「W列車へようこそ。乗車をご希望ですか?
……はい。それでは指定のお席へどうぞ。
快適な旅になるようにお祈りしていますね♪」
××××年 12月25日。10秒で到着するという
その列車に二人の男女が乗り込んだ。
片方は誰もが知る先生、もう片方はその生徒。
チケットに書かれた座席に座り『愛の街』と
呼ばれる場所に向かう。二人はそれがどのような
ところであるかを知らない。聖夜の日に残業で
大した思い出を作る事が出来なかった二人が
愛という単語だけを見て乗り込んでしまった。
それがどのような悲惨を招く結果になるのか。
先生とその生徒、早瀬ユウカは知らない。
この世界においては無知である事、それ即ち
罪である。
「どう見ても普通の列車ですが……本当に
10秒で到着するのでしょうか……」
「"どうなんだろうね。とりあえず座ろう"」
指定席は29号車の一番奥。座席に腰を下ろして
他愛のない話に華を咲かせた。……違和感に
気づいたのはある程度話す話題がなくなってから。
列車が進まないのだ。アナウンスも何もない。
「何かトラブルでも発生したのでしょうか……」
「"様子を見に行った方がいいかな"」
「いえ、もう少しだけ様子を見ましょう。
運転中に立ち上がったら危険ですし」
「"でもこの列車って確か10秒で目的地に到着
するって言われてなかった?"」
「……確かにそうですね。周りの乗客も違和感を
覚えているようですし。この後ろの車両に乗務員
さんが居ると思いますし行きましょう」
30号車。VIPルームと書かれたその扉を開けて
脚を踏み入れた直後に異常な光景が視界に映る。
冷凍保存されているかのように並んだそれは
『10』というタイマーがセットされていた。
「それに触れてはいけませんよ。VIP達は
高い金銭を払ってこの地獄から逃れる道を選んだ
人達です」
「ノア?どうしてここに?」
「私がこの列車の職員だからですよ」
「"ノアが?……それよりも地獄って何?"」
「おかしいと思いませんか?10秒で目的地に到着
する列車なんて。そんな夢のような列車が存在
している訳がないんです。ですが現にここにある」
「……結局何が言いたいのよ」
「この空間は時間が止まっています。……いえ、
正確には外よりも時間の流れが遅いのです。
……10秒が2000年になってしまう程に」
「"2000年……?"」
「何故私がこれを伝えたのか。それはですね……
ユウカちゃんと先生を愛の街に案内するお手伝いを
しようと思ったからです」
「愛の街……そ、そうよ!ねえノア、愛の街って
何なの!?私と先生はそこに向かう為にこの列車に
乗り込んだのよ!!」
「それはこの地獄を乗り越えたら辿り着けますよ。
私はそろそろ制圧の仕事があるので失礼します」
「あっノア!ちょっと待ちなさ……」
「……それと一つ忠告しておきますね。今回の
発狂はいつもよりも早いようです。この扉の先に
待っているのは文字通り悪夢です」
ノアが扉の先に見えたのは赤一面の景色。
臓器を取り出して身体に巻き付けている者。
狂気に染まりしその光景を見て動揺を隠さずに
身体が震え始める。
「……ぁ」
目が、合ってしまった。首の取れた少女と。
ナイフを振り回す狂人と。その刹那全身に広がる
鳥肌。ーー殺される。それは徐々に扉に近づいて
きていた。普段から銃撃戦を行なっている彼女も
この異常な光景を前に正常な思考が出来なくなり
パニックに陥る一歩手前まで追い詰められていた。
「"ユウカ!"」
「っ!!」
横から聞こえる声で正気に戻った。そうだ。
どんな状況であれ先生を守らなければ。
正直まだ震えは治らない。だけど今先生を
守れるのは自分だけ。そう言い聞かせるように
愛銃を構えて狂気に立ち向かう事にした。
それから約3ヶ月が経過した。辛うじて正気を
保っていた乗客達と共に狂気に犯された乗客相手
に立ち向かう日々。精神を減らしつつも先生を
守る為に戦うユウカも流石に限界を迎えていた。
「いつ……私達は解放されるのよ……」
「"ユウカ……"」
「大丈夫です。先生は私が必ず……」
「お疲れのようですね、ユウカちゃん」
「……ノア。あと何日でこの地獄は終わるの?」
「あと1999年残っていますよ」
「……そう」
「ユウカちゃん、提案があるのですが……という
のは如何でしょうか?」
「こんな時に冗談を言わないで!そんな事を
したら先生がどうなるか……」
「"私に出来る事があるならやるよ。これ以上
ユウカだけに背負わせたくないから。本当は
私だけが責任を取るべきだったんだ"」
「先生……」
「"ユウカと一緒なら2000年であろうとも
耐えられると思うんだ"」
「……私も先生と一緒なら……」
「『せめて、いつ解放されるか分からない
時間の中で、愛する人と永遠を共にしたい』
これはかつてW列車に乗り正気を保っていた
乗客に対してとある医者が発した言葉です。
地獄にいる気の狂った人間たちに正面から戦う。
そう皆に語りかけた結果、二人の男女が決心して
戦い、愛の街のヒーローになる。そう記録されて
いました。二人の男女は文字通り合体して日々
制圧した殺人鬼の肉片を列車の隅にまとめている
と書かれています。そして今……愛の街に新しい
ヒーローが誕生しました」
遠くの車両で二つの声が混ざった叫びが聞こえて
くる。あいのまちの○○○!です。と。
それを聞き取った後にため息をついてから
列車の職員であるノアはこう記録する。
『3437日目ーー愛の街に到着』と。
私のノアは大体こういう立ち位置になりがち