気の弱い生徒ならばそれだけで気絶しかけるほどに鋭く激しいものだった。そんな中で、辛うじてユウから放たれる殺気に耐え抜き、何事かと立ち上がる女子生徒が一人。
「いったいなんで候……って、水城君⁉︎」
矢場弓子。弓道部主将で、百代の友達だ。よく百代に絡まれていたため、ユウも彼女と顔見知りの関係にある。普段はクールで語尾に「候」とつけるが、彼の顔を見た途端、素の性格へと戻る。その顔は若干、赤く染まっていた。
「矢場!百代はいるか?」
「え、百代ならさっきどこかに行っちゃったけど……?何かあったの?」
「色々とな……‼︎」
どうやら一足遅かったらしい。既に百代はユウから逃げるために、学園のどこかへ消えた後だった。気配も完全に遮断してある。この広い校舎の中から、一人の女子生徒を見つけるのは不可能だ。それも武神となれば、捕まえるのは容易ではない。今もどこかであのニヤケヅラを浮かべていると思うと、腹の奥からぐつぐつと怒りが湧き上がってくる。
「ちょっとここ張らせてもらうわ。あいつぜってー捕まえなきゃいけねぇんだ」
なんなら次の授業は遅刻しても構わない。今捕えなければ、この先また授業で強制オナニーをやらされる。さっきはみんなが都合のいい勘違いをしてくれたからなんとか乗り切ったものの、二度、三度同じことが起きれば確実にバレる。そして社会的に死ぬ。それだけは避けなければならない。ユウは文武両道の優等生だが、そんな肩書きなど容易に背負い投げしてゴミ箱に叩き込めるぐらい、切迫していた。
弓子も、百代絡みでユウがトラブルに巻き込まれる姿を何度も目撃したことがある。だからこういった事態は割と慣れていた。それどころか、話題を作って距離を縮めるチャンスだ。
別クラスなため、こうして二人っきりになれるのはかなり希少だ。
普段は百代も一緒にいる為なおのこと。
「そうだ……水城君、昨日の川神大戦観たよ。凄かったね!」
「ん?おう、ありがとう。次も頑張るわ」
(はぁ〜、やっぱりかっこいいな〜……!)
褒められて嬉しいのか、若干照れながら頬をかく。戦いの時はあんなに凛々しいのに、時々見せる子供っぽい仕草が女子の胸をキュンとさせる。
しかも強い上に、イケメン四天王に勝るとも劣らない美形。狙う女子は数多あれ、川神百代の存在ゆえに強く踏み込む者は少なかった。
裏では『水城ユウのイチモツのサイズは?』という賭け事まである始末。
「学園中、その話題で持ちきりだよ。本当ならF組とS組の大戦なんだろうけど、やっぱり2人の戦いの方が目立ってたね」
「なんか後輩に悪いことした気分だな、そりゃあ」
と、言いつつも笑みをこぼす。弓子もできるだけ上品にくすくすと笑い、二人の間にはなかなか甘い空気が出来上がっていた。
(これ、ちょっと脈アリなんじゃない⁉︎)
勝機を確信して、弓子は意を決する。
「あのさ、水城君……放課後暇だったら、なんだけど……私と!」
「美少女参上!」
いざ、デートに誘おうとした弓子だったが、横からピシャリと言葉を遮られた。
聞き覚えのある声に二人は身体を震わせる。さっきまで雑談で笑みを浮かべていたユウの顔は怒りに染まり、声のした向こう側へと視線を向けていた。そこは探し求めていた、川神百代の姿があった。ポーズをとり、投げキッスをしている姿にイラァ…!これには弓子も額に青筋を浮かべる。
「も゛〜ッも゛〜ッよぉ〜〜〜ッッッ‼︎」
「どうしたんだユウ〜、顔が怖いぞ〜。そんなに私を求めていたのか?きゃ❤︎」
「お前ちょっと来いやぁ!」
「あ〜れ〜!私はいったいナニをされるの〜?……そんな訳だから弓、悪いな♪」
「あ……」
「悪い矢場!なんとか時間作るから、その時に!」
そういって、ユウは百代を引っ張って教室を出て行った。会話は中断されてしまったが、弓子の言葉はちゃんとユウの耳に届いていたらしく、なんとか誘いは乗ってもらえることには成功した。
本来嬉しいはずなのだが、やはり不満はある。
「やっぱりあの2人、付き合ってるのかな?」
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「お前シャレになってないぞッ!」
校舎の視聴覚室近く。
休み時間であるが、こんな場所に生徒が利用するはずもなく周囲には誰もいない。バレずに会話ができる場所に移動し、百代の肩をガッシリと掴んだ。
そんな肩から来る痛みすら快感に感じているのか、百代は頬を染めながら右手を見せつける。
「悪いな。この技、あんまり使う機会なかったもんで、加減が難しいんだよ」
「加減もクソも、授業中にそれやるなつってんの!」
「それ以外は?」
「ダメに決まってんだろうが‼︎」
首輪ならせめて、首輪として機能させてほしい。
この技は元々、ユウを逃さないためにかけたのだ。こんな嫌がらせのために使うのは明らかにやりすぎである。
もし、あの授業でバレたかと思うと、背中の鳥肌が止まらない。
「危うく何度射精そうになったか……」
「え、もう溜まったのか⁉︎飲ませろ!それかヤらせろ!」
「脳みそにちんこ埋まってんのか、ビッチが!」
「ビッ……⁉︎おい今のは酷いぞ!私はお前以外の男に体を許す気はない!純愛だろ?」
「ちんこ握って人質にする純愛がどこにあるよ⁉︎」
段々とヒートアップしていく二人の会話。互いに凄み合いながら話しているためか、次第に顔の距離が近くなっていく。
そこへ、第三者の声がこだました。
「姉さん……何してんだよ」
誰もいないことは確認したのに、現れた第三者に驚愕する。どうやら声を大きく上げすぎたようだ、会話の興奮で気配の察知も怠っていた。
振り向くと、そこには百代の舎弟である直江大和が立っていた。その目はジッと、姉の肩を掴むユウの手を凝視している。
「あ、悪い……」
人気のない場所に二人っきり、肩を掴み、顔を近づけ合っている男女。側から見れば完全にアレである。
大和の存在を認知すると、ユウはハッとなって直ぐに百代の肩から手を引いた。
それを名残惜しそうに百代は愚痴る。
「大和〜、タイミング悪いぞ。今いいところだったのに」
完全にこの状況を楽しんでいる。自分の気も知らないで、ユウは奥歯をギシギシと鳴らす。
大和に至っては、身体が若干震えていた。
「何を……してたんだ……」
「何もしてない!何もしてないぞ⁉︎ただこいつが、ちょっかい出してきてな……」
「こんな人気のない場所に無理矢理連れてきて、どうなるかと……私はもう胸がバクバクだ!」
「黙れや!クソ、舎弟が来たぞ。さっさと行ってこい」
「いや、俺が用があるのは先輩……あんたなんだ」
「俺?」
意外なご指名に、キョトンとした顔を浮かべる。己に指を刺し大和に確認を取ると、彼はコクリと頷いた。
てっきり、百代を探しに来たのかと思っていた。
「おいおい大和、ユウは私と話をして……まさか、お前もユウを狙って⁉︎」
「そんなわけないだろ⁉︎」
大和は全力で否定する。昨日告白したばかりだというのに、なぜそういう話になるのか。わかっている、百代は二人のリアクションを楽しんでいるのだ。
本当に性格の悪い女である。ユウはそんな大和の苦労に共感し、大きく息を吐いた。
「お前も大変だな直江……行こう、話あるなら聞いてやるよ」
百代の横を通り過ぎて、大和と共に場所を移動する。その前に振り返り、ユウは彼女に釘を刺した。
「いいか百代、もうあんなのやめろよ⁉︎絶対に!」
去っていく二人を見て、百代はペロリと唇を濡らした。
「んふふ〜、どうしよっかな〜❤︎」
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大和に呼び出された場所は、学園の屋上。
そう言えば、川神大戦の助っ人に頼まれた時もここだったか、とデジャブを感じながらユウは大和と向き合う。
「で?なんだよ話って……」
大和はどこか、疑心の満ちた目をしてユウを見ている。原因はやはりさっきの百代とのやりとりだろう。好きな相手が、他の男と二人っきりで人気のない場所にいたのであっては、確かに怪しむというもの。
確実によからぬことを聞かれると覚悟を決めて、ユウは大和の言葉に耳を傾ける。
「単刀直入に聞きます……姉さんと何があったんですか?」
ずっこけた。それはもう盛大に。
一昔前のアニメやお笑い番組でやるような、ド派手なリアクション。覚悟はしていたものの、やはり面と向かって言われるとクるものがあった。そんな彼のリアクションに、大和の疑心の目はさらに濃くなっていく。
「……何かあったんですね?」
やっぱり、と付け足しながら見つめてくる。
それにユウは、重い足取りで立ち上がった。
「な、なんで……わかった?」
「しらばっくれないんですね。姉さんとは長い付き合いなんで、直ぐに分かりましたよ。確信が持てたのは、今さっきですけど」
大和は語る。最初は、さらに美しくなった百代の姿に見惚れていた。だがそれに疑いを持ち始めた。なぜ雰囲気が変わったのか……。川神大戦の激闘がそんなにも楽しかったのか、それとも大和と翔一の告白を受けて心境に変化があったのか。
大和はどちらとも違うと思っていた。本当ならば後者の方であってほしい。少しでも直江大和という男を異性として認識するようになっていてほしかった。
だがそれは違うと気づいたのは、多摩大橋で決闘の後の、百代の笑みだった。伊達に長年舎弟やっているわけじゃない。挑発的な妖艶な笑み。一眼見ただけで男の心を撃ち抜くその笑みを浮かべる時は、決まってあの男に向ける時だ。
そう、目の前にいる水城ユウ。あの時、野次馬が大勢いたが確かにユウの存在を大和は気づいていた。そしてその一点に視線を向ける姉……あの二人の間に、何かある。そう、確信したのだ。
「あの夜に、姉さんを変える何かがあったんだ」
一歩。力強く、確かな一歩を踏み出す。
「姉さんはあの後、疲れてるから川神院に帰ったんです」
さらに一歩。
「ユウ先輩は川神院門下生で、住み込みで修行してますから、勿論知ってますよね?」
一歩。
「学長を含めた川神院の皆さんは、戦場の後始末で留守だったのはワン子から聞いてます」
一歩。
「ワン子も当然、昨日は風間ファミリーの打ち上げに参加してて俺たちと一緒にいました」
一歩を踏み出すたびに、ユウも一歩後ずさる。彼から放たれる異様な覇気に、完全に気圧されていた。
「先輩、知ってますよね?姉さんが変わった原因……姉さんと何をしたんですか?いや……姉さんにナニをしたんですか?」
まるで名探偵だ。あらゆる要素を鑑みて、謎を紐解き答えを導き出していく。
当然、この場での犯人は水城ユウだ。ジリジリと近づく大和に、ユウはどう答えるべきか脳をフル回転させる。
ナニをしたか?
ナニもかもをされた。
告白され、拒否したら四肢を拘束されて貞操を奪われた。さらに後半からはヤケクソになって百代をめちゃくちゃに抱き、
完全に黒である。
どう言い訳しようと、先にあるのは修羅場。
適当にウソをついたとしても、逆効果だ。大和は鋭い感と、ほんの少しの仕草だけで違和感を感じ取る洞察力を持っている。あっさり見破られるに違いない。
ならば休憩時間が終わるまで粘るか、という選択も後々面倒になる。はぐらかせばはぐらかす程に、大和のユウに対する不信感は強くなり、寧ろさらに怪しまれるだけに終わる。先延ばしにするだけではなんの解決にもならない。ユウは自分で自分の首を絞めることになるだろう。
(そう言えば前、ここで直江にお前の恋を応援してるとか言っちまったっけ……)
どんな理由があろうと、後輩の意中の相手を抱いてしまったと言う事実。
青く澄んでいる青天を見上げて、ユウは思う。
(重ッッッッッッッッッッッッッッ……‼︎‼︎‼︎)
重い、あまりにも重すぎる。川神院の精神修行でもここまで重いものはない。一つの選択ミスでこの身どころか、これからの人生が完全に崩壊する綱渡り状態。
さらには後輩への罪悪感まで感じる始末。この場合、加害者は百代でユウは被害者なのだが、正直に全て話せば大和からみればユウも十分加害者と言えよう。
もう言うしかない、覚悟を決めた。ふらふらと身体を揺らして、屋上に設置されたベンチにゆっくりと、まるで老人のように腰を下ろした。
小さな咳をするようにボソボソと弱々しい声で答えた。
「弱みを……握られてるんだよ……」
「弱み?」
ここまで言ったらもう待ったはかけられない。
ああ、と頷きながら続ける。
「あいつ……俺によくちょっかい、っつーか嫌がらせしてくるだろ?」
彼女の好意を理解した今、これまでのちょっかいは全て百代なりのアプローチだったと気づいたのだが、今はこの話は置いておこう。
「それが段々、過激になってきてよ。さっきのも、その……我慢の限界が来て怒鳴っちまったんだよ」
「先輩って隠し事とかあったんですね」
「あるさ、誰にだってある。バレたら人生終わるぐらいのな」
ウソは言ってない。ウソは言ってないのだ。弱みを握られているのは確かなのだし、物理的にもナニを握られている。
重要な部分は不自然がないように隠して、大和ができるだけ納得できるよう答えた。
これがせめてもの精一杯。
「成る程、そうだったんですか。それは気の毒でしたね、すみませんでした」
ぺこりと大和は頭を下げる。思いの外あっさり納得してくれた後輩に、ユウは目を見開いた。てっきりさらに質問攻め似合うと思っていた。
兎に角、これで話を終わらせよう。
そう思っていたが、
「その弱みって、教えてもらえませんか?」
「え⁉︎」
まさかのさらに食い込んできた⁉︎顔を上げると、さっきまで疑心に満ちた瞳と表情はしておらず、いつも通りの直江大和の顔に戻っていた。流れるようにユウの隣に腰を下ろし、真っ直ぐとその目を見ながら続ける。
「舎弟として流石に姉さんの傍若無人振りを放っておけませんよ。何か力になれるかもしれませんし……」
ダカラナニガアッタノカスベテアライザライオシエロ……。
……直江大和はまだ納得していなかった。心の中で悪態を吐く。この先輩は、重要な部分を隠すのが下手すぎる、と。
大和はこれまで人脈を広げるために多くの人々と会話をし、駆け引きを繰り広げてきた。S組の同じ頭脳派ライバルである葵冬馬とも、多種多様な頭脳戦を何度も行ったこともある。それに比べればこの男のバレバレな言葉選びなど、子供向け教育用玩具のようなもの。
「俺が情報通なのは知ってますよね?安心してください、守秘義務は絶対守りますから」
これが直江大和の十八番、口八丁。中性的な警戒心を抱かせないスマイルと、得意のよく回る口を利用して、相手の心の隙をつきいいように支配する。
これまで何人もの人間がそのスキルによって秘密を暴かれ、直江大和に利用されてきた。今日、その哀れな被害者の中に水城ユウが加わるのだ。
とろけるような甘い言葉で、張り詰めた相手の心の鎖を解き、その奥に眠る秘密を暴く。一言、口を滑らせるだけでもいい。たった一つのキーワードも、貴重な情報なのだ。
心を許し、ぽろっと口を開けばその時点で大和の勝利が決まる。
いつもやってきたことだ。
それに対してユウは、
「いや、無理だ。これだけは言えねぇ」
(っ、口が硬い……まだ警戒されてるか……)
「でもこのままだと、姉さんにずっといいようにされるだけですよ?どうにかして対策を打たないと」
「色々と心配してくれるのはありがたいが……マジでいいって。俺が決着つけなきゃいけねぇんだよ」
どっこいしょ、と重たい腰を下ろしてユウが立ち上がる。軽く感謝の言葉を送り、教室へ戻ろうとする。
そこへ大和は待ったを仕掛けた。
「受験だって控えてるじゃないですか。そんなので勉強に身が入るんですか?」
若干ムキになって、兎に角ユウの気を引かせるために色々なネタを利用して探りを入れていく。今この男は弱っている。バレたくないことがバレそうになって、精神が不安定な状態だ。ここで逃せば、不安定になった精神を持ち直して、絶対に秘密は教えないと決意を新たにするに違いない。そうなれば、隠し事を知るのはより困難になる。
「ヒントでもいいから聞かせてください。きっと先輩を姉さんから自由にさせますから!」
———負け犬のクセに、姉さんに近づくな……。
「無理だ無理。隠し事ってのは誰にもバレたくねぇから、隠し事なんだ。お前にもあるだろ?そういうの」
「っ……」
「これで話は終わりだ」
割と真っ当なカウンターを当てられて口籠る。
意外な反撃に大和の口は止まってしまった。だがやはり納得できない。あの一晩で、確実にユウと百代の間にナニかがあったのだ。
打ち上げの雰囲気に飲まれて川神院に行くことはできなかったことが、ここへ来て後悔を生む。もし二人が、あの時大和が想像した通りの事をしていたら……考えたくもなかった。
逃してなるものか。大和はさらに、ユウの心を揺さぶるネタを言おうとすると……
「そこをどきなさい、直江大和」
威圧感を孕んだ声が屋上にこだました。
同時に振り向いた二人の視線の先には一人の女性が立っていた。
赤い……否、紅い。情熱を表したような紅蓮の長髪を揺らす成人女性。身につけているのは、教職員のスーツではなく、学生服でもない軍服。ぴっちりと体のラインが出るそれを身につける姿勢は、全くのブレがない。左目には眼帯をつけており、残る右目は肉食獣のような闘争心を孕んだ眼光が見える。
その学舎という環境に似つかわしくない格好をした女性の名を、大和は呟いた。
「マルギッテ……」
2年S組、マルギッテ・エーベルバッハ。風間ファミリーのメンバー、クリスの父親の部下で、彼女にとって姉のような存在。
箱根旅行からの付き合いで、成人した女性だが学園側から許可をもらってこの学園に在籍している。服装も然りだ。つい昨日、川神大戦で雌雄を決したS組の生徒が、なぜこんなところに。
「二度も言わせるのですか?どきなさい、直江大和。私は水城ユウに用があるのです」
その獣の如き眼光は目の前の大和にではなく、その先にいる水城ユウに向けられていた。ユウはこの目の光に見覚えがあった、戦いを楽しむ時の百代と同じ目だ。戦いを求め、愉しむ
「悪いが、今先輩と大事な話をしているんだ。後にしてくれ」
「盗み聞きした形となって申し訳ないのですが、ここに来る途中……そこの水城ユウが、話は終わりだ、と発言したのが聞こえました」
「あの人が勝手に話を切ろうとしただけだ。俺はまだまだ聞きたいことがある」
「しつこく絡んでいたように見えましたが?」
「それぐらい、切迫詰まってるんだよ。川神大戦でウチに負けたんだから、言うことぐらい聞いてほしいな」
大和の強気は発言にマルギッテは呆れて、はぁ…と大きくため息を吐いた。
「川神大戦のルールは、勝利した側が何でも相手側に命令できる。そちらの委員長が提示した命令は『楽しく学園生活を送りましょう!』というもの、敗北した側である私はそれに従いますが……あなた個人の命令に従う義理はありません」
「さすが軍人、口が上手いんだな」
「あなたがそれを言いますか?」
バチバチと睨み合う二人の間で火花が散る。どちらも譲る気はない、そんな張り詰めた空気に耐えきれなくなったユウが間に割って入った。
「はいはいはいはい!俺を蚊帳の外でおっ始めるな!直江、マジで話は終わりだから!それと、えーっと……あんた確かS組の軍人さんだよな……?」
「ほう、私をご存知で?」
「後輩に年上の軍人がいるってなると、嫌でも気になるさ」
口にしてみると、なんだこれ?と戸惑いながら、ユウはマルギッテと正面から向き合う。川神大戦でF組として参加したために直接会ったことはないが、S組陣営にいる彼女を遠目で見たことがある。この派手な紅髪だ、嫌でも目に入る。
改めて至近距離で見つめ合うと、彼女から発せられる闘気がピリピリと伝わってくる。武道家ではなく、戦場という修羅場を駆け抜けた軍人。川神院で強くなったユウとは、戦い力を磨いて来た環境が違う。
(そういや、軍人とは試合したことなかったな……)
マルギッテから放たれる闘気が、ユウの中にある武の心を刺激する。
彼女もそれを感じ取って、獰猛な笑みをさらに深めた。
「ほう、心地よい闘気……あの武神とライバルだというのは、ウソではないようだ」
マルギッテは以前、百代を手合わせをしたことがある。結果は勿論、敗北であったがその強さの一端を味わった。
まさに暴力と武の化身。
例えるならば、津波だ。
スロースターターという気質上、最初は穏やかだが、最高潮に達すれば誰も抗うことのできない、理不尽などという言葉では言い表せない力。
対してユウの気は、風。
側からみればそれは大したことのないそよ風のように思えるが、目の前で対峙してるマルギッテは気づいていた。この風の向こう側に、災害の如き力があると。力を上手く制御している、隠していると言ってもいい。暴風、竜巻、台風、嵐……これらの前兆のようなものだと、猟犬の鼻は嗅ぎつけた。
見つめ合いは、睨み合いに変わり、屋上の大気がピリピリと震え始める。
「水城ユウ、あなたに決闘を申し込む」
「いいぜ。俺もちょっと、戦りたかったところだ」
「……」
完全に蚊帳の外となった大和は、奥歯を噛み締めていた。
・
無様に戦いに敗北した負け犬。
敗れたことにより貞操も、男の尊厳も全てを奪われた。この悩みを周りに相談することもできず、これからも陵辱の日々を送る。
・
卓越した頭脳によって仲間を勝利に導いた勝ち馬。
仲間からの更なる信頼と想い人からの感心を手に入れた。これによって学園からも一目置かれるようになり、女子からも「ちょっといいかも…」とモテ期到来。
この調子で武神も攻略中。
・
戦場を駆け抜ける誇り高き猟犬。
負け犬の力と直接対峙し、その力を知って心境にどんな変化が訪れるのか。
作者「マルギッテとの決闘はさっさと終わらせて、エロ回書きますね!」
天の声「あ…(察し」
※IFルート読みたいですか?
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読みたい!
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読みたくない
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読みたいけど、別投稿にしてほしい