久々のバトル回だぁー!
天の声「案の定やらかしおったー!」
決闘が宣言される。
それは学園中に広まり、全校生徒の耳に入った。
この川神学園の目玉行事の一つ、決闘。己の鍛えた武を試し、見せつけるため。そして対立した際には、白黒はっきりと決めさせるために設けられた制度。これに震え上がらない生徒はいない。
決闘が行われるのはいつも校庭。よく整備された広大なフィールドで、決闘を行う武人二人が思いっきりぶつかり合うのだ。
そしてそれを見守るのは、全校生徒。あるものは校舎の窓から、ある者は間近で見るために校庭に出て観戦する。中にはこの期に儲けようと、商売魂熱く弁当や飲み物を売り込む生徒の姿もある。更には、どちらが勝つか賭け事まで始めている。
そんな全校生徒が見守るのは、この二人。
3年S組———水城ユウ。
2年S組———マルギッテ・エーベルバッハ。
ユウが武神、川神百代のライバルであるのは学園生徒周知の事実。その実力目当てに、百代ほどではないが挑戦者も多かった。
対して、相手は最近S組に転入してきたマルギッテ。成人した軍人という特殊すぎる立場から、前々から注目を集めていた。川神大戦での闘いぶりもあって、知名度も上がってきている。
多くの生徒達が、その決闘の開始を今か今かと待ちわびている。
「にしても川神大戦の翌日から決闘とはな」
「あの人も十分、怪物だよね」
それは大和達風間ファミリーも例外でなく、ギャラリーとして決闘を見に来ていた。男衆がある種の感嘆の声をこぼす。つい昨日、川神大戦で百代と激闘を繰り広げたのだ。大戦に参加した生徒の中には、未だに傷が癒えない者や、体調不良で休んでいる者もいる。
そんな大戦の熱が冷めない中で行われる決闘だ。卓也の言う通り、如何に血気盛んな川神学園の生徒とはいえ、百代を相手にした翌日に戦える生徒などあの先輩ぐらいのものだろう。
「クリはどっちが勝ちと思う?」
「う~ん、モモ先輩と互角のユウ先輩が有利と思うが……マルさんもそう簡単にはやられないだろうし、なかなか読めないぞ」
「そういえばユウ先輩の体、まだ完治してないらしいよ?」
「そりゃそうだろ、モモ先輩に殴られ蹴られ続けたんだから。一晩で治ったら怖いわ」
決闘の始まるのを待つ最中、一子とクリスはどちらが勝つかを予想している。その表情は、これから行われる決闘がとても楽しみと言った感じだ。そんな中で、3年の教室から広まった『水城ユウは未だに疲労困憊の身』という噂も上がっている。そんな状態でマルギッテに勝てるのか、決着の考察は複雑に絡み合う。
マルギッテが所属するS組勢も、応援に熱が入っている。
「
「マルギッテさん、敵はあのユウ先輩です。大戦でモモ先輩を抑えつけた猛者……くれぐれも油断の無い様に頑張って下さい」
「頑張れ~」
「ええ、そんな事は言われるまでもなく理解していると知りなさい」
「ええ、わかってはいますが、一応クラスの軍師として忠告しないといけませんので」
S組の軍師、イケメン四天王、エレガンテ・クワットロの1人である葵冬馬はチラリと既に校庭に出ているユウを一瞥する。大戦でも悉く、自分が張り巡らせた罠を一刀両断した男。頭脳勝負は得意だが、川神百代と同じように圧倒的な力で全てを吹き飛ばす者は、相性が悪かった。
にしても……
(相変わらず、いいお尻をしていらっしゃる)
「葵君は心配性じゃのう。ライバルと言っても毎度毎度、武神に敗れている負け犬じゃ。マルギッテが負けるとは思えんがの」
「我にその雄姿を見せよ、マルギッテ‼︎我がこの目に納めてやる」
「そう言う事なので頑張って下さい☆(英雄様が応援して下さってんだ、負けたら殺すぞ)」
「言われるまでもありません」
クラスメイトの応援を受けてマルギッテは、ユウと相対すようにフィールドに立つ。
「眼帯……怪我してたわけじゃないんだな」
「これは私の力を制御するためのものです。だが……あなた相手に手を抜くほど、自惚れてはいないと知りなさい」
既に眼帯を外して、鋭い二つの眼光がユウに狙い定めている。伝わる気も纏う闘気も、屋上で感じたものよりも強烈にそして獰猛だ。
ユウはレプリカの刀に手を添える。
「敬意として受け取っとくぜ」
二人の準備が出来た事を確認した鉄心が中間に立って、審判を務める。
「それでは決闘を……と、その前にユウ。お主、本当に大丈夫か?小島先生から聞いたぞい」
授業中、体を震わせて苦しみ悶えていたという梅子からの報告は、学長である鉄心の耳にも届いていた。相手にしたのはあの百代だ。そんな状態で決闘し、もしものことがある可能性も否めない。
師として教師として、中断する判断も頭の中に入っている。
「はは、問題ないで……うぐぁッッッ⁉︎」
全く心配はないと答えようとした矢先、再び身体に衝撃が走る。前のめりに倒れ掛かり、膝をついて息を荒くし始めた。
それを見た鉄心とマルギッテが目を見開く。
「ユウ!無理をするでない!」
「水城ユウ、なんなら決闘は後日行いますか?それとも、これは私の同情を誘おうという作戦ですか?」
もし後者ならば、とマルギッテの纏う空気が変わる。さっきまでの獰猛な剥き出しの闘気ではなく、侮蔑の孕んだ目で見下ろしている。
(やめろっつったろうが‼︎‼︎)
股間から来る快感に耐えながら、野次馬の中にいる百代に向かって殺気を放つ。本人はどこ吹く風のように、シコシコと手を上下させていた。
「んふふ〜♪」
(決闘だぞ⁉︎全校生徒の前だぞ⁉︎俺を社会的に殺すつもりかッッ‼︎)
そんな彼の異常事態は、観戦しているギャラリーも困惑の反応を示す。これから決闘が始まるかと思えば、なにやら中断してしまいそうな雰囲気。やはり傷が完治していないという噂は本当だったのかと、賭け事が動き出す。
「俺、マルギッテに賭ける」
「先輩だと思ってたけど、俺変更するわ!」
「やっぱ疲れてんだよ、あの人……」
「これ、もしかするんじゃないか⁉︎」
「にしても、水城くんなんかエロくね?」
最初はユウの方へ寄っていた比率は、一気にマルギッテへ流れ込む。
川神百代との戦闘の疲労を抱えながら、マルギッテを相手にして勝てるのか……勝敗の信憑性が傾き始めた。
やがてオッズが終了する。
殆どがマルギッテの勝利を確信した次の瞬間、
「———喝ッッッ‼︎」
気合いが学園を揺らした。水城ユウを中心として発生した、巨大な竜巻のようなものが一瞬出来上がり、体重の軽い者はそれによって足がふわりと浮かんでしまった。
それ程の気の爆発。さっきまでどちらが勝つか話し合っていた全校生徒がウソのように、静寂に包まれた。
「うっし……問題なし」
そして立ち上がる。何事もなかったかのように起き上がるその姿勢はピンと背筋を伸ばしており、腰を少し下ろして抜刀の体勢で刀を握る。
「心配かけさせて悪い、もう大丈夫だ」
気を体の一点に凝縮させて、戦闘以外の感覚を全てシャットアウトした。常時、気を発動していなければならないため、長くは続かない。だが、これのおかげでもう股間から来る快感は感じなくなっていた。
その見上げた根性からくる対処法に、百代はニヤリと笑う。
(やっぱりお前はそうじゃないとな)
やっと決闘の準備が整う。
「今から決闘の儀を始める。西方、水城ユウ。東方マルギッテ・エーベルバッハ。共に準備は良いな」
「勿論」
「おう!」
「宜しい。それでは———始めッ‼︎」
両者に最後の確認を取った後、開戦の合図を告げる。鉄心が腕を振り下ろしたと同時に———マルギッテはぶっ飛ばされていた。
「なッ———がッッッ⁉︎」
全身を走る激痛を感じながら宙を舞うマルギッテは、一瞬だけ視界に入った光景を思い出す。
鉄心が手を下ろしたコンマ数秒の出来事。
音を置き去りにして、水城ユウの姿が消えた。気づけば、彼はマルギッテの直ぐ目の前まで接近し刀を抜いたのだ。
強く一歩を踏み出してからの、居合い切り。
そう、たったそれだけ。次に起こったのは雷鳴のような爆裂音と共に彼方に吹き飛ぶマルギッテだった。
(風が……
ユウが放つその風の奥からどんな嵐や竜巻が来るのかと思いきや、そんな生易しいものではなかった。前触れもなく襲い掛かるその鋭い一撃はまさに雷。スロースターターだった百代と違い、ユウは初激から全力の一撃を放てる武道家だったのだ。
マルギッテは、最初から眼帯を外す自分の選択が間違いではなかったと確信した。もし力をセーブしたまま戦っていたら、確実に今の一撃で意識を失っていただろう。
まだ意識を保てているのは、あの一瞬で辛うじて防御が間に合ったからだ。戦場を駆け抜けた防衛本能、勘が働いたことで装備していたトンファーを重ねることができた。それで瞬殺は免れはしたものの、防御に使った二つのトンファーはガラス細工のようにバラバラに砕けた。飛び散った破片が彼女と共に宙を待っている。もうトンファーによる攻撃も、防御も不可能だ。
「くっ……!」
激痛によって失いかけた意識をなんとか保つ。クルリと空中で一回転して、校庭に着地した。武器は失ったが、まだ体がある。鍛えたこの肉体で直ぐに反撃に出ようとしたが、既に次の攻撃体勢に入っているユウが直ぐ目の前に迫ってきていた。
「ッ〜〜〜〜〜…………‼︎」
抜刀で振り切った刀をそのまま両手で持ち替えることで、上段からの振り下ろしの構えに変わる。流れるような攻撃の転じ方に、猟犬は言葉さえも失っていた。
既に彼女はユウの制空権の中、回避は不可能。ならばと防御したところで、トンファーで防いで吹き飛ばされたのだ。生身ならば、今度こそ確実に意識が飛ぶ。
ならば……
「攻撃あるのみ‼︎」
あえて真正面から突っ込む。トンファーキック———ダメージ覚悟で、最も得意とする蹴り技を相手に向けて放った。
上から刀、下から蹴り、互いの攻撃が交差する。
擦れ合い、ぶつかり合い、弾け合う。
次の瞬間に巻き起こったのは、巨大な地震だった。広大なグラウンドは地割れの如く、二人を中心とした場所から大きく陥没しヒビが広がっていく。
爆音と共に砂埃が立ち込め、両者の姿を飲み込んだ。
「ぐはッ……!」
「マルさん⁉︎」
クリスが悲痛な叫びを上げた。砂埃から最初に姿を現したのはマルギッテだった。意識は失っていないものの、満身創痍の状態で地面に叩きつけられている。
続いて現れたのは、ユウ。ボロボロの彼女とは違い、その身体には傷どころか制服に汚れ一つない。刀を構え直し、マルギッテが戦闘を続行するか待ち構えている。
まだ勝敗は決してはいない、だがその結果は火を見るよりも明らかだ。疲労困憊でありながらこの強さ。決闘を観戦していたギャラリーの開いた口が塞がらない中、唯一百代だけはどこか誇らしげな笑みを浮かべていた。
「あの、風間……オッズ変更は……」
「もう終わったぞ」
「「「「「ですよね‼︎」」」」」
マルギッテに賭けた生徒は涙し、膝をついた。
(く……なんという……‼︎)
マルギッテは呼吸を整えながら、今の己の状態を確認する。破壊されたトンファーは勿論、攻撃に使った左足はユウの斬撃とぶつかり合い青く腫れ上がっていた。もし真剣なら、確実に真っ二つになっていたであろう。
衝撃は上半身にも伝わり、左腕も痺れて動けそうにない。
全身の左半分、再起不能となっていた。
「マルギッテ、まだやるかの?」
審判の鉄心から戦闘続行の確認が入る。マルギッテはそれを耳にしながら、目の前のユウを凝視する。全く隙のない構えで、マルギッテが来るのを待っていた。ほぼ自分の勝ちは決まっているというのに、その瞳には慢心という感情は全くない。
ただ、終わるまで迎え撃つのみ。
その意思を飲み込んで、猟犬は立つ。
「Hasen Jagd‼︎」
戦闘続行の意を見せたマルギッテ。片足で立つその姿は、手負とはいえまさに獣。
ユウも次で決めるため、さらに腰を低く下ろして構える。刀の切っ先をマルギッテに向け、その峰に軽く右手を添えた状態で静止している。
刀を水平にした———
ユウが最も得意とする構えだ。
それを見たマルギッテは、ありがたい———そう思った。
構えから察するに、次の攻撃は突き。昔からクリスの鍛錬に付き合っていたマルギッテは、彼女の得意とするレイピアの突きをよく目にしていた。
故に、突きに対しては自信がある。
(確かに強力ですが……突きはその分、避けられたら大きな隙が生じる……これは寧ろ、勝機!)
狙うはカウンター。ユウの攻撃をギリギリで避けて、その突進力も利用した一撃を喰らわす。
マルギッテも覚悟を決めた。
そして———。
「「ッ——————‼︎‼︎」」
同時に地面を蹴り、二度目の交差。
空気の弾ける音が校庭に響き渡る。
一瞬の攻防……それを制したのは———水城ユウ。
切っ先は的確にマルギッテの腹部に突き刺さっており、繰り出した拳はユウの顔面ギリギリで静止していた。呻き声を上げながら、ぐらりと彼女の身体が大きく揺れる。経験したことのない程の衝撃、それは武神に届きうる牙だった。
ドサと地面に横たわったマルギッテの姿を見た鉄心は、静かに手を上げる。
「そこまで!勝者……水城ユウ」
決闘の終わりを告げた。
一テンポを空けて、湧き上がる大歓声。ある者は戦いぶりに驚嘆し、ある者は敗者の頑張りを讃える。中には賭けに負けた者の嗚咽と、勝利した者の感激も混じっていた。
「くっ……」
刀を納めると、勝者であるユウの身体も崩れる。快感を抑えるために張り詰めていた気を解いたことで、この反動が一気にフィードバックする。納刀した刀を支えにして膝をつき、肩で息をしているその姿は今にも倒れそうだ。
「全くお主は……事情を話せば、決闘は後日にしたものを」
「すいませんね、総代。俺にだって譲れないものがあるんで……」
「今日一日は保健室で過ごすがいい。体を休めるのじゃ……百代、お主が運んでやれ」
「はッ!!!!!?????」
バッと勢いよく、引き攣った顔を上げるユウ。何を言い出すんだこのジジイ!と言いたげな目を向けられ、鉄心はキョトンとした表情を浮かべた。
「なんじゃいその目は。その傷は百代のせいなんじゃからの、あやつに運ばせてやればええ。マルギッテはワシが運んでおく」
「い、いやいいです!自分で歩けますか……んぎゃ⁉︎」
「ほれみぃ、もう立つこともできんじゃろうて」
(違う……!これは……)
再び、股間を弄られる感触が伝わってきた。今度はシコシコと快感を与えるようなものではない、ギュウゥ…!と握り潰すかのような激痛。下半身がガクガクと激しく揺れる、こんな状態では立ち上がることすらできない。
「いや〜、仕方ないな〜。ま〜、私のせいだからな〜!」
わざとらしい声が直ぐ横から聞こえてくる。
憎たらしい、なんと憎たらしいのだろう。
「全部狙ってやがったな……!」
「ふふ、なんのことやら……さぁ、横になろうかユウ。保健室の———ベッドで❤︎」
嫌だ!触るな!と拒絶しようにも、股間を握られて思うように身体が動かない。ユウはされるがまま、百代に抱き抱えられた。全校生徒の目が集まる場で、なんとお姫様抱っこで。
それを見た女子生徒からの物凄い黄色い声が上がる。鉄心もその姿を見て「ホッホッホ、お熱いのう」と微笑ましく見ていた。
当の本人にとっては屈辱でしかない。
「やめろ百代離せ!自分で歩ける!」
「はっはっは!カッコよかったぞ、お姫様‼︎」
くるっと回ってターン、からのスキップ。生徒達をかき分けて保健室へ向かう百代の顔はそれはそれは嬉しそうで……奥には飢えた獣の目が光っていた。
その光景を、風間ファミリーの面々は苦笑いで見守っていた。
「いや〜儲け儲け!先輩の方に賭けといて正解だったぜ!お、そうだ大和。お前はどっちに賭けたんだ?」
「……マルギッテに」
「あらら、そいつは御愁傷様だな」
そんな中、大和だけは無表情だった。ただジッと、側から見れば仲睦まじい先輩と愛しい女の姿を見ていた。
確実に何かある……そう確信を持ちながら。
作者「久々のバトルだから筆乗っちゃった…」
天の声「こんなこったろーと思ったよ…」
作者「次こそエロです!」
天の声「本当だろぉなぁ⁉︎」
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