【風間ファミリーのユウの印象】
●川神百代 賛成派
「好き!実力行使を計画中❤︎」
●直江大和 拒否派
「恋敵。凄い人だと思う反面、姉さんに勝てるわけないだろって思ってる。ファミリーに入って欲しくない」
●風間翔一 賛成派
「恋敵。でも根性あるから気に入ってる。モモ先輩争奪戦は負けねーぜ!」
●島津岳人 拒否派
「俺様の方が筋肉あるのに、どうやってモモ先輩とやりあえるんだよ⁉︎イケメンでモテるから拒否!」
●師岡卓也 中立派
「一番接点がないから、好きでも嫌いでもないよ。モモ先輩とライバルなのは素直に凄い思う。多分、住む世界が違うんだ」
●川神一子 賛成派
「お姉さまのライバルの凄い人!一緒に住んでるから大和と同じぐらい付き合いが長い」
●椎名京 拒否派
「大和が苦手にしてるから嫌い。人としても興味ない。モモ先輩に勝つ?どーせ無理でしょ、しょーもない」
●クリスティアーネ・フリードリヒ 中立派
「留学したばかりであまり接点はない。だが一子や百代から聞いた話と、その実力から侍をイメージして好印象」
●黛由紀江 賛成派
「同じ剣士として尊敬している。百代を除けば一番ユウに好意的。それが恋に発展するかは、これからに期待」
●賛成派
川神百代、風間翔一、川神一子、黛由紀江
●拒否派
直江大和、島津岳人、椎名京
●中立派
師岡卓也 クリスティアーネ・フリードリヒ
川神大戦勃発‼︎
全校朝会で川神鉄心によって大きく宣言されたのは、2年のF組とS組の大戦。
落ちこぼれとされるF組と、成績上位のエリートで構成されているS組は毎度のこと争いを繰り返してきた。そんな中、ついに互いが一線を越えることとなってしまう。
いつも通りの一対一の決闘で決まるものと思われていたが、今回はクラス全体の総意のためここで全ての決着をつけることとなってしまったのであった。
川神学園始まって初の大戦。
この日本で数少ない武道を取り入れた教育方針の学園なため、イベントがあるごとに多くのメディアや評論家、武道家達の注目を浴びることとなる。
特に武士娘と呼ばれる侍の魂を持った少女達の強さ並外れており、まさに過去の侍達が現代に蘇ったような存在であると言えよう。
当然、武道の聖地川神に住まう強者達は色めき立つ。この大戦に参戦したい、己の強さを証明したいと、騒ぐ血の気を抑えることなどできるはずがなかった。
さらに話は進んでいく。
全校生徒の前で、川神鉄心がこの大戦の大まかなルールを説明する。
1・尖った武器禁止。レプリカもしくは峰打ちならば可。
2・拳銃、爆弾禁止。矢は先端に指定の処理すれば可。
3・相手捕虜への尋問、拷問はご法度。
4・学園内の人間なら、何人でも助っ人呼んでよし。
5・学外からはの助っ人50人まで。
全校生徒が静かに鉄心の話を熱心に聞いている中、ユウもその熱に飲まれていた。 もちろん、この戦いの中心はF組とS組。彼らの代表の指示によって全てが決まる。 特に注目すべきは、誰を助っ人として取り入れるか。どれだけ強者を駒として手元に置き、戦力を整えるかがこの大戦のキモとなる。
そしてこんな面白いイベントにあの女が参加しないわけがない。
武道を始めて数年。ユウが欲しているのは勝利。それも、ある存在への勝利のみだ。
そしてあいつは必ず助っ人として呼ばれる。
武神・川神百代。
周囲がざわつく中、目線を三年F組の方に向ける。一瞬交差するのは百代との視線。
(そんな熱い視線を向けるなよ、ゾクゾクするだろ❤︎)
(すぐ笑えなくしてやるよ)
ユウからの(敵意剥き出しの)熱い視線を受けて、百代の体は火照り出す。ゾクゾクと体を震わせ、ペロリと舌なめずりをした。
その色っぽい仕草を挑発として受け取ったユウの胸には、一瞬で闘志が込み上げてくる。
「では、決戦は1ヶ月後とする‼︎」
こうして、F組対S組との決闘が決まったのであった。数々の興奮を生み出しながら、朝礼は無事に終わった。
学園に来ていたテレビ局のカメラは全世界へ放送し、世界各地の猛者たちもこの戦いに注目するのである。
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放課後。
水城ユウは学園の屋上に立っていた。
ここにくる途中、すれ違う生徒達の会話は全てが川神大戦の話題で持ちきりだった。どっちを応援するか、どっちが勝つか、どっちの助っ人につくか、燃える火に木を焚べるかのように、その勢いはどんどん上がっていく。
川神でもこれほどの話題はそうそうない。
ユウが今屋上にいるのも、その話題故だ。
「ユウ先輩」
「お、直江……」
屋上のベンチで待っていると、しばらくしてユウに放課後に屋上にくるよう話をつけた相手が現れた。
それはF組の軍師、直江大和だ。
朝礼が終ると、大和は一直線にユウの元に駆けつけてこの話を持ちかけてきた。内容は聞かずとも分かりきっていたから、その話に二つ返事で了承した。
「俺たちのクラスの助っ人に来て欲しいんです」
「そのクラスに百代はいるのか?」
水城ユウにとって、唯一の問題はそこだった。もし同じクラスに助っ人として呼ばれていたのなら、そもそも彼自身の目的は破綻してしまう。大和側には悪いが、百代と同じクラスに助っ人として入り、仲間として一緒に戦うなどあってはならない。これだけははっきりしておかなければならなかった。
もしそうだとしたら、ユウは即この話を拒否してS組の方へ助っ人に行くだろう。
それに対して大和の返答は、
「姉さんは既に、S組の助っ人に決まってました」
内心ガッツポーズをする。敵側に百代がいる。それだけ聞ければ満足だった。
「いいぜ。お前らの助っ人に出てやる」
「やっぱり、姉さんと戦うのが目的なんですよね?」
「当たり前だろ。あいつと公式でガチでやり合える絶好の機会だ。今度こそあいつを倒す」
ユウは決意表明のため拳を掌に打ち付けた。その衝撃は彼を中心に波紋として大気中に広がり、屋上の床を揺らした。
その光景を見て直江大和はゴクリと喉を鳴らす。百代ほどではないにせよ、やはりこの男も規格外であると実感させられる。
川神百代の舎弟としてついていき、何度もあの人とこの男との決闘を目にした。武神と呼ばれる彼女と互角の戦いを繰り広げる、水城ユウという存在。その名は百代と同じく知らぬものはいない、川神を代表する猛者の1人。
なによりも、川神百代が認める数少ない異性だ。戦力として頼もしいと思う反面、男として、舎弟として、彼女を愛する者として嫉妬せずにはいられなかった。
直江大和は知力で戦うことを選んだ。 腕っぷしではなく、頭脳でこの川神に住まう猛者と渡り合うことを選択したのだ。だが時々、その選択が過ちだったのでは思うこともある。どれだけ策を弄しても、どれだけ自分の有能さを見せつけても、水城ユウの一太刀で全て吹き飛ばされてしまう。
愛する川神百代の視線も、この男に向けられている。自分が欲しかった、あのうっとりした瞳を独り占めしている。
「ま、お互い頑張ろうや」
ニッと笑う先輩に、大和は下唇を噛み締めた。
悪意はない、むしろ善意だろう。だからこそ、その態度にイラついてしまう。自分の苦労も知らないで、と。自分勝手な嫉妬心を積もらせてしまう。
今、この場には誰もいない。
自分と先輩の2人だけだ。
大和は意を決してユウに詰め寄った。
「先輩!先輩は、姉さんのことどう思ってるんですか?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだと、ユウは呆けた顔で素っ頓狂な声を上げた。今さっき自分をスカウトしたはずの後輩が、今回の大戦と全く共通点のない話題を繰り出してきたのだ。
どう思っているとな?と目をパチクリさせるユウに対して、大和はさらに一歩を踏み出す。
「ライバルなのは知ってます。俺が聞きたいのはそこじゃなくて、男として水城ユウは川神百代を女として見ていますか?」
「はあ?」
ますます訳のわからない質問に、ユウは思わずずっこけそうになった。男として?自分が?川神百代を?女として?見ているか?何を言っているんだこの後輩は?
様々なクエスチョンが頭の中を占領するが、何はともあれ後輩からの質問である。ちゃんと答えなければならない。
ユウは質問に、しっかりと答えた。
「ないな。ないない。あいつを女として見たことなんてないわ」
「本当ですか?本当の本当に⁉︎」
詰め寄る勢いがさらに増していく。
何かは分からないが、放たれる気迫に凄みを感じる。壁越えどころか、武人ですらない大和の凄みなどいつもは毛ほども効くことはないが、今回は違った。思わず後退りしてしまいそうになるぐらい、それぐらい今の直江大和は止まらない。
「本心を言ってください!本当は朝、姉さんに胸を押し付けられて嬉しかったんじゃないですか⁉︎」
「あ?」
「門下生として、同じ川神院で暮らしてますしね!姉さんの無防備な姿を見て、興奮したりしてるんでしょ⁉︎」
「……待てよ、なんでそんな話になる」
「一部からは、影で付き合ってるなんて噂できてるぐらいですから!もう姉さんと毎晩お楽しみなことして———」
「お゛い゛ッッッ‼︎‼︎」
爆発のような怒号が屋上を揺らした。
否、屋上だけでなくこの校舎全体を揺らした。
その衝撃は、ヒートアップしすぎて我を忘れかけていた大和を正気に戻すほどだった。さっきまで自分が口走ったことを思い出した大和は、さぁっと血の気が引いてすぐに下がろうとする。
「あ、す、すみません……」
「いいかお前よく聞け」
がしかし、ユウにがっしりと両肩を掴まれて下がることは許されなかった。
真正面から大和を睨みつけて、ユウは言う。
「俺はあいつのことを異性としては見てない!つーか見れない!だってあの川神百代だぞ⁉︎嵐が人間の姿をした全身天災人間だ!」
さっきのお返しか、目をギョッとさせる大和に向けてユウは自分の言いたいことを全て吐き出した。
「お前が百代のこと好きなのは知ってる!あいつがモテるのもわかる!美人なのは間違いないからな!だがな!」
一息ついて、
「安全圏からあいつの戦いを眺めてただけのお前らと違って、俺はあいつと真正面からやり合ってきたんだ!顔面殴られて鼻の骨折られたこともあった!隣町までぶっ飛ばされたこともあった!今朝も殺されかけた!愛せるわけねーだろ!」
全てが本心。
嘘偽りなく、全てを大和に暴露する。
ユウから見た百代は褒められたものではなく、むしろボロクソと言っていい。
しかし、
「俺は、あいつのことを武人として尊敬している!だから勝ちたい!勝って乗り越えたい!それが俺の全てだ以上!」
そんな評価の中でも、ユウは百代を尊敬していると言った。ただ敵意を向ける対象ではなく、越えるべき壁として、憧れの念を抱いていると。
彼の言った通り、大和達はただ百代の戦いを、その凄まじい強さを安全圏から眺めていただけにすぎない。
これは、長年ぶつかってきたユウだけにしかわからない百代に対する見方だろう。
「ぶっちゃけ、俺はお前の恋路を応援してるぜ。あのモンスター堕とせるもんなら、堕としてみろ」
さっきまでの業火のような様子はどこへ行ったのか、初めからなかったかのようにユウは元の態度に戻っていた。
肩を離し、悪かったな…と制服のシワを整えてこの話を終わりにする。
「じゃあな、戦場で会おうぜ」
大和はしばらく、その場で放心していた。
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川神大戦当日。
各々の予想通り、その合戦は熾烈を極めた。
用意された広大な戦場は、戦国時代の大合戦のようにあちこちから衝撃音と怒号が鳴り響いている。
この日のため、両陣営はあらゆる策を練った。
S組は大財閥や政治家などの家系が多く、莫大な報酬に物を言わせてとにかく戦力を増強させた。数だけで言えば、圧倒的に優っている。
さらに、クラスの中には軍人や九鬼家従者部隊も所属しており、現場指揮能力も抜かりない。しかも大将はあの九鬼財閥の御曹司。カリスマ性に優れた彼の声は、兵士の士気を限界まで高めるのだ。
負ける可能性などないに等しい。
対してFクラスは数こそ劣っているものの、個々の実力は数十人力にも匹敵する。
一癖も二癖もある曲者が揃うF組は、その力を足し算ではなく掛け算として合わせることで、戦場において倍以上の効果を発揮させる。
それを指揮しているのは軍師、直江大和。幅広い人脈を駆使し、知略を用いて戦場を有利な方へ組み立てていく。時には汚い手も使うが、それは仲間を勝利へ導くため。
そして彼の傍にはリーダーである風間翔一がいる。九鬼英雄と同じく、彼もまた人の上に立つ器。敵の数など恐れることない、自分についてこい!と、仲間を鼓舞していく。
それによって、戦況は五分と五分。
時間が経つごとに少しずつ、だが確実に互いの戦力が削られていく。泥沼化していく戦場で、次第に有利になっていくのは数で勝るS組だった。
否、数の問題だけではない。
戦況を揺るがすのはやはり彼女。
S組のスカウトに乗った、
「ははははははははは‼︎大和のやつ、まさか揚羽さんまで引っ張り出してくるとはな!」
武神、川神百代。
大和の奇策でS組からの離反者を出し、一時は覆した戦力差を拳一つで無に期した。それからは圧倒的な蹂躙、とはならず大和は直ぐに対武神用戦力を投入した。
武道四天王、九鬼揚羽。
同じく四天王、黛由紀江。
かつては百代とライバル関係だった九鬼家の長女。今では社会人として一戦を退いているが、戦闘力そのものは保っており今でも健在だ。
由紀江も、剣聖と謳われる黛十二段の娘。若くして四天王である橘天衣を下し、新たな四天王となった才女も最高戦力の一人として数えられる。
2人の壁超えの猛者が百代の進撃を抑える。たった一撃で人を、山を、海を破る連続攻撃が百代の体を貫く。そこら辺の武人なら一撃でダウンするであろうその攻撃を喰らっても、百代は笑っていた。
「瞬間回復」
彼女を最強たらしめている力の一つ。気によって瞬時に体のダメージを回復させる技。これによって重傷を負おうとも、すぐに戦線復帰して相手を穿つ。
2人の壁越えを相手に百代は一歩も引くことはなく、寧ろ圧倒していた。嵐のような激闘の中で、百代は川神大戦の前日のことを思い出していた。
あれは夕方の河川敷。
大和に呼び出されて、百代は彼の決意を耳にした。
『姉さん。この大戦で、俺は姉さんに勝ってみせるよ。武力だけじゃない、知力を持って姉さんの上を言ってみせる』
そう言えば子供の頃にもそんなこと言われたことあったな、と思い出に浸る。
それはまだ大和が舎弟になったばかりの頃、どこまでも自分についてこいという言葉に、大和は知力を持って対等な存在なりたいと言った。あの時は総理大臣になるとか、子供じみたことも言っていた。
それがいつしか、百代と対等どころか背中を追うだけの存在に成り果てたと思っていた。しかし、ここへ来て何の心境の変化があったのか、大和は自分を超えると吠えた。
その決意の籠った瞳を目にし、微かに胸が疼いたのを実感した。
それだけではない、
『お前だけにいい格好はさせないぜ大和!』
『キャップ!』
大和に続いて現れたのは風間翔一。
いつの間に来た⁉︎と驚きの声をあげる大和の横を通り過ぎ、ズンズンとはっきりした足取りで百代の前に翔一は立つ。
武神に物怖じせず、指を刺して宣言した。
『俺はモモ先輩にアタックするっ‼︎』
単刀直入、単純明快。
下手な小細工など必要としない、真っ直ぐな瞳で百代を見つめていた。
『俺にはモモ先輩やユウ先輩みてーなスゲー力はねぇ!大和みてーな知力もねぇ!だが、ここにあるもんは誰にも負けねぇ自信がある!』
ドン!と拳を力強く胸に打ち付ける。
百代はニヤリと交戦的な笑みを浮かべながら、大和と翔一のやり取りを見守る。
『だが!俺もこればかりは譲る気はねぇ‼︎』
『それで良い!俺は俺の好きなようにするからお前もそうしろ‼︎』
『俺は昔からキャップ…風間翔一に憧れてた。だけど、憧れているだけじゃ男として越えられない。だから、この大戦で勝って、姉さんをものにして今こそ俺は風間翔一を越える‼︎』
そして水城ユウも‼︎
『おもしれぇ…だが、勝つのは俺だ!』
『いいや俺だ‼︎』
『『姉さん/モモ先輩は俺のだ!』』
モテる女は辛いなぁ、と百代は口元が綻ぶ。
確かに、大和も翔一も立派な男として成長したのは認めよう。もしもライバルが存在しなかったら、ただ空気のような軽い勝利を手にするばかりで乾いていく自分だったら、百代はどちらか2人の男のものになっていただろう。
「だが悪いな…」
2人は男であって、【漢】ではないのだ。
もう知ってしまったのだ。乾いた自分の心を潤してくれる唯一の存在がいることを。
知力で対等になろうが、並外れた根性を持っていようが、この拳を受け止めてくれる存在ではないのだから。
川神百代は、【漢】の存在を知ってしまった。
川神百代は、【漢】に魅了されてしまった。
川神百代は、【漢】を心から欲した。
川神百代は、【漢】に真剣で恋をした。
「どうした百代!技のキレが落ちているぞ!」
「今なら勝てるかもしれません!」
「勝てる?私に?…ふふ、そんなことはないさ。
激昂と共に放たれた拳が揚羽を捉える。
くの字に体が曲がり、飛んでいく四天王は負けてなるものかと両足を地面につけてブレーキをかける。が、すでに目の前に放たれていた百代の気弾がその身を焦がした。
「どうしたユウ!お前も助っ人に呼ばれたんだろ‼︎もう限界だぞ、私を焦らすのかぁッッッ‼︎」
背後をとった由紀江の剣を掴み、地面に叩きつける。巨大なクレーターが戦場に出現し、地盤を大きく歪ませてしまう。
対武神用戦力の2人は再起不能となる。
残るは、あと1人。
その1人は、もうすでにこの戦場に来ていることを彼女は気づいていた。周囲に張り巡らせた気で、気配を捉える。数多の強者が集うこの戦場で一際強い気が、一直線に自分に向かって来ているのを察した。
大和は大戦が始まる前に、全兵に指示した。
『対武神用戦力以外の兵は、絶対に川神百代に戦いを挑んではならない』。
戦ったところでどうせ勝てないからだ。無駄に戦力を減らしてしまう結果に終わるなら、百代を無視してS組の兵にぶつけた方が効率的だ。だからF組の兵は百代に向かってくることはない。
そう、残った後1人の対武神用戦力以外は。
その目が百代の姿を捉えても止まることはなかった。ダッシュの勢いを殺すことはしない。寧ろのそのスピードを利用して、挨拶がわりの一撃を叩き込まんと、さらに地面を蹴った。
———一閃。
九鬼揚羽よりも鋭く、
黛由紀江よりも疾く、
川神百代と同等の強烈な一太刀。
それが、百代の腹を穿った。
爆発が起きた。
火薬や気を使ったものではない。強力な一撃がたった一点に叩き込まれ弾けることで、衝撃波と風が周囲に飛び散ったことによる爆発だ。
この日、初めて武神が吹き飛ばされた。揚羽の拳を、由紀江の太刀を喰らっても後退りすらしなかった百代の体が、まるで風船のように宙を舞ったのだ。
待ってましたと、武神は笑う。激痛にも意に返すことなくクルリと空中で回転し、再び戦場に立ってみせた。その獰猛な瞳からくる視線の先には、自分を天高くまで吹き飛ばした愛しの漢の姿があった。
「遅いじゃないか!デートは必ず男が先に来ているものだぞ!」
なあにがデートだ、と相手は舌打ちをする。
「お前が減らしたF組の戦力のフォローに回ってたんだよ」
「そうか…じゃあ原因は私か」
「そう細かいこと気にすんな。こうしてお前の前に立ってんだから、これから思う存分戦ろうぜ」
「そうか……そうだよなぁ!ユウ!」
やっと現れた水城ユウを前にして、百代はさらに気を爆発させた。風は吹き荒れ、川の水はその気によって沸騰し蒸気となる。
まさに人の形をした天災。出鱈目なその力を見て、ユウは笑った。
「超え甲斐があるってもんだ……!」
怖気付く素振りなど微塵もない。レプリカの刀を構え直すユウの左右に、戦線復帰した揚羽と由紀江が降り立つ。
「やれやれ。あの百代をあそこまで吹っ飛ばすとは、ますます腕を上げたようだな水城よ」
「ユウ先輩、申し訳ありません。私の腕が未熟なばかりに」
『おーう!ユウっちおめー便所でも言ってたのかヨゥ!美味しいところ掻っ攫いやがってイケメンぱねぇZE!』
対武神用戦力の3人が揃った。百代と真正面から殴り合える3人の壁越え。これだけの戦力があれば荒れ狂う武神を下す可能性は50パーセントを超える。
普通ならこのまま一気に畳み掛けるだろう。
しかし、それを許さない男がいた。
「すいませんがね九鬼さん、黛。こいつの相手は俺一人やらせてください」
確実に、戦場ではこの選択は間違いであろう。
だが、そんな戦場のルール、セオリーなどユウと百代の関係の間に割って入れるものではなかった。
「多対一ってのが性に合わないのもあるんですけどね、あいつとはいつもタイマンでやって来たんですよ」
明らかな選択ミス。
しかし、揚羽は快くその選択を尊重した。
「ふふ、漢だな。やはり日本男児たるもの、お前ぐらいの気骨のあるほうがよいというもの」
踵を返して、戦場から離れる。
続いて由紀江も。
「お、応援しています!ユウ先輩!」
『負けたらマジビンタだかんなユウっちよぉ〜!』
これで邪魔者はいなくなった。
見つめ合う強者2人。揚羽達とのやり取りを見ていた百代は、子宮からキュウッとした感覚に襲われていた。愛しの男が、他の女と仲睦まじく喋っている。嫉妬も湧くというものだろう。
「いいのか?両手に花だったろ?」
「戦場に花はいらねぇだろうがよ」
「そうだな、植えるまでもない。花は咲く……血という名の、真っ赤な花が!」
この気持ちをなんと例えればいいのだろう。
この想いをなんと例えればいいのだろう。
肌と肌が、
技と技が、
想いと想いがぶつかり合う。
その瞬間は何者にも犯されることはない、2人だけの聖域。そこに水城ユウと川神百代がいた。
知力なんかでできることではない。
根性なんかでできることでもない。
全く同じ強さを持ち、互いを強く想い合う者が2人揃って、初めてステージへ立つことを許されるのだ。
百代は思う、そして確信する。
この瞬間に起きる行為、
何ものにも代え難い快楽の瞬間、
そう…これは…間違いない、
セックスだッッッ‼︎
「無双正拳突きぃぃぃい‼︎」
「雪達磨!」
「炙り肉!」
「天の槌!」
「致死蛍!」
「かわかみ波ぁ!」
「星砕き!」
「星殺し!」
「人間爆弾ッッッ‼︎」
拳で思い切り殴った。
氷漬けにした。
火で炙った。
踵落としを脳天に落とした。
気弾を死ぬほど喰らわせた。
極太のレーザーで全身を覆った。
最後に至近距離から爆発した。
爆風の中から飛び退き、百代は瞬間回復で傷を回復させる。
川神流オーバーキルフルコンボ。人間の体など、肉塊どころか細胞一つ残っているはずがない。それでもこのコンボを放ったのは、相手がこの程度で死ぬことはないという確信があるからだ。死ぬどころか、ダウンすらしていないのだろう。
爆煙が真っ二つに切り裂かれる。振り払われた一太刀が風に乗り、巨大な煙は一瞬で霧散した。
その中心に立っているのは勿論、水城ユウ。流石に制服はボロボロだ。あちこち消し炭になって、肌が露わになっている。だが、その肌に傷は一つもない。百代のあらゆる技を、その刀一本で全て捌き切ったのだ。
「ああ、やっぱりお前は最高だユウ」
ゾクゾクと体が震えて、ペロリと唇を濡らす。
百代はもはやユウにゾッコンだった。
その胸には、前日に聞いた大和とキャップの決意表明に感じたトキメキは綺麗さっぱり塗りつぶされてしまっていた。
「悪いな大和、キャップ……これがお前達とあいつとの差なんだ」
水城ユウは川神百代の全てを受け止めてくれる。
それが何よりも嬉しく、愛おしい。
「どうしたよ、こんなもんだったかお前は」
「なぁ、ユウ!一つ提案がある!」
いざ反撃!といこうとしたユウに、百代が待ったをかける。
戦いのテンションが上がってきたというのに水を刺され、ガクリと拍子抜けしてしまった。
「んだよ!」
百代は心の中で、大和とキャップにすまないと謝罪する。
2人がこの戦いが終わったら百代に想いを伝えようとしているように、百代もこの戦いが終わったら
「この戦いに勝ったら、相手に一つ命令することができる。どんな命令でも、敗者に拒否権はない」
「なんだそりゃ?」
また訳のわからないわがままを押し付けてきたと、ユウは頭をガリガリとかく。そんな呆れるユウの仕草でさえ、百代の欲情を刺激させてしまうのだ。バクバクと激しく脈打つ胸を抑え、ハァハァと飢えた獣のように涎を垂らしながら叫ぶ。
「もう我慢の限界なんだ!はち切れそうなんだ!今すぐにでもヤってしまわないと、破裂しそうなんだよ!」
何かはわからんがかなり切迫詰まっているらしいと、ユウは鈍いのか察しがいいのか結論を出す。
だが、これだけははっきりさせておかなければならなかった。
「それは、この大戦の勝敗か?それとも今俺たちがやってる、タイマンの勝敗か?」
「後者だ!」
「だろうな!」
確認は取れた。
ユウはその提案を呑む。
ちょうど、毎日の嫌がらせをどうにかしようと思っていたところだ。この提案はちょうどいい。
負けることなど一切頭の中にはない。
勝つことで勝利を味わい、悩みも解消される。
至れり尽くせりだ。
しかし、この時のユウは知らなかった。
「別にかまわねぇぜ、乗った!」
この選択が、全ての始まりだということを。
どうして、拒否しなかったのかと。
人生で一番の後悔だと。
「言った……言った言った言った言ったな⁉︎言質とったぞおおおおおおおおおおおッッッ‼︎」
「なんだそのリアクション?まるで自分が勝つのが当たり前みたいじゃねぇかぁ‼︎」
「もう逃さないぞユウゥゥゥゥウ‼︎‼︎」
拳と剣が混じり合う。
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「大将討ち取ったりぃぃぃぃい!」
「んぁ゛……?」
ユウの目を覚まさせたのは、勝利の雄叫だった。
もう戦闘による爆発音も怒号も聞こえない。あるのは、全てを出し切り勝利した者達の喜びと涙の叫びだ。
ユウは、戦場の真ん中で大の字に倒れていた。気を失っていたらしい。その手にはポッキリと折れた刀が握られている。
意識が覚醒していくにつれて、体の感覚も戻ってくる。ズキズキと体のあらゆる箇所に痛みが走り、起きあがろうにも鉛のように重く立つことすらままならない。
気も体力も全て消費してしまっている。
なんとか首だけは動かせることに気づき、雄叫びが聞こえる方へ顔をグィッと動かす。
「「「「「わっしょい‼︎わっしょい‼︎」」」」」
「いやぁぁぁぁ!英雄様ぁぁぁぁあ⁉︎」
そこには、風間翔一がF組に胴上げされていた。
少し離れた場所では、涙目の忍足あずみに介抱されているS組の大将、九鬼英雄。その周囲には、膝をつき悔しそうに顔を俯かせるS組達。
説明は不要。
この光景が大戦の結果を物語っていた。
「そうか、勝ったのか」
結果はF組の勝利。
膨大な戦力を手中に収め、さらには川神百代を助っ人として手に入れたS組の勝利を疑う者はいなかった。
しかし、切り札である百代は揚羽、由紀江、ユウによる対武神用戦力によって抑えられ、被害は最小限に。後は両軍の根気という形にもつれ込み、最後は翔一が英雄を下すことで決着がついた。
しかし、
「俺は、負けたのか……」
戦場の中で交わした個人的な決闘。
それはユウの敗北で終わっていた。
途中から記憶がない。ただ百代の嵐のような攻撃を、刀で捌いて捌いて捌き続けていた。そして一瞬の隙をつき、一撃を見舞う。
百代の瞬間回復が可能な気の量が尽きるまで、ただその工程をひたすら繰り返す。が、そんな無茶な戦法が最後まで続くはずもなく、後半から互いの気と体力の差が出てきた。
大海の如く膨大な百代の気の津波に飲み込まれるように、ユウは最終的にゴリ押して押し切られてしまったのだ。
そして今、地面に倒れている。そんなユウを見下ろすのは、太陽をバックに腕を組み仁王立ちしている武神、川神百代。
今回も彼女の勝利で終わった。
「今まででいちばん楽しかったぞ、ユウ」
「大戦の結果じゃ負けのくせに……いや、これは言い訳か。忘れてくれ」
「そういう潔いところ、好きだぞ❤︎」
「へいへい」
百代の言葉を右から左へと流し、ユウは重力に従ってぐったりと地面に倒れ込んだ。
「強えなぁ……また負けちまったよ」
「私だって強くなっているんだ。お前には負けられないからな」
それは悔しい反面、嬉しさも感じられた。
あの世界最強の武神、川神百代にここまで認められたのだ。武人冥利に尽きると言うもの。
だがこれで満足するほど、ユウの器は小さくはなかった。姿こそ敗北し地面に倒れ込んでいるものの、その瞳に宿る闘志は燃え上がっている。
「でもこれで終わらねぇぞ」
ユウは百代に宣言する。
次も、その次も、俺はお前に挑む。
たとえ学園を卒業しても、社会人になっても、ヨボヨボのジジイになってもお前と戦い続けてやる。
それが終わるのは、俺が勝利した時だ。
「なんだか告白みたいだな♪」
「鳥肌立つこと言うなよ!あくまで武道家としてだからな!」
「わかってる。お前はそう言うやつだよ」
頬をポッと赤らめて両手で覆う。
乙女らしいその仕草は、百代自身が美少女であるため普通なら誰もが心をときめかせる姿であろう。
しかし、ついさっき激闘を繰り広げたユウからしてみれば、不気味以外のなにものでもなかった。
なんでこの想いが伝わらないのかな〜と、残念に思いながらコホン…気を取り直して百代は本題に入る。
「忘れてないだろうな、ユウ。あの約束」
「ああ、負けたやつは命令を聞く、な。男に二言はねぇ、なんでも言いやがれ」
どーせくだらねー命令なんだろうがよ、とたかを括る。その発想が自分の首を絞めているとも知らずに。
「その前に、私も色々と終わらせなきゃいけないことがあるからな。先に川神院に戻っていてくれ。飯も私がデリバリーで送っとく」
「おいおい、なんの風の吹き回しだ?お前が人に飯を奢るなんて……」
意外な言葉にユウはギョッと目を見開いた。いつもと何か様子が違う、という予感通り、百代はニッコリと意味深な笑みを浮かべていた。
「ちゃんと体力つけておけよ、と言う意味だ♪」
「何を命令されるんだよ俺は……まあいい。体中汗でベトベトだからな。帰って一風呂浴びたかったところだ」
戦場を走り回り、百代に殴られ、斬り返し、長時間戦い続けた。体は汗でぐっしょりと濡れ、制服も汗を吸い上げて皮膚に引っ付いている始末。
ざぁっとシャワーを浴びて、風呂でゆったりと体を癒そうかと考えていると、百代が待ったをかける。
「いや、ダメだ。そのままでいろ」
「それぐらいいいだろ?お前の気弾やら土やらで服もボロボロだし、着替えるぐらい」
「ダ・メ・だ。勝者の命令だ。その姿のままでいろ。シャワーも許さん」
「ちぇ……」
本気で何を命令しようとしているのかわからない。だが、提案を了承したのは自分だ、負けたのも自分だ、ならば従わなければならない。
ユウは不満気に立ち上がり、勝鬨を上げているF組の輪へ向かっていった。
その背後で、遂に念願の獲物を捕らえた獣の目をした百代の顔を見ることなく。
全ての準備は整った。
百代はスマホを取り出し、
「あ、すみません川神院のものですが。料理のデリバリーお願いできますか?はい、えーっとじゃあ……特上鰻重、スッポン鍋。あと赤マムシドリンクお願いしま〜す♪」
長い大戦は終わった。
そして、長い夜が始まる。
川神大戦はさっさと終わらせて本番に行こうと思ってたのに、バトル描写に力を入れすぎて一万字超えてた……
百代「知力も根性もいいが、私は血湧き肉躍るぶつかり合いがいいんだよ。男共!誰か私をときめかせて見ろ!」
大和「それは無理だよ、姉さん」
翔一「無理」
岳人「俺様も無理」
卓也「流石に無理があるって」
ユウ「百代!今度こそ決着つけるぞ!」
百代「ほらな?こういうことだ」
ユウがこれまでの戦いで百代に瞬間回復を使わせた最高記録は、28回です(百代の限界は30が限度
22か23回ぐらいからユウの体力に限界が来ます
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