夕焼けは全てを茜色に染めていた。窓外に見下ろす校庭も、彼のいる教室も、黒板の前に立つ彼女――綾波レイの白い肌でさえも。
教室の中には、掃除当番で残っているシンジとレイのふたりしかいない。
シンジはほうきに身を預けるようにしながら、やはりほうきを持ってゴミを集めている彼女を盗み見た。普段血が通っていないのではないかと思えるほど蒼白な彼女の肌が、今は暖かな橙に染まっている。それは彼女を、なにか別人のように見せていた。
しばらくの間、不思議な気持ちで見とれていると、
「なに?」
「な、なんでもないよ」
視線に気づいた彼女に問われ、シンジは慌てて掃除を再開した。
(じっと見つめたりして……変に思われたかな……)
不安に駆られレイの方を見ることができない。ただ床だけを見て、ほうきを動かす。と、
「どうして私を見ていたの?」
「――!」
突然耳元で彼女の声を聞いて、驚いたシンジは尻餅をつくような格好で床に倒れた。
「いたっ」
いつの間にかレイが、すぐ側に来ていた。床ばかり見ていたので気がつかなったのだ。とりあえず、立ち上がろうと床に手を着く。
「どうして?」
彼女にもう一度問われ、シンジは動きを止めた。レイの表情には感情らしきものは――いつものように――表れていない。特に疑問に思ってる様子すらない。
「どうしてって……」
シンジは言葉に詰まった。なんと言っていいか分からない。
視線で許しを請うが、彼女は取り合ってくれない。その夕日より紅い瞳で、シンジを見下ろしている。
「あ、綾波が、なんだか別の人みたいに見えたから……」
正直にそう告白する。そうしなければ、彼女が許してくれないように思えた。
「そう」
レイの感想は、それだけだった。
とにかくこれで開放される。今度こそ立ち上がろうとしたシンジは、しかしまた身動きがとれなくなってしまった。
彼女がシンジの腹の上に、馬乗りになるようにして腰を下ろしたからだ。未曾有の出来事に、シンジの思考が停止する。まったく訳が分からない。
それでもなんとか事態を理解しようと、シンジは状況を勤めて冷静に考えようとした。ここは教室で、下校時刻はとっくに過ぎている。自分は掃除をするために残っている。帰りにはスーパーに寄って夕食の材料を買わなくてはいけないから、早く終わらせて帰らないとアスカが夕食の時間が遅いとごねるに違いない。ミサトは今日も帰りが遅いのだろうか。昨夜のように泥酔して帰ってこないと良いのだが。布団まで運ぶのは一苦労だ――
途中から分析が現実逃避に変わっていたことには気づいていた。大切なことを忘れて――いや忘れようとしている。それは――綾波レイが自分の上に跨り、拳二つ分ほどの距離で互いに見詰め合っていること。
「えっ……」
さんざん思案した末に、出てきたのは結局間の抜けた声だけだった。
「なに……?」
恐る恐る今度はシンジが、レイに尋ねる。彼女の表情は相変わらず――こんなに間近にいるというのに――読み取れない。
「思い出したの」
「なにを?」
「あなたが、IDカードを届けてくれた時のこと」
レイの答えを聞いて、シンジは心臓が止まるかと思った。
「あなたは覚えている?」
頷くことさえできなかったが、はっきりと覚えている。忘れるはずがない。あの時の情景は彼女を見る度に浮かんで、シンジを悩ませていた。
「あの時の仕返し、しよう思って」
予想外の言葉と共に身を乗り出すレイから逃れようと、シンジは反射的に自由になる上半身を後ろに反らした。すると腕を彼女に押さえつけられ、完全に仰向けの状態になってしまう。
シンジのすぐ上ある彼女の顔は、わずかに笑っているように見えた。
「なんで……悪かったって思ってるけど……いままで、ちっとも気にしてなかったじゃないか」
シンジは弱々しく呻いた。
「私のこと、裸を見られても、胸を揉まれても気にしない女だと思ってた?」
「……」
思っていないとは言えなかった。
(けど、普段の綾波を見てたら、そう思うのが普通じゃないか)
言葉には出せないが、胸の中でそう反論する。
「でも、それはあなたの中の私だわ。本当の私は――」
彼女の顔が降下して、シンジの唇を塞いだ。柔らかな感触を感じたかと思うと、暖かい彼女の舌が口内に押し入ってくる。それから逃れようとシンジは、自分の舌を必死に奥へと反らした。レイの舌はシンジの上下の歯茎を丹念に舐めると、ようやく外へと出た。
「こういうことが好きな女よ」
涎を手で拭う彼女の表情には、はっきりと喜悦を含んだ笑みが浮かんでいた。彼の知っている少女とは、まるで別人のように思える。
「こんな……こんなのって……」
ショックだった。女の子に組み伏せられているということが、なによりレイの言動が。
「泣いてるの? でもこれが私。本当の私」
「いやだよ……こんなの……」
はっきりと涙を流していることを自覚する。情けないほどに。
「いやだったら、私を突き飛ばして逃げればよかったのに。あなたは男なんだから」
「そんなこと――」
叫ぼうとして、彼女に遮られる。
「できない? でもそれは違うわ。あなたは私の所為にして、快楽を得たかったのよ。自分からすることはできないけど、突然襲われたのだからしかたがないと言い訳して。今だって、次に何をされるのか期待して、どきどきしてるんでしょ?」
レイはシンジの左胸に、手の平を押し当てた。彼女の言うような考えは、なかった――と思う。そんな余裕も。ただ脈動は確かに、酷く激しかった。
「僕は――」
そんな風には思っていない。言いかけた言葉は、またしても彼女に推しとどめられた。レイの右手の人差し指が、唇を塞いでいる。
「自分から求めて拒まれたり、傷ついたら、悲しいものね。それでもひとりは寂しいから、都合のいい相手を待っている。いいの。それは罪じゃない。求めることのできないあなたを、私が求めてあげる」
彼女の声音は、とても優しかった。女神か母親のように。
レイはシンジの両手を取ると、自らの双丘に導いた。制服の上からでも、柔らかな感触ははっきりと感じられた。
「なっ、やめ」
シンジは悲鳴を上げたが、レイは笑みを浮かべるだけだった。
彼女が胸を揉むと自然、シンジの手が彼女の胸を揉むことになる。彼の意思は関係なく。実際シンジは、まったく手に力を入れていなかった。
何度も何度も、レイはシンジの手で乳房を愛撫した。優しく、時間をかけて。
下から見上げる彼女の顔が上気していることに、シンジは気づいた。吐息も荒くなっている。それは、彼も同様だった。
「ふふっ」
なにかに気づいたように、レイは楽しげに微笑した。ベルトに手がかかり、ズボンが下ろされてしまう。
「真っ白なブリーフ、あなたにはとても似合ってるわ」
そこは、すっかり膨らんでしまっている。
「あ、綾波、お願い……」
懇願するが、
「だめ」
彼女はあっさりと、下着を剥ぎ取ってしまう。押さえつけられていた性器が跳ね上がる。
「ふふ、可愛いおちんちんね」
まじまじと観察され、シンジは羞恥で身を振るわせた。逃げ出したいと思うのに、体は動こうとしない。
(僕は……期待しているの……?)
弱々しく自問する。
と、レイがシンジの性器を強く握った。
「あぁっ」
シンジの口から、苦悶と悦が入り混じった声が漏れる。
「とても硬く、熱くなっているわ。これでも期待していないと言えるの?」
「あぅ……」
隆々と勃起している自分のモノを見せ付けられると、否定することはできない。
「ねえ、快楽なんて欲しくないと言える?」
淫靡に微笑んで、レイはゆっくりと手を動かし始めた。シンジの陰茎を、優しく撫で擦る。
生まれて初めて他人の手で与えられる快感に、シンジは堪らず嬌声を上げた。
「あっ…うぅぅっ、うあぁ」
「また大きくなったわ。気持ちいいのね」
愉快そうなレイの声。
(こんなに……気持ちいいなんて……)
自分でするのとはまるで違う。同じ手なのだから刺激は、さほど変わるはずが無いのに。
異常な事態に興奮していたシンジのペニスは、すぐに限界を迎えた。
(あぁ、出ちゃうよ……)
が、それを見透かしたように、レイの手の動きがぴたりと止んだ。
「えっ……なんで……」
シンジは切なくて、つぶやいた。
「だって、して欲しくないんでしょ」
レイの表情は小悪魔のようだった。
「…………違う……」
自分の意思と無意識の間から、声が漏れた。
「はっきり言って。でないと、してあげらけないわ」
「……期待、してる……か、快楽が欲しい……」
一語一語、息苦しさを感じながら声に出す。
「お願いして」
「快楽が欲しいです……触ってください」
シンジは刺激欲しさに、はっきりと自分の意思で懇願していた。
「どこを?」
意地悪くレイが訊ねる。
さすがに恥辱から躊躇われたが、
「……僕の、おちんちんを触ってください」
結局、口にしてしまう。
「よく言えたわね。ご褒美、あげるわ」
レイはにっこりと笑うと、手の動きを再開させた。
「あっ、あぁん。そ、そんなに、されたらぁっ」
先ほどのゆっくりとした動きとは、打って変わって激しい動きにシンジは叫び声を上げる。
「いい声ね、碇君。もっと、もっと聞かせて」
一度は限界まで達していた滾りが、再び押し上げられる。シンジは本能的に腰を浮かせていた。
「先走りの汁がいっぱい出てるわ。舐めさせてね」
レイの舌が鈴口を撫ぜる――その瞬間シンジは達していた。気持ち良さで頭の中が真っ白になる。
「はぁ、あぁぁ、出るぅぅっ」
白濁の液が勢いよく飛び出し、間近にあったレイの顔を汚した。
(あぁ、僕は、なんてことを……)
欲望が抜けると急に冷静になってしまう。シンジは罪悪感に苛まれた。
だが、レイは顔にシンジの精液を貼り付けたまま、
「まだ、終わりじゃないのよ」
妖しく笑うのだった。
レイは顔に付いた精液を手で拭うと、シンジに見せ付けるように舐め取った。彼女の紅い舌がひどく卑猥な物のように、シンジの目には映った。
(綾波が、こんなことするなんて……)
目の前の光景が、まだ信じられない。無口で無表情で神秘的な少女。そう思っていた――ほんの数分前までは。
「気持ちよかった?」
「……うん」
訊ねられて、シンジはおずおずと頷いた。
「じゃあ、今度は私を気持ちよくして」
レイは立ち上がると、床に座ったままのシンジの眼前――触れるほどの距離でスカートをたくし上げた。
「あっ」
シンジは驚きの声を上げた。目の前にあるレイのショーツはたっぷりと濡れて、その向こう側を透かさせている。
「ふふ、私も興奮しているの。碇君が可愛いから」
言われても顔を上げることができない。シンジは彼女の下着から目が離せなくなっていた。その薄布の下を見てみたいと思ってしまう。
「下ろして」
「えっ?」」
短く言われて、顔を上げる。言葉の意味は分かる、けれど――
「あなたの手で脱がせて」
シンジはかなりの間逡巡して、ショーツに手を掛けた。
(女の子の下着って柔らかいんだ……)
そんなことを思う。
それから、斜め下に顔を逸らして一気に腕を下ろした。ショーツは足首まで下がる。
すこし間を置いて、
「見て」
レイの声。
シンジは恐る恐る正面に向き直った。
「……」
息を飲む。彼女のそこは、短くまばらな恥毛に囲まれていた。ぴったりと閉じられた秘所から透明な蜜が浮き出ている。
(これが……)
初めて見る光景に鼓動が高まる。
「ふふ、碇君の息があたってるわ」
囁かれて、シンジは自分の呼吸が荒くなっていることに気づいた。
「ねえ、舐めてみて」
心臓が跳ね上がる。
(そ、そんなことできるわけないよ)
でもしてみたい。
シンジは、どうにでもなれという気持ちでレイの秘所に舌を付けた。そのまま下から上へと動かす。
「あぁっ」
レイが甘い声を発する。
舌に付いた蜜は、甘酸っぱかった。
(僕、綾波のあそこを舐めてるんだ……)
行為以上にその意識が、シンジを興奮させた。
「もっと舐めて」
言われるままに何度か舌を上下させる。
「奥も……舐めて」
レイの声は上擦っていた。自分の動きが喜ばれているのと思うと嬉しい。
舌を秘所の中へ入れようとするが、そこはきっちりと閉じられており、なかなか差し入れることができない。
それがもどかしかったのか、レイは、
「碇君っ!」
シンジの名を叫ぶと腕を後頭部に回して、シンジの顔を秘所に押し付けた。
「うぅ」
シンジは呻いた。独特の匂いが鼻腔に充満する。
レイはそのままシンジの顔に、秘所を強く擦り付けた。
「や、やめてよ」
シンジが悲鳴を上げると、レイは動きを止めた。頭を抑えていた手からも力が抜けたので、可能な限り身を引く。
レイは熱っぽい吐息を吐いていた。
「ごめんなさい。もう我慢できないみたい……碇君も、そうなんでしょ?」
レイの見下ろした視線の先にあるシンジの性器は、先ほど以上に硬く起立している。
「碇君の初めて貰うわ」
宣言して腰を落とし始めたレイを、シンジは慌てて手で制止した。
「ま、待って、綾波」
ここまで快楽と性への興味で流されてきてしまったが、これ以上は――この一線は越えてはいけないように思う。
「おかしいよ、こんなの。もうやめようよ」
ましてやここは放課後の教室で、いつ誰が来てもおかしくないのだ。
それを聞いてレイの表情は、はっきりと分かるほど不機嫌なものになった。
「まだそんなこと言うの?」
赤い瞳に睨まれて、シンジは背筋を凍らせた。なぜだか分からないが、彼女を怒らせてはいけないような気がする。
シンジが言い訳をするよりも早く、レイは穏やかな――しかし艶のある――顔に戻ると、
「何を恐れるの?」
シンジの顔を覗き込んで、いざなうように甘い言葉をつむいだ。
「碇君は何もしなくていいの。私が〝犯して〟あげるから。だからあなたは、快楽だけを感じればいいの」
シンジは自分でも知らないうちに頷いていた。
レイは満足そうに微笑んで、片手でシンジの性器を掴むと、その上に腰を降下させる。
やがて性器の先に秘所が触れて――
「ふふっ」
シンジの性器は完全に飲み込まれた。
(うぅ、綾波の中…すごく温かい……)
肉の壁に自分の中心を締め上げられる。
(き、気持ちいい……)
気を抜けばすぐにでも、達してしまいそうだ。
「動くわね」
「えっ、だ、だめだよ。待って」
レイの言葉に驚いて――今動かれたりしたら堪えられる自信がない――止めようとするが、あっさり無視されてしまう。
「嫌よ。私は碇君を犯しているんだから」
レイは亀頭だけを残すまで腰を上げてから、もう一度全てを咥え込んだ。
「あぁっ!」
快感の波がシンジを襲う。
抽送が繰り返され、レイの声と共にそれのスピードが増した。
顔を歪め必死に快楽に抗うシンジの顔を見て、レイは愉快そうに笑みを浮かべている。
「どうしたの、碇君?」
「だめ……もう出ちゃうよ。どいて綾波……」
「いいのよ。このままで」
「だ、だめだよ! そんなの」
これだけは避けなくてはいけないと、叫ぶ。
が、レイの動きは一層激しいものになり、シンジの思考を無力にした。
「あぁぁっ、出るぅ!」
シンジの精液がレイの中へ吐き出される。
(あぁ、どうしよう……綾波の中に出しちゃった)
心地よいはずの虚脱感の中で、後悔ばかりが渦を巻く。
レイが立ち上がると、秘所からは白い粘液が溢れ太腿にまで伝った。
「たくさん出したのね。私の中に」
「ご、ごめん……僕は――」
謝罪の言葉を、レイが遮る。
「いいの。私、まだ始まっていないから」
レイにまだ初潮が訪れていないことを知って、シンジはほっとした。
先に身支度を整え終えたレイは戸口へと向かってしまう。
扉を開ける前に振り返り、
「碇君、少し早いのね。初めてだから仕方がないけれど。〝次〟は、もっとがんばってね。私も楽しみたいから」
言って、扉を開けて出て行く。
置いてけぼりにされたシンジは、すっかり暗くなった教室の中で、
「……次?」
レイの残した言葉を反芻して、期待と不安を味わうのだった。