いつもより早く――昨晩ミサトを寝かしつけてから、結局眠りにつくことができなかった――朝食の準備をしていたシンジは、人の気配を背後に感じて振り返った。
「おはよう、アスカ……」
手を止めて挨拶したシンジの声が尻すぼみに小さくなる。アスカは腰の辺りに手を当て不機嫌極まりない顔でシンジを睨んでいた。
「ぐ、具合でも悪いの……?」
理由を察しながら、それでも恐る恐る聞いてみる。
アスカは一度、ふっ、と鼻で笑うと、
「あんたなんかと、セックスしたからよっ!」
大音量で叫んだ。
「ア、アスカ!?」
シンジは慌てて――まだ眠ってるだろうが、もしミサトに聞かれでもしたら全てが水の泡だ――アスカの口を手で塞ごうとしたが、近づいた瞬間に強烈な張り手で迎撃されてしまう。
「い、痛い」
シンジは床に崩れ落ちて、赤く腫れた頬に手を当てた。上目遣いでアスカを見ると、彼女は益々怒気を強め、
「痛いのは、こっちよ!」
シンジに指を突きつけて、怒鳴った。
「ひりひりして、すんごく痛いんだからね。あんたは気持ち良かったかもしれないけど、私は痛かっただけよ。まぁ、この私とセックスできるなんて、あんたには身分不相応なことだから夢中になっちゃったんでしょうけど。はっきり言うけど、あんた〝下手糞〟よ」
そこまで一息に言って、アスカは急に声の調子を変えた。両手を胸の前で組み合わせて、夢見る少女のように続ける。
「あ~あ~っ。これが加持さんだったらなぁ。初めてだって絶対、最高に気持ち良くしてくれるはずなのにぃ。私だって、加持さんのためなら何だってできるし。例えば――」
夢の世界に入り込んでしまったアスカを、シンジは呆然と見上げた。これで怒りを忘れてくれるなら、それでいいが……。
と、足音がして、ようやく目覚めたらしいミサトがダイニングルームに顔を出した。珍しく寝巻きをきちんと着ているのは、シンジがミサトが半裸で眠ってしまってから着せたからだ。頭をぼりぼりと掻きながら、半分つぶった目で言う。
「っさいわねぇ。朝っぱらから、なんの騒ぎ?」
ミサトを見たアスカの表情が見る間に険しくなる。シンジは、また怒りをぶつけられるのではないかと危惧したが、
「……シャワー浴びてくるっ」
そう言い捨てて、アスカはダイニングから出て行ってしまう。
「なに? アスカ、怒ってたみたいだけど」
呆気にとられた様子のミサトに聞かれ、シンジはしどろもどろになりながら誤魔化した。
「あ、い、いえ、な、なんでもないんです……ちょっと口答えしたら、アスカを怒らせちゃったみたいで……」
「ふ~ん、珍しいわね。シンちゃんがアスカに反抗するなんて」
ミサトはいまいち腑に落ちないようだったが、元来物事を深く追求しない質なのか、あっさりと話題を変えた。
「そう言えば、昨日玄関にたどり着いてからどうやって部屋に戻ったのか記憶に無いんだけど、シンちゃんが運んでくれたのよね?」
シンジは絶句した。
「えっ……覚えてないんですか……?」
「あれ、違った?」
ミサトは冗談を言っている風ではない。覚えていないならそれに越したことはないだろうと、シンジはそのまま話を流した。すこし寂しい気もするが。
「いえ、僕が運びました。重かったですよ。ミサトさん、すこし太ったんじゃないですか」
「あら、やっぱそう? だって仕方ないじゃない。シンちゃんの作るごはん美味しいんだもの」
「はい、はい、朝ごはんもうすぐできますから。その前に顔洗ってきてください。寝癖も酷いですよ」
「シンちゃん、いいお嫁さんになれるわよ」
ミサトが洗面所に向かうのを、シンジは苦笑しながら見送った。
アスカが一人でぎすぎすし、シンジが一人びくびくし、ミサト一人だけがいつも通りの奇妙な朝食が終わり、シンジはアスカと学校への通学路を歩いていた。
「あぁ、ほんと、なんで馬鹿シンジなんかとしちゃったんだろ」
頭の後ろで両手を組んで歩くアスカの斜め後ろを、彼女の鞄を持って――玄関を出た瞬間に押し付けられた――歩きながら、シンジは表には出さず嘆息した。
(まだ言ってる……)
「これが若気の至りってやつね、きっと」
前を向いたまま、当てこするような言葉をシンジに聞かせるアスカ。
自分から望んだことではないのに、なぜそこまで言われなければならないのかと思うが、責任の一端は己にあるのでシンジには下唇を噛むことしかできない。
しかし、どうしても――機嫌を損ねる危険を冒しても――アスカに念を押しておかなくてはいけないことがある。
シンジは勇気を振り絞って、アスカの後ろ姿に声を掛けた。
「あの、アスカ……あんまりしたとかしないとか、外で言わないで欲しいんだけど……」
もう学校も近い、どこで誰が聞いているか知れたものではない。
それを聞いて、アスカはピタリと足を止めた。
「あったりまえでしょっ! あんたなんかとセックスしたなんて知られたら、恥かくのは私なんだからね。あんたこそ、鈴原や相田に自慢して話したりしたら、殺すわよ」
振り返り、シンジを睨み付けて宣言する。しかし、
(言ってる側から大声で……)
なぜだか学校で秘密を守り通すのは、限りなく不可能に近いようにシンジには思えてきた。
と、やや前方の脇道から見知った少女が現れる。
「あ……」
特徴的な蒼髪の少女――綾波レイ。彼女もこちらに気づいたようで、視線を送ってくる。
「お、おはよう、綾波……」
通学途中で出会うとは考えていなかったので、シンジは多少緊張しながら挨拶した。
「おはよう、碇君」
一方、レイは普段通りに挨拶を返してくる。いつものように無表情で、いつものように感情が伺えない。まるで昨日の教室でのできごとなど無かったかのように。
(もしかして昨日の綾波は別人なんじゃないの?)
レイの紅い瞳に胸中で問い掛けるが、もちろん答えは得られない。代わりに、
「いたっ」
「なぁ~に見つめ合ってんのよ、馬鹿シンジが」
アスカにぽかりと、拳骨で頭を叩かれてしまう。
さらにアスカは、レイの方を向いて凄んだ。
「あんたも、私には挨拶無し? いい度胸してるじゃない」
「別に。挨拶してくれない人に挨拶しても、意味が無いもの」
が、レイは平然としている。
間近でアスカの横顔を見ているシンジには、彼女の額に血管が浮き出るのがはっきりと分かってしまった。
そのままアスカはレイに掴みかかるのではないかとさえ思えたが、アスカは高ぶった気を落ち着けるように大きく息を吸い、そして吐くと、
「ふっ」
ニヤリと、笑った。シンジはその笑みに、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
案の定。
「私、シンジとしたわよ」
アスカにとって会心の台詞であったろうそれも、
「なにを?」
レイにあっさりと受け流されてしまう。
「んぅーーー」
アスカが、ぎちぎちと歯を鳴らす音が聞こえる。彼女の――ただでさえ許容量の小さい――忍耐が限界に近づいているのは間違いなかった。
「決まってんでしょ! セックスよ、セックス! やったのよ! 性交したの! 性器を結合させたのよ! 分かる!?」
アスカは大股でレイに近づき、聞いているシンジが赤面する言葉を連発する。
レイの眼前で、アスカは怒りで顔を赤く染め息を荒くしている。ふたりは無言のまま睨み合った。それはほんの数秒のことでしかなかったが、シンジには遥かに長い時間に感じられた。
やがて、レイがその薄い唇をわずかに開いた。無機質な言葉がそこから紡ぎ出される。
「無理矢理、犯したのね」
アスカは、レイのその言葉で意気を挫かれたようだった。
「うっ、そ、そうよ。あんただって、そうなんでしょ」
挑みかかるように前に突き出していた上半身を反らして、苦しげに言う。
「ええ。でもそれは碇君が望んだこと。言っていたもの可愛い声で『僕の、おちんちんを触ってください』って。そうよね、碇君?」
無我夢中で口にしてしまった恥辱に満ちた台詞をレイに再現され、シンジは頭を抱えたくなった。見つめてくるレイの瞳を、まともに見返すことができない。
(綾波まで、そんなこと言うなんて……)
今にも溢れ出しそうになる涙を、シンジは必死に堪えた。が、
「シ~ン~ジィ~」
振り返ったアスカの顔を見た瞬間、視界が滲んでしまう。とても女子中学生のする表情ではない。
アスカが一歩こちらに踏み出した時には、シンジは三歩後退していた。背を向けて走り出すことだけはなんとか自制する。だがそれも長くは保たないだろう。
シンジがいよいよ、責任を放棄して逃げ出すか、命を路傍に捨てるかの決断をしようとした刹那、
アスカは素早く、もう一度レイに向き直った。凛とした声で告げる。
「シンジは私の〝物〟なんだから、もうあんたは手を出すんじゃないわよ」
(そ、そんな僕は物なんかじゃないよ……)
胸の内で反論するが、それを声に出す度胸はシンジにはない。
「碇君は物じゃないわ」
(あ、綾波……ありがとう)
レイの言葉に幾分癒されたシンジの心は、しかし続くアスカの発言で完全に破壊されてしまう。
「物じゃなきゃ、奴隷よ。人の言うことに逆らうことができなくて、女の子に犯されちゃうような奴は奴隷で十分よ」
奴隷。逆らえない。奴隷。犯される。奴隷。
頭の中を人格を否定する言葉が埋め尽くす。それを違うと叫ぶことはできない。その通りだと、どこかで認めてしまっている。
シンジは微かな望みをかけてレイに視線ですがった。しかし、
「そう……そうかもね」
(そんな…酷いよ……僕は……奴隷なの?)
レイの言葉は、シンジを絶望させた。
「でもやっぱり、あなたのじゃないわ」
「私のよっ! こいつは私の奴隷なの!」
アスカは激高して怒鳴った。
レイは全く動じずに、あろうことかくすりと笑った。
「どうして? 処女をあげたから?」
アスカの手が振り上げられて、止める間もなくレイに振り下ろされる。
もともと怒りで狙いなど定まっていなかっただろう平手を、レイは後ろに下がって簡単に避けた。
「思った通り、そうなのね。でも処女性に意味なんてないわ。それに、それを言ったら碇君の初めてを奪ったのは私よ」
「うるさいっ! 私が決めたのよ。私が決めたんだから、シンジは私の奴隷なのよ!」
もうアスカの言葉に理屈もなにも無かった。完全に頭に血が上ってしまっている。
さすがに止めなくてはいけないだろうとシンジは、少ない唾を無理矢理飲み込んで、アスカに制止の声を掛けたが、
「ア、アスカ、落ち着い――」
「あんたは黙ってて!」
ぴしゃりと、遮られてしまう。
「まるで子供ね。いいわ、はっきりさせましょう。あなたと私と、どちらが碇君を所有するのに相応しいか」
「そんなことする必要ないわよ!」
「怖いの? 意外と意気地がないのね」
それが安い挑発だとはシンジにも分かったが、興奮がピークに達しているアスカには判別などつかなかっただろう
「っ! いいわよ。やってやるわよ。勝負でもなんでも」
売り言葉に買い言葉。シンジの意志とは関係なく――奴隷なら当然だが――彼はあっという間に勝負の賞品にされてしまっていた。
「決まりね。けど――」
その時レイの見せた笑みは、昨日教室で彼女が見せた笑みと間違いなく同一のものだった。
「私が勝ったら碇君は私の奴隷だってこと、忘れないでね」
体育用具室は薄暗く、独特のすえた匂いがした。シンジは目の前で腕組みしているアスカと、意味深な微笑を浮かべるレイからできるだけ離れようと、背後の跳び箱に背を押し付けていた。その姿は追い詰められた兎のようだ。
校内はまだ授業中であったが、『ネルフ』の名前を出すと簡単に抜け出せてしまった。シンジの「放課後か、せめて昼休みでもいいんじゃないかな……?」という提案は二人によってすげなく却下された。
「で、勝負ってなにをするのよ」
アスカが憮然と口にした。
「分かってるんでしょ? 碇君を先にいかせた方が勝ちよ」
(やっぱり……)
なんとなくは予想はしていたが、〝また〟犯されるのかと思うと陰鬱な気分になる。
「い、いかせるって……ここで!? 私、嫌よ。あんたに見られるなんて」
アスカは――特に言葉の後半部分に――嫌悪を露わにした。
「それも見てみたいけれど、今日は上の口でしてあげましょ。碇君もまだでしょうし」
言って、レイは舌なめずりする。
「口……こいつのをくわえろってのっ?」
「ええ。きっととても美味しいと思うわ。碇君のおちんちん」
陶酔したような表情で語るレイ。普段とまるで違う彼女の姿に、アスカも違和感を感じたようだった。
「なに言ってんのよ、あんた……」
信じられないという顔でレイを見るアスカだが、
「あら、できないの?」
挑発されると後に退けなくなるのは、その勝ち気な性質のせいだろうか。
「で、できるわよ。簡単じゃない、そんなの。お、お茶の子さいさいよ」
「そう。じゃあ、あなたからどうぞ」
「うっ、こ、後悔しても知らないわよ」
レイの手に促されて、アスカはシンジの前に屈み込んだ。
(アスカ……)
アスカは一度シンジの瞳に視線を送ってから、ズボンのチャックを引き下ろした。
アスカの手が、おずおずとズボンの中に差し入れられる。
(あっ……)
ブリーフ越しに、アスカの指がシンジの性器に触れた。外へと取り出そうとするがうまくいかない。
「くっ……」
焦るアスカの背後で、レイが嘲笑を浮かべた。
「ふふっ」
「ああっ、もう!」
叫んで、アスカはズボンのベルトを乱暴に外した。そのままパンツごと引き下ろす。
シンジのペニスは二人の少女の前に晒された。
「あら、もうすこし大きくなってるわね、碇君。期待しているの?」
「そ、そんな……」
言葉では否定してみるが、シンジのペニスはレイの指摘通り、すでに常時より一回りほど膨らんでいた。
アスカは息がかかるほど間近で、それを無言で凝視している。
(アスカと綾波に見られて、恥ずかしいはずなのに……)
胸の奥が酷く熱くて――恥ずかしいことをされていると思えば、思うほど――シンジの性器はまた大きさを増した。のみならず、びくっと跳ねて角度も水平近くになる。
「なっ」
それを眼前目撃したアスカは、小さな驚嘆の声を上げた。
「ふふっ、見られるだけでそんなにしちゃうなんて。これなら簡単ね」
レイの言葉の最後はアスカに向けられたものだ。
ペニスを食い入るように見つめていたアスカは、はっと我に返り、振り返って告げた。
「だ、だから、楽勝だって言ってんでしょ」
「じゃあ、初めて。時間は三分よ」
レイの予想外の発言に、アスカが悲鳴を上げる。
「さ、三分ですってっ!」
「そうよ、それ以上時間をかけていたら誰にだってできるでしょ」
レイは、さも当然のことのように言う。
「ま、まぁ、そうね……」
うなずくアスカの声は小さかった。
「それじゃ、開始よ」
腕時計を見ながら、レイが宣言した。
「ちょ……うぅ」
アスカはまだ何か言いたそうだったが、意を決した表情でシンジのペニスを掴んだ。
性器を通してアスカの手の微かな震えが、シンジに伝わってくる。
(アスカ……)
無理しなくていいよ――出かかった言葉をシンジは飲み込んだ。そんなことを言えば、アスカの神経を逆撫でしてしまうだろう。
シンジのペニスを握ったまま、アスカは固まってしまっていた。
「どうしたの、もう十秒たったわよ」
レイが、冷酷に時間の経過を告げる。
「わ、分かってるわよ……」
口ではそう言うが、相変わらずアスカは動けないでいる。
「ほら、二十秒よ」
レイにさらに急かされて、アスカは恐る恐るシンジの露出している亀頭部分に舌を付けた。
「うぅっ」
敏感な部分を一舐めされて、シンジはうめいた。
「き、気持ちいい……?」
アスカの問いに、シンジは首を縦に振った。
「う、うん」
「だったらもっと感じて、さっさといっちゃいなさいよ」
アスカは性器の頭頂部に何度も舌を這わせた。確かに気持ちいいのだが同じ場所を永遠舐められるだけでは、もどかしく、到底いくことはできない。
「一分三十秒。あと半分よ」
経過時間を知って、アスカはシンジを問いただした。
「ちょ、ちょっとシンジ、まだなの?」
「む、無理だよ。そこだけじゃなくて、他のところも……その…してくれないと」
「だったら最初から、そう言いなさいよ。どこよっ。どこをどうすりゃいいのよっ」
アスカにせっぱ詰まった口調で聞かれ、答えようとしたシンジは、
「だから――」
「だめよ」
レイに制止されて、思わず口をつぐんでしまった。
「碇君に教えてもらうのはルール違反よ。感じる場所は自分で探さないと、意味がないわ」
「なによそれ……聞いちゃだめって、聞かなくちゃ分かるわけないでしょ。こんなものののやり方なんて!」
アスカはレイに食ってかかったが、全く受け付けてもらえない。
「私と話してる暇は、無いんじゃない? もう一分も無いわよ」
「くっ……」
ペニスを握るアスカの手の力が強くなる。それはシンジにとって、ただ苦しみでしかない。
「い、痛いよ、アスカ……」
抗議の声は完全に無視され、アスカは目を閉じてペニスを一気にくわえ込んだ。
瞬間、シンジは絶叫を上げた。
「あっあぁぁぁーーっ!」
驚いて、アスカがペニスから口を離す。
「ど、どうしたのよ」
シンジは性器を手で抑えて、その場にしゃがみ込んだ。痛み――今まで感じたなかで間違いなく最大の痛み。瞳に涙が滲み、シンジは嗚咽を漏らした。
「ちょっと、シンジ?」
アスカが顔を覗き込んでくるが、シンジは痛みで答えるどころではない。
「ふふっ、あはははっ」
突然、室内に笑い声が響いた。見ると、レイが口元に手を当てて愉快そうに笑っている。見慣れない――いや、初めて見るレイの姿に、シンジは痛みを忘れて見入った。
「ごめんなさい、あんまり可笑しかったから。歯を立てちゃったのね。ふふっ、もう三分過ぎちゃったわ」
「なっ、じゃあ――」
「あなたの勝ちは無いわね」
「くっ、馬鹿シンジ、あんたのせいよ! 私が一生懸命してあげてんのに」
アスカに罵倒され、シンジは条件反射で謝ってしまう。
「ご、ごめん……」
頭を下げてしまったから、噛んだことを謝ってはくれないのだろうかと数瞬考えるが、それをアスカ求めるのは――ライオンに野菜を食べろと、言うのと同じで――無理だと悟る。
と、まだ怒りが収まらずシンジを睨んでいるアスカと、シンジの間にレイが割り込んでくる。
「本当は休憩を入れてからするつもりだったんだけど、これならこのまましても問題ないわね」
シンジのペニスの状態を確認してレイが言う。確かには痛みのせいで萎えて縮んでしまっていた。
「可哀想な碇君。酷い目にあっちゃったわね。けど安心して、私が痛みなんて忘れるくらい気持ちよくしてあげるから」
レイの眼差しは蠱惑的で、シンジは吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えた。
「時間、計っていてね」
アスカに向けて、レイが言う。
「わーってるわよ。シンジ、ファーストにいかされたりしたら承知しないからね」
アスカに脅されるまでもなく、完全に萎えてしまった今の状態からでは三分ではとてもいけそうになかった。
「スタートよ」
アスカの合図と共に、
「まずは、ちゃんと剥いてあげないといけないわね」
レイは左手で陰茎を固定し、右手で包皮を剥き始めた。
「え、い、痛いよ、綾波……やめて」
自分でも剥いたことがないため、痛みを感じる。だけでなく、未知の行為に対する恐怖も大きかった。
「だいじょうぶよ。すぐに気持ちよくなるわ」
言い聞かせるように言って、レイは残りの包皮をめくり降ろした。
「うぅっ」
鋭い痛みを越えて、シンジの亀頭は初めて全てを外気に触れさせた。敏感な先端部は、それだけで刺激を受けているように感じる。
「きれいなピンク色ね。とても素敵よ、碇君」
レイの舌が、亀頭を撫でた。
「ひっ、あぁ」
思わず腰を引いてしまいそうな刺激がシンジを襲うが、レイにしっかりとペニスを握られていて逃げることができない。
レイは、亀頭を何度も執拗にねぶった。その度にヒリヒリと痺れるような痛みが走るが、だんだんとそれが痛覚だけではないように思えてくる。
(痛い……痛いはずなのに…なにか)
シンジのペニスは気づかぬうちに大きさを取り戻していた。
「気持ちいい?」
舌の動きを止めてレイが聞いてくるが、シンジには答えることができない。
「……」
「感じたことのない感覚に戸惑っているのね。だったら、ここはどう?」
レイは亀頭のくびれに舌を這わせた。今までに倍する刺激がシンジの脳に伝わる。
「あぁっ、あうぅっ(気持ちいい……これが気持ちいいってことなの……?)」
レイの舌がくびれを三週もしたころには、ペニスは最大に勃起しそそり立っていた。
「次は、ここよ」
レイは眼前にあるペニスの裏筋を縦に舐めた。
「あぁ、あぁぁっ」
亀頭部よりは小さい、しかし完全に快楽のみの刺激を受けて、シンジは嬌声を漏らした。
このままでは、すぐに――
「一分三十秒よ!」
怒気を孕んだアスカの声。見やると彼女の瞳は「なに感じてんのよ。まさかいく気じゃないでしょうねぇ。私の時はいかなかったくせに!」と、明確に語っている。しかし、
(ま、まだ半分もあるの……)
我慢なんてできるはずもない。
「もっと楽しんでいたいけれど、勝負だから」
言って、レイはペニスの先端を口に含んだ。ペニスは見る間に口腔の中に吸い込まれてしまう。レイの小さな口の中にその全てが隠れてしまったことに、シンジは驚きを覚えた。
「あ、綾波……」
ペニスを頬張り、上目遣いでシンジを見るレイの顔は、堪らなく艶っぽかった。
(僕の…が、綾波の口の中に入ってる……)
レイの口内は暖かく、唾液で濡れていた。それだけでも心地よいというのに、さらに彼女の舌が亀頭や裏筋を容赦なく刺激してくる。
「二分っ!」
憤怒の形相のアスカに、シンジは涙目で答えるしかない。もう射精は時間の問題だ――だというのに、レイはとどめとばかりに、空いている手で睾丸を揉みしだき始めた。
「うぅ、あぁぁっあぁっ」
射精欲が急速に迫り上がってくる。
(ごめん、アスカ……)
シンジは胸中でアスカに詫びながら、ギブアップを宣言した。
「も、もうだめだよ……出ちゃう…から。放して……綾波っ」
だがレイはペニスを放すどころか、舌や手の動きをますます強く早いものにした。
「だ、だめだったらっ! は、早く離れて…でないと……あっ、あぁぁっ、うぅっ」
なんとかレイが離れるまで耐えようとしたシンジだったが、その甲斐もなくレイの口内で精液を放出してしまう。自分のペニスが、どくどくと多量の精液を吐き出しているのがシンジにも分かった。
「うぅぅっ、あ、綾波ぃっ……」
シンジの放出が終わってからもレイは口を離さず、最後の一滴まで絞り尽くすようにペニスをしゃぶった。精液をすする隠微な音が、やけにはっきりと聞こえる。
射精から十秒以上経過して、シンジのペニスはようやくレイの口から解放される。シンジは力が抜けてしまい、その場に腰を落とした。
「ふふっ、碇君の濃くてとても美味しいわ」
レイはそう言って微笑んだが、シンジには罪悪感しかない。
「時間は?」
レイに尋ねられて、アスカは歯噛みしながら答えた。
「……二分三十二秒」
それはレイが口を離すまでの時間で、射精の時間はもっと早い。
「そう。なら私の勝ちね」
勝ち誇ったレイの言葉にアスカの顔は一瞬青くなり、次の瞬間には真っ赤に染まっていた。
「いっ、言われなくったって、こんな馬鹿こっちからくれてやるわよっ! なによ、ちんぽくわえられて、あんあん言っちゃってさぁ。ほんと、馬鹿じゃないの……。馬鹿な上に、優柔不断で臆病で弱虫で情けなくて偽善的でファザコンで鈍感で卑怯で間が抜けてて、おまけに早漏よっ!」
脱力しているシンジが、なにか言い訳するよりも早く、
「いらないのなら、ありがたく頂くわね」
レイがシンジを胸に抱き寄せて、告げてしまう。
「くっ……じゃあねっ、馬鹿シンジッ!」
「ま、待って、アスカ――」
アスカは身を翻すと、入り口の扉を力任せに開けて外へ駆け出した。追わなくてはいけないと思うのだが、体に力が入らず、レイの懐から抜け出すことができない。
もがくシンジに、レイは屈託のない笑顔で宣言した。
「よろしくね、碇君。今日からあなたは私の奴隷よ」