川神院の闘技場。
広大な円形と強度を誇るフィールドは、武道大会の舞台としても使われる。そこにてある手合わせが行われていた。
金属同士がぶつかり合う、甲高い音が響き渡る。激しい衝突音を奏で、儚く火花が散る。
その数は二つ。互いに刀を得物としていた。
一旦斬り合いをやめて、間合いを取る。刀を扱う者にとって、間合いとは生命線だ。それを制した者に勝機が傾き、そうでない者は一気に不利となる。
ジリジリと距離を保ちながら間合いを図る。
静かながら、重々しい緊張の空気が漂う。窓から入る風の音すらもうるさく感じてしまう程の静けさ。先に動いた方がやられる、少女は確信した。
その静寂を破ったのは、相手方の攻撃だった。それを少女は見逃さなかった。正面から放たれる刺突。それを少女の類まれなる反応速度が上回っていく。
後の先。なんとも信じ難い事に、少女は刺突を“見てから”反応していた。決して見切ったわけでも、ましてや相手の打突が遅いわけではない。単純な話、彼女の反応が疾すぎただけのこと。
少女は既に、眉間に迫る切っ先を弾いている。そして、自身に向けられた刺突よりも速く、少女は踏み込んでいた。
「———⁉︎」
なめていたわけでもない、侮っていたわけでもない。何せ相手の男は、あの武神と互角に渡り合う剣士。強者が跋扈する川神で、若いながらも壁を越えた武士であることは知っていた。
だからこそのカウンターによる必殺。自身が用いる最高の一閃。確実に急所を仕留める一撃は、幾多もの武道家達を沈めてきた。見切られたことも、躱されたことも、ましてや防がれたこともない自慢の一撃。
それを目の前の相手———水城ユウは難なく身体を捻って回避し、カウンター返しとして速く踏み込んでくる。
(誘われた!)
あの刺突は、こちらを誘う為の罠。緊張状態だからこそ単純な動きが勝敗を左右する。
少女がたたらを踏んで後退するのも無理はない。今の状況こそ、彼女にとっては未知の領域。必殺を避けられ、自身との間合いを詰められるなど経験したことがないことだろう。
どうするかなど選択肢が浮かばない。頭は真っ白になっているものの、それでも後退したのは無意識のことだ。兎にも角にも刀の間合いに再び立ち、どうするか考える。
だが……。
「——————詰みだ」
彼は許しはしない。
抜刀の要領で刀を振り抜く。
少女がやったものよりも疾い、神速の太刀。それがしっかりと彼女の胴体を捉えた。
決着が着いた。
傍から見ると呆気ない。されどこの一戦には、深い読み合いによる攻防が繰り広げられていた。少女の想定を軽く上回る剣士の力量を見せつけて、
「勝者、水城ユウ!」
審判を務めていたルーが勝者の方へ手を上げる。
互いにレプリカの刀を鞘に納めて一礼する。この試合を申し込んだ少女、黛由紀江は深々と承諾してくれたユウに頭を下げた。
「お手合わせ、ありがとうございました!」
「そんな畏まらなくてもいいぞ。俺も黛と手合わせしてみたかったし」
にしても顔が怖い……と、由紀江の引き攣った顔に苦笑いを浮かべる。極度の人見知りで緊張すると顔が強張ると聞いていたが、想像以上に怖かった。こんな女の子が剣聖の娘で、ついさっきまで斬り合いをしていたとは思えないぐらいに。
「いえ、大変勉強になりました。あのカウンターも、見事で……」
「あれは突きで決めようと思ってたんだけどな……まさか避けられると思ってなかったから、直ぐに身体を捻ったんだよ」
「え⁉︎」
てっきり誘う為の罠だと思っていた。確かに、あの突きは紙一重でギリギリ交わすことができた程の鋭い一撃だったが。だが、本命はカウンターとして近づいてきた所を狙うことだと思っていた。
あの一瞬で即座に切り替えたというのか。
「攻撃喰らいながら殴ってくる百代を相手にしてきたからかな……反撃には割と反応できるんだよ、俺」
「あ、なるほど……」
瞬間回復を使うことで、ダメージを無視して戦い続けることができる百代の反則ぶりを想像する。例え直撃を与えたとしても、即座に回復して攻撃してくるため、ユウにとってカウンターはさして脅威ではないのだろう。
ならばあの対応力も納得がいく。それぐらいできなければ、川神百代のライバルと言われてはいないだろう。
「お、まゆまゆとの試合終わったんだな?」
すると、出入り口の奥から熱気のようやプレッシャーが放たれた。振り向くと、そこには軽快な足音を立てて、それに似合わぬ闘志を放ちながら道着を身につけた百代が入場していた。
傷こそないが、道着は乱れており汗をかいている。その目は今にも襲いかかってきそうな程、ギラギラに輝いていた。
「そっちの方も、百人組み手は終わったようだな。もう身体は十分あったまってる」
ついさっき由紀江と戦ったにも関わらず、ユウは刀に手を添えて百代と対峙する。
互いに戦る気十分だ。
この場に自分がいるべきではないと察した由紀江は、直ぐに闘技場から出て客席へちょこんと座る。
これから行われるのは正に、武神とそのライバルの激しい決闘である。一武人として、しっかりとその戦いを目に焼き付けなければ。
「百代、お前条件忘れてないよな?」
「ああ、勝ったらお前は自由の身だ。私もこの初恋をきっぱり諦めよう」
「分かってるならいい」
「?」
由紀江からしてみれば、この会話が何を意味しているのかは理解できない。だが、ぶつかり合う凄まじい闘気を感じてただごとではないと、鳥肌が立つ。
「それでハ、構えて……初メッッッ‼︎」
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「す、ごぉい……」
客席に座る由紀江は、目の前で行われている二人の決闘に目を奪われていた。一秒間で何十回もぶつかり合う拳と刀の嵐、たった一つの選択ミスが敗北に繋がる高度な読み合い。
最高峰の大激突が繰り広げられている。川神院の修行僧が作った結界によって外に被害は出てないが、それがなかったら今頃この闘技場は残骸と化していただろう。
この戦い、推しているのはやはり百代だった。
そこらの武人が使えば倒れかねない程の気を必要とする反則級の技を、膨大な気を持って湯水の如く放ち続ける。
だが、本当に凄いのはユウの方だった。
百代のたった一発でも致命傷になりかねない技の数々を、刀一本で全て捌き切っていた。
同じ剣士として驚嘆に値する。使うのは刀と、気による身体能力上昇のみ。後は己の研鑽した剣技のみで、百代と真っ向からやりあっていた。
推されてはいるものの、防戦一方などでは決してない。針の穴程度の小さな隙を見逃さず、そこへ的確に斬撃を叩き込んでいく。
その一撃は正に雷の如し。たったの一発だけで、百代に瞬間回復を使わざるおえない程のダメージを与える。
百代が一戦に使える瞬間回復は、約30回。それをゲームで言う残機で例えると、既に10ぐらいの残機が減っていると言えよう。
それ程までに剣の一撃は鋭く、重い。
手合わせが終わったばかりだというのに、由紀江の胸に再び闘志が湧き出ているのを感じる。
普段はお淑やかだがやはり彼女も武人。この決闘の気に当てられて、身体が疼いている。
「それにしても、ユウ先輩……凄い気迫です。あの剣から並々ならぬ覚悟を感じます」
『ありゃぁヨォ、まゆっち……恐らくLOVEだぜぇ』
「ら、LOVE⁉︎ですか松風!」
『俺との勝負に勝ったらその乳揉ませろ、って感じYO。ゆうっちも男ってわけさぁ』
「で、ですが松風!この前の秘密基地では、ユウ先輩はモモ先輩をフッたと聞きましたが……」
『照れ隠し……だとしたらぁん?』
「はッ⁉︎」
『やべーぞまゆっち、同じ剣士だから親睦を深めてゆくゆくはくんずほぐれつ作戦がオジャンになりそうだZE』
「どうしましょう松風!」
『落ち着けまゆっち!まゆっちにはまだ、モモ先輩とは違う強みがあるだろ!』
「そうでした!このお弁当を……」
『に・ょ・た・い・も・り・❤︎』
「ほおぉ〜〜〜〜〜〜⁉︎」
由紀江がそんなアホな独り言を繰り広げている間に、勝負は決していた。結界が崩壊しかける程の衝撃と爆音と共に、一つの影がパタリと床に倒れ込む。
審判のルーが、勝者の名を呼ぶ。
「そこまデ!勝者、百代!」
「た〜のしぃ!やっぱお前との戦いが一番だな!」
またしても無敗の座を守り抜いた勝者。だがその身体はいつものような挑戦者に余裕勝ちしたものではなく、ボロボロで泥臭い状態だった。
それでも、彼女は笑っていた。掴み取った勝利を噛み締め、これこそが己が望む戦いだと拳を突き上げる。
対してユウは息も絶え絶えで、大きく呼吸を繰り返し胸が上下している。悔しそうに……本当に悔しそうに、取りこぼしてしまった勝利を惜しく感じていた。
瞬間回復を二十七回まで使わせた。だがそこから体力の限界が出てきて、最後にはいつも通り気のゴリ押して敗れ去った。
「ふふふ♪じゃ、楽しみにしてるからな❤︎」
倒れる彼を飢えたケダモノのような目で見下ろしジュルリと舌舐めずりをする。その目が向かう先は勿論……ユウの股間へ。
敗者に拒否権はない。今日もまたあいつに肉欲の限り犯されるのか、と消えかけの意識の中で辟易する。
汗を流す為に浴場に向かってスキップで去っていく百代と、倒れてピクリとも動けず闘技場に一人残されるユウ。そんな彼を心配して、由紀江が顔を覗き込む。
「あの、大丈夫ですか……?」
「か〜なり参ってる……」
負けた悔しさ、だけではないと由紀江は察する。もっと大きな、逃げ道をなくしてしまった者のような意気消沈した目に、彼女はあるものを取り出した。
「あ、あの!ユウ先輩、これをどうぞ!」
ユウの前に差し出されたのは重箱、いわゆるお弁当というやつだ。しかもそれは三段もあり、手に取るとズシリと重みを感じらて、中身の具もかなり多いことが分かる。
「これ、黛が作ったのか?」
「男の人は多く食べると聞いたので、その……多く作りました。食べきれなかったら、残しても構いません」
「いや、食うよ。全部食う。身体動かして腹減ってたんだ」
時刻も丁度、昼の12時。結界を張っていた修行僧と審判のルーも、食事の為にもうこの場にはいない。
由紀江と百代との連続試合はかなりのエネルギーを使って肉体に負担をかけたために、自覚するとぐぅ〜と腹の虫が鳴った。この空腹感、なんでも食べ切れる気がする。
闘技場で食べては流石にマズイので客席に移動し、重箱を開けてみる。中身には、なんとも色とりどりなおかずがぎっしりと詰められていた。並べ方も凝っている、どこかの料亭が作ったのかと思うぐらいだ。
(話には聞いてたけど、こりゃすげぇ……)
そう思いながら煮物を箸でつまみ口の中へ。
「ッ⁉︎……こ、これは!」
「お、お口に合いませんでしたか?」
目をカッと開き固まったユウを見て、由紀江が心配そうに問い掛けてくるが彼はゆっくりと咀嚼して十分に味わう。
川神院での、修行僧の食事管理をしている給仕の料理を食べてきたユウには分かる。
完璧だ。実に完璧だ。味がよく具に染み込んでおり、濃い味が疲労した身体に染み渡っていく。
あの名高き剣聖の娘。この年齢でこれだけの煮物が作れるなんて、きっと幼いころから躾けられて来たのだろう。
気づけば箸は止まらず既に一段目を完食してしまっていた。
「こりゃうめぇ……!」
「本当ですか⁉︎」
「ああ、すげーな黛」
さらにニ段目、三段目も直ぐに完食した。
あまりにも美味で、もう少し食べたいと思うぐらいに。
「ご馳走様!いや〜、美味かったよ。黛は将来、いいお嫁さんになれるな」
「およ⁉︎およよよよよよよよよよッッッ⁉︎」
互いにご満悦。そんないい雰囲気が流れる中、それを邪魔する激痛がユウの股間に響いた。
「うぎゅ⁉︎あ、あいつ……」
「どうかなされたんですか⁉︎」
「いや、なんでもない……ちょっと、俺も汗を流しに……黛は……どう……す、る……?」
「私はここでおいとまさせていただきます。本日は、ありがとうございました」
深々と頭を下げる。彼女にとって今回の手合わせは、剣士として更なる成長の礎となることだろう。
「ああ、そうか……どういたしまして……弁当美味かったよ」
その気持ちを素直に受け取って、ユウは小走りで闘技場から出ていった。
「やりました松風!」
『やったなまゆっちぃー!今夜から婚姻届にサインの素振り100回だぁ!』
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「んむッ❤︎んふぅうんっ❤︎はぶぅっ❤︎んむぢゅうっ!❤︎んぢゅ❤︎ちゅぷっ❤︎」
案の定、闘技場から出るとそこに百代が待ち構えており、彼女を視界に入れた途端に手を引っ張られて強引に唇を奪われた。抵抗する隙もなく、唇をこじ開けられねニュルンと彼女の舌が口内に入り込む。
ぬチゅルっブちュるチゅッ❤︎
ヅちヌるュぶチゅっ!❤︎
誰もいない川神院の通路で、激しい水音がこだまする。当然結界を張っているが、食事を終えた修行僧が部屋から出てきたら直ぐに気づかれる場所だ。
そのスリル感が良いのか、百代は理性を蕩けさせるように舌を絡ませ、舐め回す。時折強引に送られてくる彼女の唾液を飲み込んでしまう度に身体の芯が痺れて、ユウの思考にもやが掛かっていく。
「んぐ……ぷは、お前……いきなりすぎるぞ……」
負けたからには仕方ないと思いながらも、やはり拒絶感は否めない。舌が溶けるほどのキスをする百代に苦言を呈するが、そんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりにキスは止まらない。
頭を両手で押さえつけて、呼吸すらままならないぐらいに自身の顔と密着させる。彼の舌を自らの口の中に引き摺り込むと、そのまま唾液ごと強く吸い上げていく。
「この味、ちゅ❤︎ぺろ、さてはまゆまゆの……んぢゅ❤︎手料理食べた、むちゅ❤︎な❤︎」
同じ風間ファミリーであるため、由紀江の料理の旨さは百代も知っていた。それを味わったユウの口内は、その後味で満たされている。
舌から頬裏、歯と料理の味がこびりついたところに満遍なく舌を動かしていく。由紀江の料理にユウの唾液をブレンドしたそれはなんと美味なことか、その味を更に求めて百代の舌使いは激しさを増していく。
「ん゛⁉︎んぐぅぅぅ〜〜〜〜⁉︎⁉︎⁉︎」
貪られると同時に快楽を与えられ、疲労困憊の身であることもあってどんどん思考が曇らせていく。
口を少しだけ離し、引き出された舌をベロベロと舐め回される。まるで他の女にうつつを抜かしているからお仕置きとばかりの責めに、バチバチと視界が点灯するほどの快楽が襲い来る。
「ごッ、お゛…お゛…お゛…お゛ぉ……‼︎」
顔が密着すれば身体も密着する。試合で熱った肉体同士が擦れ合い、文字通り全身人霊で百代に貪られるユウの目は白目をむいていた。
「ん❤︎んん❤︎ん、んちゅヂュルルルルル❤︎んんんんん〜〜〜〜❤︎❤︎❤︎」
一瞬跳ね上がった身体の反応から口が離れ、卑猥な悲鳴が漏れるも百代がすぐに塞ぐ。
激しい口淫の末に、ユウはそのまま目を見開いて絶頂した。遂に実質キスだけでイッてしまったのだ。
「うぁ゛……ぁ……」
やっと唇が離れると、解放されたユウの足腰はもう力が入ることはなく、ゆっくりと床に座り込んでしまう。口内にはさっき食べた由紀江の料理の後味はなく、百代の涎の味に上書きされてしまっていた。
「ふふ、ご馳走様だユウ❤︎」
本番無し、キスだけでどれだけエロくできるか試してみた
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